配転命令の有効性

2025/04/25|1,729文字

 

<配転命令権の根拠>

企業に配置転換を命ずる権利が与えられているのは、適材適所により人材の効率的活用を図り、また、キャリアアップのため多様な能力と経験を積み上げられるようにするためです。

東亜ペイント事件最高裁判決などによると「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができ」、次の条件を満たす場合には、労働者の個別的な同意を得ずに配置転換を命ずることができます。

 

【同意なく配転命令ができる場合】

1.就業規則、個別労働契約等に、会社は業務上の必要から配置転換を命ずることができる旨の規定があること

2.これらの規定に従い、一定の頻度で実際に配置転換が行われていること

3.対象者について、勤務場所や職種等を限定する合意が無いこと

 

上記3つの条件のうち、1.と2.は客観的に認定できますが、3.の合意の有無については、しばしば労使で争われることがあります。

裁判では明示の合意があったと認められることが少ないものの、職種の限定について明示の合意が無い場合であっても、医師、看護師、薬剤師、弁護士などの専門職では、黙示の合意があると見るのが自然です。

勤務場所や職種等を限定する合意がある場合には、改めて本人の同意を得たうえで、配置転換を命ずることになります。

 

<権利濫用法理>

労働契約法には、出向、懲戒、解雇について、権利濫用法理の規定があります。〔労働契約法第14条、第15条、第16条〕

配置転換については、権利濫用法理の規定がありません。

しかし、一般法である民法には、第1条(基本原理)の第3項に「権利の濫用は、これを許さない」という規定があります。

配置転換も労働契約の中で行われる以上、権利の濫用が許されないことは明らかです。

 

<配転命令権の濫用>

上記【同意なく配転命令ができる場合】に該当していても、配転命令権の濫用となる場合には、配転命令が無効となります。

 

【配転命令権の濫用となる場合】

1.配置転換により労働者の被る家庭生活上の不利益が、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超えるものである場合

2.業務上の必要が認められない場合

3.不当な動機・目的によるものである場合

 

上記3つの条件のうち、2.と3.は会社側で把握しうるものですが、労働者から配置転換を拒む理由として主張されることがあります。

1.については、配置転換を内示した後になって、労働者から家庭の状況について説明を受けることが多く、また、配置転換により労働者の被る家庭生活上の不利益が、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超えるか否かの判断が分かれやすいため、紛争となりやすい内容です。

 

<1.配置転換により労働者の被る家庭生活上の不利益が、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超えるものである場合>

労働者の被る家庭生活上の不利益のうち、育児介護休業法により事業主が配慮すべきとされている事項については、相当程度の配慮が行われ、労働者の不利益が軽減されている必要があります。

しかし、これ以外については、裁判で家庭生活上の不利益が転勤に伴い通常甘受すべき程度のものと認定されることが多いようです。

 

<2.業務上の必要が認められない場合>

業務上の必要は、基本的には会社の裁量権が大幅に認められます。

したがって、人材の効率的活用を図るでもなく、また、キャリアアップのためでもないことが明らかであるような場合を除き、業務上の必要が認められるでしょう。

 

<3.不当な動機・目的によるものである場合>

労働者を退職に追い込むための配置転換は、無効とされることが多いといえます。

パワハラでの、過大な要求、過小な要求、隔離に準ずるような配置転換、あるいは、資格・能力・経験を活かせない業務への配置転換は、人事考課やキャリア蓄積の面で不利であり昇格・昇給を遅らせる可能性が高いため、嫌がらせ配転であると解されることが多いといえます。

 

<実務の視点から>

配転命令の正当性について、多角的に検討したうえで、内示するというのは不効率だと思われます。

むしろ配置転換を打診し、対象者が拒否的な態度を示したら、その言い分に耳を傾け、一度話を持ち帰り、問題が無いと判断したならば説明・説得にあたるのが得策だと考えます。

Web会議での顔出しについての意見対立を解決する

2025/04/24|1,028文字

 

