従業員による交通事故の後始末も大事ですが、再発防止を徹底することはそれ以上に大切です

2024/08/12|1,777文字

 

<会社に損害が発生するケース>

従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、被害者に対して会社も賠償責任を負うことがあります。

その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。

 

<報償責任という考え方>

こうした場合に、会社は事故を起こした従業員に対して、損害のすべてを賠償するよう求めることはできないとされています。

それは、会社は従業員に働いてもらって売上と利益を上げているのだから、損失が発生した場合には、その損失を負担するのが公平だという報償責任の法理が働くからです。

会社に生じた利益のすべてを従業員に分配しているわけではないのに、損害についてだけ従業員にすべてを負担させるのは不合理だというわけです。

 

<懲戒処分による減給>

就業規則に「過失によって会社に損害を加えた場合」の懲戒規定を置いておけば、減給処分も可能です。

厚生労働省のモデル就業規則にも、こうした規定例がありますので参考になります。

しかし、減給処分の金額は限られていて、損害のすべてを回収することはできないでしょう。

むしろ、懲戒処分を受けることはそれ自体が苦痛ですから、懲戒処分を受けた従業員も、懲戒処分があったことを知った従業員も、会社に損害を加えないように一層注意深くなります。

 

<適正な人事考課による対応>

きちんとした人事考課制度があって、交通事故を起こしたことの責任を反映させるというのは正しい方法です。

給与について言えば、安全運転ができないという能力の面や、会社に損失を与えたという貢献度の面で適正な評価をすれば、他の従業員よりも昇給額が少ないというのは妥当性のある結果です。

また、賞与の支給率に反映され、支給額が少なくなるのも仕方のないことです。

これらは、あくまでも人事考課の仕組みがあって、適正に運用されることが前提となります。

従業員が給与や賞与を意識して、会社に損害を加えないように注意深くなるのは明らかです。

 

<交通安全教育>

会社の従業員に対する交通安全教育も重要です。

報償責任や懲戒処分の有効性を考えたときには、会社が十分な教育を行っていたことが、損害賠償の請求や懲戒処分の正当性の根拠となります。

ここで注意したいのは、実質面だけでなく形式面にも配慮すべきだということです。

交通事故を減らすために交通安全教育を実施するわけですが、実施したことの証拠を残すことも重要です。

最終的に会社が負担する責任の範囲を狭めるためには、いつどこでどのような内容の教育を行ったのか、資料を残しておく必要があります。

そして、参加者名簿を作成し、参加者の署名を得ておくことをお勧めします。

参加・不参加も人事考課に反映させたいところです。

 

<過重労働の責任>

全く残業していない従業員の事故と、月80時間ペースで残業している従業員の事故とでは、会社と従業員との間の責任割合が変わってきます。

長時間労働であるほど、会社の責任が重くなります。

過重労働によって疲労が蓄積したり、注意力が低下したりで事故が発生しやすかったと評価されるからです。

人手が足りないのなら、新人を採用する工夫が必要です。

残業手当は25%以上の割増賃金が絡んできますから、長時間労働が発生しているのなら、新人の採用が経営上も有利になります。

ひとり一人の負担を減らすことで、事故の防止を図りたいところです。

 

<スケジュールの見直し>

忙しいとはいえ、そうでもない日もあるはずです。

繁閑の差が出ないようにシフトを工夫しましょう。

1か月何件というノルマがある場合でも、1日何件までという上限を設定して、過重労働を防止する工夫ができます。

会社がスケジュールの管理を強化することも考えられます。

 

<実務の視点から>

社会保険労務士というと、手続業務を思い浮かべることが多いようです。

手続型社労士が多いからでしょう。

しかし、社労士は労務管理の専門家ですから、年金、健康保険、雇用保険、労災保険の手続よりも、労務管理や労働安全衛生のこと、そして就業規則などのルール作りと運用管理が得意です。

また、労働トラブルへの対応や防止が得意な社労士もいます。コンサル型社労士です。

守備範囲は広範に及びますから、何か困ったら、とりあえず信頼できる社労士にご相談ください。

交通事故を起こした従業員の賠償金を給与や賞与から天引きすると賃金不払で労働基準法違反となることがあります

2024/08/11/1,125文字

 

