2024/08/23|1,391文字
<給与の支払時期>
民法の雇用の節に、報酬の支払時期について次の規定があります。
(報酬の支払時期)
第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
つまり、給与は後払いが原則です。
実際、新人を採用すると共に給与を支払うというのはごく少数派でしょう。
時給制や日給月給制ならもちろん、月給制で欠勤控除がある場合には締めてみないと金額が確定しません。
また、そもそも給与は労働の対価ですから、雇い主としては働きぶりを見てからでないと納得して支払えないのも事実です。
それでは、まず働いてもらって働きぶりを評価し、その評価に応じて給与を支払うということも許されるのでしょうか。
<労働条件の明示>
労働基準法には、次のように定められています。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
このように、まず給与を決めて労働者に示したうえで働いてもらうルールだということです。
そして、示した給与と支払われる給与が違うなら、労働者はそれを理由に退職できます。
ここで、示した給与と支払われる給与が違うというのは、時間給や基本給などの単価が違っていたり、計算方法が違っていたりすることです。
<納得のいく給与決定>
このような法的制約のもとで、労使共に納得のいく給与を決定するには、かなり詳細で客観的な人事考課基準が必要でしょう。
入社にあたっては、予測される働きぶりを人事考課基準に当てはめて給与を決定します。
その後は、一定の期間を区切ってその期間の働きぶりを参考に、次の一定の期間の予測される働きぶりを人事考課基準に当てはめて給与を決定します。
ここで注意したいのは、過去の働きぶりをそのまま給与に反映させるのではなく、将来の予測だということです。
言い換えれば、社員に対する会社の期待です。
このように考えることで、転勤や昇格などの人事異動にも正しく対応できることになります。
また、働いてみてもらったら給与に見合った働きができなかったとしても、最初の約束をひっくり返して減給できるわけではないことも当然です。
それは、働きぶりの予測の精度が低かったということになります。
もちろん、人事考課と給与の決定時期について予め具体的な説明をしておいて、それを約束通りに運用するのであれば、合理的な仕組の運用である限り許されるわけです。
<実務の視点から>
小さな会社では、ひとり一人の社員の生活に必要な金額を考えて、給与の額を決定するということも行われます。
すると結果的に、給与に見合った働きのできない社員だけが残ることになります。
なぜなら、給与以上の働きをする社員は、働きに見合った給与を支給する会社に転職するからです。
やはり給与は、社員の働きに応じて支給するのが大原則です。
働き以上の給与をもらえる社員だけが残り、「いい人材が集まらない」という感想を抱くのは、人事考課制度が適正に運用されていないからです。
会社の現状にふさわしい人事考課をお考えでしたら、信頼できる社労士にご相談ください。