無報酬の経営者は社会保険に加入できません

2024/07/25|582文字

 

<無報酬の経営者>

会社の設立直後は利益が出ず、代表者は無報酬で頑張るということがあります。

やがて利益が出たら、その利益に見合う報酬をもらうことにしようというわけです。

また、代表者の親族が名目的に役員に名を連ね、形式的に経営者扱いになっていることもあります。

そして、この場合にも無報酬のことがあります。

 

<保険料負担の建前>

社会保険(健康保険と厚生年金保険)の保険料は、その会社などで報酬を得て、その報酬の中から負担するというのが建前です。

ですから、無報酬なら保険料を負担することには無理があり、負担できないというのが常識的な判断になります。

 

<不都合の発生>

報酬が無かったり、低額だったりの場合には、健康保険料が国民健康保険料よりも安くて済みます。

また、出産手当金や傷病手当金といった給付を受けることもできます。

特に70歳以上であれば、厚生年金の加入義務がありませんから、保険料は健康保険料だけの負担となります。

こうしたことは、いかにも不公平で不合理に思われます。

 

<実際の運用>

無報酬の経営者は社会保険に加入しない、また、経営者が無報酬となった場合には社会保険の資格を失うというのが実際の取扱いです。

年金事務所でもこのように指導しています。

無理をして社会保険に加入して、損をしている経営者の方もいらっしゃいます。

具体的なことは、信頼できる社労士にご相談ください。

受給者の一部におかしな行動が見られることが問題視され育児休業給付金の支給対象期間延長手続が改正されます(令和7年4月)

2024/07/24|1,164文字

 

<育児休業給付金の支給対象期間延長手続の改正内容>

保育所等に入れなかったことを理由とする育児休業給付金の支給対象期間延長手続が変わります。

これまでは、保育所等の利用を申し込んだものの、当面入所できないことについて、市区町村の発行する入所保留通知書などにより延長の要件を確認していました。

しかし、令和7(2025)年4月より、これまでの確認に加え、保育所等の利用申し込みが、速やかな職場復帰のために行われたものであると認められることが必要になります。

 

<手続改正の理由>

雇用保険の育児休業給付金を受給している人が、職場に復帰するために保育所等の利用を申し込んでいたところ、定員オーバーなどにより、お子さんが入所できない場合には、育児休業が延長され、育児休業給付金の支給対象期間が延長されます。

これは、職場に復帰しようとしているにもかかわらず、保育所が見つからずに、やむを得ず期間を延長する場合の取扱です。

ところが、保育所に入れなければ、職場に復帰せず、お子さんと一緒にいることもできて、給付金も受給できることから、あえて保育所等に入所しにくいように、遠方の競争率の高い保育所のみに利用申込をする人も現れています。

中には、入所を許可した保育所に対して、クレームを言う人も見られるようになりました。

その裏で、本当に入所を希望する人が、お子さんを入所させられないという事態が生じてしまいました。

このような事態を是正し、本来、給付を受けるべき人が、育児休業給付金を受給できるようにするための手続改正です。

 

<具体的な変更内容>

令和7(2025)年4月から育児休業給付金の支給期間延長手続の際は保育所等の利用申込書の写しが必要となります。

市区町村に保育所等の利用申し込みを行う際は、必ず申込書の写し(電子申請で申し込みを行った場合は、申込内容を印刷したもの、または、申し込みを行った画面を印刷したもの)をとって保管しておく必要があります。

 

<手続の注意事項>

育児休業給付金は、保育所等に入れなかったため育児休業を延長した場合に、1歳6か月に達する日前まで(再延長で2歳に達する日前まで)支給を受けることができますが、育児休業及び給付金の延長を目的として、保育所等の利用の意思がないにもかかわらず市区町村に入所を申し込むことは、制度趣旨に沿わない行為です。

制度を適切に運用するため、令和7(2025)年4月以後の延長の際は、速やかな職場復帰のために保育所等の利用申し込みをしていることをハローワークが確認しますので、以下の書類の提出が必要となります。

・育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書

・市区町村に保育所等の利用申し込みを行ったときの申込書の写し

・市区町村が発行する保育所等の利用ができない旨の通知(入所保留通知書、

入所不承諾通知書など)

