2025/07/28|1,335文字
ハラスメント相談窓口への通報は、職場環境の改善や被害者保護のために重要です。
しかし、執拗に繰り返される通報が、事実確認の困難さや業務妨害、他の従業員への悪影響をもたらす場合、企業としても冷静かつ適切な対応が求められます。
<通報者の権利と企業の対応義務>
通報者は法的な保護を受けます。(パワハラ防止法・公益通報者保護法)
– 通報を理由とした不利益取扱いは禁止
– 匿名通報も含めて誠実に調査する義務あり
– 通報内容が事実でなくても、悪意がなければ保護対象
企業は次のような義務を負っています。
– 迅速かつ正確な事実確認
– 再発防止措置の実施
– 通報者・加害者双方への配慮
<問題となる「執拗な通報」の特徴>
問題となる執拗な通報は、次のような特徴をすべて備えていることが多いものです。
– 毎週・毎日のように繰り返される
– 過去に調査済みの事案を重複して何度も通報
– 事実関係の根拠が乏しく、感情的・主観的な訴えが中心
– 職場の混乱、関係者の疲弊など他者への悪影響が見られる
こうした通報は、被害を訴えている通報者自身が、加害者となるリスクも含みます。
<適切な対応ステップ>
通報への適切な対応は、次のようなステップで行います。
1.通報内容の記録と整理
– 通報の日時・内容・対象者・根拠を記録
– 過去の通報との関連性・重複性を確認
2.調査の実施(簡易調査も含む)
– 事実確認が困難な場合でも形式的な調査は必要
– 通報者へのヒアリングは冷静かつ中立的に
3.通報者への説明とフィードバック
– 調査結果を丁寧に説明
– 「事実確認できなかった」場合も理由を明示
– 通報者の感情的反応に配慮しつつ、線引きを伝える
4.通報対応のルール化
– 通報窓口の運用ルールを明文化
– 「同一内容の通報は原則1回まで」などの運用基準
– 社内規定やハラスメント対応マニュアルに反映
5.通報者への支援と指導
– 通報者が心理的に不安定な場合は産業医や外部相談機関の紹介
– 通報の目的が報復・嫌がらせと判断される場合は注意・指導
– 悪質な場合は懲戒処分の検討(後述)
<懲戒処分の可能性と注意点>
懲戒処分が可能となるケースとしては、次のようなものが考えられます。
– 虚偽通報を繰り返し、業務妨害が明確
– 他者の名誉を毀損する目的がある
– 通報を装った嫌がらせ・報復行為
この場合であっても、次の点には注意が必要です。
– 就業規則に懲戒事由として明記されているか
– 事実確認と弁明の機会を確保
– 比例原則・平等原則に基づく処分の妥当性
処分前に、外部専門家の意見を仰ぐことが望ましいです。
<放置した場合のリスク>
反対に懲戒処分を検討せず放置することで、次のようなリスクが生じます。
– 通報対応に追われ、職場が混乱し業務が停滞する
– 他の従業員に「会社は何もしてくれない」との不満・不信感が生ずる
– SNS告発・外部通報・労基署相談など通報者の暴走を生ずる
– 会社には対応不備による安全配慮義務違反が生ずる
<実務の視点から>
執拗なハラスメント通報は、企業にとって対応の難しいグレーゾーンです。
しかし、放置すれば職場環境の悪化や法的リスクにつながります。
企業は、通報者の権利を尊重しつつ、冷静かつ制度的に対応する姿勢が求められます。