パワハラ疑惑を持たれた人の「そんなつもりじゃなかった」という答弁が多いのは不思議です

2024/09/29|1,955文字

 

<疑惑に対する弁明>

テレビニュースなどで、パワハラの疑惑を持たれた人、しかも社会的地位のある人が、「そんなつもりじゃなかった」「熱心な指導のつもりだった」など、言い訳している姿が見られます。

「自分には、パワハラ行為の故意がなかったのだから、許されるのではないか」と考えているようです。

これは、パワハラに対する無理解を示しているに過ぎません。

 

<パワハラの成立要件>

厚生労働省は、パワハラの成立要件について次のように説明しています。

 

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる

① 優越的な関係を背景とした言動であって、

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

③ 労働者の就業環境が害されるもの

であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

 

上記のうち、①から③までがパワハラの成立を肯定するための積極要件、「なお、」以下がパワハラの成立を否定する消極要件です。

 

<優越的な関係を背景とした言動であって、>

上司が部下を怒鳴りつけるのは、上司が部下の上司であるがゆえに行うのです。もし部下が上司を怒鳴りつけていたら、それは多くの場合に奇妙な光景となってしまいます。このことからも、優越的な関係を背景としていることは客観的に明らかです。

一方で、上司がパソコンの操作に不安があって、いつも部下に教えてもらっていたところ、上司が部下に「ちょっと教えて」と声を掛けた時に、部下が仕事を邪魔されたと感じ、上司に対して「何ですか?邪魔しないでくださいよ!自分で調べたらどうですか?!」と怒鳴ったら、これは部下から上司に対するパワハラとなります。この場合には、パソコン操作について優越的な関係にある部下が、これを背景として上司を怒鳴りつけていることになります。

これらの場合、パワハラ行為を行った人が、優越的な関係に立っていることを意識していなくても、客観的に見て優越的な関係に立っているという事実があれば、パワハラの成立要件①は満たされます。

 

<業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、>

これについても、行為者が「あのくらい厳しく言わなければ分からないと思った」など主観的なことは、判断基準となりません。

客観的に見て、業務の指示に必要な範囲の言動であったか、指導に必要な範囲の言動であったかが基準となります。

怒鳴ること、机を叩くこと、物を投げること、にらみつけることなどは、客観的に見て業務の指示や指導に必要なことではありませんから、パワハラの成立要件②を満たしています。

 

<労働者の就業環境が害されるもの>

これは、ある人の言動によって、落ち着いて業務に集中できない人が発生したり、出勤したくなくなる人が発生することを意味していますので、行為者の主観ではなく、ある人の言動から影響を受けた人々の主観が問題とされます。

ですから、労働者の就業環境が害されるという認識の有無は、パワハラの成立要件③とは無関係です。

 

<パワハラの成立要件は客観的であるということ>

このようにパワハラの成立要件は、①から③までのすべてが客観的なものであって、行為者がどういうつもりで行ったかという主観は、全く関係ないことが分かります。

そして、①から③までの成立要件が満たされた場合であっても、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」ということですが、この消極要件についても、先頭に「客観的にみて、」という言葉が入っています。

行為者が自分の行為について「適正な業務指示や指導」だと思っていたとしても、これは主観に過ぎませんから、パワハラの成否には全く影響しません。

こうして、行為者の主観や故意は、パワハラの成否に影響しないことが分かります。

ここの理解が足りないために、パワハラ疑惑を受けた人は、盛んに主観的な意見を述べるのですが、周囲からは冷ややかな目で見られることになるのです。

 

<パワハラ相談窓口の活用>

パワハラの疑惑をかけられたら、行為者本人の主観は、全く考慮されないのですから、「なぜパワハラだと疑われたのか」「自分の行為はパワハラに該当するのか」ということについて、社内外のパワハラ相談窓口に確認することをお勧めします。

こうした窓口は、本来は被害者が相談するために設けられていますが、パワハラの成否について、それこそ客観的に判断する役割を担っていますから、加害者であると疑われた人の相談を拒む理由はないのです。

そして改めて、自分の言動がパワハラに該当していたといえるのか、考えてみることをお勧めします。

業務災害で会社を休み労災保険の給付を申請中だから会社は解雇できないことになっている?

