北風と太陽(報連相編)― 報連相がうまくいくようにできるのは・・・

2024/09/01|1,269文字

 

<北風と太陽>

「北風と太陽」は、有名なイソップ寓話のひとつです。

ウィキペディア(Wikipedia)によると、そのあらすじは次のとおりです。

 

ある時、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。

次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。

これで、勝負は太陽の勝ちとなった。

 

この寓話の内容から、「北風と太陽」という言葉は、物事に対して厳罰で臨む態度と、寛容的に対応する態度の対比を表すのに使われます。

 

<北風社長>

うちの社員は、報告・連絡・相談がなっとらん。全社員に、「正しい報連相研修」「効果的な報連相研修」を受けさせよう。

人事考課の評価基準では、「上手な報連相」を重点項目に据えよう。

そして、下手な報連相、間違った報連相は、懲戒処分の対象にしよう。

 

ここまでいかなくとも、報告・連絡・相談のスキルアップを社員に求める会社は多いものです。

社員ひとり一人が、報連相の能力をアップすれば、会社全体の風通しが良くなり、生産性がアップするに違いないと考えるのでしょう。

 

<太陽社長>

社内の報告・連絡・相談が上手くいっていないようだ。社員ひとり一人が、もっと気楽に報告・連絡・相談できたら良いのだが。

私を含め役員全員と管理職に、「正しい報連相の受け方研修」「喜ばれる報連相の受け方研修」を受講していただきましょう。

管理職の評価基準では、「聞き上手」を重点項目に据えましょう。

そして、優れた報連相を行っている部門や社員を表彰しましょう。

 

報告・連絡・相談を受ける側のスキルアップを図ることは、コミュニケーションの改善に不可欠です。

しかし、あまり行われていないのが残念です。

またたとえば、遅刻や欠勤に対して懲戒処分を行うのと、無遅刻無欠勤を表彰するのとでは、その効果に大きな違いはありません。

就業規則に表彰規定があっても、永年勤続以外では、ほとんど表彰が無いというのは、よく聞く話です。

もっと表彰を活用しても良いのではないでしょうか。

 

<実務の視点から>

ここまで読むと、「太陽方式のほうが優れているということか」と思われるかもしれません。

しかし、コミュニケーション不足は労働問題の原因の大半を占めますし、報告・連絡・相談の不足は会社にとって致命的な欠陥です。

上の例で、北風社長と太陽社長が相談して、会社の施策を検討したならどうなったでしょうか。

おそらく、「報連相するスキル」「報連相を受けるスキル」両方の研修を導入するでしょう。

人事考課では、報連相をする/される両面の評価が行われます。

また、虚偽の報連相や、報連相の遅れは、懲戒処分の対象とされる一方で、手本となった部門や社員は全社で表彰されることでしょう。

報告を受けて、いきなり怒り出す管理職がいる会社では、早急に取り組むことをお勧めします。

ゲノム情報を理由とした不当な差別はできません。採用選考にあたっても、採用後もダメです

2024/08/31|1,208文字

 

<厚生労働省の対応>

令和5(2023)年の第211回通常国会で成立した「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」の中に、ゲノム情報による不当な差別等への適切な対応の確保に関する条項が盛り込まれたこと等をふまえ、厚生労働省では、労働分野での不当な差別を防止するための対応として、Q&Aをとりまとめ令和6(2024)年8月20日に公表しました。

このQ&Aは、労働分野におけるゲノム情報に関する基本的な考え方を示したものです。

 

<ゲノム情報>

ゲノムとは、遺伝子をはじめとする遺伝情報の全体を意味します。

そして、遺伝子はDNAと呼ばれる物質でできています。

人の遺伝情報は、DNA上にアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という約30億個の文字で書かれています。

人の身体を構成する一つ一つの細胞は、2万数千個もの遺伝子によってコントロールされています。

遺伝子は人の身体の細胞が正しく働くための設計図です。

ゲノム情報は、人の外観からは分かりませんが、非常に個性の強いセンシティブな個人情報です。

 

<応募者のゲノム情報>

そもそも採用選考時、企業が応募者に遺伝情報の提出を求めても問題ないのでしょうか。

応募者等の個人情報の取扱いについては、職業安定法第5条の5と同法に基づく指針により、業務の目的の達成に必要な範囲内でその目的を明らかにして収集することとされています。

