考課者の得手不得手により誤った人事評価をする危険

2025/03/12|867文字

 

<対比誤差>

「この人はあの人と比べてどうか」と評価対象者同士の比較により評価するのは、その会社の人事考課が相対評価であれば当然のことです。

しかし、人事考課制度の主流を占める絶対評価では、評価対象者同士の比較はしません。

どちらの場合でも、考課者が無意識に自分と対比して評価してしまう危険はあります。

この危険を対比誤差といいます。

 

基準を考課者自身に置いてしまえば、経験や実績を積んだ自分と部下とを比べて低く評価することになります。

特に、自分の得意分野の仕事については、「なぜこんなこともできないのか」という気持を抱きやすくなりますから、厳しい評価になってしまいます。

反対に、考課者の不得意な知識や技能を持っている部下の評価が、不当に高い評価となってしまうこともあります。

自分のできないことを行っている部下は、なんとなく優秀に見えてしまうのです。

こうして、自分の得意分野には厳しく、不得意な分野については甘く評価する危険があるのです。

 

<役職者の能力不足と対策>

役職者には、部下の一人ひとりを育てる役目があります。

そのためには、部下の具体的な業務内容をしっかり把握する必要があります。

これを怠ってしまうと、特に自分の不得意な知識や技能を持っている部下の業務内容を把握できないことになります。

こうして、自分の得意な仕事を担当している部下の指導は手厚くて、自分がよく解らない仕事を担当している部下のことは指導できないというのでは、部下の成長にも差がついてしまいます。

 

こうした不公平が起こらないように、役職者は、自分の不得意な仕事を抱えている部下に対して、積極的にコミュニケーションを試み、具体的な仕事内容を把握し、その仕事について勉強する必要があります。

役職者個人の努力に期待するだけでなく、会社が実施する役職者を対象とする研修の内容に、部下の仕事を学ぶノウハウなどが含まれていなければなりません。

そして、教育・研修を受けても、部下の仕事を学ぼうとしない人、学べない人は、役職者の適性を欠いているわけですから、異動を検討することになります。

社会保険料の給与からの控除(徴収、天引き)

2025/03/11|1,904文字

 

<法律の規定>

社会保険(健康保険と厚生年金保険)の保険料を、従業員の給与から控除(天引き)する形で徴収することについては、健康保険法と厚生年金保険法に次のような規定があります。

 

健康保険法(保険料の源泉控除)

第百六十七条 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。

2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。

3 事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。

 

厚生年金保険法(保険料の源泉控除)

第八十四条 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。

2 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。

3 事業主は、前二項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。

 

どちらも、ほぼ同じ内容です。

 

これらの法律によると、今月支給される給与から、前月分の社会保険料を控除することになります。

そして会社は、従業員から徴収した保険料に会社負担分を加えて、今月末までに前月分の社会保険料を納めることになります。

「いつ勤務した分の給与か」は問題にしません。あくまでも、「いつ支給された給与か」だけを考えます。

 

<新規に入社した従業員の場合>

社会保険は、その月の1日に加入(資格取得)しても、月末に加入しても、その月の分の保険料が徴収されます。

入社月に給与が支給されるのであれば、その前月は社会保険に加入していませんから、その給与から社会保険料は控除しません。

入社月の翌月に初めて給与が支給されるのであれば、その前月は社会保険に加入していますから、その給与から社会保険料を控除します。

 

入社月の翌月に初めて給与が支給されるのであれば、社会保険料の控除の都合を考えて、入社日についてのルールを設定しておくことをお勧めします。

たとえば、給与の支給について、月末締切り翌月10日支払いのルールだとすると、28日に入社した場合、最初の給与が少なくて社会保険料を控除できないことも多いでしょう。

この場合には、社会保険料を別に支払ってもらうことになりますが、入社早々の出費は厳しいものがあります。

そこで、「毎月21日以降は入社日としない」などの運用ルールがお勧めなのです。

 

