2025/07/22|1,214文字
<自宅待機の基本的な意味>
「自宅待機」とは、会社の指示により労働者を一定期間、業務に従事させず自宅に待機させる状態をいいます。
企業側の都合、業務縮小、感染症対策などの目的で用いられますが、中には懲戒処分を検討中の暫定措置として指示される場合もあります。
このように、自宅待機には2つの側面があります:
・業務上の都合による待機
・懲戒処分を見据えた措置としての待機
それぞれの場合で、賃金の取扱は異なります。
<業務上の都合による自宅待機と賃金>
労働基準法第26条により、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。
例)工場停止、感染症対応、人員整理など
このような場合、労働者は自らの責任で働けないわけではないため、賃金(または休業手当)の支払が必要です。
<懲戒の準備のための自宅待機と賃金>
会社が労働者に対して、懲戒処分を検討している間の調査や整理の目的で自宅待機を命じる場合、この措置は「懲戒処分の一環」ではなく、あくまで懲戒前の暫定措置とされています。
【ポイント】
・この段階では、労働者に対してまだ処分は確定していない
・労働契約関係は継続しており、使用者による就労させる義務の不履行とも解釈されうる
・よって、原則として賃金または休業手当の支払が必要
つまり、労働者が業務命令違反などの非行に関与している疑いがあっても、処分が確定していない段階での自宅待機中には、無給扱いにはできないのが原則です。
【実務例】
企業によっては、就業規則で「懲戒処分を前提とした調査期間中の自宅待機については有給とする」と定めている場合があります。
規定が明確でない場合は、労働者との合意や、個別事情に応じた慎重な対応が求められます。
<無給とできるケース>
このように、原則は有給ですが、次のような例外もあります。
・労働者に明白な責任のある非違行為が確認され、自宅待機が懲戒処分と一体である場合
・就業規則などにおいて、「懲戒処分中の出勤停止期間は無給」と明記されている場合
・労働者が無断欠勤や業務指示違反を理由に会社の正当な業務命令に応じていない場合
ただし、いずれの場合も、公正な手続と客観的な根拠がなければ無給はリスクが高いため注意が必要です。
<裁判例の傾向>
裁判例では、懲戒前の自宅待機期間を無給とした会社側の対応に対し、「労働者は労務の提供を拒んだわけではない」として、賃金支払を命じる判断が多く見られます。
つまり、処分の確定前に一方的に賃金を止めるのは、法的リスクが高いといえるでしょう。
<実務上の対応策>
企業としては以下のような点に留意することが望まれます。
・自宅待機命令は書面で明確な理由と期間を示す
・就業規則に、懲戒処分前の自宅待機の取扱(有給・無給・期間)を明記
・実際の非違行為について、客観的な証拠と適正な手続をとる
・労働者に対する不利益処分は、比例原則や合理性の観点からも慎重に運用