2024/09/28|1,406文字

 

<労働基準法による解雇制限>

労働基準法は、一定の場合に解雇を制限していて、これには業務災害によって労務不能となった場合が含まれます。

 

労働基準法第19条第1項:解雇制限

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。

 

これは、あくまでも業務災害による休業が対象ですから、通勤災害による休業は対象外です。

 

<業務災害による休業>

業務災害によって、ケガを負い休業している場合には、そのケガが業務によるものであること、また、医師の診断によらなくても、労務不能であることは、容易に判断がつく場合も多いでしょう。

しかし、病気の場合には、それが業務によるものといえるのか、業務との因果関係が明確ではありません。また、労務不能については医師の判断に従わざるを得ないでしょう。

休業している従業員が、上司のパワハラによって精神障害を発症し、労務不能に陥ったと考えている場合に、医師は労務不能の判断はできるものの、業務との因果関係については判断できません。

 

<業務による労災の保険給付>

業務による労災保険給付としては、治療についての療養補償給付と、賃金についての休業補償給付が中心となります。

これらは業務災害専用の書式で、通勤災害には使用しません。

一般的には、被災した従業員、事業主、医師の三者が協力して、請求書を作成します。何らかの事情で、事業主が協力しない場合には、従業員が労働基準監督署と相談して、医師の協力を得て、請求書を作成することができます。

従業員が、上司のパワハラによって、精神障害を発症したものと考えて、会社に対して労災保険の手続書類の作成について協力を求めたところ、会社がパワハラはなかった、あるいは、パワハラはあったが精神障害の原因ではないと考えている場合には、協力を拒むことがあります。

 

<精神障害の労災認定基準>

業務による心理的負荷(ストレス)が関係した精神障害についての労災請求が増えています。しかし、精神障害の原因が仕事にあるか、私生活にあるかの判断は簡単ではありません。

厚生労働省では、労働者に発病した精神障害について、仕事が主な原因と認められるかの判断(労災認定)の基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。この認定基準は、医学の発達などにより、たびたび改正されていますが、直近では令和5年9月に改正されています。

労働基準監督署は、これを基に労災認定をするのですが、その内容は非常にきめ細かく、それでいて抽象的な表現も多いことから、詳細な事実関係を調査し時間をかけて慎重に判断することになります。

 

<労災申請中の解雇>

このように、労働者がパワハラにより精神障害を発症したので業務災害であると考えていたとしても、会社が業務災害とは考えにくいと判断すれば、労働基準法第19条第1項で禁止されていないと判断して解雇に踏み切ることもあります。

これに対して、労働者が解雇制限に反する解雇だとして争えば、最終的には裁判所が判断することになります。もし、解雇が無効とされれば、労働者の地位回復や慰謝料の支払義務が発生することになります。

裁判所の判断は、労災申請の結果と連動しませんので、会社は必ずしも労働基準監督署の判断を待って、解雇を検討する必要はないのです。

障害の程度が変わったときの障害年金の届出

2024/09/27|1,054文字

 

<障害の程度が重くなったときの届出>

障害の程度が重くなり、障害の等級が変われば、手続することによって年金額は増額されます。

この場合には、近くの年金事務所または街角の年金相談センターで、年金額の改定請求の手続を行います。

請求の用紙は、年金事務所または街角の年金相談センターにあります。

請求の用紙に、氏名、生年月日、年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、けがや病名などを記入して診断書を添えて提出します。

ただし過去1年以内に、障害等級の変更または年金額の改定請求を行っている場合には、この請求ができません。

(省令に定められた障害の程度が増進したことが明らかである場合には、1年を待たずに請求することができます。)

 

<障害の程度が軽くなったときの届出>

障害年金は、普通、毎年1回、現況届と一緒に提出する診断書によって審査され、障害の程度が軽くなったときは、年金額の変更などが行われます。

障害の程度が年金を受けられないほど良くなったときには、そのことを近くの年金事務所または街角の年金相談センターに届け出ることになります。

届の用紙は年金事務所または街角の年金相談センターにもありますが、「ねんきんダイヤル」に電話すれば、送ってもらうこともできます。

届には障害の程度が良くなった年月日、年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、生年月日などを記入します。

 

