2025/07/23|947文字
<無断残業とは>
「無断残業」とは、会社が明示的に残業命令を出していない、または残業を認めていないにもかかわらず、労働者が通常の就業時間を超えて労働を行うケースを指します。
例としては、次のようなものがあります。
・業務量が多く定時で帰れない
・上司からの「黙示的な指示」や空気感で残業せざるをえない
・自主的に仕事を片付けるつもりだった
・残業代が欲しくて残業する(いわゆる生活残業)
<時間外割増賃金の支払義務>
労働基準法第37条により、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働には、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
【重要】
「会社が指示していないから支払わなくていい」というのは誤りです。
→ 実際に労働が行われ、会社がそれを把握できた・黙認した場合には支払義務が発生します。
判例でも、「会社が残業を黙認していた場合は、労働時間として認められる」とされています(最判昭和59年10月18日など)。
<会社の対応が不適切な場合のリスク>
未払残業代の3年分の遡及支払義務が生じる他、付加金(賃金の倍額)を支払う可能性があります(労働基準法第114条)。
労働基準監督署による是正勧告、労働局による企業名公表もありえます。
会社の信用失墜、従業員の士気低下、離職率増加などといった悪影響も想定されます。
<よくある誤解>
申請や許可のない残業に残業代の支払は不要という誤解もあります。しかし、黙認・把握していれば支払義務があります。
残業の賃金は、すべて定額残業代に含まれているとする誤解もあります。しかし、就業規則・賃金規程に明示的な定めと内訳が必要ですし、定額残業代の基準時間を上回る残業時間に対しては、毎月、追加の残業代を支払う必要があります。
自主的な自己啓発であれば、その時間の賃金支払は不要だという誤解もあります。しかし、それが業務に直結している内容であれば、労働時間と認定される可能性があります。
<実務の視点から>
「黙認」された残業を防ぐには、手間がかかっても、明確な残業申請ルールの整備と適正な運用が必要です。
また、残業削減の通知を発信するだけでなく、業務配分や評価制度の見直しも不可欠です。
さらに、形式上の禁止と実態の乖離をなくすためには、管理職の指導・教育が鍵となります。