<顔出ししたくない人の言い分>

オンライン会議で顔出ししたくない人は、次のような主張をします。

オンライン会議に参加する前は、服装や髪型を整え、化粧をしたり、ひげを剃ったり、部屋を片付けたりと、準備に手間と時間がかかります。

参加中は、緊張した姿勢と表情を維持しなければならず、プライベートな空間を社内の人に見られます。

そもそも、会議を行うのに姿を見せる必要はなく、音声だけで話し合えるのではないかと考えます。

 

<顔出しさせたい人の言い分>

一方、オンライン会議で顔出しさせたい人は、次のような主張をします。

会社で会議を行う場合には、出社の時点で服装や髪型が整っているし、化粧やひげ剃りは済ませてあって当然だから、オンライン会議だからといって特別な負担はありません。

会議中に緊張を強いられるのも、オンライン会議に特有のことではありません。

姿を見せることによって、表情やジェスチャーによる一段高いコミュニケーションが可能となります。

そもそも、話し手が熱心に話している時、聞き手がちゃんと聞いているかどうか把握できないのでは困ります。

 

<背景の設定>

プライベートな空間を人目に晒すことが問題であれば、カメラをオフにするのではなく、背景を設定することも可能です。

ただし、テレビ番組や居酒屋の背景では不適切ですから、参加者全員で同じ背景にする、あるいは会社が作成した公式の背景を用いることも考えられます。

 

<リモートハラスメント(リモハラ)>

何とかして顔出しさせたいがために「おいこら!ちゃんと顔を見せろ!」などと暴言を吐くことや、顔出ししないメンバーの会議出席を拒否することは、リモハラとなりますので許されません。

また、他のメンバーが見聞きできる状態での叱責は、それ自体がパワハラとなります。

会議が終了してから、顔出ししなかった理由を確認し、これを踏まえて指導すべきです。

 

<実務の視点から>

社員間で「常識」が対立する場合には、ルールを確定することによって解決します。

就業規則(テレワーク規程、オンライン会議規程)に、オンライン会議での顔出しについて規定を置きます。

顔出しが義務付けられているオンライン会議で、顔出しできない理由がある場合には、参加者から主催者に理由を明らかにして事前の許可を得るという規定も必要でしょう。

また、プライバシー保護の観点から、背景設定を禁止することは望ましくありません。

さらに、パワハラやセクハラについての注意規定を置くこともお勧めします。

産前産後の通院休暇は法定の休暇です

2025/04/23|911文字

 

<法定の通院休暇>

妊婦自身やお腹の中の赤ちゃんの健康のため、妊婦は定期的に健康診査等を受ける必要があります。

そこで、妊婦や産後1年を経過していない妊産婦の労働者が、会社に申請すれば、母子健康法に定める保健指導または健康診査を受けるのに必要な「通院休暇」を取得できます。〔男女雇用機会均等法第12条〕

その回数は、原則として次の通りですが、医師等がこれと異なる指示をした場合には、指示された回数となります。

 妊娠23週まで  4週間に1回
 妊娠24週から35週まで  2週間に1回
 妊娠36週から出産まで  1週間に1回
 産後1年以内  医師等が指示する回数

 

<会社のルールとの関係>

通院休暇は法定の休暇です。

会社の就業規則に記載されていない場合、会社に就業規則が無い場合、前例が無い場合でも利用できます。

部下から通院休暇の利用について申し出があった場合に、上司が知識不足で断ってしまうと、会社の教育不足によるマタハラ(マタニティーハラスメント)になってしまいます。

また、社員に通院休暇の説明をする場合に、一定の年齢を超えた女性社員を対象外とすることは、セクハラになる恐れがあります。

 

<通院休暇の給与>

通院休暇を有給とするか無給とするかは、会社の規定によります。

就業規則が無かったり、就業規則に「労基法その他の法令の定めによる」という規定があるだけだったりすると、トラブルの元になりますから、予め就業規則に規定しておくことをお勧めします。

通院休暇は、勤務時間内に健康診断等受診のための時間を確保するという趣旨で設けられるものです。

事業主が一方的に年次有給休暇を通院休暇に充てるよう女性労働者に対して指示することは認められません。

ただし、通院休暇が無給とされる場合に、女性労働者が自ら希望して年次有給休暇を取得して通院することは問題ありません。

 