<会社に損害が発生するケース>

従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、会社も被害者に対して賠償責任を負うことがあります。

その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。

 

<報償責任という考え方>

こうした場合に、会社は事故を起こした従業員に対して、損害のすべてを賠償するよう求めることはできないとされています。

それは、会社は従業員に働いてもらって売上と利益を上げているのだから、損失が発生した場合には、その損失を負担するのが公平だという報償責任の法理が働くからです。

会社に生じた利益のすべてが従業員に分配されるわけではないのに、損害についてだけ従業員に負担させるのは不合理だというわけです。

 

<賠償金の給与天引き>

最初から違法な賠償額の予定があったわけではなく、客観的に適正な賠償額が確定したとします。

この場合でも、賠償金を給与から控除するには、また別の問題があります。

労働基準法には次の規定があるからです。

 

(賃金の支払)

第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

原則として、賃金は全額を支払わなければなりません。

法令、労働協約、労使協定に定めがあるものは例外的に控除が許されます。

法令により控除が許されるのは、所得税、住民税、社会保険料、財形貯蓄などです。

賠償金は、控除の根拠が法令に規定されていません。

労働協約で組合費、労使協定で共済会費、社宅家賃の控除が定められていることは普通にあります。

賠償金も、労使協定などで定められていれば控除が可能です。

ただし、会社側からの強制で労使協定を交わしたのなら無効です。

 

<実務の視点から>

万一に備えて、規定を整備しておくことは重要です。

三六協定と呼ばれる労使協定も、残業がありうるのなら交わして所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。

届出なしに残業が1分でもあれば違法です。

つまらないことで足元をすくわれることがないように、手続的なことはきちんと行いましょう。

ただ、やるべきことは会社によって違いますので、信頼できる社労士にご相談ください。

交通事故を起こした従業員の給与と賞与について、経営者の個人的な常識や会社のマイルールで調整することはできません

2024/08/10|1,079文字

 

<会社に損害が発生するケース>

従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、会社も被害者に対して賠償責任を負うことがあります。

その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。

 

<報償責任という考え方>

こうした場合に、会社は事故を起こした従業員に対して、損害のすべてを賠償するよう求めることはできないとされています。

従業員に働いてもらって売上と利益を上げているのだから、損失が発生した場合には、その損失を会社も負担するのが公平だという報償責任の法理が働くからです。

会社は、儲かっても利益のすべてを従業員に分配しないのに、従業員の過失で会社に損害が発生したときに、その損害のすべてを従業員に負担させるのは、あまりにも不公平です。

 

<懲戒処分による減給>

就業規則に「過失によって会社に損害を加えた場合」の懲戒規定を置いておけば、減給処分も可能です。

厚生労働省のモデル就業規則にも、こうした規定例がありますので参考になります。

しかし、減給処分の金額は限られていて、労働基準法に次の規定があります。

 

(制裁規定の制限)

第九十一条  就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 

つまり、1か月の総支給額が30万円なら、1日分の1万円のさらに半分の5千円しか減給ができません。

複数の減給処分が重なった特殊な場合でも、3万円が限度となります。

会社としては、わずかな損害しか回収できません。

 

<適正な人事考課による対応>

きちんとした人事考課の仕組みがあって、交通事故を起こしたことの責任を反映させるというのは正しい方法です。

給与について言えば、安全運転ができないという能力の面や、会社に損失を与えたという貢献度の面で適正な評価をすれば、他の従業員よりも昇給額が少ないというのは妥当な結果です。

また、賞与の支給率に反映され、支給額が少なくなるのも仕方のないことです。

これらは、あくまでも人事考課の仕組みがあって、適正に運用されることが前提となります。

 

<実務の視点から>

成果を出しても出さなくても、努力してもしなくても、昇給や賞与が全員同じならば、できる社員ほど退職しやすくなります。

「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則が働くのです。

小さな会社でも、評価制度は必要です。

生産性を高める適正な人事考課制度は、信頼できる社労士にご相談ください。

交通事故を起こした従業員に対して会社の損害をすべて賠償させようなんてとんでもない!

