2024/09/20|1,853文字
<かつて流行った広告>
「社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)を減額できます」
こんな広告が流行っていた時期がありました。
その多くは、社労士(社会保険労務士)が出していたものです。
社会保険料を減額するということは、会社の負担も社会保険に加入している社員の負担も減ります。
社労士に報酬を支払ってでも、社会保険料を減額するのは得だという話でした。
その具体的な手法は、法による規制をかいくぐって行う脱法行為が中心でした。
<厚生労働省の対応>
社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)が予定通りに集まらなければ、年金制度や健康保険制度の維持に支障が出るかもしれません。
ですから、脱法行為による社会保険料の減額を厚生労働省が放置するわけがないのです。
結局、脱法行為が増えるたびに、厚生労働省が社会保険料の計算ルールを追加して、その脱法行為ができないようにしていったのです。
こうして社会保険料を減額する効果は失われていきました。
<保険のしくみ>
厚生年金保険も健康保険も「保険」です。
保険というのは、保険料に見合った補償(給付)が行われるものです。
特に、社会保険(厚生年金保険と健康保険)は保険者を選ぶことができません。
保険契約の内容も、制度として法定されています。
保険料を減額すれば、社会保険に加入している社員への補償(給付)も減額されるわけです。
<不当な保険料減額のリスク>
社会保険に加入している社員が将来もらう老齢厚生年金には、支払った保険料が反映されています。
もし、会社が違法なことをして少なめの保険料しか納めていなかったなら、老齢厚生年金も少なめになります。
こうした社員は、老齢厚生年金の受給額が不当に少ないと気付いたら、会社を訴えようとするかもしれません。
しかし、気付くまでに長い年数が経過して時効の壁があるでしょうし、会社が無くなっているかもしれません。
厚生年金保険に加入している社員が障害者になってしまい、障害厚生年金を受給するときに、受給額が不当に低いと気付けば、その時点で会社を訴えるかもしれません。
厚生年金保険に加入している社員が万一亡くなって、遺族が遺族厚生年金を受給するようになれば、遺族が会社を訴えるかもしれません。
健康保険に加入している社員が、プライベートの病気やケガで入院したような場合には、休業期間の賃金を補償するため傷病手当金が支給されます。
この支給額は、健康保険料が少なければ、それだけ少なくなってしまいます。
健康保険に加入している社員が、産休を取った場合にも、休業期間の賃金を補償するため出産手当金が支給されます。
この支給額も、健康保険料が少なければ、それだけ少なくなってしまいます。
病気、ケガ、出産をきっかけに退職を考える社員もいるでしょう。この場合には、会社を訴えたい気持ちも強くなると思われます。
<社会保険料を減額する方法>
社会保険料は、入社月について丸々1か月分が徴収されますから、1日に入社しても月末に入社しても保険料は同額です。
中途採用であっても、入社日は1日にするのがお得です。
社会保険料は、社会保険の資格を失った月の前月分までが徴収されます。
たとえば退職の場合、資格を失うのは退職日の翌日です。
ですから、月末に退職すると翌月1日に資格を失うことになり、退職月の分まで保険料を徴収されることになります。
これが、月末以外の日に退職すれば、その月のうちに資格を失うことになりますから、退職月の保険料は発生しません。
退職は月末の1日前にするのがお得です。
社会保険料は、毎年4月から6月の給与支給額をもとに計算するのが原則となっています。
毎年4月から6月に支給される給与の計算期間は残業を減らしましょう。
たとえば、毎月末日締め切り翌月10日支払いの給与であれば、毎年3月から5月までの残業を減らすことになります。
また、昇給は7月支給分からにして、毎年4月から6月に支給される給与の増額を避けるという手もあります。
他にも、賞与の一部を退職金の積み立てに回すなど、使える手段は数多くあります。
<実務の視点から>
それでも、次のことを忘れてはいけません。
保険というのは、保険料に見合った補償(給付)が行われるものです。
ですから、保険料の減額は、どうやっても補償(給付)の減額に結びつきます。
このことをよく理解したうえで、会社と社員とがよく話し合い理解したうえで、実行に移すことが大事です。
また、適法に行うには、信頼できる国家資格者の社労士へのご相談をお勧めします。