差別の原因となる恐れのある事項については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、収集してはならないこととされています。

遺伝情報は、この「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれます。

また、応募者の遺伝情報を取得・利用することは、本人に責任のない事項を採否に影響させることになり公正な採用選考の観点から問題があります。

必要のない情報を把握するような違反行為をした場合には、職業安定法に基づく改善命令が発せられ、改善命令に違反した場合には罰則の対象となる可能性もあります。

このように、採用選考の関係では、厚生労働省がハローワークを通じ、遺伝情報を収集してはならないという点について、罰則等を含め一連の法的手当や採用選考時に配慮すべき事項の周知・啓発等を実施しています。

 

<採用後の配慮事項>

採用後であっても、従業員に対してゲノム情報を取得して提出するよう求めることには、合理的な理由が見出し難いので避けましょう。

また、ゲノム情報を基に解雇すること、配置転換を求めること、昇格・昇給に関する不利益な取扱いをすることも不当な行為となります。

ちなみに、従業員が配置転換や解雇などの不利益取扱いを受けた場合は、都道府県労働局や労働基準監督署等に設置された総合労働相談コーナーが相談窓口となっています。

年次有給休暇の届出期限が厳しい会社はおかしくないのか

2024/08/30|1,629文字

 

<就業規則の規定>

就業規則に「年次有給休暇の届出は◯日前までに提出すること」という規定を置いて、期限に間に合わない届出を一切認めない運用にしている会社があります。

しかし、厚生労働省が公表しているモデル就業規則には、このような規定が見当たりません。

また、労働基準法の年次有給休暇に関する規定の中にも、「◯日前までに時季指定」のような規定はありません。

年次有給休暇の取得を、間接的に制限するような会社独自のルールは、有効なのかという問題があります。

 

<「◯日前まで」の理由>

会社がこうした規定を置く正当な理由としては、時季変更権があります。

つまり、会社が従業員から請求された時季に、年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができるとされています。〔労働基準法第39条第5項但書〕

これは、従業員が労働基準法を通じて国から与えられている年次有給休暇を、法定の日数だけ取得できるように、会社が人員体制を整えていることが前提となります。

労働基準法が労働者の権利として、年次有給休暇を認めている以上、会社は従業員がこの権利を行使できるように体制を整えておく義務があるのです。

とはいえ、年次有給休暇取得届が提出されれば、会社はシフト調整などの必要に迫られます。

この調整に必要な日数が最大5日であれば、人のやりくりのために必要な期間を考えて、年次有給休暇取得届は6日前までに提出というルールを設定することにも合理性があります。

つまり、時季指定した日の6日前までに届出をすれば、会社は時季変更権を行使しないということになります。

 

<同時多発的年休届>

とはいえ、同じ日に多くの従業員が時季指定をしてしまうと、シフト調整が不可能となる事態も考えられます。

こうした場合、上司としては、年次有給休暇を取得する理由を尋ねたくなってしまうでしょう。

しかし、個人的な事情を訊ねるのはプライバシーの侵害です。

パワハラ6類型の中の「個の侵害」になりますから、典型的なパワハラとなってしまいます。

同じ日に時季指定をした従業員同士で話し合って、平和的に解決できれば良いのですが、そこでまた力関係によるパワハラが発生する恐れもあります。

「この日に○人が年次有給休暇の取得を指定しているので、シフト調整ができません。誰か他の日に変えてもらえませんか?」と打診してみることになるでしょうか。

 

<年次有給休暇取得計画表>

欧米では、長期休暇を取得する慣行があります。

労働基準法の年次有給休暇も、本来は、同様の運用を想定しています。

前年度のうちに、翌年度の年次有給休暇取得計画表を作成してしまうのです。

「この時期に連休を取ります」という、まさに「時季指定」です。

そして複数の従業員の連休期間が重なってしまうと、事業の正常な運営が妨げられるので、会社から「時季変更」を求めるのです。

日本でも、これにならった運用をすれば良いのですが、年次有給休暇がリフレッシュのためのものであるという本来の意義が薄れていて、何かの必要に迫られて取得する慣行では、この運用が困難なこともあるでしょう。

 

