2025/07/26|1,007文字
減給は、労働者の給与を直接減額する処分であり、生活に直結する重大な影響を及ぼします。
そのため、企業が懲戒処分として減給を行う際には、法的制限・手続・妥当性を十分に考慮しなければなりません。
<厳しい法的制限(労働基準法第91条)>
労働基準法では、減給処分に上限規制が設けられています。
1回の減給額は、平均賃金の1日分の半額が上限です。平均賃金の計算方法は法定されており、1日あたりの賃金ではありません。
いくつもの減給事由が重なったとしても、支払期ごとの総額は、賃金総額の10分の1以内とされています。
月給30万円の場合、1回の減給は最大でも約5,000円、月内の合計でも3万円までとなります。
このため、重大な非違行為に対しても、大幅な減給はできないという制約があり、企業側が「処分が軽すぎる」と感じるケースもあります。
<就業規則の整備と周知が不可欠>
減給処分を有効に行うには、次の要件を満たしていることが必要です。
・就業規則に減給処分の規定があること
・懲戒事由が具体的に明示されていること
・就業規則が労働者に周知されていること
これらが欠けていると、処分自体が無効と判断される可能性があります。
<懲戒権の濫用リスク>
処分が重すぎる場合、裁判で「懲戒権の濫用」とされることがあります。
懲戒権の濫用とされやすい例には、次のようなものがあります。
・軽微なミスに対して減給
・初回の遅刻でいきなり減給
・他の社員と比べて不公平な処分
このような場合、処分の無効や慰謝料請求につながるリスクがあります。
<手続不備による無効化>
減給処分には、次のような適正な手続が求められます。
・客観的な事実の確認
・弁明の機会の付与
・懲戒委員会の開催(規定がある場合)
・処分通知書の交付
これらを怠ると、形式的に無効とされる可能性があります。
<労働者とのトラブル・訴訟リスク>
減給は感情的な反発を招きやすく、以下のようなトラブルに発展することがあります。
・労働審判・訴訟
・労働組合との団体交渉
・SNS等での告発・炎上
特に、説明不足や不公平感があると、企業の信用にも影響します。
<実務の視点から>
減給は、懲戒処分の中でも中程度の重さとされてはいますが、実務上は慎重な運用が求められる処分です。
企業が減給処分を検討する際は、次のようなことを徹底する必要があります。
・法的制限の確認
・就業規則の整備と周知
・手続の適正化
・処分の妥当性の検討
・労働者への丁寧な説明