健康診断を受ける時間は賃金支払の対象となる労働時間となることもならないこともあります

2024/07/23|1,086文字

 

<賃金の支払義務>

健康診断を受ける時間が、労働基準法の労働時間にあたれば、賃金の支払義務があります。

 

<一般健康診断についての通達>

労働安全衛生法第66条第1項に定める一般健康診断について、次のような通達があります。

「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払については、労働者一般に対して行われるいわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと」(昭和47918日基発第602号通達)

結論として、たとえ一般健康診断を受診しなくても、業務に具体的な支障が生じるわけではないことから、実質的に受診義務がないことになり、その受診に必要な時間の賃金を、使用者が負担する義務はないと考えているようです。

 

<例外的に労働時間となる場合>

業務命令により一般健康診断を受診させ、受診しない場合の懲戒処分を定めている場合には、賃金支払が必要な労働時間に該当すると考えられます。

 

<特殊健康診断についての通達>

労働安全衛生法第66条第2項に定める特殊健康診断について、次のような通達があります。

「特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること」(昭和47918日基発第602号通達)

結論として、特殊健康診断を受ける時間を労働基準法にいう労働時間と捉えているようです。

特殊健康診断は、一般健康診断とは異なり、事業の遂行との関連性が強く、受診しなければ業務に具体的な支障が生じうるため、受診義務があり受診に要する時間は労働時間と評価されるということです。

 

<実務の視点から>

厳密に考えると、自宅や勤務地から受診会場に行き、受診会場から自宅や勤務地に戻る交通費の負担など、会社と労働者との負担区分には複雑なものがあります。

きちんとした区分を設定し、気持よく健康診断を受診できるようにするには、信頼できる社労士にご相談ください。

労働条件の決定と変更のトラブルを回避するには労働条件の内容を明確にして労使で確認するのが基本ではありますが

2024/07/22|1,450文字

 

<労働条件>

労働条件は、原則として労働契約の内容です。

ただし、法令、労働協約、就業規則よりも不利な点は、これらによって修正されます。

法令には、労働基準法、最低賃金法、賃金支払確保法、男女雇用機会均等法などが含まれます。

労働協約は、労働組合法に従って締結された、労働組合と使用者(またはその団体)との取り決めをいいます。

 

<労働契約の原則>

労働契約法第3条は、労働契約の原則を次のように定めています。

 

【労働契約の原則】

1 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

 

労働基準法は、使用者に多くの義務を課し違反に対して罰則を設けている一方で、労働者に対する罰則はありません。

これに対して、労働契約法は、労働者と使用者の両方に義務を課しているものの、罰則は設けられていません。

違反があった場合には、損害賠償等により民事的に解決されます。

 

<労働条件の決定と明示>

結局、労働条件は、労働契約の内容として労使の合意により決定されるのですが、法令、労働協約、就業規則よりも不利な点は、これらによって修正されます。

労働契約は、口約束でも成立します。〔民法第623条〕

しかし、労働者にとっては生活がかかっていますし、使用者にとっては賃金その他の経費を含め合計数億円に達する大取引ですから、トラブル回避のためにも、使用者が労働者を採用するときは、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければなりません。〔労働基準法第15条第1項〕

明示された労働条件が事実と相違する場合には、労働者は、即時に労働契約を解除することができます。〔労働基準法第15条第2項〕

労働条件通知書や労働契約書で、「残業なし」と明示されているのに残業を命じられたら、すぐに退職を申し出ることができるわけです。

 

<労働条件の変更>

労使の合意により、労働契約を変更することによって、労働条件を変更できます。〔労働契約法第3条第1項〕

変更についても、法令、労働協約、就業規則より不利な点は、これらによって修正されます。

労働基準法は、労働者を採用するときだけ、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示するよう求めていますが、労働条件を変更する場合にも、トラブル回避のためこれを行っておくべきです。

労働条件の変更のうち、労働者にとって不利益な変更を特に「不利益変更」と呼んでいます。

不利益変更の場合には、労働者の同意の有無が争点となりやすいものです。

しかも、この同意は労働者の「自由な意思による同意」であることが必要です。

使用者は、労働者の真意に基づく同意があったことを証明できるよう、「同意書」のような書面を証拠として残しておくべきです。

この書面には、労働条件の変更内容と同意した旨の他、具体的な変更理由を表示しておくことによって、労働者から「勘違いしていた」「だまされた」などの主張が出されても、納得のうえ同意したことを説明できるようにしておくべきでしょう。