2024/08/09|1,135文字

 

<会社に損害が発生するケース>

従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、被害者に対して会社が賠償責任を負うことがあります。

その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。

 

<報償責任という考え方>

こうした場合に、会社は事故を起こした従業員に対して、損害のすべてを賠償するよう求めることはできないとされています。

それは、従業員に働いてもらって売上と利益を上げているのだから、損失が発生した場合には、会社もその損失を負担するのが公平だという報償責任の法理が働くからです。

会社が儲かっても、利益のすべてを従業員に分配するわけではないのに、損害が発生したときに、その損失のすべてを従業員に負担させるのでは不合理だというわけです。

会社ができたばかりのときは、共同経営者だけで運営している場合があります。

この場合には、利益も損失も分かち合う関係にあるでしょう。

ところが、誰かを雇う場合には、その従業員に利益のすべてを給与として支払ってしまうわけではありません。

会社や経営者の取り分があります。

このように、利益が出れば会社が一部を得るのに、従業員の過失で損失が出たら、その従業員にすべての損失を押し付けるというのは、正義に反するということなのです。

会社としては、安全運転のできる注意深い人を採用できるし、従業員を教育できるし、保険にも入れるのだから、そのようにして損害を回避すれば良いのです。

 

<損害の何割までなら従業員に賠償を求められるか>

その従業員が故意に事故を起こしたような特殊なケースであれば、会社は損害のほとんどを従業員に賠償させることができそうにも思えます。

しかし、長時間労働で疲労が蓄積し注意力が低下していた、スケジュールがタイトで常に急がねばならない状況だった、不注意な人間であることを承知のうえで運転させていた、会社は交通安全についての教育に熱心ではなく安全運転について本人の自覚に任せていたなどの事情があれば、ある意味、事故を起こした従業員も被害者であって、会社が加害者の性質を帯びてしまいます。

こうした具体的な事情を踏まえて、どれほどの賠償を請求できるのか慎重に検討しなければなりません。

 

<実務の視点から>

訴訟になれば、どの程度の賠償請求が妥当かを考えるのは、弁護士の仕事になるでしょう。

社労士が法廷に立つにしても、補助的な役割を担うに過ぎません。

むしろ、交通事故を予防すべきです。

そのための、長時間労働の解消、ノルマやスケジュール管理の適正化、安全運転のできる従業員の採用・教育、あるいは労災保険の手続については、信頼できる社労士にご相談いただきたいと思います。

労働問題(労使トラブル)の解決には正しい手順があります。これを誤ると問題がこじれてしまいます

2024/08/08|1,130文字

 

<労働問題解決の手順>

労働問題の解決は、1.事実の確認、2.問題の抽出、3.解決策の立案、4.解決策の実行 という4つのステップで行うのが基本です。

我々人間だけでなく、すべての生物は事実を頼りに判断しています。

ですから、最初に事実を徹底的に確認すべきです。

これが不十分なまま、先に進むのは時間の無駄ですし、対応について悩んでしまうことになります。

次に、確認した事実の中から問題を抽出します。

ここでは、法令や判例などの法的知識と、人間関係に関する知識・経験がものをいいます。

知識・経験が不十分なまま問題を抽出しようとしても、やはり悩んでしまうことになります。

そして、解決策の立案では、a.目の前の問題を収束させる即効性のある解決策、b.長期的視点からの改善策、c.再発防止策 の3つを明確に分けて考える必要があります。

この3つのうちの1つでも欠けていると、問題が再燃し悩んでしまうことになります。

あとは、解決策を計画化して実行するだけです。

 

<1.事実の確認>

「おそらくこうだろう」という推測を排除して、客観的な事実の収集と、関係者からの聞き取りを行います。

関係者からの聞き取りでは、事実と感想・意見を明確に分け、あくまでも事実を中心に確認します。

社員に対して下手な聞き取り調査をしてしまうと、重要な証拠を消されてしまったり、人権侵害の問題が発生したりで、悩みの種が増えてしまいます。

慎重かつスピーディーに、効率良く行うことが求められます。

 

