2024/08/04|1,502文字
<労働基準法の役割>
労働基準法は、労働者が人間らしく生きていけるようにするための、労働条件の最低基準を定めています。
このことは、労働基準法第1条に次のように定められています。
(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
労働基準法と聞くと、使用者側にいろいろと罰則をちらつかせて義務付けているイメージが強いと思います。
しかし、この条文では、「労働関係の当事者」つまり使用者と労働者の両方に、労働条件の維持向上を求めています。
<労働条件の決定>
労働条件の決定は、労働者と使用者が対等の立場で決めるべきものとされています。
このことは、労働基準法第2条第1項に次のように規定されています。
(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
本来は対等なのでしょう。
しかし、少子化によって労働者が不足している現状では、労働者側が優位に立っているようにも思われます。
また、入社後は会社に対する貢献度に応じて、優位に立つ労働者と、弱い立場の労働者に分かれてくるでしょう。
<労働条件の遵守>
続けて労働基準法第2条は第2項に次の規定を置いています。
2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
ここでも「労働者及び使用者は」と規定し、労働条件を守ることについては、労働者も使用者も対等であることを示しています。
<労働条件の明示>
とはいえ、労働条件が決まっていなければ守りようがありません。
また、文書化されていなくて、口頭で説明されているだけでは不明確です。
そこで、労働基準法は労働条件の明示について、次のように規定しています。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
このように労働条件の明示は、使用者だけに義務付けられています。
ここでいう「厚生労働省で定める方法」というのは基本は書面ですが、電子化された文書によることもできることされています。
いずれにせよ口頭ではダメです。
そして、明示された労働条件が実際と違っていたら、これを理由に労働者から使用者に対して退職を通知できます。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
ブラック企業で退職を申し出たら、「退職させてもらえない」とか、「違約金の支払いを求められた」とか、不当なことを言われたという話を耳にします。
しかし大抵の場合は、この労働基準法第15条第2項を根拠に退職を通知できるケースと考えられます。
このように、労働条件の正しい明示は使用者の義務ですから、口頭による説明しかないのであれば、労働者としては「知りませんでした」「忘れました」という言い訳が許されることになってしまいます。
<実務の視点から>
「労働条件なんてよくわからないから決めない」「労働条件通知書を渡して違法性を指摘されたら困る」という経営者の方は、信頼できる社労士にご相談ください。