入社月に給与が支給される会社で、最初の給与から社会保険料を控除している場合もあります。

これは、健康保険法や厚生年金保険法の規定とは違うことをしているのですが、労使協定を交わして、そのように運用している限り問題ありません。〔労働基準法第24条第1項但書〕

しかし、労使協定を交わさずに行うのは良くありません。

健康保険法や厚生年金保険法には、これについての罰則が無いのですが、賃金を全額支払う義務に違反してしまいます。〔労働基準法第24条第1項本文〕

これには、三十万円以下の罰金という罰則があります。〔労働基準法第120条〕

 

<退職する従業員の場合>

社会保険の脱退(資格喪失)の場合には、月末に脱退する場合に限り、その月の分の保険料が徴収されます。

月末以外の脱退なら、その月の保険料は徴収されません。

 

退職月に最後の給与が支給される場合、退職日によっては、欠勤控除によって給与が少額となり、社会保険料を控除できないこともあります。

こうした事態を想定して、健康保険法と厚生年金保険法には、退職の場合には例外的に前月と当月の2か月分の保険料を控除できるという規定になっているわけです。

この場合、退職月の給与が少額になる見込みであれば、退職月の前月の給与から2か月分の保険料を控除することになります。

 

退職月の翌月に最後の給与が支給される場合、月末退職を除いては、社会保険料を控除しないのが正しいのですが、うっかり控除してしまった場合には、すぐに返金しましょう。

人事評価の考課者が自己流の推論で評価してしまう危険

2025/03/10|790文字

 

<論理誤差>

考課者が自己流の推論で評価対象者の人格を決めつけ、各評価項目の評価をしてしまうことがあります。

 

・時々遅刻するのはルーズな性格だからだ。

・営業成績が優れているのは押しが強いからだ。

これらは、仕事に関わる事実のほんの一部を手がかりとした推論に過ぎません。

 

・お金持ちの家に育ち甘やかされて育ったので忍耐力が無い。

・小学生の頃から日記を書き続けているので根気強い。

これらは一つの事実、しかも仕事とは無関係な事実から評価を推論しています。

 

論理誤差とは、数多くの事実に基づき客観的に評価せず、主観的な推論で評価してしまうことをいいます。

 

<考課者としての対策>

この論理誤差による弊害を防ぐには、評価項目ごとになるべく多くの事実に基づいた評価をすることが必要です。

つまり考課者は、日々の業務の中で、評価対象者の仕事ぶりに関する事実を数多く拾って記録しておく必要があります。

 

<実務の視点から>

考課者が対象者の働きぶりをコンスタントに記録して評価の実施に備えるというのは、実際にはむずかしいものです。どうしても、サボりがちです。

しかし、考課者が事実に基づかず単なる印象で評価してしまうのでは、適正な人事考課制度の運用はできません。

考課者に対しては、定期的な考課者研修を実施すること、考課表には評価の根拠となる事実を数多く記入する欄を設けることが必要です。

手間のかかることではありますが、評価される側からすると、考課者個人の勝手な印象で評価を決められたのではたまりません。

 

新型コロナウイルス感染症終熄による人の流れの回復や、産業構造の転換による異業種間転職の増加などの影響で、社員の出入りが激しくなり、ますます人事考課制度が重要になっています。

人事考課制度の導入や改善、考課者研修など、まとめて委託するのであれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

年次有給休暇の通勤手当

2025/03/09|1,898文字

 

<休暇の通勤手当>

通勤手当は、労働基準法などにより、企業に支払が義務付けられているものではありませんが、支払われる場合には、通勤に必要な経費や負担を基準にその金額が決められているのが一般です。

休暇の場合には、出勤しないわけですから、年次有給休暇を取得した場合の賃金に通勤手当が含まれるというのは、矛盾があるようにも思われます。

  