<2.問題の抽出>

確認した事実の中から問題を抽出するには、法的知識が必須ですから、人事部門が法務部門と連動して行うべきです。

これが難しいのであれば、労働問題の経験が豊富な弁護士や、特定社会保険労務士の力を借りるのが安全です。

こうした専門家は、法的な問題点を「争点」と呼んで数多く把握しています。

 

<3.解決策の立案>

解決策を考える場合、どうしても目の前の問題を収束させる方法だけに意識が集中してしまいます。

しかし、問題の発生には背景があるわけですから、その背景を改善しなければ、当事者だけの解決に終わってしまい、全社的な解決にはなりません。

同じ背景をベースとする別の問題が発生する危険、同じ問題が別の人に発生する危険を解消できないのです。

また、発生した問題について再発防止策を講じることも大事です。

抽出された問題の一つひとつについて、原因、原因の原因、そのまた原因を追究して、それを消滅させる必要があります。

 

<4.解決策の実行>

長期的視点からの改善策や再発防止策は、ついつい後回しになる傾向にあります。

これでは、いつまで経っても、労使トラブルが減少しません。

どの解決策も、計画を立て、スケジュール通りに実行しましょう。

交通事故を起こした従業員の会社に対する賠償をどうするかというルールを就業規則に規定しておくということ

2024/08/07|696文字

 

<会社に損害が発生するケース>

従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、被害者に対して会社が賠償責任を負うこともあります。

その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。

 

<ルール設定の必要性>

こうした事態に備えて、従業員の会社に対する損害賠償のルールを設定しておかないと、その都度、損害賠償の範囲を検討したり、事故を起こした従業員への説明と交渉で多大な労力と時間が必要になります。

明確かつ客観的な規定を就業規則に置いておけば、万一の場合に役立つに違いありません。

 

<就業規則の規定>

ところが、厚生労働省のモデル就業規則を見ても、このような規定は見当たりません。

交通事故に限らず、従業員の会社に対する損害賠償の規定が無いのです。

実は、予め賠償額や損失の負担割合のルールを決めておくことは、労働基準法違反となり、ルールを定めるだけで最高刑懲役6か月の罰則があります。つまり犯罪となるのです。〔労働基準法第16条、第119条第1号〕

こうした規定を定めることは、労働者を不当に拘束するものとして禁止されているのです。

さらに進んで、「賠償金の支払いが完了するまでは退職を認めない」などということになれば、強制労働の禁止に違反し、これには最高刑懲役10年の罰則があります。〔労働基準法第5条、第117条〕

どちらも、労働基準法違反の犯罪になってしまうわけです。

 

<実務の視点から>

あれば便利なルールでも、定めること自体が違法ということもあります。

就業規則の作成にあたっては、信頼できる社労士にご相談ください。

入社から14日間は解雇が簡単だというのは、あくまでも手続き面のことであって、実質的な有効要件に違いはありません

2024/08/06|1,650文字

 

<労働基準法の規定>

労働基準法によると、解雇する場合には30日前に予告しなければならないのが原則です。

30日前に予告する代わりに、12日分の解雇予告手当を支払うとともに18日前に予告するなど、足して30日になるという方法も取れます。

30日分の解雇予告手当を支払うとともに即日解雇も可能です。

この場合には、「後日支払う」という約束ではなく、現実に支払っておくことが必要です。

そして、試用期間中の労働者に対しては、最初の14日間に限り、解雇予告も解雇予告手当も不要です。

労働基準法には、こうした規定しかありません。

ですから、入社から14日間は解雇の有効要件が緩いという誤解が生じます。

 

(解雇の予告)

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 

2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

 

3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

 

第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

一   日日雇い入れられる者

二   二箇月以内の期間を定めて使用される者

三   季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者

四   試の使用期間中の者

 

<試用期間についての判例>

試用期間については、最高裁判所が解約権留保付労働契約だと言ったために、何か特別な契約期間であるかのように思われがちです。〔昭和44年12月12日三菱樹脂事件判決〕

