労使協定にもいろいろあります。労働協約と間違えないようにしましょう

2025/01/05|1,600文字

 

<労使協定>

労使協定とは、各事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者と使用者との書面による協定のことをいいます。

つまり、次のような当事者間に交わされた協定です。

労働組合 ― 使用者  または  労働者の代表 ― 使用者

 

<代表は三六協定>

労働基準法第36条は、労使協定を締結し、これを労働基準監督署長に届け出ることによって、労働基準法第32条に定められた法定労働時間を超えて労働させ、または労働基準法第35条に定められた法定休日に労働をさせても使用者が罰せられない旨を定めています。

この三六(さぶろく)協定は、労働基準監督署長に届け出て初めて効力を認められますから、届け出前の期間に法定労働時間を超える残業があれば、使用者に罰則が適用されうることになります。

 

<労働基準法の労使協定>

労働基準法に規定されている労使協定を条文順に挙げると次の通りです。

 

貯蓄金管理協定(第18条)

労働者の貯蓄金の使用者による管理を、労使協定の締結と届け出を条件に認めるものです。

 

賃金控除協定(第24条)

財形貯蓄の積立金などについて賃金からの控除を認めるものです。

 

1か月単位の変形労働時間制の労使協定(第32条の2)。

 

フレックスタイム制の労使協定(第32条の3)

フレックスタイム制を導入するためには、労働基準法の他、労働基準法施行規則12条の3に定められた項目について労使協定を締結する必要があります。

 

1年単位の変形労働時間制の労使協定(第32条の4)。

 

1週間単位の変形労働時間制の労使協定(第32条の5)

常用労働者30人未満の小売業、旅館、飲食店、料理店の事業所に限定された労使協定です。

 

休憩時間の一斉付与を免れるための労使協定(第34条第2項)

休憩時間の一斉付与は、多くの事業で適用が除外されていますので、除外されていない事業について必要となります。

 

時間外・休日労働に関する労使協定(第36条)

 

割増賃金の割増率引き上げ分に相当する有給代替休暇を付与する労使協定(第37条第3項)

1か月に60時間を超える時間外労働に対して必要な50%以上の割増賃金について、労使協定を締結することにより、60時間を超えかつ割増賃金が引き上げられた部分に対応した部分(25%部分)について、割増賃金の支払いに代えて有給の代替休暇を付与することが可能となります。

 

事業場外労働のみなし労働時間の労使協定(第38条の2)

 

専門職型裁量労働制の労使協定(第38条の3)

労使委員会が設立されればその決議をもってこの協定に代えることができます。

 

年次有給休暇の分割付与についての労使協定(第39条第4項)

1年に5日分を限度として、時間単位の年次有給休暇の取得を可能にするものです。

 

計画年休制度の労使協定(第39条第5項)

各労働者の有する年次有給休暇のうち5日間を超える部分について、計画的に付与するための協定です。

 

年次有給休暇の賃金を標準報酬月額で支払う労使協定(第39条第7項)

平均賃金や給与計算上の1日当たりの賃金額を使わず、標準報酬月額で支払う場合に必要となります。

 

このほか、育児・介護休業法や雇用保険法などにも労使協定についての規定が見られます。

 

<労使協定の効力>

労使協定の多くは、労働基準法などの最低基準を解除する効力や、罰則の適用を免除する効力を持っています。

労働協約のように、各従業員の労働契約を直接規律する効力は認められませんが、事業場の全従業員との間で効力を持っています。

 

<実務の視点から>

労使協定書の作成・届け出は形式的なものですが、これを怠ると罰則が適用されうるのです。

労使協定書が不要な会社は稀ですから、遵法経営のために必要なことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

働き方改革の進まない小企業では、人手不足倒産が増加しています。まずは遵法経営を!