社内に労働法違反の慣習が長年にわたって当然のように残っていることがあります

2024/07/21|1,105文字

 

<残業時間の繰越>

建設業で働くある男性が、月80時間を超える時間外労働をしたのに、将来代休を取る予定にしてその時間分を差し引くことで、80時間未満と申告していました。

この方法は、この職場で長年の慣習だったようです。

本来、適法な三六協定を交わし、かつ、所轄の労働基準監督署長への届出をしていなければ、法定労働時間を超える残業は、たとえ1分間でも違法です。

 

<違法な慣習の発生メカニズム>

社内のある部門で、会社のルール通りにやっていては上手くいかないときに、その部門の部長や事業部長などが「いいこと考えた!」とばかりに、少しルールを曲げて運用し、上手くいったつもりになってしまうことがあります。

これが会社目線の素人判断であり、労働法の中のある法令のある規定に違反して違法であったとしても、偉い人の言うことには逆らえませんから、これがその部門での新たな慣習として定着してしまうのです。

もし「いいこと考えた!」のが社長であれば、人事部門の責任者も逆らえない可能性があります。

 

<違法な慣習の例>

違法な慣習は、一部の部門だけでなく会社全体に蔓延していて、就業規則に違法な規定が置かれていることもあります。

所轄の労働基準監督署は就業規則の届を受付けているわけですが、細かいチェックまではできないのです。

違法な慣習としては、次のような例があります。

・正社員には年次有給休暇を取得させない。

・臨時アルバイトには労災保険を適用しない。

・軽いケガであれば労災にも健康保険証を使わせる。

・妊娠したら退職するルールがある。

・日給制、年俸制で残業手当を支給しない。

・その日の仕事が終わった時点が終業時刻としている。

・会社で決められた制服への着替え時間が勤務時間外とされている。

・遅刻に対する「罰金」の定めがある。

・会社の備品を壊すと新品を弁償させられる。

こうした会社の典型的な特徴としては、入社にあたって労働条件通知書を交付していないという点があります。

入社して、1か月経過しても交付されない場合には、従業員から「まだ労働条件通知書をもらっていません」と確認してみて、それでも交付されないようなら転職先を探しながら働くと良いでしょう。

 

<実務の視点から>

今日までは何事も起こらなくても、明日には事件が起きてマスコミが大々的に報じ、違法な慣習があったことについて深く反省させられるかもしれません。

たとえば、国が少子高齢化対策を強化している今、育児介護休業法の制度を知らない経営者の方は、基本的なことだけでも確認しておくことをお勧めします。

面倒でしたら、信頼できる社労士を顧問に置いておくという手もありますので、お近くの社労士にご相談ください。

一斉に休憩を与えなくてもよい業種は限られています。この例外に当たらない場合には労使協定が必要です

2024/07/20|649文字

 

<一斉休憩の原則>

労働基準法の前身は工場法でした。

工場では、労働者に一斉に休憩を与えるのが効率的です。

現在、休憩時間は事業場ごとに一斉に与えなければならないというのが、工場だけではなく原則的なルールとなっています。〔労働基準法第34条第2項本文〕

つまり、労働者に対して交代で休憩時間を与えることは、原則として認められません。

 

<事業の種類による例外>

運送事業、販売・理容の事業、金融・保険・広告の事業、映画・演劇・興業の事業、郵便・電信・電話の事業、保健衛生の事業、旅館・飲食店・娯楽場の事業、官公署等では、労働基準法のこの規定の適用が除外されています。〔労働基準法第40条第1項、労働基準法施行規則第31条〕

つまり、これらの事業では、労働者に一斉に休憩を与える必要がありません。

 

<他の事業での例外>

上記の例外に含まれない事業でも、労使協定を締結すれば、休憩時間を一斉に与える必要はなくなり、交代で休憩時間を与えることもできるようになります。〔労働基準法第34条第2項但書〕

しかも、この労使協定は三六協定などと違って、労働基準監督署長への届出が不要です。

それでも、無ければ労働基準監督署の監督(調査)が入ったときには指摘されますから、一斉に休憩を取らせない事業場では、労使協定書を作成して保管しておきましょう。

 