<障害が軽くなって年金が止められていたが重くなって受給できるとき>

障害年金を受けることができる障害の程度に該当すれば、今まで支払の止まっていた年金が支払われます。

この場合には、近くの年金事務所または街角の年金相談センターに届け出ます。

届には、氏名、生年月日、年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、けがや病名などを記入して診断書を添えて提出します。

 

※これらの手続に必要な用紙は、国民年金を受けている人の場合、市区役所または町村役場の国民年金の窓口でも受け取れます。

 

<ねんきんダイヤル>

一般的な年金相談に関する問い合わせや、窓口での相談の予約も受けています。 ねんきんダイヤル 0570-05-1165

( 050で始まる電話からかける場合 03-6700-1165

 

受付時間

月曜日は午前8時半から午後7

火曜日から金曜日は午前8時半から午後515

第2土曜日は午前9時半から午後4

※月曜日が祝日の場合は、翌日以降の開所日初日に午後7時まで相談を受けています。

※第2土曜日を除く祝日及び1229日から13日はお休みです。

情報漏えいが疑われる社員への対応を誤ると人権侵害となり会社が訴えられることもあります

2024/09/26|1,621文字

 

 

<悪ふざけ写真の拡散>

10年近く前のことですが、アルバイト社員がSNSに悪ふざけの写真を投稿し、これが拡散されて会社に損害をもたらす事件が多発しました。

自分の友だち限定で、ウケを狙って配信したところ、その友達がコピーして一般公開してしまい、拡散されて会社が信用を失うことになったわけです。

こうした事件は、店舗で発生することが多く、お客様の信用を失って、休業や閉店などを余儀なくされることもありました。

不正な情報拡散の威力を思い知った事件でした。

 

<情報漏えいの問題>

店舗よりも、むしろ本部など事務部門の方が、重要な機密情報を多く保有しています。

営業上の秘密が漏洩すると、会社は直接的な打撃を受けます。

顧客の個人情報などが漏洩すると、信用が失われ、信用回復のために多額の費用を投じても、回復までの間、売上が相当に減少してしまいます。

社員の中に、こうした情報を漏洩している者がいると疑われた場合には、迅速で徹底的な対応を迫られることになります。

 

<懲戒処分の検討>

社内に情報漏えいの疑われる社員がいる場合、まず会社は事実の確認をします。

情報漏えいの事実が確認された場合、就業規則にこれを懲戒の対象とする具体的な規定があれば、適正な手続に従って、懲戒処分を検討することになります。

しかし、就業規則の中に情報漏えいに対応できる規定が無ければ、情報漏えいを理由に処分することは困難です。

 

<秘密保持誓約書>

情報漏えいの事実が確認できないものの、その疑いがある場合には、対象社員に就業規則の内容を説明したうえで、それを再確認する形での秘密保持誓約書に署名してもらうなどの対応を考えるでしょう。

これなら、対象社員も署名することに抵抗を示さないかも知れません。

ところが、就業規則に規定の無い内容を含む誓約書に署名させることは、新たに義務を課すことになりますから、署名を強要できませんし、署名しないことをもって情報漏えいの疑いが強まったと判断するわけにもいきません。

対象労働者は、誓約書への署名を強要されたことが原因で、会社に対する反感から、意図的な情報漏えいに走るかも知れないのです。

対象労働者の神経を逆なでしないためにも、また他にも情報漏えいの恐れがある社員がいる可能性をも考えて、その部署全員に説明し誓約書に署名を求めるのが得策です。

 

<就業規則の規定>

秘密保持について、就業規則に規定が無いのであれば、「遵守事項」の項目に次の内容を加えておきましょう。

「在職中および退職後においても、業務上知り得た会社、取引先、顧客等の機密を漏洩しないこと」

また懲戒項目には、これに対応する次のものを加えておきましょう。

「正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、または業務の正常な運営を阻害したとき」

 

<実務の視点から>

就業規則や誓約書で情報漏えいを防止しようとするのは、ルールで社員を縛ろうとするものです。

ですから、就業規則の内容を説明し、誓約書に署名させても、これらに反感を覚える社員は一定数存在します。

そもそも社員は、労働契約上、信義則により業務上の秘密を守る義務を負っています。

この義務に違反して情報を漏洩し会社に損害を加えれば、労働契約上の債務不履行責任により、あるいは不法行為責任により、社員は会社に対して損害賠償責任を負うこともあります。