2025/01/04|742文字

 

<働き方改革の背景>

政府は少子高齢化対策や働き方改革を推進しています。

働き手が減少し、日本の活力が失われることを心配しています。

日本の立場が弱くなれば、ウイルスワクチンの供給が後回しにされたり、諸外国から領土を侵犯されたりするリスクが大きくなります。

企業のレベルで見れば、慢性的な人手不足と売上減少ということになります。

 

<企業に求められる努力>

各企業には、次のような努力が求められています。

・若者の賃金水準を上げて、結婚・出産・育児ができるようにする。

・テレワークなど柔軟な働き方の仕組を導入し、子育てしやすく、高齢者が働きやすくする。

・正社員と非正規社員とを形式的に区分して処遇に差を設けるのではなく、賃金だけでなく福利厚生などを含めた処遇の均等を図る。

 

<小企業の働き方改革>

採用対象者を、30歳以下の正社員などに限定せず、別の年代、障害者、外国人などに広げ、非正規社員、テレワーク、フリーランスなども視野に入れたいところです。

また、お金をかけずに働き甲斐と働きやすさを向上させたり、求人でうまくアピールする工夫をするなど、知恵を絞ることが必要です。

働き甲斐のポイントは、参加意識、成長できる仕組み、適正な人事評価、公正に競争できる環境です。

働きやすさのポイントは、コミュニケーション、社内ルール作り、法令順守です。

法令に「権利」として規定されていることを、「うちの会社では無理」と言ってしまったら、普通の従業員は去っていきます。

 

 <実務の視点から>

労働者のひとり一人から、働く上での不満や疑問を聞いてとりまとめ、法的観点と実務的観点から改善案を策定しスケジュール化するのが近道です。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

就業規則が守られていないのは、いくつかの理由があります

2025/01/03|1,180文字

 

<知られざる就業規則>

「就業規則の内容を従業員に知られてしまうと権利を主張される」というような理由で、就業規則のファイルを見つからない所に保管している会社もあります。

しかし、就業規則を周知しないのは労働基準法違反ですし、周知しない就業規則というのは、たとえ所轄の労働基準監督署長への届出をしてあっても効力が無いのです。

そのため、会社から従業員に対して就業規則上の義務を果たすように求めることができませんし、不都合な行為に対してペナルティーを科すこともできないのです。

それでいて、就業規則が無くても、労働基準法や労働安全衛生法などで労働者に保障された法的な権利は、従業員から主張されたら会社は拒否できません。

 

<分かってもらえない就業規則>

就業規則というのは、なかなか従業員に見てもらえないものですし、条文の意味を説明しないと理解してもらえないことがあるものです。

かつて、自分の勤務先でふざけた写真を撮ったアルバイトがSNSに投稿した結果、閉店に追い込まれるような事件が相次ぎました。

たとえ、「会社の信用を傷付けた時」という規定が就業規則にあったとしても、アルバイトはその規定の存在を知らないかもしれませんし、知っていても自分の行為がその規定に当てはまるという理解が無かったのでしょうか。

入社と退職が盛んな時代ですし、法改正に合わせた就業規則の改定も頻繁でしょうから、少なくとも年に1回は就業規則の勉強会を繰り返す必要があるでしょう。

 

<ポンコツな就業規則>

政府が少子高齢化対策の継続的な推進や働き方改革に力を入れていますから、人を巡る法改正は毎年必ずと言っていいほど行われています。

これに対応できていない就業規則は多いことでしょう。

こうした流れとは別に、制服を廃止して長年経った今でも「勤務中は制服着用」という規定があったり、全館禁煙なのに「喫煙は定められた場所で」という規定が残っていたりします。

これでは、会社が本気でルールの整備をしていないことが明確ですから、従業員が就業規則を守る気持も薄れてしまいます。

 

<ありえない就業規則>

「セクハラを行ったら懲戒解雇」というありえない規定を見ることがあります。

それでいて、社内にセクハラの定義を定めるルールが無かったり、どのような言動がセクハラに当たるのかについて教育・研修が無かったりします。

セクハラにも程度の差があり、程度の軽いセクハラ行為で一律に懲戒解雇というのは、たとえ就業規則に規定があったとしても無効になります。

「唇、ツヤツヤだね」と言っただけでクビになりうる就業規則というのは恐ろしいです。

 

<実務の視点から>

2年以上変更していない就業規則があれば、社労士のチェックが必要です。

とりあえず必要な変更と届出をして、社内研修を行えば当面は安心です。

その後のことは、社労士と相談して決めれば良いことです。

パート・アルバイト採用時の説明義務

2025/01/02|1,237文字

 

<旧パートタイム労働法などの改正>

平成27(2015)41日付で旧パートタイム労働法、施行規則、指針が改正されました。

10年近く前のことです。

 パートタイム労働者とは「1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用されるいわゆる正社員など通常の労働者に比べて短い労働者」のことをいいます。

