2023/06/07|1,103文字
<制裁の制限規定>
減給処分の制限として、次の規定があります。
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」〔労働基準法第91条〕
就業規則に具体的に規定してあるなど、他の適法要件を備えていたとしても、何か一つの不都合な事実に対して、減給処分は平均賃金の1日分の半額が限度です。この平均賃金の計算方法は、法定されています。
たとえば、直近の給与の締日までの3か月で、カレンダー上の日数が91日のとき、この間の給与の総合計が91万円であれば、1日分は1万円、その半額は5千円です。これが減給処分の限度です。
また、いくつかの不都合な言動があって、まとめて減給処分をする場合に、給与計算後の月給の支給総額が20万円の人に対しては、10分の1の2万円が限度ということになります。
これは、労働者の生活を守るためです。
<分割払いの減給処分>
たとえば1回の遅刻につき、平均賃金の1日分の半額の減給処分が就業規則に規定されていて、適法に運用されているとします。
ある人が、9月に10回遅刻したとすると、
「平均賃金の1日分の半額」×10=「平均賃金の5日分」
の減給処分をしたいところ、それでは月給の10分の1を超えてしまいます。
これを10月から翌年2月までの5回に分けて、平均賃金の1日分ずつ減給できるでしょうか。
これは、できます。
なぜなら、分割払いにすれば労働者の生活を守るという法の趣旨に反しないからです。
一括だと大変な負担でも、法の制限内の金額での分割なら許されるのです。
<現実には>
5か月にわたって、特別な給与計算をするのは面倒です。
また、減給処分の対象者が途中で退職するかもしれません。
この場合にも、制限を超えてまとめて減給はできません。
そもそも月に10回も遅刻するというのは異常です。
原因を突き止めたうえで、他の懲戒処分、たとえば、出勤停止なり降格処分なりを考えるべきでしょう。
もっともこれは、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。
あるいは、人事異動や人事考課で対処するというのが、より現実的でしょう。
<結論として>
現在の就業規則の減給処分が、労働基準法違反ではないか、従業員の不都合な言動に対する懲戒処分の規定が適正か、あらためてチェックしておく必要があるでしょう。
甘すぎても、厳しすぎてもダメです。
それと、きちんとした人事考課の基準が無ければ、適正な対応ができないケースもあります。
総合的に内容をチェックするには、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。