<通院休暇の申請>

申請は、原則として事前に行います。

出産予定日、次回通院日は決まり次第、事業主に知らせるのがマナーでしょう。

申請事項は、通院の日時、医療機関等の名称・所在地、妊娠週数などとなります。

事業主は、必要があればその女性労働者の了承を得て、診断書などの提出を求めることができます。

年金の税金が急に高くなっていたらありがちなこと

2025/04/22|723文字

 

<年金振込通知書>

年金振込通知書は、原則として年16月に郵送されます。

年度の最初となる4月分の年金は6月に支給されます。

6月が年度の最初の月分の振込月となることから、6月に年金振込通知書が郵送されるのです。

年金振込通知書は、2か月に1回の各支払期の年金振込額を知らせるものです。

2つ以上の年金を受けている人には、年金種類ごとの年金振込通知書が封書で届くこともあります。

振込額や振込口座に変更がなければ、6月から先の支払月には年金振込通知書は送付されません。

もちろん、年金振込通知書が送付されない月でも年金は支払われます。

なお、年金振込通知書に記載されている金額は、あくまでも予定額です。

各支払期に支払額の変更があれば、その都度、年金振込通知書が郵送されます。

 

<税金が急に高くなる場合>

年金振込通知書を見て、税金が急に高くなっていることを知り、驚いて年金事務所に問い合わせるというケースが見られます。

年金から差し引かれる税金(所得税および復興特別所得税)は、所得税法の規定により、支払う年金額から各種控除を行い、残りの額に税率を掛けた額となります。

年金から各種の控除を受けるためには、年金を受けている人に送られている扶養親族等申告書に必要事項を記入して、提出期限までに出すことになっています。

しかし、扶養親族等申告書が提出されない場合には、年金の支給額から25%に相当する公的年金等控除額を差し引いた額の10.21%が所得税および復興特別所得税となります。

昨年と比べて急に高額の税金が徴収されている場合、扶養親族等申告書の提出を忘れている可能性があります。

個別に原因を確認したい場合は、ねんきんダイヤルまたは年金事務所等にお問い合わせください。

在宅勤務を命じられた従業員の実際の勤務地

2025/04/21|1,252文字

 

<自宅外勤務の発生>

会社が在宅勤務を命じたところ、社員の判断で自宅ではなく、友人宅、カフェ、ホテル、レンタルオフィスなどで業務を行っていたということがあります。

在宅勤務について、詳細な規程があれば、形式的にルール違反ということが多いでしょう。

しかし、大雑把なルールしか無いため、必ずしもルール違反とはいえず、迂闊に指導できないということもあります。

こうしたことでのトラブル発生を防ぐためのポイントを、検討したいと思います。

 

<在宅勤務の趣旨・目的>

在宅勤務を命じたのに、自宅で勤務しないからルール違反であり、指導や懲戒の対象となるというのは少し乱暴です。

やはり、在宅勤務を命じた趣旨・目的を軸に据えて考える必要があります。

まず、育児や介護との両立のために、本人からの希望もあって在宅勤務を命じた場合には、自宅よりも実家での勤務の方が現実的なこともあります。

自宅や実家以外での勤務であっても、配偶者の実家、兄弟の家、介護施設など、そこで業務をこなすことに合理性を見出しうる場合もあります。

つぎに、ウイルスなどの感染拡大防止のため、通勤や社内での密を避けるために在宅勤務を導入したのであれば、電車やバスで遠くに出かけて業務を行うのは趣旨に反します。

密になりやすい場所での勤務も同様です。

しかし、近所のホテルやレンタルオフィスであれば、多くの場合には、感染拡大防止の趣旨には反しないことが多いでしょう。

さらに、業務効率化の目的で在宅勤務が行われているのであれば、本人が業務に集中しやすい環境で勤務することが趣旨に適います。

たとえば、学生時代からカフェでの勉強が効率的であったという社員であれば、カフェでの勤務も趣旨に適うわけです。

 