<労働基準法の定め>

「就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない」〔労働基準法第39条第7項本文〕

つまり、解雇予告手当などを計算する場合に用いられる法定の平均賃金、または、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金が原則となります。

ただし、労使協定を交わせば、健康保険法第40条第1項の標準報酬月額の30分の1を、1日分の年次有給休暇の賃金として支給することもできます。

また、この金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これに従います。〔労働基準法第39条第7項但書〕

 

<労働基準法施行規則>

労働基準法の規定だけでは明確にならない場合は、次の規定が適用されます。

 

労働基準法施行規則

第二十五条 法第三十九条第七項の規定による所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金は、次の各号に定める方法によつて算定した金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額をその週の所定労働日数で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額をその月の所定労働日数で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

2 法第三十九条第七項本文の厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金は、平均賃金若しくは前項の規定により算定した金額をその日の所定労働時間数で除して得た額の賃金とする。

3 法第三十九条第七項ただし書の厚生労働省令で定めるところにより算定した金額は、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)をその日の所定労働時間数で除して得た金額とする。

 

<実務の視点から>

年次有給休暇の賃金の計算方法には、次の3つがあるということです。

1.労働基準法第12条で定める「平均賃金」

2.所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

3.健康保険法第99条で定める「標準報酬日額」

 

このうち、1.3.に通勤手当が含まれていることは明らかです。

しかし、2.に通勤手当が含まれるか否かは不明確です。

これについては、次の規定があります。

 

「使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」〔労働基準法附則第136条〕

 

この条文について、通勤手当を支給しないことが「賃金の減額」にあたると解釈すれば、通勤手当を支給しなければなりません。

 

さて基本に戻って、通勤手当は労働基準法などにより企業に支払が義務付けられているものではありません。

ですから、就業規則に「通勤手当は実際に出勤した日についてのみ支給する」という規定があれば、年次有給休暇の賃金についても、通勤手当を計算に含めなくて良いことになります。

反対に、こうした規定が無ければ、不明確なことは労働者の有利に解釈するのが労働法全体の趣旨ですから、通勤手当を計算に含める必要があるでしょう。

退職予定者の年次有給休暇

2025/03/08|1,029文字

 

<通常の場合>

年次有給休暇を取得する場合には、労働者から取得する日を指定するのが原則です(時季指定権)。

一方、労働者が指定した日の年次有給休暇取得が、事業の正常な運営を妨げる場合には、会社からその日の取得を拒むことができます(時季変更権)。

労働者から、いきなり「今日休みます」と言われたのでは、会社は時季変更権を使う余地がありません。

ですから、前もっての指定が必要なのです。

 

<円満退職の場合>

転職先が決まっている、家族と共に転居するなど、労働者の都合により、退職日が決まっていて変更できない場合があります。

この場合、退職日より後の日に年次有給休暇を取得することはできませんから、一般的に退職日までの間の出勤予定日に取得することになります。

しかし、会社に長い間貢献した人が退職していくにあたって、それが円満退社であれば、せめて最後に残った年次有給休暇をすべて取得させてあげたいところです。

この場合、残った年次有給休暇の日数が多ければ、日付を遡って取得させることもありえます。

ただし、前年度にさかのぼると、労働保険料の計算や税金の計算などがやり直しになりますので注意が必要です。

場合によっては、社会保険料の計算もやり直しとなります。

そこで、お勧めしたいのは、年次有給休暇の買上げです。

通常は、買上げは許されないのですが、退職にあたって買上げることは、休暇取得の妨げにならないので許されています。

それでも、年次有給休暇の取得は労働者の権利ですから、退職者と会社とで話し合って決めることが必要です。

 

<円満ではない退職の場合>

会社と感情的に対立していて、退職にあたって様々な要求をしてくる労働者がいます。

年次有給休暇については、「普段あまり取得できなかったので、退職にあたっては、残さずすべてを取得させてほしい」「残った年次有給休暇を買い取ってほしい」という話が出てきます。