その金額は、かなり多額になるでしょうから、その後の人生を棒に振ることにもなりかねません。

この辺りを、社員に教育しておくことが情報漏えいの防止には必要ではないでしょうか。

 

【参考:古河鉱業事件判決(東京高判昭和55年2月18日)】

労働者は労働契約に基づき労務を提供するほか、信義則により使用者の業務上の秘密を守る義務を負うとしたうえで、会社が機密漏洩防止に特段の配慮を行っていた長期経営計画の基本方針である計画基本案を謄写版刷りで複製・配布した労働者に対する懲戒解雇を有効と判断した事案。

ブラックバイトにつかまると被害を受けます。おかしいと思ったら秒で辞めましょう

2024/09/25|2,041文字

 

<アルバイトを始める前に労働条件を確認>

働き始めてから、「最初に聞いた話と違っていた」ということにならないように、会社から契約書など書面をもらい、労働条件をしっかり確認しましょう。

特に次の6項目については必ず確認しましょう。

・契約はいつまでか(労働契約の期間に関すること)

・契約期間の定めがある契約を更新するときのきまり(更新があるか、更新する場合の判断のしかたなど)

・どこでどんな仕事をするのか(仕事をする場所、仕事の内容)

・勤務時間や休みはどうなっているのか(仕事の始めと終わりの時刻、 残業の有無、休憩時間、休日・ 休暇、 交替制勤務のローテーションなど)

・バイト代(賃金)はどのように支払われるのか(バイト代の決め方、計算と支払いの方法、支払日)

・辞めるときのきまり(退職・解雇に関すること)

※労働条件を確認する書類には、雇用契約書、労働契約書の他に、雇い入れ通知書、労働条件通知書などがあります。これらの交付は、労働基準法により義務付けられており、交付しないのは労働基準法違反の犯罪です。

 

<バイト代は、毎月、決められた日に、全額支払われるのが原則>

労働基準法では、バイト代などの賃金について「賃金の支払の5原則」というルールがあります。

バイト代は、通貨で、全額を、労働者に直接、毎月1回以上、 一定の期日に 支払われなければなりません。

また、バイト代などの賃金は都道府県ごとに「最低賃金」が定められており、これを下回ることはできません。

 

<ペナルティによる減給の制限>

遅刻を繰り返すなどにより職場の秩序を乱すなどの規律違反をしたことを理由に、就業規則に基づいて、制裁として本来受けるべき賃金の一部が減額されることがあります(これを減給といいます)。

しかし、事業主(会社)は規律違反をした労働者に対して無制限に減給することはできません。

1回の減給金額は平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。

また、複数にわたって規律違反をしたとしても、減給の総額が一賃金支払期における金額(月給制なら月給の金額)の10分の1が上限です。

 

<アルバイトでも残業手当があります>

労働基準法では、法定労働時間を超えて残業をさせる場合、事業主はあらかじめ、労使協定(「36(さぶろく)協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。

また、残業に対しては、割増賃金 (残業手当)を次のように支払うよう定めています。

・1日8時間または週40時間を超えた場合は、通常の賃金の25%以上の割増賃金

※ 労働者10人未満の商業、接客娯楽業等は週44時間

・1か月に60時間を超える残業の割増率は50%

午後10時から午前5時までに働いた場合は25%以上の割増賃金(深夜手当)が支払われます。

(満18歳になるまでは、午後10時から午前5時までの時間帯に働けません。)

※「残業」と言っていますが、正確には「時間外労働」です。早出も「時間外労働」ですから、「残業代」が支払われます。この割増率は、労働基準法の定める最低限ですから、これより多い割増率の会社もあります。

 

<アルバイトでも条件を満たせば有給休暇が取れる>

年次有給休暇とは、あらかじめ働くことになっている日に仕事を休んでも、賃金がもらえる休暇のことで、いわゆる 「有休」や「年休」のことです。

年次有給休暇は、正社員、パート、アルバイトなどの働き方に関係なく、次の条件を満たす場合、取ることができます。

・週1日以上または年間48日以上の勤務

・雇われた日から6か月以上継続勤務

・決められた労働日数の8割以上出勤

 