※「正社員」には法律上の定義がなく、法令には使えない言葉なので「通常の労働者」などと表示されます。

労働条件は、労働条件通知書などの書面により労働者に通知しておくことが、事業主に義務づけられています。

パートタイム労働者を雇ったときは、事業主に次のようなことについての説明義務があります。〔旧パートタイム労働法第14条第1項〕

・賃金制度の具体的な内容

・教育訓練の具体的な内容

・利用できる福利厚生施設

・正社員への転換を推進する措置の具体的な内容 

また採用後も、パートタイム労働者から次のようなことについて質問があれば、事業主はきちんと理解できるように説明する義務があります。〔旧パートタイム労働法第14条第2項〕

・どのような要素をどのように考慮して賃金を決定したか

・参加できる教育訓練の内容がどうしてそのように決まっているのか

・利用できる福利厚生施設の範囲がどうしてそのように決まっているのか

・正社員への転換推進措置は何を考慮してそのように決まったのか

 ところが、具体的なことが何一つ決まっていないということもありえます。

こうした状態では、法律違反ということとは別に、職場としての魅力が無いため、退職者が多い一方で、新人を採用できないことになりかねません。

 遵法経営の点からも、人材不足解消の点からも、なるべく経費をかけずに改善を進める必要があります。

<同一労働同一賃金の法制化>

パートタイム・有期雇用労働法により、令和3(2021)年4月1日から中小企業を含めすべての企業で、採用時の説明義務が拡大されています。

まず、対象者が増えています。

フルタイム労働者よりも勤務時間の短い短時間労働者(パートタイム労働者)に加えて、労働契約の期間に満了日が設定されている有期雇用労働者(契約社員など)も対象となっています。

つぎに、説明内容が増えています。

新規採用者には、賞与、手当、退職金、休暇、福利厚生など待遇の各項目について、正社員(フルタイムの無期雇用労働者)との違いを説明します。

そして、それぞれの違いについて理由を説明します。

この「待遇の違いの内容と理由」が客観的に合理的なものであることが求められます。

 

<無期転換申込権>

令和6(2024)年4月1日から、無期転換申込機会を明示することが義務づけられています。

これは5年を超えて働き続ける有期労働契約の従業員に、無期転換権を行使させることを促進するためです。

 

<実務の視点から>

サービス残業が問題視され減少したのと同様に、採用時の説明義務を果たさない企業も減少していくでしょう。

サービス残業が労働基準法違反の犯罪であり罰則が適用されうるのに対して、「説明不足」には罰則がありません。

しかし、採用したつもりの新人が、会社の説明に納得できず出勤しないリスクがあります。

新人としては、なぜ採用を辞退するのか、「説明不足」の会社に説明するのは無駄だと考えるからです。

働き方改革の流れに乗れないのであれば、一度、社会保険労務士に相談することをお勧めします。

お客様にカスハラをさせないための初期対応

2025/01/01|1,114文字

 

<カスタマーハラスメント>

カスハラはパワハラと異なり、その定義が法定されていません。

厚生労働省の説明によると、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」がカスハラであるとされます。

キーワードは「要求」です。顧客等からのクレーム・言動に何らかの「要求」が含まれていなければ、それはカスハラではないことになります。

なお、「就業環境が害される」というのは、従業員が安心して業務に集中できなくなることや、職場に出勤することに不安や苦痛を感じることです。

 

<カスハラの2類型>

上記の説明によると、カスハラには次の2つの類型があることになります。

・顧客等の要求の内容が的外れで妥当性を欠く場合

・要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な場合

顧客等の要求の内容が、的外れで妥当性を欠く場合というのは、企業の提供した商品・サービスに落ち度がない場合や、そもそも要求の内容が商品やサービスの内容とは無関係の場合を指します。

要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な場合というのは、従業員の人権が不当に侵害される場合や、企業に対する要求の内容が過大な場合を指します。

 

<初期段階での適切な対応>

ハラスメント加害者に対する被害者の対応によって、ハラスメントが拡大してしまうことがあります。

また、正当なクレームの申入れをしたお客様への対応によって、カスハラに発展してしまうこともあります。

こうしたことから、特にカスハラでは、初期段階での適切な対応が大切です。

不快感を抱かせたこと、説明不足があったことに対しては、お詫びしても問題ありません。しかし、正確な事実関係が把握できないうちに、安易に非を認め謝罪してしまうと、カスハラを拡大させてしまうことがあります。

