年次有給休暇の届出期限が厳しい会社はおかしくないのか

2024/08/30|1,629文字

 

<就業規則の規定>

就業規則に「年次有給休暇の届出は◯日前までに提出すること」という規定を置いて、期限に間に合わない届出を一切認めない運用にしている会社があります。

しかし、厚生労働省が公表しているモデル就業規則には、このような規定が見当たりません。

また、労働基準法の年次有給休暇に関する規定の中にも、「◯日前までに時季指定」のような規定はありません。

年次有給休暇の取得を、間接的に制限するような会社独自のルールは、有効なのかという問題があります。

 

<「◯日前まで」の理由>

会社がこうした規定を置く正当な理由としては、時季変更権があります。

つまり、会社が従業員から請求された時季に、年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができるとされています。〔労働基準法第39条第5項但書〕

これは、従業員が労働基準法を通じて国から与えられている年次有給休暇を、法定の日数だけ取得できるように、会社が人員体制を整えていることが前提となります。

労働基準法が労働者の権利として、年次有給休暇を認めている以上、会社は従業員がこの権利を行使できるように体制を整えておく義務があるのです。

とはいえ、年次有給休暇取得届が提出されれば、会社はシフト調整などの必要に迫られます。

この調整に必要な日数が最大5日であれば、人のやりくりのために必要な期間を考えて、年次有給休暇取得届は6日前までに提出というルールを設定することにも合理性があります。

つまり、時季指定した日の6日前までに届出をすれば、会社は時季変更権を行使しないということになります。

 

<同時多発的年休届>

とはいえ、同じ日に多くの従業員が時季指定をしてしまうと、シフト調整が不可能となる事態も考えられます。

こうした場合、上司としては、年次有給休暇を取得する理由を尋ねたくなってしまうでしょう。

しかし、個人的な事情を訊ねるのはプライバシーの侵害です。

パワハラ6類型の中の「個の侵害」になりますから、典型的なパワハラとなってしまいます。

同じ日に時季指定をした従業員同士で話し合って、平和的に解決できれば良いのですが、そこでまた力関係によるパワハラが発生する恐れもあります。

「この日に○人が年次有給休暇の取得を指定しているので、シフト調整ができません。誰か他の日に変えてもらえませんか?」と打診してみることになるでしょうか。

 

<年次有給休暇取得計画表>

欧米では、長期休暇を取得する慣行があります。

労働基準法の年次有給休暇も、本来は、同様の運用を想定しています。

前年度のうちに、翌年度の年次有給休暇取得計画表を作成してしまうのです。

「この時期に連休を取ります」という、まさに「時季指定」です。

そして複数の従業員の連休期間が重なってしまうと、事業の正常な運営が妨げられるので、会社から「時季変更」を求めるのです。

日本でも、これにならった運用をすれば良いのですが、年次有給休暇がリフレッシュのためのものであるという本来の意義が薄れていて、何かの必要に迫られて取得する慣行では、この運用が困難なこともあるでしょう。

 

<「◯日前まで」の遵守>

従業員が、「◯日前まで」に年次有給休暇取得届を提出すれば、特段の事情がない限り、会社は時季変更権を行使しないというルールなら、かなり合理的なルールとなります。

ある従業員が「あさってどうしても休みたいのですが、今から年次有給休暇取得届を提出してはダメでしょうか?」と言われた上司が、「あさっては忙しくないのでいいだろう」と許してしまうと、不公平の問題が生じてしまいます。

こうしたことから、一律に「年次有給休暇の届出は◯日前までに」とすることにも合理性が認められます。

ただし、シフト調整に必要のない長期間、たとえば2週間前とか、30日前のようなルールでは、年次有給休暇の取得が妨げられますから、不合理なものとなってしまいます。

この点は、注意が必要といえるでしょう。

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