2024/08/09|1,135文字
<会社に損害が発生するケース>
従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、被害者に対して会社が賠償責任を負うことがあります。
その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。
<報償責任という考え方>
こうした場合に、会社は事故を起こした従業員に対して、損害のすべてを賠償するよう求めることはできないとされています。
それは、従業員に働いてもらって売上と利益を上げているのだから、損失が発生した場合には、会社もその損失を負担するのが公平だという報償責任の法理が働くからです。
会社が儲かっても、利益のすべてを従業員に分配するわけではないのに、損害が発生したときに、その損失のすべてを従業員に負担させるのでは不合理だというわけです。
会社ができたばかりのときは、共同経営者だけで運営している場合があります。
この場合には、利益も損失も分かち合う関係にあるでしょう。
ところが、誰かを雇う場合には、その従業員に利益のすべてを給与として支払ってしまうわけではありません。
会社や経営者の取り分があります。
このように、利益が出れば会社が一部を得るのに、従業員の過失で損失が出たら、その従業員にすべての損失を押し付けるというのは、正義に反するということなのです。
会社としては、安全運転のできる注意深い人を採用できるし、従業員を教育できるし、保険にも入れるのだから、そのようにして損害を回避すれば良いのです。
<損害の何割までなら従業員に賠償を求められるか>
その従業員が故意に事故を起こしたような特殊なケースであれば、会社は損害のほとんどを従業員に賠償させることができそうにも思えます。
しかし、長時間労働で疲労が蓄積し注意力が低下していた、スケジュールがタイトで常に急がねばならない状況だった、不注意な人間であることを承知のうえで運転させていた、会社は交通安全についての教育に熱心ではなく安全運転について本人の自覚に任せていたなどの事情があれば、ある意味、事故を起こした従業員も被害者であって、会社が加害者の性質を帯びてしまいます。
こうした具体的な事情を踏まえて、どれほどの賠償を請求できるのか慎重に検討しなければなりません。
<実務の視点から>
訴訟になれば、どの程度の賠償請求が妥当かを考えるのは、弁護士の仕事になるでしょう。
社労士が法廷に立つにしても、補助的な役割を担うに過ぎません。
むしろ、交通事故を予防すべきです。
そのための、長時間労働の解消、ノルマやスケジュール管理の適正化、安全運転のできる従業員の採用・教育、あるいは労災保険の手続については、信頼できる社労士にご相談いただきたいと思います。