<「◯日前まで」の遵守>

従業員が、「◯日前まで」に年次有給休暇取得届を提出すれば、特段の事情がない限り、会社は時季変更権を行使しないというルールなら、かなり合理的なルールとなります。

ある従業員が「あさってどうしても休みたいのですが、今から年次有給休暇取得届を提出してはダメでしょうか?」と言われた上司が、「あさっては忙しくないのでいいだろう」と許してしまうと、不公平の問題が生じてしまいます。

こうしたことから、一律に「年次有給休暇の届出は◯日前までに」とすることにも合理性が認められます。

ただし、シフト調整に必要のない長期間、たとえば2週間前とか、30日前のようなルールでは、年次有給休暇の取得が妨げられますから、不合理なものとなってしまいます。

この点は、注意が必要といえるでしょう。

外国人を雇用するときには不法就労助長罪に注意しましょう。取り締まりが強化され、法改正により刑罰も重くなります

2024/08/29|1,114文字

 

<出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律>

令和6(2024)年3月15日に法律案が国会に提出され、同年6月14日に可決成立しました。

施行日は一部の規定を除き、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

これによって、技能実習制度の廃止、育成就労制度の創設、永住許可の要件明確化・取消事由の追加の他、不法就労助長罪の法定刑の引き上げが行われます。

 

<不法就労助長罪>

外国人の不法就労は法律で禁止されています。

注意しなければならないのは、不法就労した外国人だけでなく、不法就労させた事業主も処罰の対象となることです。

在留カードを確認することで、所持する外国人が就労できるかどうかを、判別することができます。

 

<事業主が処罰の対象となる場合>

不法就労させ、または不法就労をあっせんした人には、不法就労助長罪が成立し、その法定刑は、3年以下の懲役および300万円以下の罰金となっています。

法改正により、法定刑が5年以下および500万円以下に引き上げられます。

注意が必要なのは、外国人を雇用しようとする際に、その外国人が不法就労者であることを知らなかったとしても、在留カードを確認していない等の過失がある場合には、犯罪が成立し処罰の対象となってしまうことです。

また、不法就労させ、または不法就労をあっせんした外国人事業主は退去強制の対象となりますし、外国人の雇入れ・離職について、ハローワークへの届出を怠り、または虚偽の届出をした場合にも、30 万円以下の罰金が科せられることになっています。

 

<不法就労の3パターン>

不法就労が発生してしまうのは、次の3パターンです。

1.不法滞在者や被退去強制者が働くケース

2.就労できる在留資格を有していない外国人で出入国在留管理庁から働く許可を受けていないのに働くケース

3.出入国在留管理庁から認められた範囲を超えて働くケース

2.3.では、留学生の資格外活動許可の内容を具体的にチェックすることが大切です。

 

<在留カードのチェック>

在留カードの就労制限の有無、番号の失効、資格外活動許可のチェックが基本です。

しかし、偽造カードではないかのチェックも必要ですから、次の点も確認しましょう。

・カードを上下方向に傾けた時、顔写真左の「MOJ」の文字の周囲の絵柄の色がグリーン~ピンクに変化するか

・顔写真の下の銀色のホログラムが、見る角度を 90°変えることで、文字の白黒が反転するか

・カードを上下方向に傾けた時、左端の縦型模様の色がグリーン~ピンクに変化するか

・暗い場所でカードおもて面側から強い光を直に当てて透かして見た時に、「MOJMOJ・・・」の透かし文字が見えるか

就業規則はいつ作るか?そしてせっかく作るなら…

2024/08/28|1,495文字

 

<就業規則を作るきっかけ>

会社を設立し、いつか従業員を雇い入れる予定があるのなら、すぐに就業規則を作るようお勧めします。

一人でも適用対象者がいるのであれば、不利益変更という厄介な問題が出てきますが、誰も適用対象者がいないのであれば変更は自由です。

思い立った時に変更をかけていけば、会社にぴったりの就業規則が完成してから従業員を雇い入れるという理想的な形になります。

 

<ありがちな先送り>

労働基準法には、次の規定があります。

 

(作成及び届出の義務)

第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一  始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

二  賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

三  退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

四  臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項

五  労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

六  安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

七  職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

 

一目見て就業規則作りをあきらめたくなるような規定です。

しかも、最初の方に「十人以上の労働者を使用する使用者」と書いてありますから、「まだいいや」と先送りしてしまうのが人情です。

 