<アルバイトでも仕事中のけがは労災保険が使える>

正社員、アルバイトなどの働き方に関係なく、また、1日だけの短期のアルバイトも含めて、労災保険の対象です。

仕事が原因の病気やけが、通勤途中の事故で病院に行くときは、健康保険を使えません。※健康保険証を提示しないことになります。

病院で受診するときに、 窓口で労災保険を使うことを申し出てください。

原則として治療費は無料となります。

また、仕事が原因のけがなどで仕事を休み、バイト代をもらえない場合は、休業補償制度があります。

 

<アルバイトでも会社の都合で自由に解雇はできない>

アルバイトだからといって、簡単に解雇できるものではありません。

解雇は、会社がいつでも自由に行えるというものではなく、客観的に合理的な理由があって、社会一般の常識に照らして「解雇もやむを得ない」という納得が得られる理由が必要なのです。

 

<困ったときの相談窓口>

アルバイトをして労働条件など、労働関係で困った場合は、全国の労働局や労働基準監督署などにある「総合労働相談コーナー」にご相談ください。

相談は無料です。

また、夜間・土日の相談は、「労働条件相談ほっとライン」 を活用してください。

 

労働条件相談ほっとライン

0120-811-610

月~金:午後5時~午後10時

土・日:午前10時~午後5時

保険証、保険加入者、扶養家族などの正式名称

2024/09/24|1,221文字

 

<保険証>

皆さんは、病院に行くと受付で「保険証」を提示すると思います。

マイナ保険証のこともあるでしょう。

この「保険証」という名前は通称です。

正式には「被保険者証」という言いにくい名前です。

お手元の「保険証」を見ていただくと「被保険者証」と書いてあるはずです。

 

<「被」という漢字の意味>

「被」という漢字には、受け身の意味があります。

「受け身」というのは、行動の主体からの動作・作用を受ける人を主人公にして話す話し方です。

 

Aさんから見て「AさんがBさんをほめた」というのは、

Bさんから見ると、「BさんがAさんからほめられた」となります。

この「BさんがAさんからほめられた」というのが受け身です。

 

受け身は、英語の授業では受動態として習いました。

漢文の授業では、「被」という字を「る」「らる」という受け身の助動詞として習いました。

 

<社会保険で「被」が付くことば>

「被保険者」は、保険について受け身の人のことをいいます。

保険者は、保険を運用する人のことをいいます。

健康保険の保険者は、保険証に書かれています。

協会けんぽであったり、健康保険組合であったりです。

国民健康保険では、市町村が保険者です。

そして、保険が適用され給付を受ける人が「被保険者」ということになります。

日常用語では「保険加入者」とも言いますね。

 

「被扶養者」は、扶養について受け身の人のことをいいます。

誰かを扶養する人を、わざわざ「扶養者」ということは少ないでしょう。

誰かに扶養されている人のことを「被扶養者」といいます。

日常用語では「扶養家族」ですね。

特に被扶養者のうち配偶者を「被扶養配偶者」といいます。

厚生年金で勤め人が第二号被保険者、その被扶養配偶者が20歳から59歳までであれば、第三号被保険者ということになっています。

 

<労働保険で「被」が付くことば>

雇用保険や労災保険でも、保険が適用される人は「被保険者」ということになります。

労災保険では、保険事故に遭った人のことを「被災者」といいます。

業務災害や通勤災害という災害に遭った人ということです。

 

<その他「被」が付くことば>

「被相続人」というのは亡くなった人です。

「相続人」は、相続する人ですから、相続される人は亡くなった人ということになります。

 

「被害者」は害を受ける人です。相手は「加害者」です。

 

「被告人」は、犯罪の嫌疑を受けて公訴を提起された人です。

「告訴された人」が語源ですが、その意味は「起訴された人」です。

告訴は、犯罪の被害者などが、捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求めることですから、起訴とは意味が違っています。

なお「被告」は、民事裁判で訴えを提起された人のことを指しますから、犯罪者というわけではありません。

日常用語では、「被告人」と「被告」が混同されています。

テレビニュースでも、正しく区別されていません。

 

話が脱線しましたが、「被◯◯」という言葉が出てきたら、思い出してみてください。

傷病手当金の書類を会社が書いてくれない原因と対処法

2024/09/23|2,218文字

 