<実務の視点から>

三六協定書すら届出していない会社もありますが、必要な労使協定が無いのは違法ですから、一度、信頼できる社労士にご相談のうえ、作成して保管しておくことを強くお勧めします。

店舗・営業所が複数ある場合には就業規則の保管場所にも注意を払う必要があります

2024/07/19|1,150文字

 

<就業規則の有効性>

裁判所の判断によると、就業規則はその変更を含め、周知されていないと効力がありません。

これは、労働基準監督署長への届出の有無とは無関係です。

このことから明らかなように、届出が法令により義務づけられているものの、就業規則は届出で有効になるわけではなく、周知することによって有効になるのです。

知らないルールは守りようがありませんから、ある意味当然のことです。

 

<周知の意味>

「周知」という言葉は、本来、周(あまね)く=広く知らせるという意味です。

しかし、就業規則を有効にするために求められる周知は、一人ひとりの従業員がそれを読んて理解することではありません。

就業規則ができたこと、変更されたことだけ、一人ひとりの従業員に伝えておいて、あとは見ようと思えば見られる状態にしておけば良いのです。

たとえば、就業規則のファイルを休憩室やロッカー室に置いておくとか、パソコンやスマホで見られるようにしておくのです。

ただし、アルバイトやパート社員などを含め、すべての従業員に見られるようにしておく必要があります。

 

<事業の拠点が複数ある場合>

本部の他に営業所や店舗など、会社の事業の拠点が複数ある場合には、すべての職場で就業規則を周知する必要があります。

周知されていない職場の従業員に対しては、就業規則の効力がありません。

こうした職場では、たとえば懲戒処分ができないことになります。

印刷した就業規則のファイルを置いておくのなら、本部だけでなく、すべての営業所や店舗などに置く必要があります。

そして、アルバイトでも気軽に見られるよう、休憩室などに置くのが普通です。

店長や所長の机の引き出しに入っていたのでは周知になりません。

就業規則をパソコンで見る形になっている場合には、アルバイトでも気軽に見られる状態にしておく必要があります。

正社員は会社のパソコンで見られるけれど、アルバイトは会社のパソコンを使いづらいというのでは、アルバイトに対して周知になりません。

 

<会社目線の素人判断では>

「就業規則の変更は社員に知らせなくても労働基準監督署長に届け出れば有効」「まず届出をしてから社員に知らせるのが正しい」という誤解は生じやすいものです。

就業規則に限らず、「うちは昔からこれでやっている」ということで、毎回、間違いを繰り返していたり、法改正を知らずに違法な状態から抜け出せずにいたりということもあります。

顧問社労士は、社内に労働法違反の点がないか、もし労働基準監督署の立入調査(臨検監督)が入ったら、どの部分の違法性を指摘されるか、あるいはどのような改善を求められるかというチェックも行っているはずです。

少しでも不安に感じることがあれば、スポットでも信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

コロナだからやむを得ない解雇だといえるわけではなかったのです

2024/07/18|1,381文字

 

<「やむを得ない」の意味>

「やむを得ない」の「やむ」は「やめる」、「得ない」は「できない」という意味ですから、「やむを得ない」の意味は、「そうするよりほかに方法がない。しかたがない」という意味になります。

「やむ負えない」「やむ終えない」「やむ追えない」などの誤った表記も見られますが、これらは「やむおえない」ですから、そもそも誤りです。

「やもおえない」「やもうえない」という誤りも、耳にすることがあります。

かつては、「已むを得ない」と表記されていましたが、当用漢字で「止むを得ない」が一般的になりました。

 

<労働基準法の「やむを得ない」>

労働基準法により、解雇の予告や解雇予告手当の支払がないまま解雇することは、犯罪となり罰則の適用もありえます。

しかし、「やむを得ない」事由のために事業の継続が不可能となった場合には、犯罪にはなりません。

 

【解雇の予告:労働基準法第20条第1項】

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。

 

条文には、「やむを得ない」事由の例として、天災事変が示されています。

簡単に「やむを得ない」と判断できないことは明白です。

実際、通達(昭和63年3月14日 基発150号、婦発47号)には、「やむを得ない」場合に該当する例として、次のものが挙げられています。

 