<現実的な就業規則の作成時期>

しかし、なるべく早く就業規則作りに取りかかることを強くお勧めします。

ところが実際には、「そろそろ従業員の人数が二ケタになりそう」「労働基準監督署の監督が入って勧告を受けた」というタイミングで、就業規則の作成を依頼してくるお客様が多いのです。

こうした場合でも、形ばかりの就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出るのは、「百害あって一利なし」といえます。

・従業員が就業規則を守らない。そもそも理解していない。

・経営理念や経営方針が従業員に伝わらない。そもそも就業規則に無い。

・従業員から就業規則について質問されると経営者はお手上げ。

・退職者が就業規則に基づき会社に対して多額の金銭を要求してくる。

 

<実務の視点から>

社労士は、就業規則のプロフェッショナルですから、会社の実情に合った、経営者の思いを反映した就業規則を作成します。

紛争の火種になるような規定は置きません。

「労働基準監督署の監督が入って勧告を受けた」というのであれば、社労士自ら所轄の労働基準監督署に足を運び、作成や届出の計画を説明してきます。

従業員に対する説明会も実施しますし、運用のフォローもします。

法改正などにより、就業規則改定の必要が発生すれば、その都度ご案内いたします。

就業規則の作成や変更については、信頼できる社労士にご相談ください。

会社は休憩時間を甘く見ないで、きちんと取らせていないと、送検されるリスクが高いということです

2024/08/27|1,438文字

 

<休憩の不満>

職場によっては、従業員から次のような声が聞かれることもあります。

「いつもちゃんとした休憩が取れない」

「たびたび休憩時間が潰れることがある」

「就業規則で決まっている時間帯は忙しくて休憩が取れない」

どれもこれも、労働基準法が定めている時間だけの、休憩が取れていない状態でしょう。

 

<労働基準法の規定>

休憩について、労働基準法は、次のように規定しています。

 

労働基準法第34条(休憩)

使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

②(省略)

③使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

 

<就業規則の規定>

各企業の就業規則は、労働基準法第34条第1項を踏まえて、休憩時間を定めています。

しかし、同条第3項の「休憩時間を自由に利用させなければならない」という規定を踏まえて、「従業員は休憩時間を自由に利用することができる」などの規定が置かれることは、ほとんどありません。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則には、次のような注意書があります。

 

休憩時間は、労働者に自由に利用させなければなりません。使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待ち時間」)については労働時間に当たり休憩時間ではありませんので注意してください。

 

労働基準法の趣旨を踏まえ、当初予定した休憩時間の一部が、手待ち時間になってしまったなどにより、自由に利用できず休憩ではなくなってしまった場合には、上長の指示により別途休憩を与えるなどの規定を置いておくことが望ましいでしょう。

あるいは休憩時間の中に、手待ち時間が割り込まない運用をする必要があります。

 

<手待ち時間の扱い>

手待ち時間は、休憩時間ではなく、賃金支払の対象となる労働時間です。

電話が鳴ったらすぐに対応することになっている電話当番(昼当番、休憩当番)や、一応「休憩時間」ではあるものの来客があればすぐに対応することになっているというのは、典型的な手待ち時間ですから労働時間です。

電話で通話していた時間や、接客していた時間だけ、追加で休憩が与えられるのではなく、規定どおりの休憩時間が改めて与えられることになります。

会社から貸与されている業務用のスマホは、休憩時間には電源を切ってロッカーにしまっておくルールにすることをお勧めします。

会社の指示により、そのスマホを持って食事に出かけ、取引先や社内の人から着信があれば対応するルールになっていれば、スマホを携帯している時間すべてが賃金支払対象の労働時間となってしまいます。

 

<休憩がきちんと取れないリスク>

使用者が法定の休憩をとらせていないことについては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条第1号)という罰則があります。

特に罰金については、1人1回につき30万円以下の罰金ということですから、休憩がきちんと取れない状態が続いていれば、大変な金額になってしまいます。

こうした企業の実態は、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)をして、従業員に聞取りを行えば、すぐに発覚します。

休憩時間の正確な記録を残していることは稀でしょうから、従業員の話が事実として認定されるのです。

休憩について、従業員から不満の声が出たら、これを放置してはいけないということです。

残業代の代わりに営業手当は危険です。残業代込みの営業手当も危険です。すぐに制度を改めましょう

2024/08/26|1,154文字

 