<傷病手当金支給申請書>

傷病手当金支給申請書の提出先は、健康保険証に書いてある保険者です。

そして申請書の形式は、保険者が決めています。

たとえば、協会けんぽの申請書であれば、1セット4枚で、次の内容になっています。

1,2枚目 = 申請者情報、申請内容

3枚目 = 事業主の証明 ※事業主とは会社などのことです。

4枚目 = 療養担当者の意見書 ※療養担当者とは医師などのことです。

※雇用保険の傷病手当とは全くの別物です。

 

<記入する人>

1,2枚目の申請者情報、申請内容は、仕事を休んだ健康保険加入者(被保険者)自身または、被保険者が亡くなった場合は相続人が記入します。

会社の担当者が、ほとんど代筆してくれることもあります。

3枚目の事業主の証明は、会社の担当者や顧問の社会保険労務士が記入します。

4枚目の療養担当者の意見書は、担当医師が記入します。

 

会社が傷病手当金の書類を書いてくれなくて困るというのは、事業主の証明の部分を書いてくれないということになります。

1,2枚目の書き方がわからないのであれば、保険者に確認することになります。

 

<会社が知らないケース>

会社に傷病手当金のことを知っている人がいないとか、書類の書き方がわからないとかいう理由で、書類を書いてもらえないということがあります。

傷病手当金は、業務災害や通勤災害を除く病気やケガで働けないとき、賃金の一部を健康保険が支払ってくれるもので、これを利用しても、保険料が上がったりしないと説明すれば、書いてもらえるかもしれません。

会社が記入する内容は、勤務状況と支給した賃金の内訳です。

勤務状況は、「出勤した」「休んだ」「公休だった」「年次有給休暇だった」という区分だけですから、勤務開始時刻や勤務終了時刻など細かい数字は要りません。

賃金の内訳も大まかな内容です。

ただ、会社が賃金計算を外部に委託していると面倒に思うのかもしれません。

このような説明をしても分かってもらえない場合には、事業主の証明を自分で代筆して、ゴム印と代表印だけもらうのが早いと思います。

自分で書くのが難しければ、書き慣れている人に代筆してもらうこともできます。

 

<会社が労災を隠しているケース>

たとえば、パワハラが原因でうつ病になった場合には、本来は労災保険の手続をとるのが正しいのです。

こんなとき、うつ病になった被災者から傷病手当金の書類を書くように求められると、会社は労災の責任を問われることを恐れて、書類の作成から逃げることも考えられます。

労災の認定をするのは、所轄の労働基準監督署や労働局ですから、少しでも業務に原因がありそうな場合であれば、お近くの労働基準監督署に相談してみると良いでしょう。

労災にあたるケースであれば、労働基準監督署が会社に対して、労災保険の手続をするように指導してくれます。

この場合には、そもそも健康保険の傷病手当金は対象外です。

※労災保険の給付は、健康保険より手厚いので、不正に健康保険を適用すれば、従業員が損をすることになります。

 

<会社が社会保険料をごまかしているケース>

会社が社会保険加入者(被保険者)の給料などを過少申告して、社会保険料を少なめに支払っていることがあります。

健康保険も保険ですから、手当金の金額は保険料に見合ったものとなります。

ですから、傷病手当金の手続をとると、支給額が不当に少ないことがわかってしまい、不正が発覚することになります。

会社の不正が疑われる場合には、健康保険証に書いてある保険者に相談することをお勧めします。

 

<会社が意地悪をしているケース>

会社と申請者が何らかの対立関係にあれば、会社が意地悪をして書類を書いてくれないことも考えられます。

こうしたケースでは、労働組合や議員さんに相談して何とか解決できたという話も聞かれます。

しかし、健康保険法に次の規定があります。

 

(報告等)

第百九十七条 保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者を使用する事業主に、第四十八条に規定する事項以外の事項に関し報告をさせ、又は文書を提示させ、その他この法律の施行に必要な事務を行わせることができる。

2 保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。)又は保険給付を受けるべき者に、保険者又は事業主に対して、この法律の施行に必要な申出若しくは届出をさせ、又は文書を提出させることができる

 

(罰則)

第二百十六条 事業主が、正当な理由がなくて第百九十七条第一項の規定に違反して、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、文書の提示をせず、又はこの法律の施行に必要な事務を行うことを怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

 