お客様の主張する内容と事実関係が確実に把握できてから、会社としての判断に従い、過失の程度に応じた謝罪をします。

お客様の勘違いがあった場合でも、説明不足があったことを謝罪し、正しい情報を提供します。

 

<事前準備>

初期段階で落ち着いて適切な対応ができるようにするためには、統一ルールの設定と訓練が必要です。

社内でカスハラの具体的な判断基準を定め、これを周知し、基準に従った対応ができるように、ロールプレイングを行います。

カスハラを受けてしまうと、事実を時系列で報告することが難しくなります。印象の強いことから、感情的な表現を交えて報告をする場合も多いでしょう。報告を受ける側で、事実関係をまとめて文書化する訓練が必要です。

事前準備が不足していれば懲戒権の濫用となり懲戒処分は無効になります

2024/12/31|1,693文字

 

<懲戒処分の有効要件>

懲戒解雇まではいかなくても、懲戒処分が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。

条件を1つでも欠けば無効となり、会社としては対象者から慰謝料その他の損害賠償を請求される可能性があるわけです。

法律上の制限として次の規定があります。

 

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」〔労働契約法第15条〕

 

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。

 

<使用者が労働者を懲戒できる場合>

労働契約法第15条には、「使用者が労働者を懲戒できる場合に」とサラッと書いてありますが、この一言には就業規則や労働条件通知書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあるという意味が込められています。

ですから、そもそも就業規則や労働条件通知書などに懲戒処分の具体的な取り決めが無ければ、懲戒処分そのものができないことになります。

これは、懲戒の対象となることが具体的に示されていない行為について懲戒を行うのは不意打ちになり、会社側の主観的な判断で懲戒処分を行ったのでは、労働者の人権侵害が甚だしいからです。

 

たとえば、厚生労働省のモデル就業規則には、懲戒処分について次のような規定があります。

 

(懲戒の事由)

第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 正当な理由なく無断欠勤が   日以上に及ぶとき。

② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

③ 過失により会社に損害を与えたとき。

④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。

⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。

⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

 

従業員が日本語能力の高い大人ばかりでしたら、このまま自社の就業規則に使えそうです。

しかし、高校生のアルバイトがいるような職場では、もう少しわかりやすく、中学を卒業したばかりの人にも理解できる表現にするか、定期的に就業規則の学習会を開かないと無理がありそうです。

 

実際に懲戒規定の具体性が争われるのは、「前各号に準ずる不都合な行為があったとき」のような抽象的な表現です。

就業規則は会社が作るものですから、会社が就業規則を根拠として懲戒処分を行い、対象者がその有効性を争ったら、会社側が「前各号に準ずる不都合な行為があった」ことなどを証明しなければなりません。

 

<懲戒処分が無効とされないための規定>

従業員によって行われた不都合な行為が、就業規則の懲戒規定に当てはまるかどうかについて争いが生じたのでは、処分を行うのが難しくなってしまいます。

これを防ぐには、「正当な理由なく」「しばしば」「素行不良」など解釈が分かれそうな表現を具体化する必要があります。

また、「前各号に準ずる不都合な行為があったとき」とはどのような行為なのか、具体的に列挙する必要もあるでしょう。

実際にやってみると、懲戒規定の条文が100を超えてしまいます。

 

<実務の視点から>

適正な懲戒処分を行うためには、就業規則の内容を自社に合ったものにしておくこと、必要な教育研修を繰り返し行うことなど事前の準備が不可欠です。

こうした準備がないまま懲戒処分を行えば、懲戒権の濫用となり、懲戒は無効となって、社長は懲戒の対象とした労働者に頭を下げ、損害賠償をすることになります。

実際に事件が発生してしまった場合には、適法要件を満たしつつスピーディーに動く必要があります。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

65歳以上高年齢者の就業確保措置と再雇用拒否

2024/12/30|2,170文字

 

<高年齢者雇用確保措置>

定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する義務があります。〔高年齢者雇用安定法第9条〕

「継続雇用制度」とは、雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する、「再雇用制度」などの制度をいいます。この制度の対象者は、以前は労使協定で定めた基準によって限定することが認められていましたが、高年齢者雇用安定法の改正により、平成25(2013)年度以降、原則として希望者全員を対象とすることが必要となっています。

