ビジネスと人権への取組み

2025/07/13|1,592文字

 

<ビジネスと人権の概念>

ビジネスと人権とは、企業活動が人権に与える影響を考慮し、責任ある行動を求める概念です。これは、従業員、顧客、取引先、地域社会など、あらゆるステークホルダーの権利を尊重しながら事業を展開することを意味します。特に、近年の国際的な流れにより、日本企業もこの課題に向き合うことが求められています。

 

<国際的な背景>

企業活動と人権問題が結びつく背景には、国際的なルールの整備があります。代表的なものとして以下があります。

– 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)

企業は人権を尊重する義務があることを示した枠組みで、政府・企業が果たすべき責任を規定。

– OECD多国籍企業ガイドライン

企業の社会的責任(CSR)と持続可能な経済活動を促進するための国際的な基準。

– ILO(国際労働機関)の労働基準

強制労働の禁止、児童労働の排除、労働者の権利保護などが求められる。

特に、欧州連合(EU)を中心に 人権デューデリジェンス(企業の人権リスク評価)の義務化が進んでおり、日本企業もグローバルな基準に適応する必要があります。

 

<日本国内の動向>

日本政府も「ビジネスと人権」に関する方針を定めています。

– 「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」(2020年)

企業に対し、サプライチェーン全体での人権尊重を求める内容。

– 労働法制の強化

ハラスメント防止、働き方改革、外国人技能実習制度の見直しなどが関連。

国内外の市場からも「人権尊重の姿勢」が求められる時代になりつつあります。

 

<企業が直面する人権課題>

企業活動の中で、特に問題となる人権課題は以下のようなものがあります。

 

(1) 労働環境の改善

労働者の権利を尊重し、適切な労働環境を整えることは、企業の重要な責務です。

– 長時間労働の是正

過労死を防ぐための労働時間管理の強化。

– ハラスメント対策

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント防止策の導入。

– 適正な賃金・待遇

男女間の賃金格差解消や非正規雇用者への公平な待遇。

 

(2) サプライチェーンの人権リスク

企業は製品やサービスの供給過程における人権問題にも責任を持たなければなりません。

– 児童労働・強制労働の防止

海外の下請け企業で問題が発生しないよう監視。

– 公正な取引関係

取引先への圧力(過度な値下げ要求など)が人権侵害につながらないよう注意。

 

(3) ダイバーシティ&インクルージョン

多様な人材を活かし、公平な職場環境を作ることが求められています。

– ジェンダー平等

女性管理職の増加、育児・介護と両立できる制度の充実。

– 障がい者・外国人労働者の支援

公平な雇用機会の提供、職場のバリアフリー化。

 

<企業がとるべき対応>

企業は人権尊重を経営戦略に組み込むことで、持続可能な成長を実現できます。具体的な取り組みとして、以下のポイントが挙げられます。

 

(1) 人権方針の策定

– 企業の人権ポリシーを明文化し、社内外に発信する。

– 経営層がリーダーシップを発揮し、組織全体で実行する。

 

(2) 人権デューデリジェンスの導入

企業は事業の中で人権リスクを事前に特定し、適切な対応を取ることが求められます。

– サプライヤーの監査を実施し、人権侵害の可能性を評価。

– 社内通報制度(ホットライン)を整備し、不正やハラスメントの早期発見につなげる。

 

(3) ステークホルダーとの対話

企業の責任範囲は広がっています。

– 従業員・労働組合との対話

労働環境の改善を協議し、持続的な取り組みを強化。

– 地域社会との協力

地域の課題解決に貢献し、社会的価値を創出。

 

<実務の視点から>

ビジネスと人権の取り組みは、単なる「企業の社会的責任」に留まらず、企業の持続可能な成長に直結する重要な要素です。

特に、日本企業はグローバルな基準に適応し、労働環境やサプライチェーンの透明性を確保することが求められます。

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