これらを根拠に、会社を説得するよう保険者にお願いしてみてはいかがでしょうか。

保険者は「…できる」という規定ですから、保険者に義務付けられているわけではないので、あくまでも熱心にお願いすることになります。

罰則も「十万円以下の過料」と決して重くはないですが、会社に対するプレッシャーにはなるでしょう。

 

<なかなか書いてもらえないケース>

会社としては書く気が無いのではなく、遅いだけということもあります。

傷病手当金の請求書は、最長3か月分をまとめて記入できますから、まとめて書くつもりのこともあります。

しかし、「なるべく早くお金が欲しい」という申し出をしてみたら、急いで書いてくれるかもしれません。

最低賃金法違反なら不足分の追加支払義務がありますし、外国人を含め労働者の生活を脅かす犯罪ですから罰則も適用されます

2024/09/22|961文字

 

<最低賃金以上であることを確認する方法>

厚生労働省は、ホームページに次の説明を公開しています。

 

支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。

 

(1)時間給制の場合

時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)

 

(2)日給制の場合

日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

 

ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、

 

日給 ≧ 最低賃金額(日額)

 

(3)月給制の場合

月給 ÷ 1箇月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

 

(4)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合

出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。

 

(5)上記(1)、(2)、(3)、(4)の組み合わせの場合

例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。

 

<最低賃金違反の罰則と企業名の公表>

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。

仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。

したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。

また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています。

これは、過料のような行政罰ではなく罰金であり刑罰です。

刑罰の定められている行為を行うのは犯罪です。

罰則は実際に適用されていますし、厚生労働省のホームページで企業名が公表されています。

PDFファイルで表示されていますから保存も印刷も簡単です。

こうなると対象企業は、金融機関や取引先、お客様からの信頼を失いますし、求人広告を出しても人材の獲得は困難でしょう。

定期健康診断がイヤな従業員の逃げ道と会社の対応

2024/09/21|1,070文字

 

<嫌がる理由>

従業員が会社の定期健康診断を嫌がる理由は、会社指定の健診機関が嫌い、会社の人たちと一緒に受けたくない、健康診断そのものが苦痛であるなどが考えられます。

なるべく積極的に受けてもらえるよう、嫌がる従業員には、理由を聞いてみると良いでしょう。ただし、根掘り葉掘り聞くのは、個の侵害となりパワハラとなる場合もありますから注意が必要です。

 

<理由別の対処法>

会社指定の健診機関が嫌い、会社の人たちと一緒に受けたくないということであれば、労働安全衛生法の規定に従い、他の健診機関で受けてもらうことも検討しましょう。

 

【労働安全衛生法第66条第6項但書】

ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

 

性的指向・性自認(SOGI)に配慮し、性的少数者が安心して健康診断を受けられるようにするのは、企業の義務となっています。

しかし、端的に健康診断が嫌いという理由であれば、定期健診の重要性を説明し、会社も受診させる義務を負っていること、会社が法的義務を果たすのに協力的な態度を示さないことも、評価の対象となりうることの説明も必要でしょう。

中には、健康診断で病気が見つかり、健康状態の悪いことが分かった場合には、解雇されるのではないかと考え、拒む従業員もいます。病気や健康状態の悪化で業務に支障が生じ、医師の指示が出たりしなければ、健診結果だけで解雇や配置転換はないことの説明も必要になります。

 

<会社が責任を問われたときのために>

会社は、一定の条件を満たす従業員に、定期健診を受けさせる義務を負っています。一方で、健診を受けない従業員には、労働安全衛生法の罰則は適用されません。会社が懲戒を行うにしても、厳重注意が限界でしょう。このことから、徹底的に逃げてしまう従業員もいます。

会社としては、定期健診を受けさせようと努力したにも関わらず、受けてもらえないという証拠資料を残しておけば、たとえ労働基準監督署の立入調査(臨検監督)があっても、労働安全衛生法違反を指摘されることはありません。

・定期健診のご案内の配付など

・実施日時の指定、あるいは、予約の催促

・問診票や検体容器の配付

これらの物は、毎回資料を残しておかなければなりません。

証拠を残しておくということは、万一、未受診の従業員が病気で倒れてしまったときにも、ご家族に対してきちんと説明するのに役立ちます。

社会保険料の強引な減額は手取り収入が減るものの多くは不正であり傷病手当金や将来の老齢年金の減額をもたらします

2024/09/20|1,853文字

 