なお、継続雇用先は自社のみならずグループ会社とすることも認められています。

 

<高年齢者就業確保措置>

さらに、令和3(2021)年4月1日からは、事業主には70歳までの高年齢者就業確保措置の努力義務が課されています。〔高年齢者雇用安定法第10条の2〕

したがって、定年を70歳未満に定めている事業主、70歳未満の継続雇用制度を導入している事業主は、次のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります。

一、70歳までの定年引上げ

二、定年制の廃止

三、70歳までの継続雇用制度の導入

四、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

五、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

・事業主が自ら実施する社会貢献事業

・事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

このうち、三の継続雇用制度については、特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものが含まれます。

三、四、五の措置をとる場合に、基準を定めて対象者を限定する場合には、労使で十分に話し合うことが求められます。

過半数労働組合があれば、事業主と過半数労働組合との間で十分に協議したうえで、過半数労働組合の同意を得ることが望ましいことになります。

ただし、高年齢者雇用安定法や他の労働関係法令に反する不合理なものは認められません。

特に五の措置をとる場合に、基準を定めて対象者を限定する場合には、事業主の指揮監督を受けることなく業務を適切に遂行する能力や資格、経験があること等、予定される業務に応じて具体的な基準を定めることが必要とされています。

上記の「基準を定めて対象者を限定する場合」の「基準」は、会社に都合よく恣意的に定めることはできません。

対象外とされた従業員から、会社にクレームが入ったり、訴訟を提起されたりのリスクがあります。

以下の点に配慮して基準を定め運用するように心がけましょう。

 

<懲戒解雇の事由>

「懲戒解雇の事由がある場合には再雇用しない」と就業規則に規定されていることがあります。

懲戒も解雇もハードルが高いですから、懲戒解雇となれば、その具体的な事由が就業規則に規定されていなければなりませんし、重ねて指導したにも関わらず改めない、極めて悪質であるなどの事情や、弁明の機会の付与などが求められます。

「再雇用しない理由に使うだけ」と気を緩めてはいけません。

 

<懲戒解雇の先送り>

定年後の再雇用をしない理由として、懲戒解雇の事由を挙げる場合、「そろそろ定年が近いから今すぐ解雇しなくても」と問題を先送りしてきた可能性があります。

定年前に懲戒解雇が正当視されるような事由がある場合、本人が勤務し続けることは、他の従業員にとって迷惑であり、その部署の生産性を低下させてしまいます。

先送りの意識が働いている場合には、定年前に不都合な言動があっても、注意・指導を受けることなく放置される危険も高まります。

定年までの年数が長く、先送りが長期に及んだ場合には、「今まで許されてきたこと」を理由に再雇用を拒否することになり、不当な不意打ちと評価される危険があります。

定年を待たずに解雇するのが、会社や他の従業員のためになります。

 

<客観的な評価基準>

「健康状態が良好でない者」「生産性が低い者」「会社への貢献度が不足する者」のような主観的な判断基準で、再雇用の対象外とすることはできません。

事実の存否を争われた場合に、立証することができないからです。

「定年まで3年間の勤務評定が平均B以上であること」のような基準は、一見すると客観的な基準のように見えます。

しかし、普段の勤務評定が客観的な事実に基づかず、考課者の主観によるところが大きければ、やはり主観的な基準ということになってしまいます。

人事考課は、客観的な指標や事実に基づいて行われる必要があります。

 

<基準時の設定>

再雇用の判断について、いつの時点を基準とするかは重要です。

これが明確でなければ、判断基準が無いに等しくなってしまいます。

 

<過去の懲戒>

「出勤停止以上の懲戒が2回以上あった者は再雇用しない」などの基準も、一見すると客観的な基準だと思われます。

しかし、過去の懲戒が適正な手続に従い、有効に行われたことを示す客観的な資料が無い限り、その正当性を争われるリスクがあります。

 

<公平な運用>

特定の従業員について、基準を緩め例外的に再雇用してしまうと、それ以降は、緩い基準で再雇用しない限り不公平が生じてしまいます。

例外的に基準を緩めたい事情があるなら、再雇用の基準をより緻密に修正する必要があります。

企業には採用の自由があるもののさまざまな制限があります

2024/12/29|1,086文字

 