しかし、最高裁判所が試用期間について述べたのは、判決を下すのに必要があって述べたわけではなく、傍論として、ついでに語っただけです。

試用期間であれば、本採用後よりも解雇のハードルが低くなる趣旨のことを述べていますが、具体的に、どの項目についてどの程度低くなるのかは語っていません。

結局、試用期間も本採用後も労働契約の期間であることに変わりはなく、両者の違いを明確に説明することはできません。

それでも、試用期間であれば、本採用後とは違った扱いができるという勘違いは、多くの企業に存在しています。

 

<解雇の制限>

試用期間の最初の14日間でも、解雇権濫用であれば不当解雇とされます。

不当解雇なら、使用者が解雇を通告し、解雇したつもりになっていても、その解雇は無効です。

一方、労働者は解雇を通告されて、解雇されたつもりになっていますから出勤しません。

しかしこれは、解雇権を濫用した使用者の方に原因がありますから、法的には無断欠勤と評価されません。

何か月か経ってから、労働者が解雇の無効に気付けば、法的手段に訴えて会社に賃金や賞与を請求することもあります。

これを使用者側から見れば、知らない間に労働者に対する借金が増えていったということになります。

このことについては、労働契約法に次のように規定されています。

 

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

<実務の視点から>

一部の企業に端を発した法令の拡大解釈や、最高裁判所の判決に対する誤解が、いつの間にか「常識」となってしまうこともあるのです。

さらに、昨日まで正しかった常識も、法改正や判例変更によって、不適法になることがあります。

正しいことは、信頼できる社労士にご確認ください。

労働基準法で最も罰則が重い犯罪は最高刑が懲役10年の強制労働です。奴隷にするような極端な場合でなくても成立します

2024/08/05|809文字

 

<労働基準法の規定>

労働基準法は、その第5条で強制労働を禁止し、次の罰則規定を置いています。

 

第百十七条  第五条の規定に違反した者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

 

<強制労働の意味>

「今どき強制労働なんて」と思われてしまうかもしれません。「強制労働」というと、ピラミッド建設に駆り出される奴隷のようなイメージを抱いてしまうのでしょう。

しかし、労働基準法の規定を見ると、次のように書かれています。

 

(強制労働の禁止)

第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

 

ここにいう不当に拘束する手段には、長期労働契約(第14条)、労働契約不履行に関する賠償予定(第16条)、前借金相殺(第17条)、強制貯金(第18条)などがあります。〔昭和63年3月14日基発第150号通達〕

ここで、カッコの中の「〇条」は、労働基準法の条文を示しています。

 

<辞めさせてくれない会社>

自分の勤務先が、労働基準法や労働安全衛生法に違反している企業であることに気づき、退職を申し出たけれども辞めさせてもらえないという労働相談は、相変わらず多いのです。

辞めさせてもらえないというのは、具体的には「辞めるなら違約金を支払え」と本人や身元保証人に迫るようです。

これなどは、労働基準法第16条の「労働契約不履行に関する賠償予定」があることを示していて、「退職するな!働き続けろ!」というわけですから、強制労働の禁止に違反していると思われます。

 

<実務の視点から>

法律の世界は、法律のことを知っている人の味方です。

法律のことを良く知らない人は、良く知っている人を味方に付けて身を守りましょう。

労働関係法令についていえば、信頼できる社労士を味方に付けるのが安心です。

不安に思うことがあれば、信頼できる社労士にご相談ください。

会社だけでなく労働者にも労働条件の遵守義務があります。会社が書面で労働条件を明示しておかなければ労働者は守らないでしょう

2024/08/04|1,502文字

 

<労働基準法の役割>

労働基準法は、労働者が人間らしく生きていけるようにするための、労働条件の最低基準を定めています。

このことは、労働基準法第1条に次のように定められています。

 

(労働条件の原則)

第一条  労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 

労働基準法と聞くと、使用者側にいろいろと罰則をちらつかせて義務付けているイメージが強いと思います。

しかし、この条文では、「労働関係の当事者」つまり使用者と労働者の両方に、労働条件の維持向上を求めています。

 

<労働条件の決定>

労働条件の決定は、労働者と使用者が対等の立場で決めるべきものとされています。

このことは、労働基準法第2条第1項に次のように規定されています。

 