<かつて流行った広告>

「社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)を減額できます」

こんな広告が流行っていた時期がありました。

その多くは、社労士(社会保険労務士)が出していたものです。

社会保険料を減額するということは、会社の負担も社会保険に加入している社員の負担も減ります。

社労士に報酬を支払ってでも、社会保険料を減額するのは得だという話でした。

その具体的な手法は、法による規制をかいくぐって行う脱法行為が中心でした。

 

<厚生労働省の対応>

社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)が予定通りに集まらなければ、年金制度や健康保険制度の維持に支障が出るかもしれません。

ですから、脱法行為による社会保険料の減額を厚生労働省が放置するわけがないのです。

結局、脱法行為が増えるたびに、厚生労働省が社会保険料の計算ルールを追加して、その脱法行為ができないようにしていったのです。

こうして社会保険料を減額する効果は失われていきました。

 

<保険のしくみ>

厚生年金保険も健康保険も「保険」です。

保険というのは、保険料に見合った補償(給付)が行われるものです。

特に、社会保険(厚生年金保険と健康保険)は保険者を選ぶことができません。

保険契約の内容も、制度として法定されています。

保険料を減額すれば、社会保険に加入している社員への補償(給付)も減額されるわけです。

 

<不当な保険料減額のリスク>

社会保険に加入している社員が将来もらう老齢厚生年金には、支払った保険料が反映されています。

もし、会社が違法なことをして少なめの保険料しか納めていなかったなら、老齢厚生年金も少なめになります。

こうした社員は、老齢厚生年金の受給額が不当に少ないと気付いたら、会社を訴えようとするかもしれません。

しかし、気付くまでに長い年数が経過して時効の壁があるでしょうし、会社が無くなっているかもしれません。

 

厚生年金保険に加入している社員が障害者になってしまい、障害厚生年金を受給するときに、受給額が不当に低いと気付けば、その時点で会社を訴えるかもしれません。

厚生年金保険に加入している社員が万一亡くなって、遺族が遺族厚生年金を受給するようになれば、遺族が会社を訴えるかもしれません。

 

健康保険に加入している社員が、プライベートの病気やケガで入院したような場合には、休業期間の賃金を補償するため傷病手当金が支給されます。

この支給額は、健康保険料が少なければ、それだけ少なくなってしまいます。

健康保険に加入している社員が、産休を取った場合にも、休業期間の賃金を補償するため出産手当金が支給されます。

この支給額も、健康保険料が少なければ、それだけ少なくなってしまいます。

病気、ケガ、出産をきっかけに退職を考える社員もいるでしょう。この場合には、会社を訴えたい気持ちも強くなると思われます。

 

<社会保険料を減額する方法>

社会保険料は、入社月について丸々1か月分が徴収されますから、1日に入社しても月末に入社しても保険料は同額です。

中途採用であっても、入社日は1日にするのがお得です。

 

社会保険料は、社会保険の資格を失った月の前月分までが徴収されます。

たとえば退職の場合、資格を失うのは退職日の翌日です。

ですから、月末に退職すると翌月1日に資格を失うことになり、退職月の分まで保険料を徴収されることになります。

これが、月末以外の日に退職すれば、その月のうちに資格を失うことになりますから、退職月の保険料は発生しません。

退職は月末の1日前にするのがお得です。

 

社会保険料は、毎年4月から6月の給与支給額をもとに計算するのが原則となっています。

毎年4月から6月に支給される給与の計算期間は残業を減らしましょう。

たとえば、毎月末日締め切り翌月10日支払いの給与であれば、毎年3月から5月までの残業を減らすことになります。

また、昇給は7月支給分からにして、毎年4月から6月に支給される給与の増額を避けるという手もあります。

 

他にも、賞与の一部を退職金の積み立てに回すなど、使える手段は数多くあります。

 

<実務の視点から>

それでも、次のことを忘れてはいけません。

保険というのは、保険料に見合った補償(給付)が行われるものです。

ですから、保険料の減額は、どうやっても補償(給付)の減額に結びつきます。

このことをよく理解したうえで、会社と社員とがよく話し合い理解したうえで、実行に移すことが大事です。

また、適法に行うには、信頼できる国家資格者の社労士へのご相談をお勧めします。

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