2025/07/12|1,497文字
事業場外みなし労働時間制とは、従業員が事業場(会社のオフィスなど)外で業務を行い、労働時間の算定が困難な場合に、あらかじめ定められた時間を働いたものとみなす制度です。これは労働基準法第38条の2に基づいて規定されており、営業職や取材業務など、業務の遂行が会社の監督の及ばない環境で行われる場合に適用されることがあります。
<制度の概要>
事業場外みなし労働時間制は、労働時間の管理が困難な業務において適用されるため、企業は適正に運用する必要があります。一般的な適用例としては以下のようなケースが挙げられます。
・外回りの営業職
・記者や取材業務
・システムエンジニアの顧客先常駐業務
・コンサルタント業務
この制度を適用する場合、使用者は適正な努力をしても、労働者が業務に従事する時間を把握できないことが条件となります。
<みなし労働時間の設定>
みなし労働時間は、原則として所定労働時間(例:8時間)と同じ時間とされます。ただし、以下の条件下では所定労働時間を超える時間をみなすことができます。
・労使協定の締結
労使間で協議し、特定の業務に対して所定労働時間以上の労働を認める場合、その時間をみなし労働時間として設定できます。
・行政の指導
業務の性質上、労働時間の算定が困難であることを企業が証明し、労基署などの行政機関の指導を受ける場合に適用されることがあります。
みなし労働時間を設定する際には、労働者の勤務実態に基づき適切な時間を設定し、不当な長時間労働を強いることのないよう注意が必要です。
<労務管理上のポイント>
事業場外みなし労働時間制を適用する際、人事労務の観点から注意すべきポイントは次のとおりです。
(1)適用の条件
この制度を適用するには、以下の条件を満たす必要があります。
・努力しても労働時間の算定が困難であること
・会社の指揮命令が及ばない環境で業務が行われること
例えば、テレワークは原則適用外となります。なぜなら、企業はテレワーク中の従業員の業務開始・終了時間を把握できるため、労働時間の管理が困難とは言えないからです。
(2)賃金・残業代の取扱
みなし労働時間制でも、割増賃金の支払義務が生じる場合があります。
・所定労働時間を超えるみなし時間を設定した場合
・休日・深夜業務に従事した場合(割増賃金の支払が必要)
企業はこれらの点を明確にし、労働者の同意を得ることが重要です。
(3)労働者の健康管理
この制度を導入することで、労働時間が実質的に長くなりやすい傾向があります。企業は従業員の健康管理に留意し、過労防止策を講じることが求められます。
・定期的な労働時間の実態調査
・健康診断の実施
・メンタルヘルスケアの充実
<制度の誤用に注意>
事業場外みなし労働時間制は、適用条件が明確に定められているため、不適切な運用は労働基準法違反となる可能性があります。特に、企業がこの制度を長時間労働の合法化手段として誤用することは厳しく制限されています。
例えば、以下のようなケースは違法となってしまいます。
・事業場外で業務をしているにもかかわらず、実際は会社の指揮命令下にある
・労働者の業務内容が明確に把握できるのに、労働時間の管理を行っていない
・労使協定なしに所定労働時間以上の「みなし時間」を適用する
企業は適用基準を明確にし、労働者の同意を得ておくことが求められます。
<実務の視点から>
事業場外みなし労働時間制は、適用条件を正しく理解し、適正に運用することで労働者と企業双方にとってメリットがある制度です。しかし、誤用すれば労働者の権利を侵害し、違法性が生じるリスクもあるため、適用基準を慎重に整備することが必要です。