<営業手当の意味>

営業手当は、営業という業務を担当することにより、他の業務には無い負担があるため、その負担に応じて支給される所定労働時間内の業務に対する手当です。

洋服代や靴代、精神的負担など、その理由は様々です。

ですから、所定労働時間外の残業代の代わりにはなりません。

また、営業手当に残業代を含めるということもできません。

 

<よくある言い訳>

会社が営業手当を残業代の代わりに支給する、あるいは残業代を含めて支給するときの言い訳としては、「営業社員は勤務時間を把握できないから」というのが多いでしょう。

しかし、これが本当なら営業社員はサボり放題です。

なぜなら、会社は営業社員の勤務時間を把握しないのですし、営業手当を支給しているから把握しなくても良いと思って安心しているからです。

きちんと勤務時間を把握し、営業成績を正しく評価し、個人ごとの生産性を人事考課に反映させて、給与や賞与にメリハリをつけなければサボりは防げません。

反対に、過重労働による過労死の危険もあります。

営業成績の上がらない社員は、サボりどころか長時間労働に走ります。

営業成績の良い社員がたくさん働いているとは限らないのです。

万一、営業社員が過労死あるいは自殺したときに、過重労働ではなかったという証拠が無ければ、遺族から慰謝料など多額の損害賠償を請求された場合に反論のしようがありません。

 

<退職者から未払い残業代を請求されたら>

残業代は25%以上の割増賃金なのですが、そのベースとなる賃金には営業手当が含まれます。

会社としては、残業代の代わりに営業手当を支給していたつもりでも、その営業手当を加えた賃金の25%以上割増で計算することになるのです。

会社にとっては、まるで残業代が複利計算になっているような感じを受けます。

恐ろしいのは、会社側に勤務時間のデータが無いために、退職者の手帳の記録などが証拠となりうることです。

退職者が退職後に記録を作成することさえあるのです。

それでも、退職者の記録が誤っていることを一つひとつ立証するのは、とても無理なことでしょう。

そして、退職者は過去3年分の残業代を請求することになります。

労働基準法の規定する消滅時効期間は2年でしたが、令和2(2020)年4月に民法が改正されたことで、3年に延長されました。

やがて、5年に延長されることが予定されています。

 

<実務の視点から>

営業社員の誰かが退職して、過去の未払残業代を請求してきたら、在籍している営業社員の全員が同じことを考えても不思議ではありません。

過去の退職者からの請求もあるでしょう。

たしかに、残業代の代わりに営業手当を支給する制度を適法に行う方法もあります。

しかし、これは導入も運用もむずかしいのです。

詳しいことは、信頼できる社労士にご相談ください。

賞与の本質と決定方法を考えると一定期間の実績に基づいて変動する賃金ということができます

2024/08/25|1,309文字

 

<労働条件の明示>

労働基準法には、次の規定があります。

 

(労働条件の明示)

第十五条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

 

そして賞与については、支給するのであれば明示するというルールです。

厚生労働省の公開している労働条件通知書には次のように示されています。

 

賞与( 有(時期、金額等        ) , 無  )

 

これは「ひな形」ですから、「金額等」と書いてあっても、必ずしも「5万円」とか、「給与の2か月分」などと記入する必要はありません。

ただし記入すれば、それが労働契約の内容となりますから守らなければなりません。

「会社の業績と個人の人事考課により決定される額」という記載でも良いわけです。

 

<給与の決定>

給与というのは、これから先、一定の期間の活躍ぶりを想定して決まるものです。

決して過去の実績に応じて決まるものではありません。

そうでなければ、新規に採用した人の給与や、課長から部長に昇格した人、営業職から事務職に異動した人の給与は決まらないことになってしまいます。

会社によっては、過去の実績を評価して将来の給与を決めていることがあります。

こうした会社では、過去の実績から将来の活躍を予測している建前になっています。

しかし、人事異動には対応できていないわけです。

 

<納得できる賞与の決定>

賞与は、将来の活躍に期待して支給するものではありません。

過去の一定期間の会社の実績、部門実績、個人の会社に対する貢献度、目標の達成度などを評価して支給するものです。

中には、「基本給の2か月分」など計算方法が決まっている会社もあります。

しかし、これでは、会社に貢献してもしなくても支給金額に違いはありません。

賞与の支給額だけを考えるなら、工夫して努力して会社に貢献する気にはなりません。

むしろ、貢献しただけ賞与が増える会社への転職を考えたくなります。

こうした賞与を喜ぶのは、サボっていたい社員だけということになりかねません。

 

