パワハラ加害者の処分がむずかしい問題

2025/06/21|1,259文字

 

<被害者の不満>

パワハラ被害を受けたと感じた労働者からは、会社が加害者を処分しないという不満が聞かれます。

これには、以下に述べるように、さまざまな理由が考えられます。

 

<証拠の確保が難しい>

  • 証言の曖昧さ

パワハラは多くの場合、密室や非公開の場で行われるため、録音や録画などの客観的証拠が残りにくいです。被害者の証言だけでは「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、処分の根拠としては弱くなります。

  • 証拠収集の心理的ハードル

被害者が録音やメモを取ること自体に心理的な抵抗がある場合も多く、証拠を残すことが難しいです。また、証拠を集める過程で加害者に気づかれ、報復を受けるリスクもあります。

 

<組織の対応が消極的>

  • 加害者が上司・管理職である場合

加害者が組織内で高い地位にあると、組織はその人物を処分することで業務に支障が出ることを懸念し、問題を「なかったこと」にしようとする傾向があります。

  • 組織の評判を守ろうとする

パワハラ問題が表面化すると、企業のイメージや信頼性に悪影響を与える可能性があるため、内部での処理にとどめ、外部に公表しないようにするケースもあります。

  • 内部通報制度の機能不全

通報窓口が加害者と近い部署にある、あるいは通報しても何も変わらなかったという前例があると、被害者は通報をためらい、結果として処分に至らないことがあります。

 

<法的なハードル>

  • 明確な定義の難しさ

パワハラの定義はある程度法律で定められていますが、実際の現場では「指導」と「ハラスメント」の線引きが曖昧なことが多く、法的に処分するには明確な基準が必要です。

  • 労働法上の制約

懲戒処分を行うには、就業規則に基づいた手続が必要です。証拠が不十分なまま処分を行うと、逆に加害者から不当解雇などで訴えられるリスクもあります。

 

<被害者側の事情>

  • 報復への恐れ

被害者が加害者からの報復(評価の引き下げ、異動、無視など)を恐れて声を上げられないケースが多くあります。特に加害者が上司である場合、その影響力は大きく、被害者は沈黙を選びがちです。

  • 自責の念やあきらめ

「自分が悪かったのかもしれない」「どうせ何も変わらない」といった心理が働き、被害を訴えることをあきらめてしまう人もいます。

 

<文化的・社会的背景>

  • 日本の職場文化

日本では「我慢することが美徳」「上司の言うことには従うべき」といった価値観が根強く残っており、パワハラを問題視しにくい土壌があります。

  • 同調圧力

周囲の同僚がパワハラを見て見ぬふりをする、あるいは加害者に同調することで、被害者が孤立しやすくなり、問題が表面化しにくくなります。

 

<実務の視点から>

パワハラ加害者を処分するのが難しい理由には、証拠が得にくい、組織が問題を隠そうとする、法的な手続が複雑、被害者が声を上げにくい、社会的・文化的な背景があるなどがあります。

これらの要因が重なり合うことで、パワハラの加害者が処分されず、問題が長期化・深刻化するケースが跡を絶ちません。今後は、組織の透明性向上、通報制度の整備、教育・啓発活動の強化などが求められます。

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