【やむを得ない場合の例】

・事業主の故意や重大な過失に基づかず、事業場が火災により焼失した場合

・震災によって工場、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合

 

反対に、「やむを得ない」とはいえない場合の例として、次のものが挙げられています。

 

【やむを得ないとはいえない場合の例】

・国税の滞納処分を受け事業廃止となった場合

・取引先が休業状態となり、これが原因で事業が金融難に陥った場合

 

<コロナ禍の影響による解雇>

コロナ禍によって業績が落ち込み、その後も業績の回復が不十分で、正社員の整理解雇や非正規社員の雇い止め等を行った企業も多数あります。

当時、事業の継続が不可能となった場合には、コロナ禍が「やむを得ない」事由に該当するといえるのかが問題とされました。

しかし、厚生労働省などから、コロナ禍により事業の継続が不可能となった場合について、何らかの判断が示されることなく、助成金・補助金の特例、融資の拡大、税制上の措置、社会保険料の特例軽減などの緊急対応策により、事業の継続を維持するように促していました。

少なくとも、これらの緊急対応策を利用し尽くしてもなお、事業主の責任を問われない原因で、事業の継続が不可能となった場合でなければ、解雇の予告や解雇予告手当の支払がないまま解雇することが許される「やむを得ない」事由があったとは、認められない状況にありました。

さらに、コロナ禍による業績の落ち込み、その後の回復不十分を理由とする解雇は、整理解雇にあたります。

整理解雇が有効となるためには、厳格な要件を満たす必要があります。

まずは、希望退職者の募集や退職勧奨など、労使の合意によって可能な対応を優先することが求められていたのです。

「コロナだから仕方がない」という大雑把な理由で、バッサリ解雇してしまった企業は、退職者からの解雇無効の訴えや損害賠償請求への対応で、復活困難となっています。

経営者の主観的な「常識」に従うのではなく、法令、通達、ガイドラインなどに沿って対応した企業の多くは、急回復しています。

窮地に陥ったときこそ、マイルールではなく社会のルールに沿った行動が求められます。

解雇というと懲戒解雇のイメージが強いですが労働契約違反を理由とする普通解雇が妥当な場合もあります

2024/07/17|1,474文字

 

<解雇の意味>

雇い主から「この条件でこの仕事をしてください」という提案があり、労働者がこれに合意すると労働契約が成立します。

労働契約は口頭でも成立します。

ただ労働基準法により、一定の重要な労働条件については、雇い主から労働者に対し、原則として書面による通知が必要となっています。

解雇は、雇い主がこの労働契約の解除を労働者に通告することです。

 

<普通解雇>

狭義の普通解雇は、労働者の労働契約違反を理由とする労働契約の解除です。

労働契約違反としては、能力の不足により労働者が労働契約で予定した業務をこなせない場合、労働者が労働契約で約束した日時に勤務しない場合、労働者が業務上必要な指示に従わない場合、会社側に責任のない理由で労働者が勤務できない場合などがあります。

これらの場合に、会社側の十分なフォローにも関わらず、改善が見られず、法的な保護が認められないときに普通解雇の対象となります。

 

<解雇の制限>

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第16条〕

普通解雇は、この制限を受けることになります。

 

<懲戒処分の制限>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第15条〕

労働契約法の第15条と第16条は、重複している部分があるものの、第15条の方により多くの有効要件が含まれています。

懲戒処分は、この厳格な制限を受けることになります。

 

<懲戒解雇の有効要件>

懲戒解雇というのは懲戒+解雇ですから、懲戒の有効要件と解雇の有効要件の両方を満たす必要があります。

普通解雇は、解雇の有効要件だけ満たせば良いのですから、懲戒解雇よりも条件が緩いことは明らかです。

 

<懲戒解雇と普通解雇の有効要件の違い>

そして、条文上は不明確な両者の有効要件の大きな違いは次の点にあります。

まず懲戒解雇は、社員の行った不都合な言動について、就業規則などにぴったり当てはまる具体的な規定が無ければできません。

しかし普通解雇ならば、そのような規定が無くても、あるいは就業規則が無い会社でも可能です。

また懲戒解雇の場合には、懲戒解雇を通告した後で、他にもいろいろと不都合な言動があったことが発覚した場合にも、後から判明した事実は懲戒解雇の正当性を裏付ける理由にはできません。