(労働条件の決定)

第二条  労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

 

本来は対等なのでしょう。

しかし、少子化によって労働者が不足している現状では、労働者側が優位に立っているようにも思われます。

また、入社後は会社に対する貢献度に応じて、優位に立つ労働者と、弱い立場の労働者に分かれてくるでしょう。

 

<労働条件の遵守>

続けて労働基準法第2条は第2項に次の規定を置いています。

 

2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

 

ここでも「労働者及び使用者は」と規定し、労働条件を守ることについては、労働者も使用者も対等であることを示しています。

 

<労働条件の明示>

とはいえ、労働条件が決まっていなければ守りようがありません。

また、文書化されていなくて、口頭で説明されているだけでは不明確です。

そこで、労働基準法は労働条件の明示について、次のように規定しています。

 

(労働条件の明示)

第十五条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

このように労働条件の明示は、使用者だけに義務付けられています。

ここでいう「厚生労働省で定める方法」というのは基本は書面ですが、電子化された文書によることもできることされています。

いずれにせよ口頭ではダメです。

そして、明示された労働条件が実際と違っていたら、これを理由に労働者から使用者に対して退職を通知できます。

 

2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

 

ブラック企業で退職を申し出たら、「退職させてもらえない」とか、「違約金の支払いを求められた」とか、不当なことを言われたという話を耳にします。

しかし大抵の場合は、この労働基準法第15条第2項を根拠に退職を通知できるケースと考えられます。

 

このように、労働条件の正しい明示は使用者の義務ですから、口頭による説明しかないのであれば、労働者としては「知りませんでした」「忘れました」という言い訳が許されることになってしまいます。

 

<実務の視点から>

「労働条件なんてよくわからないから決めない」「労働条件通知書を渡して違法性を指摘されたら困る」という経営者の方は、信頼できる社労士にご相談ください。

口約束の労働条件も労働契約としては有効ですが証拠が残りませんし、書面を交付しないと労働基準法違反の犯罪となることもあります

2024/08/03|885文字

 

<設立直後の会社>

できたばかりの会社では、創業者だけ、あるいは創業者の他は家族だけということもあります。

この場合は、労働条件通知書も就業規則も作られないことが多いでしょう。

すべてはお互いの信頼関係に基づいた口約束で足ります。

創業者に対する尊敬や恩義の気持から、大きな問題は発生しないものです。

 

<事業の拡大>

やがて知り合いを採用し、近隣の人たちをパートやアルバイトとして採用します。

法律上は、労災保険や雇用保険の手続だけでなく、労働条件通知書などの作成交付も必要です。

ところが、家族による事業の運営の延長線上で、これらの手続が行われないことがあります。

もちろん、労働基準法違反の犯罪ですから、罰則の適用もありえます。

違法だと分かっていて手続をしないよりは、よく分からないから放置することの方が多いようです。

また、労働保険や労務管理の専門家は社会保険労務士なのに、何でもかんでも税理士の先生に確認して済ませていると、違法な状態が解消されません。

 

<創業者の離脱>

事業がこれからという時に、創業者が病に倒れ、配偶者やお子さんたちが後を継ぐという事態は、常に想定しておかなければなりません。

相手のあることであれば、分からないことは相手に聞けば良いのですが、それですべてが分かるわけではありません。

特に、従業員の給料のこと、とりわけ残業代については、労働条件通知書や就業規則、そしてきちんとした給与明細書が無ければ、分からずじまいになってしまうことも多いのです。

創業者に対する尊敬や恩義の気持から長く働いていた従業員も、会社から心が離れ、何年分もの残業代を請求してくるかもしれません。

また、退職金を要求するかもしれません。

こうした法的紛争になったときに頼れるのは、人ではなくて、書類を中心とする物的証拠なのです。

 

<実務の視点から>

労働関係法令を知らずに他人を雇うリスクは大きなものです。

会社が大きくなったら、事業が軌道に乗ったらではなくて、創業の時から信頼できる社労士にご相談ください。

従業員がいないうちに、労働条件や会社のルールを決めておいた方が楽なのは明らかなのですから。

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