<勤務場所の届出>

会社としては、社員がどこで業務を行っていようとも、きちんと業務が遂行されていれば基本的には問題ありません。

勤務場所は就業規則の必要記載事項でもないですし、労働条件通知書でも、雇入れ直後のものに加えて、将来勤務しうる就業場所を網羅的に明示することも許されています。

しかし、勤務場所により情報漏洩のリスクが高まる、労災発生のリスクが高まる、容易に連絡がつかないなど就業管理が困難になるなどは困りものです。

これらを総合的に考えると、会社が社員に在宅勤務を指示した時点で、社員が自宅以外の場所を勤務場所としたいのであれば申し出てもらう必要がありますし、勤務場所を途中で変更する場合にも申告が必要です。

そして、その勤務場所が実質的な不都合をもたらすものであれば、会社から社員に対して、勤務場所の適正化を求めることができるようにしておくことも必要です。

これらのことから、在宅勤務を命じた場合に、社員が自宅とは異なる就業場所を希望するのであれば、会社への届出を義務付け、その就業場所が実質的な不都合をもたらすのであれば、会社は就業場所の変更を求めることができるルールとし、届出とは異なる場所での業務遂行や届出の懈怠に対しては、懲戒を規定しておくのが合理的だといえるでしょう。

危険な密室型セクハラは見つかりにくいのが特徴です

2025/04/20|1,220文字

 

<セクハラの定義>

セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場において、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、身体への不必要な接触など、意に反する性的な言動が行われ、拒否したことで不利益を受けたり、職場の環境が不快なものとなることをいいます。

「対価型セクハラ」とは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることをいいます。

「対価型」とは言いますが、この対価はマイナスの対価であり、不利益のことを指しています。セクハラを受け入れてしまえば、不利益がなく、場合によってはプラスの対価が得られるということもありえます。だから逃げられなくなってしまうのです。

「環境型セクハラ」とは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。

この中の「労働者」は、直接の相手方だけでなく、セクハラ行為を直接・間接に見聞きした労働者を含みますから、被害者は多数に及びます。また、出社できなくなるだけでなく、その後の社会生活を送れない被害者も出てきます。

 

<定義の修正>

上記の公式定義からは、実害のあったことがセクハラ成立の条件であるかのように思われます。

しかし、企業はセクハラ発生の防止に努めなければなりませんし、セクハラ行為を行った社員に対して懲戒処分を行いたいと思っても、会社が実害の発生を証明できなければ断念せざるを得ません。

このことから、私は「職場の人間関係や職場環境で性について平穏に過ごす自由を侵害しうる行為」という定義が正しいと考えています。

セクハラの加害者は「本人の受け取り方次第」という言い逃れをしたがりますが、この定義であれば、被害者の感情とは無関係に客観的に認定されますから、不当な言い逃れはできなくなります

 

<密室型セクハラの特殊性>

部屋の中に加害者と被害者だけがいる状態で行われたセクハラは、他のハラスメントと同様にその立証が極めて困難です。

セクハラがあったということが、真実であったとしても、これを客観的に認定するのは、ほとんど不可能ではないでしょうか。

反対に、セクハラをでっち上げることも簡単な状況であるといえます。

 

<企業の取るべき対応>

密室型セクハラを防止するためには、それが起こらないためのルールを設定し、社員に教育し、ルールの順守を求めることが必要です。

たとえば、男女1名ずつで会議室や応接室には入らない、自動車に乗車しないなどのルールです。

さらに、LGBTQ+やSOGIハラに配慮するのであれば、性別にかかわりなく密室に2名でこもることを禁止しなければなりません。

少し厳しいルールのような気もしますが、2名で密室に入る必要性は滅多に発生しません。

社員と会社を守るためには、必要なことではないでしょうか。

タイムカード通りに計算した賃金の適法性

2025/04/19|1,237文字

 

<タイムカード通りの計算>

労働時間をタイムカードの打刻に従って、きちんと1分単位で集計し、給与計算を正しく行い、賃金の支払を行ってきたのに、退職者から未払残業代を請求されるということがあります。