<給与と賞与との関係>

給与は将来の活躍を予測して支給します。

この予測が外れることもあります。

良い方に外れたのであれば、それだけ高額の賞与を支給して調整すれば良いのです。

反対に、悪い方に外れたのであれば、それだけ低い金額の賞与を支給して調整したいところです。

結局、賞与は適正な人事考課に基づき、給与の不足や払い過ぎを調整する役割を持つべきものです。

これを実現するのは、具体的で客観的な人事考課制度の運用です。

 

<実務の視点から>

小さな会社では、個人の実績を考慮せず一定の基準で賞与の額を決定するということも行われます。

あるいは、支給しない会社も多数あります。

すると結果的に、賞与に見合った働きをしていない社員だけが残ることになります。

なぜなら、賞与以上の貢献をしている社員は、活躍に見合った賞与を支給する会社に転職するからです。

こうして、働き以上の賞与をもらえる社員だけが残り、「いい人材が集まらない」という状態になるのは人事考課制度が無いからです。

会社の現状にふさわしい人事考課をお考えでしたら、信頼できる社労士にご相談ください。

法令にある「労働時間」の意味を常識的に日常会話での意味と同じだと誤解すると違法な結果を導くことになります

2024/08/24|1,861文字

 

<日常会話での「労働時間」>

日常会話で「労働時間」といえば、「従業員が働く時間」という意味です。

また、就業規則や労働条件通知書などに始業時刻、終業時刻、休憩時間が規定されていて、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いたのが「労働時間」だと言われたりします。

さらに、タイムカードのみで始業・終業時刻を記録している会社では、職場への入退場の時刻が始業・終業時刻とは限らず、実際に仕事を始めた時、仕事を終わった時を基準に「労働時間」を考えるとされていることもあります。

 

<法的な意味での「労働時間」>

労働基準法などに「労働時間」の具体的な定義はありません。

しかし最高裁判所が、次のような判断を示していますから、会社が独自にこれとは異なる解釈を示し、マイルールとして運用していても、一般に通用するものとはなりません。

 

「労働時間」とは、従業員が会社の監督・指揮命令下にある時間のことをいいます。

従業員が働く時間だけではなく、それに付随する仕事の準備や片付けなどの時間も、労働時間となりえます。

また、実際に作業していない待機時間や仮眠時間といった“手待ち時間”も、会社の監督・指揮命令下にあれば「労働時間」です。

 

これによれば、法的な意味での「労働時間」は、日常会話での「労働時間」に、仕事の準備の時間、仕事の後片付けの時間、手待ち時間を加えたものに、ほぼ等しいということができます。

 

<仕事の準備の時間>

仕事の予定を確認したり、仕事を進めるのに必要な情報を伝達したりは、仕事の準備ですから、出勤している人が参加を義務付けられている朝礼の時間は、賃金支払の対象となる「労働時間」です。

清潔な環境で就業できるようにするため、会社の指示に従い当番制で掃除をする時間は、賃金支払の対象となる「労働時間」です。ただし、必ずしも必要がないのに自分の使っている椅子を掃除するのは、会社の指示に従って行うのでなければ、「労働時間」とはなりません。

自分で飲むお茶をいれる時間は、仕事そのものの準備ではありませんから、賃金支払対象の「労働時間」ではありません。しかし現実には、短時間であれば、欠勤控除されない運用となっていることが多いでしょう。

 

<仕事の後片付けの時間>

かつては、飲食店で営業時間終了後の閉店作業に、賃金が支払われないことも多発していました。しかし翌日以降の営業に必要な後片付けは、明らかに賃金支払対象の「労働時間」です。

業務終了後に整理整頓する時間や電源を切る時間は、どの職場でも賃金支払対象の「労働時間」です。勤務終了後の清掃も、会社からの指示によるものであれば、「労働時間」となります。

これに対して、自宅から持参した弁当の弁当箱を洗う時間は、会社から洗剤や水道の利用を許されていたとしても、仕事の後片付けではありませんから、「労働時間」ではありません。

 