<採用は自由が原則>

企業が応募者を採用するのは、法的に見れば労働契約の締結ということになります。

契約については、誰とどのような内容の契約を交わすかについて、当事者の自由に委ねられるという契約自由の原則があります。

ですから、企業側から見れば、応募者の中から誰を選択するかという採用の自由があるということになります。

 最高裁判所も、誰をどのような条件で雇うかについて、法令などによる特別の制限がない限り、原則として自由に決定することができると判断しています。〔昭48年12月12日 三菱樹脂事件〕

「法令などによる特別の制限がない限り」という条件付きですから、「特別の制限」があれば、企業の採用の自由は制限を受けることになります。

 

<性別による差別>

性別を理由とする募集・採用の差別は法律で禁止されています。〔男女雇用機会均等法第5条〕

また、直接的な差別ではなくても、募集・採用にあたって身長、体重、体力に基準を設定することや、転居を伴う転勤を要件とすることは、合理的な理由がなければ間接差別として禁止されます。〔男女雇用機会均等法第5条〕

 

<年齢による差別>

募集・採用に年齢制限を設けることは、法律で禁止されています。〔雇用対策法第10条〕

かつては努力義務とされていましたが、現在では法改正により法的義務となっています。

それでも、雇用対策法により年齢制限が一切許されないわけではありません。

ただし、法的に許される例外に当たる場合でも、求職者に対しその理由を示さなければなりません。〔高年齢者雇用安定法第18条の2など〕

 

<思想による差別>

思想や信条を理由に採用しないことは、明確に禁止する法律の規定がありません。

したがって、原則として認められることになります。

たしかに、労働基準法は思想・信条等による差別を禁止しています。

しかし、これは採用後の労働者に適用されるものと解されています。

 

<障害による差別>

企業には、一定比率以上の障害者の雇用が義務づけられています。〔障害者雇用促進法第37条〕

そして、障害者の雇用率がこの一定比率に満たない場合は、その企業から障害者雇用納付金を徴収することになっています。〔障害者雇用促進法第53条以下〕

一般の民間企業の障害者雇用率は引き上げられてきましたし、今後も引き上げられていく見込みです。

これに伴い、障害者を雇用しなければならない民間企業の範囲も、従業員数の少ない企業へと広がっています。

 

社会保険労務士は採用についてもプロフェッショナルです。

求人・採用やその後の教育について不安があれば、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

懲戒処分の対象者が精神疾患を患っているときの会社の対応

2024/12/28|2,131文字

 

<精神疾患と懲戒>

社内で懲戒規定に触れる行為があった場合には、懲戒処分が検討されることになります。

しかし、普段の働きぶりから、精神疾患に罹患していることが疑われる労働者の行為であった場合には、懲戒処分を検討してよいものか、会社が判断に迷うこともあります。

ましてや、障害者雇用率を達成することへの配慮もあり、精神障害者と知って採用した労働者の行為であれば、慎重にならざるを得ません。

 

<最高裁判所で争われた事例>

こうしたことについては、法的争いとなり、裁判で決着がつけられることもあります。

次のような事例があります(平成24年4月27日最高裁第二小法廷判決)。

 

就業規則の規定に基づき、正当な理由のない無断欠勤があったとの理由で、諭旨退職の懲戒処分が行われました。懲戒処分を行われた労働者は、会社に対して処分は無効であるとして、雇用契約上の地位を有することの確認及び賃金等の支払を求めて訴訟を提起しました。

この労働者は、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないことを事実だと認識していました。

その内容は、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を事細かく監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から、職場の同僚らを通じて自己に関する情報をそれとなく知らせる等の嫌がらせを受けているというものです。

こうした認識に基づき、同僚らの嫌がらせにより、自分の業務に支障が生じていて、自分についての情報が外部に漏えいされる危険もあると考え、会社に上記の被害に関する事実の調査を依頼したものの納得できる結果が得られませんでした。

そこで、会社に休職を認めるよう求めたものの認められず、出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の被害に関する問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ会社に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けました。

 

<最高裁判所が示した会社の取るべき対応>

最高裁判所は、この会社がどのような対応を取るべきであったかについて、次のように具体的に示しています。

 

精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されます。

欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきでした。

このような対応を採ることなく、この労働者の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから、直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいえません。

精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されます。

欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきでした。

このような対応を採ることなく、この労働者の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから、直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいえません。

 

この会社の就業規則には、必要と認めるときには従業員に対して臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあったということです。このような規定がなかったならば、「精神科医による健康診断を実施」ということまでは、要求されなかったかもしれません。