これは本人からの通知であったり、代理人弁護士からの通知であったりするのですが、宛先は代表取締役です。

総務部門から人事部門へと情報が共有され、給与計算に誤りのないことが確認されたりします。

一方で、通知の内容としては、タイムカードで把握されていない労働時間があって、その部分についての賃金を追加で請求するというものです。

タイムカードで把握されていない労働時間には、いくつかのケースがあります。

 

<持ち帰り仕事の時間>

タイムカードで集計されない労働時間には、持ち帰り仕事の労働時間があります。

上司から残業や休日労働を厳しく制限されている一方で、仕事の量が定時ではこなし切れないほど多いのであれば、必然的に持ち帰り仕事が発生します。正式に上司の許可を得ていなくても、勤務時間に比べて多くの仕事をこなしていることが分かる場合には、上司の黙示の指示があったと認められることも多いでしょう。

場合によっては、テレワークの形で、上司が把握できるような持ち帰り仕事まで、労働時間外という扱いを受けていることさえあります。

 

<不当な打刻の強制>

ある程度規模が大きな企業の本部では、労働時間の把握が正しく行われているのに対し、営業所や店舗など現場では、違法なマイルールが横行していることもあります。

主に始業時刻前の労働時間と、終業時刻後の労働時間が、集計されていない状態が生じます。労働時間には業務の準備時間と、業務の後片付けの時間が含まれるという本部での常識が、現場には浸透していないことが原因です。

朝の着替えと朝礼が終わってから打刻する、帰りは打刻してから後片付けと清掃をして着替えるなどが典型例です。

また終業後に、仕事のやり直しや、研修会の参加前に打刻するというマイルールもありえます。中には上司が「マンツーマンで指導するので、その前に打刻してきなさい」というのもあります。

こうしたことは、親会社と子会社との間でも生じがちです。

 

<自主的な不正打刻>

自分は同僚たちよりも仕事が遅い、あるいは加齢によって仕事が遅くなったと自覚している従業員もいます。

また、同僚たちよりも完成度の高い優れた成果物を提出したいと考える従業員もいます。

こうした人たちは、本来の始業時刻前に仕事を開始して始業時刻に打刻する、あるいは、終業時刻に打刻してからサービス残業を行うということがあります。

そして退職後になって、「あの努力に対する報酬がないのは不当だ」などと考え、追加の賃金を会社に請求するということがあるのです。

たとえ自主的な不正打刻であっても、未払賃金があれば会社は追加で支払わなければなりません。

ただ、こうしたことは個人的に行われるため、上司から見つからないこともあり、証拠が残りにくいので、未払賃金の計算も困難です。

セクハラ防止対策の第一歩として会社の態度を示しましょう

2025/04/18|830文字

 

社員が社内で、あるいは、お取引先やお客様からセクハラを受けたなら会社は毅然とした態度を示しましょう。

 

<ハラスメント対策>

セクハラはハラスメントの一種ですから、客観的に見れば人権侵害です。

そして、直接の相手だけではなく、その行為を見聞きした人にも恐怖感や不快感を与える形で被害を及ぼします。

ハラスメント対策の目的は、従業員の中から被害者も加害者も出さないことです。

対策の柱は、「ハラスメントは卑劣で卑怯な弱い者いじめ。絶対に許さない」という経営者の宣言と、社内での定義を明確にして社員教育を繰り返し行うことです。

その効果は、労働力の確保、労働環境の維持、生産性の向上、定着率の向上、応募者の増加、会社の評判の上昇と幅広いものです。

 

<形式面でのハラスメント対策>

目的は、会社がハラスメント防止に取り組んでいることの証拠を残しておくことです。

対策の柱は、就業規則などで定義を明確に文書化しておくこと、教育実績の保管、相談窓口の設置(できれば社外)です。

その効果は、被害者からの損害賠償請求額の減少などです。

 