年次有給休暇をすべて取得し尽くすというのは、退職日との関係で日程的に無理が無ければ可能な話ですし、労働者としての正当な権利を行使するに過ぎません。

しかし、年次有給休暇の買上げは、「会社が残日数の一部または全部の買上げを行うことができる」に過ぎず、労働者の側から権利として主張することはできません。

ただ、引継ぎをきちんと終わらせない恐れがある、あるいは未払残業代やパワハラを理由とする慰謝料を請求してくる可能性が高いなどの事情があれば、経営判断で年次有給休暇の買上げをすることも考えられます。

整骨院・接骨院でも使える健康保険の対象

2025/03/07|552文字

 

<健康保険の対象となる場合>

急性などの外傷性の打撲・捻挫・および挫傷(肉離れなど)・骨折・脱臼には健康保険が適用されます。

ただし、骨折・脱臼については、応急処置を除き医師の同意が必要です。

 

<健康保険の対象とならない場合>

次のような場合には、「健康保険が使える」と説明を受けていても、全額または一部が自己負担となり、接骨院から請求されるか、「協会けんぽ」などの保険者から請求されることがあります。

・単なる肩こり、筋肉疲労

・慰安目的のあん摩・マッサージ代わりの利用

・病気(神経痛・リウマチ・五十肩・関節炎・ヘルニアなど)からくる痛み・こり

・脳疾患後遺症などの慢性病

・過去の交通事故等による後遺症

・症状の改善の見られない長期の治療

・医師の同意のない骨折や脱臼の治療(応急処置を除く)

・仕事中や通勤途上におきた負傷(労災保険が適用される可能性があります)

 

<柔道整復師(整骨院・接骨院)にかかる場合の注意事項>

負傷原因、治療年月日、治療内容などについて、「協会けんぽ」などの保険者から問い合わせが入ることもありますので、次の点に注意しましょう。

・負傷の原因を正しく伝える

・「療養費支給申請書」は内容をよく確認し自分で署名または捺印する

・領収証をもらう

・治療が長引く場合は医師の診断を受ける

社会保険労務士(社労士)とは

2025/03/06|1,313文字

 

<社会保険労務士とは>

社会保険労務士制度は、社会保険労務士法に基づく制度です。

 

社会保険労務士とは、社会保険労務士試験の合格者等社会保険労務士となる資格を有する者で、全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿に登録された者をいいます。

 

また、平成15(2003)年4月1日から、社会保険労務士法に基づき、社会保険労務士が共同して社会保険労務士法人を設立することが可能となりました。社会保険労務士法人は、社員を社会保険労務士に限定した、商法上の合名会社に準ずる特別法人であり、対外的な社員の責任については、連帯無限責任とされています。

 

社会保険労務士及び社会保険労務士法人の業務は次のとおりです。

 

(1) 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成

 

(2) 申請書等の提出代行

 

(3) 申請等についての事務代理

 

(4) 個別労働関係紛争解決促進法に基づき都道府県労働局が行うあっせん手続の代理

 

(5) 個別労働関係紛争について都道府県労働委員会が行うあっせん手続の代理

 

(6) 男女雇用機会均等法並びにパート労働法に基づき都道府県労働局が行う調停手続の代理

 

(7) 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理(紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)

 

(8) 労務管理その他労働及び社会保険に関する事項についての相談及び指導

 

このうち、(1)~(3)の業務については、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、業として行ってはならないこととされています。

 

また、社会保険労務士法人は、上記(1)~(3)及び(8)のほか、定款で定めるところにより、賃金の計算に関する事務及び社会保険労務士法人の使用人を派遣の対象とし、かつ、派遣先を開業社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人とする労働者派遣事業を行うことができます。

 