しかし普通解雇ならば、すべての事実を根拠に解雇の正当性を主張できるのです。

ですから、懲戒解雇と普通解雇とで、会社にとっての影響に違いが無いのであれば、普通解雇を考えていただくことをお勧めします。

特に、両者で退職金の支給額に差がない会社では、あえて懲戒解雇を選択する理由は乏しいといえます。

 

<実務の視点から>

広義の普通解雇には、労働者の労働契約違反を理由とする解雇の他に、整理解雇が含まれます。

整理解雇とは、雇い主側の経営上の理由による解雇をいいます。

解雇は、解雇権の濫用とされれば無効になるわけです。

会社目線の素人判断ではいけません。社会目線の法的判断が必要です。

具体的なケースで解雇の有効性に疑問がある場合には、信頼できる社労士にご相談ください。

解雇を検討する最初の段階でご相談いただければ、時間、労力、経費、人件費、精神力を大幅に削減できます。

毎月勤労統計調査など国の統計調査は「ご協力のお願い」と言いつつ義務ですから回答を拒否できません

2024/07/16|1,241文字

 

<かたり調査>

国の調査名をかたって不正に情報を収集する「かたり調査」にはご注意ください。

ネットであれこれ調べてみれば、ニセモノは判断がつきます。

心配なら、総務省に確認するのが確実です。

 

<回答の義務>

統計調査の案内文には、「協力してください」という書き方がしてあります。

しかし、統計法第13条では、国の重要な統計調査である基幹統計調査について、「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる」と規定しています(報告義務)。

また、同法第61条では、「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」に対して、「50万円以下の罰金に処する」と規定しています。

これらの規定は、個人情報保護法に優先して適用されます。

罰則の規定はともかく、国の重要な統計調査ですから協力しましょう。

なお、基幹統計調査以外の統計調査はアンケートですから、原則として回答は任意です。

 

<調査対象事業所の選定方法>

すべての事業所を対象とする調査を除き、全国の縮図となるように一定の精度を保つ標本数を確保しつつ、無作為に事業所を選ぶ方法を採っています。

つまり、くじ引きに当たったようなものです。意図的に選ばれるわけではありません。

 

<秘密の保護>

調査対象となった人や法人には調査に回答する義務がある一方、安心して調査に回答できるよう、調査員を始めとする調査関係者に対しては、調査で知り得た内容について秘密を保護することが統計法第41条で規定されています。

また、この法律では、第39条で調査票情報を適正に管理すること、第40条で調査票情報を統計調査の目的以外に使用してはならないことがそれぞれ規定されています。調査関係者に対しては、これらの規定を厳守するよう指導を徹底しています。

ですから、税金徴収の資料として流用されたり、労働基準監督署の監督に利用されたりすることもありません。

 

※次に示すものは、国の基幹統計調査です。

•国民経済計算

•国勢統計

•住宅・土地統計

•労働力統計

•小売物価統計

•家計統計

•個人企業経済統計

•科学技術研究統計

•地方公務員給与実態統計

•就業構造基本統計

•全国消費実態統計

•社会生活基本統計

•経済構造統計

•産業連関表

•人口推計

•法人企業統計

•民間給与実態統計

•学校基本統計

•学校保健統計

•学校教員統計

•社会教育統計

•人口動態統計

•毎月勤労統計

•薬事工業生産動態統計

•医療施設統計

•患者統計

•賃金構造基本統計

•国民生活基礎統計

•生命表

•社会保障費用統計

•農林業構造統計

•牛乳乳製品統計

•作物統計

•海面漁業生産統計

•漁業構造統計

•木材統計

•農業経営統計

•工業統計

•経済産業省生産動態統計

•商業統計

•ガス事業生産動態統計

•石油製品需給動態統計

•商業動態統計

•特定サービス産業実態統計

•経済産業省特定業種石油等消費統計

•経済産業省企業活動基本統計

•鉱工業指数

•港湾統計

•造船造機統計

•建築着工統計

•鉄道車両等生産動態統計

•建設工事統計

•船員労働統計

•自動車輸送統計

•内航船舶輸送統計

•法人土地・建物基本統計

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