また、この労働者が希望していたことから、休職制度があったものと思われます。休職させて、その後の経過を見るべきだったとも言っていますので、会社としてできることはやるべきだということでしょう。

 

<最高裁判所の示した結論>

最高裁判所は、次の結論を示しました。

 

以上のような事情の下では、この労働者の欠勤は、就業規則の懲戒事由である「正当な理由のない無断欠勤」に当たらないものと解される。したがって、懲戒処分は無効である。

 

<実務の視点から>

広い視野に立てば、この労働者は病気が原因で欠勤したことになります。

病気が原因で短期間欠勤が続いた場合、たとえばインフルエンザに感染して1週間欠勤した場合、会社はそれが正当な理由のある欠勤であることを確認するため、その労働者に診断書の提出を求めるでしょう。

さらに長期の欠勤が続く場合には、休職制度のある会社であれば、休職を命じて復帰を待ち、復帰できずに休職期限を迎えた場合には、就業規則に従い自動退職(自然退職)とするなどの対応をします。

この事例では、労働者本人に病気の自覚がなかった可能性があります。こうした場合に、会社が受診命令を出せるよう、就業規則に規定を調えておく必要があるでしょう。

法令や裁判に出てくる「社会通念上相当」の意味

2024/12/27|1,347文字

 

法令や裁判に出てくる「社会通念上相当」の意味は、「裁判所が事例に関連する社会一般の常識を証拠に基づき認定し、この認定した内容に適合している」という意味だと思います。

 

<法令に出てくる「社会通念上相当」>

労働契約法は、解雇について次のように定めています。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

とても抽象的な表現です。

ですから、具体的に使用者が労働者を解雇しようとしたときに、それがこの規定に触れて無効になってしまうのか、それとも有効になるのかを判断するのは困難です。

使用者自身の判断で解雇に踏み切るのはリスクが大きすぎますから、専門家である社会保険労務士などに具体的な事情を話して判断を求めるのが安全です。

 

辞書の説明

「社会通念」という言葉を辞書で調べると、次のように書かれています。

 

大辞林 第三版

社会一般に行われている考え方

 

デジタル大辞泉

社会一般に通用している常識または見解

 

法令を解釈するときにも、「社会一般の常識」という意味に使われています。

 

また、「相当」という言葉を辞書で調べると、次のように書かれています。

 

大辞林 第三版

状態・程度などが釣り合っていること。ふさわしいこと。相応。

違った尺度や体系上のあるものと等しいこと。対応すること。

物事の程度や状態が釣り合っているさま。ふさわしいさま。

物事の程度が普通よりかなり上であるさま。

程度が普通よりはなはだしいさま。

 

デジタル大辞泉

価値や働きなどが、その物事とほぼ等しいこと。それに対応すること。

程度がその物事にふさわしいこと。また、そのさま。

かなりの程度であること。また、そのさま。

 

法令を解釈するときの「相当」は、「ふさわしい」という意味で使われることが多いようです。

 

<法令や裁判での意味>

労働関係法令を巡っては、使用者の立場と労働者の立場が対立します。

ですから、「社会一般の常識」が必ずしも統一されていない場合には、自分に有利な解釈をしてしまいます。

そして、この対立に決着をつけるのは裁判所の判断です。

結局、この労働契約法第16条の「社会通念上相当」というのは、私の解釈では、「裁判所が認定した社会一般の常識に適っている」ということになります。

労働契約法第16条で「社会通念上相当であると認め」るのも裁判所です。

 

裁判の結論を出すのに必要な「社会一般の常識」を認定するのは裁判所ですし、その結論が社会一般の常識に照らして「ふさわしい」と判断するのも裁判所です。

 

裁判所の判断が基準ということであれば、法令の条文を読んで辞書を引いても、ほとんどの場合には結論が分からないことになります。

結局、具体的な事例に照らして関連する裁判例を確認して、裁判所がその事例について「社会一般の常識」の内容をどのように認定し、それに「ふさわしい」結論はどうなるのかを確認しなければなりません。

 

<実務の視点から>

使用者自身の判断で解雇に踏み切るのはリスクが大きすぎます。

解雇できるのかできないのか、解雇するためには何が必要か、解雇できない場合にはどうしたら良いのか。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士にご相談ください。

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