2025/07/29|1,049文字
企業が従業員の労働日数や労働時間を減らす場合、目的が働き方改革や業務効率化であっても、従業員にとっては収入減や生活への影響が生じる可能性があります。
そのため、企業は「制度変更=不利益変更」となるリスクを認識し、法的・実務的な配慮を十分に行う必要があります。
<法的な留意点>
法的な留意点として、大きく次の2点が指摘されます。
◯労働条件の不利益変更に該当する可能性
労働日数や労働時間の減少は、就業規則の変更や労働契約の変更を伴う場合が多く、労働者にとって不利益となる場合は合理性が求められます。
最高裁判例(第四銀行事件)では、次の要素を総合的に判断するとされています。
・不利益の程度
・変更の必要性
・変更後の内容の相当性
・代償措置の有無
・社会的状況との整合性
◯合意の取得が原則
・労働契約の個別変更には、従業員の同意が必要です。
・就業規則変更による一方的な変更は、上記の合理性が認められない限り、無効とされる可能性があります。
<必要となる会社の対応>
具体的に会社が必要となる対応には、次のものがあります。
- 変更理由の明確化と説明責任
業績悪化、業務効率化、働き方改革など、変更の背景を明確に説明することが重要です。
従業員の納得を得るためには、説明会や個別面談の実施が有効です。
- 代償措置の検討
労働時間減少に伴う収入減を補うため、次のような措置が考えられます。
・賃金体系の見直し(基本給の維持)
・賞与・手当の充実
・福利厚生の強化(交通費・食事補助など)
- 就業規則の整備と周知
労働時間・労働日数の変更は、就業規則に明記し、労働者に周知する必要があります。
所轄の労働基準監督署長への届出も忘れずに行いましょう。
- 労使協定の締結(必要に応じて)
変形労働時間制や短時間正社員制度を導入する場合は、労使協定の締結が必要です。
<関連する裁判例>
函館信金事件で札幌高裁は、週休2日制導入に伴い、平日の労働時間を延長したケースで「合理性なし」と判断しています。
羽後銀行事件で仙台高裁は、休日数の増加と引き換えに労働時間を延長したが、従業員の納得が得られなかったため、変更は無効と判断されています。
これらの事例からも、従業員の納得と合理性の確保が不可欠であることがわかります。
<実務の視点から>
労働日数や労働時間の減少は、企業にとっては柔軟な働き方の推進やコスト削減の手段となり得ますが、従業員にとっては生活や働き方に直結する重大な変更です。
そのため、企業は法的な正当性・合理性・説明責任・代償措置・合意形成を丁寧に行う必要があります。