<手待ち時間>

手待ち時間も、賃金支払の対象となる「労働時間」です。

電話が鳴ったらすぐに対応することになっている電話当番(昼当番、休憩当番)や、一応「休憩時間」ではあるものの来客があればすぐに対応することになっているというのは、典型的な手待ち時間ですから「労働時間」です。電話で通話していた時間や、接客していた時間だけ、追加で休憩が与えられるのではなく、改めて休憩時間が与えられることになります。

会社から貸与されている業務用のスマホは、休憩時間には電源を切ってロッカーにしまっておくルールにすれば良いのです。会社の指示により、そのスマホを持って食事に出かけ、取引先や社内の人から着信があれば対応するルールになっていれば、スマホを携帯している時間すべてが賃金支払対象の「労働時間」となってしまいます。

 

<「労働時間」の誤解による不都合>

法的な意味での「労働時間」の一部に過ぎない、日常会話での「労働時間」のみに賃金が支払われていれば、不払賃金が発生してしまいます。

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従って、正しく「労働時間」を把握しているつもりになっていても、それが日常会話での「労働時間」の把握であれば、労働安全衛生法違反となりかねません。

残業規制の対象となる時間も、法的な意味での「労働時間」ですから、常識に従った「労働時間」で計算していたのでは、三六協定や労働基準法に違反してしまうことがあります。

法令の中の用語を、常識に従い、日常会話での意味に解釈してしまうと、知らず識らずのうちに、法令違反を犯してしまうリスクがあるということです。

給与の本質や決定方法をよく考えると、働きに見合った支払にはならないことが分かります

2024/08/23|1,391文字

 

<給与の支払時期>

民法の雇用の節に、報酬の支払時期について次の規定があります。

 

(報酬の支払時期)

第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

 

つまり、給与は後払いが原則です。

実際、新人を採用すると共に給与を支払うというのはごく少数派でしょう。

時給制や日給月給制ならもちろん、月給制で欠勤控除がある場合には締めてみないと金額が確定しません。

また、そもそも給与は労働の対価ですから、雇い主としては働きぶりを見てからでないと納得して支払えないのも事実です。

それでは、まず働いてもらって働きぶりを評価し、その評価に応じて給与を支払うということも許されるのでしょうか。

 

<労働条件の明示>

労働基準法には、次のように定められています。

 

(労働条件の明示)

第十五条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

 

このように、まず給与を決めて労働者に示したうえで働いてもらうルールだということです。

そして、示した給与と支払われる給与が違うなら、労働者はそれを理由に退職できます。

ここで、示した給与と支払われる給与が違うというのは、時間給や基本給などの単価が違っていたり、計算方法が違っていたりすることです。

 

<納得のいく給与決定>

このような法的制約のもとで、労使共に納得のいく給与を決定するには、かなり詳細で客観的な人事考課基準が必要でしょう。

入社にあたっては、予測される働きぶりを人事考課基準に当てはめて給与を決定します。

その後は、一定の期間を区切ってその期間の働きぶりを参考に、次の一定の期間の予測される働きぶりを人事考課基準に当てはめて給与を決定します。

ここで注意したいのは、過去の働きぶりをそのまま給与に反映させるのではなく、将来の予測だということです。

言い換えれば、社員に対する会社の期待です。

このように考えることで、転勤や昇格などの人事異動にも正しく対応できることになります。

また、働いてみてもらったら給与に見合った働きができなかったとしても、最初の約束をひっくり返して減給できるわけではないことも当然です。

それは、働きぶりの予測の精度が低かったということになります。

もちろん、人事考課と給与の決定時期について予め具体的な説明をしておいて、それを約束通りに運用するのであれば、合理的な仕組の運用である限り許されるわけです。

 

<実務の視点から>

小さな会社では、ひとり一人の社員の生活に必要な金額を考えて、給与の額を決定するということも行われます。

すると結果的に、給与に見合った働きのできない社員だけが残ることになります。

なぜなら、給与以上の働きをする社員は、働きに見合った給与を支給する会社に転職するからです。

やはり給与は、社員の働きに応じて支給するのが大原則です。

働き以上の給与をもらえる社員だけが残り、「いい人材が集まらない」という感想を抱くのは、人事考課制度が適正に運用されていないからです。

会社の現状にふさわしい人事考課をお考えでしたら、信頼できる社労士にご相談ください。

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