2024/12/31|1,693文字
<懲戒処分の有効要件>
懲戒解雇まではいかなくても、懲戒処分が有効とされるには、多くの条件を満たす必要があります。
条件を1つでも欠けば無効となり、会社としては対象者から慰謝料その他の損害賠償を請求される可能性があるわけです。
法律上の制限として次の規定があります。
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」〔労働契約法第15条〕
これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。
<使用者が労働者を懲戒できる場合>
労働契約法第15条には、「使用者が労働者を懲戒できる場合に」とサラッと書いてありますが、この一言には就業規則や労働条件通知書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあるという意味が込められています。
ですから、そもそも就業規則や労働条件通知書などに懲戒処分の具体的な取り決めが無ければ、懲戒処分そのものができないことになります。
これは、懲戒の対象となることが具体的に示されていない行為について懲戒を行うのは不意打ちになり、会社側の主観的な判断で懲戒処分を行ったのでは、労働者の人権侵害が甚だしいからです。
たとえば、厚生労働省のモデル就業規則には、懲戒処分について次のような規定があります。
(懲戒の事由)
第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及ぶとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
③ 過失により会社に損害を与えたとき。
④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
従業員が日本語能力の高い大人ばかりでしたら、このまま自社の就業規則に使えそうです。
しかし、高校生のアルバイトがいるような職場では、もう少しわかりやすく、中学を卒業したばかりの人にも理解できる表現にするか、定期的に就業規則の学習会を開かないと無理がありそうです。
実際に懲戒規定の具体性が争われるのは、「前各号に準ずる不都合な行為があったとき」のような抽象的な表現です。
就業規則は会社が作るものですから、会社が就業規則を根拠として懲戒処分を行い、対象者がその有効性を争ったら、会社側が「前各号に準ずる不都合な行為があった」ことなどを証明しなければなりません。
<懲戒処分が無効とされないための規定>
従業員によって行われた不都合な行為が、就業規則の懲戒規定に当てはまるかどうかについて争いが生じたのでは、処分を行うのが難しくなってしまいます。
これを防ぐには、「正当な理由なく」「しばしば」「素行不良」など解釈が分かれそうな表現を具体化する必要があります。
また、「前各号に準ずる不都合な行為があったとき」とはどのような行為なのか、具体的に列挙する必要もあるでしょう。
実際にやってみると、懲戒規定の条文が100を超えてしまいます。
<実務の視点から>
適正な懲戒処分を行うためには、就業規則の内容を自社に合ったものにしておくこと、必要な教育研修を繰り返し行うことなど事前の準備が不可欠です。
こうした準備がないまま懲戒処分を行えば、懲戒権の濫用となり、懲戒は無効となって、社長は懲戒の対象とした労働者に頭を下げ、損害賠償をすることになります。
実際に事件が発生してしまった場合には、適法要件を満たしつつスピーディーに動く必要があります。
こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。