<社員とは限らない加害者>

多くのセクハラは、社員同士で問題となります。

これを放置することは、会社にとって明らかにマイナスですから、積極的な対応をすることに躊躇する理由はありません。

しかし、お取引先の社員からのセクハラであれば、今後の取引関係を考えて、事なかれ主義に走ってしまう危険があります。

こうした場合には、社長自らお取引先に出向いてセクハラの事実を確認し、事実があれば取引関係を解消する毅然とした態度が必要です。

お取引先も理解を示さざるを得ませんし、社員は会社の態度に共感するでしょうし、こうした情報が外部に漏れても批判は生じにくいものです。

長い目で見れば、会社にとってのプラスが大きいといえます。

このことは、お客様からのセクハラについても、全く同じことが言えます。

むしろ、これを放置することは、他のお客様が離れていく原因となるのではないでしょうか。

労災認定されるかされないかの限界事例

2025/04/17|1,066文字

 

<業務災害認定の原則>

業務災害と認定されるには、業務遂行性と業務起因性の2つが必要です。

業務遂行性とは、労働契約関係が認められたうえで発生した災害であることをいいます。

業務起因性とは、業務と病気や怪我との間に因果関係があることをいいます。

ですから、業務とは無関係な私傷病による事故は、業務災害とは認められません。

 

<業務災害の限界事例>

事務所に1人でいる時に意識を失い、後から入室してきた別の従業員に発見されて、救急搬送されたケースがありました。

こうした場合の殆どは、業務とは無関係な病気によるものです。

しかし病院の検査で、外傷性くも膜下出血と診断され、頭に大きなコブも発見されました。

この診断結果を受けて、事務所内を確認したところ、机の上にFAXで受信した書類が置いてあり、FAXのコードが抜けかけていたことが分かりました。

この時点で、FAXのコードに足を取られ、転んで頭を打ったことにより、外傷性くも膜下出血を発症したことが疑われました。

幸いにも意識を回復し、こうした事実が正しいことが確認されました。

結局、業務災害と認定されました。

 

<通勤災害認定の原則>

通勤災害と認定されるには、通勤によって被災したこと、つまり、通勤に潜む危険が現実化して被災したことが必要です。

通勤ではない移動中のケガや、通勤に伴う危険とは無関係に、私傷病が原因でケガをした場合には、通勤災害と認定されません。

 

<通勤災害の限界事例>

会社に向かうため、バスに乗ろうとしてステップに足を掛けたところで倒れ、頭を打ち意識を失って救急搬送されたケースがありました。

頭を打って意識を失った場合、身体の半分以上がバスに入っていた場合にはバス会社の責任が発生しうるのです。

バス会社に状況の説明を求めたのですが、運転手も他の乗客もよくみていなかったという回答でした。

後日、病院の診断結果が出ました。

たまたまバスに乗ろうとしたタイミングで、貧血を起こして意識を失い、そのまま倒れて頭を打ったということでした。

結局、通勤災害ではないと認定されました。

 

<就業規則との関係で>

就業規則によりバイク通勤が禁止されている会社の従業員が、バイクで出勤中に転倒してケガをした場合、会社に届けていた通勤経路とは別のルートで帰宅中にケガをした場合、これらは就業規則違反であり、懲戒の対象となることもあります。

しかし、これはあくまでも社内的な話です。

労災保険は国の制度ですから、原則として、各企業の就業規則の内容に左右されません。

就業規則違反の事実は捨象して、労災の成否を検討しましょう。

長時間労働抑制のための具体的施策リスト

2025/04/16|2,122文字

 

<働き方改革>

働き方改革の定義は、必ずしも明確ではありません。

しかし、働き方改革実現会議の議事録や、厚生労働省から発表されている数多くの資料をもとに考えると「企業が働き手の必要と欲求に応えつつ生産性を向上させる急速な改善」といえるでしょう。

 社員は人間ですから、ある程度の時間働き続ければ肉体的精神的疲労が蓄積して効率が低下します。

休憩や休暇によってリフレッシュできれば、体力と気力が回復して生産性が高まります。

適切な労働時間で働き、ほどよく休暇を取得することは、仕事に対する社員の意識やモチベーションを高めるとともに、業務効率の向上にプラスの効果が期待されます。 

これに対し、長時間労働や休暇が取れない生活が常態化すれば、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性も高まりますし生産性は低下します。

また、離職リスクの上昇や、企業イメージの低下など、さまざまな問題を生じることになります。

社員のためだけでなく、企業経営の観点からも、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進が得策です。

社員の能力がより発揮されやすい労働環境、労働条件、勤務体系を整備することは、企業全体としての生産性を向上させ、収益の拡大ひいては企業の成長・発展につなげることができます。

 

<長時間労働抑制のための具体的施策リスト>

厚生労働省から「働き方・休み方改善指標」が公表されています。

この中から、長時間労働抑制に向けた働き方の改善を進めるための具体的な施策を抽出すると、次のようになります。

 

項目1:方針・目標の明確化

□経営トップによるメッセージの発信

□経営や人事の方針として長時間労働の抑制を明文化

□全社・部署・個人等での労働時間、残業時間等に関する数値目標の設定

 

項目2:改善推進の体制づくり

□長時間労働の抑制に向けた社内体制の明確化

□労働時間に関する相談窓口の設置

□長時間労働の抑制に関する労使の話し合いの機会の設定

 

項目3:改善促進の制度化

□労働時間・就労場所を柔軟にする制度( フレックスタイム制、朝型の働き方、短時間勤務制度、テレワーク制度、在宅勤務制度等)の導入

□業務繁閑に応じて営業時間を設定

□ノー残業デー、ノー残業ウィーク等、定時退社期間を設定

□勤務間インターバル制度を導入

 

項目4:改善促進のルール化

□残業の多い部下を持つ管理職への指導、改善促進

□部下の長時間労働の抑制を管理職の人事考課に盛り込む

□残業を行う際の手続を厳格化

 

項目5:意識改善

□長時間労働の抑制に関する社員向けや管理職向けの教育・研修を実施

□長時間労働抑制のための周知・啓発

□退勤時刻の終業呼びかけ、強制消灯

 

項目6:情報提供・相談

□労働時間・残業時間を社員各自に通知

□36協定による労働時間の制限を周知

□労働時間制度紹介のパンフレット等を配布

□定期健康診断以外での長時間労働やストレスに関するカウンセリング機会等を提供

 

項目7:仕事の進め方改善

□長時間労働の抑制を目的とした業務プロセスの見直し

□業務計画、要員計画、業務内容の見直し

□長時間労働の抑制を目的とした取引先との関係見直し

 

項目8:実態把握・管理

□社員の働き方や労働時間に関する意識や意向の定期的な把握

□タイムカードやICカード等の客観的な方法により労働時間を管理・把握

□管理職やみなし労働・裁量労働制等の適用者について労働時間を把握

 

これらは、あくまでもチェックリストですから、実際に施策を進めるにあたっては、この順番で進めるわけではありません。

会社の実情に応じて、順番を考えなければなりませんが、項目1:方針・目標の明確化は最優先でしょう。

次に行うべきは、多くの会社では、項目7:仕事の進め方改善だと思います。

仕事のムリ・ムダ・ムラを排除して、本当に必要な仕事だけを抽出する必要があります。

仕事は減らず、社員は減少しているのに、労働時間削減など無理な話です。

習慣的に行っている仕事の中で必要性の低い仕事をやめる、他部署とダブっている仕事はより得意な部署がまとめて行う、会議はやめて誰かに一任する、あるいは、23人の協議に委ねるなど、仕事の分量を減らす工夫も大事です。

 

<実務の視点から>

いきなり労働時間を減らすと言われても、社員ひとり一人の都合があります。

周囲の社員に気を遣って、やむなくダラダラ残業をして、終業時間を合わせていた社員なら、長時間労働抑制は大助かりです。

会社にとっても、人件費の削減となりますから利害が一致します。

それでも、残業代を稼いで生活の糧にしていた社員にとっては深刻です。

高級な外車を買うために残業代を稼いでいたのなら、諦めてもらうことは難しくないのかも知れません。

しかし、実家の親に仕送りをするためであれば、転職や副業を考えるほど深刻な話になりかねません。

また、自分の仕事の出来栄えにこだわりを持っている社員は、「残業代は要らないから、思う存分、残業させてくれ」と思っているかもしれません。

企画やデザインの仕事をしている人には多いパターンです。

そこまで考えて、労働時間の削減をするのはむずかしい、時間と手間をかけられないというのであれば、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ご用命ください。

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