(4)~(7)の業務については、紛争解決手続代理業務試験に合格し、社会保険労務士名簿にその旨の付記を受けた特定社会保険労務士又は特定社会保険労務士が所属する社会保険労務士法人以外の者は、他人の求めに応じ報酬を得て、業として行ってはならないこととされています。

 

<社会保険労務士になるためには>

社会保険労務士になるためには、社会保険労務士試験に合格し、労働社会保険諸法令に関する厚生労働省令で定める事務に2年以上従事した者が、全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿に登録を受けることが必要です。社会保険労務士試験の合格者のうち実務経験のない者には、全国社会保険労務士会連合会が行う講習を受けて、社会保険労務士となる資格を得る途も開かれています。

 

社会保険労務士の国家試験は、毎年1回、行われています。

 

受験資格等社会保険労務士試験についての詳細は、社会保険労務士試験の試験事務を行っている全国社会保険労務士会連合会社会保険労務士試験センターのホームページhttp://www.sharosi-siken.or.jpをご覧ください。

 

(厚生労働省ホームページより ※法改正により一部修正)

会社にもメリットのある年次有給休暇

2025/03/05|1,091文字

 

<年次有給休暇の本来の趣旨>

労働基準法には、なぜ年次有給休暇の付与が法定されているのか、なぜ年次有給休暇の最低日数が法定されているのか、その趣旨とするところは何なのかなどについて説明がありません。

しかし厚生労働省は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度だと説明しています。

また、年次有給休暇の法的性格について、最高裁判所は「年次有給休暇の権利は、労働者が客観的要件を充足することによって、法律上当然に発生する権利であり、労働者が年次有給休暇の請求をしてはじめて生ずるものではない」としています(昭和48年3月2日白石営林署最高裁判決)。

 

<不測の事態への対応準備>

令和2(2020)年2月以降、国内に新型コロナウイルス感染症が拡大していき、ほとんどの企業では多くの欠勤が発生しています。このような場合でも、業務の停滞などによって困らないようにしようという動きも盛んになって、テレワークの急拡大なども見られました。しかし、喉元過ぎれば熱さ忘れるということで、テレワークも減少傾向にあります。

今後も、インフルエンザなどの感染症拡大や、自然災害などによる同時多発的欠勤も想定されます。やはり、すべての業務のマニュアル作成と公開、全従業員の多機能化、メイン担当者とサブ担当者の設定など、備えが必要であることは明らかです。

これらの備えに本腰を入れて取り組むためにも、また備えが有効であることの実証のためにも、年次有給休暇の計画的な取得を活用することができるでしょう。

 

<不正防止の効果>

金融機関では、金融庁の指導により、職務離脱の制度が運用されています。これは、事前予告なしに、1週間の休暇を命ずる制度です。この休暇中に、その従業員の机やパソコンの中のチェック、取引先との面談などを行い、不正がないことを確認するものです。

一般の企業では、そこまでする必要を感じないかもしれません。しかし、年次有給休暇の取得を拒否し、たびたび休日出勤をしている従業員が、インフルエンザで数日休んだことで、他の従業員が業務を代行しようとして、不正が暴かれたという事件は数多く報道されています。

横領も多いのですが、中には会社のパソコンや顧客データを利用して、個人的に事業を営んでいたというものまであります。

年次有給休暇の取得を嫌がり、進んで休日出勤をしていれば、職務熱心な社員と見られ、チェックが甘くなるリスクもあります。こうした社員ほど、年次有給休暇を取得させる必要があるかもしれません。

急病で休むのに年次有給休暇が使えない?

2025/03/04|1,292文字

 

<就業規則の規定>

例えば、就業規則に次のような規定があって、適正に運用されているのであれば、急病のとき当日に年次有給休暇を取得するのは問題ありません。

 

年次有給休暇は、取得する日の◯日前までに「有給休暇取得届」を上長に提出することによって取得する。

私傷病その他やむを得ない理由がある場合に限り、上長に電話もしくはメールで速やかに連絡し、後日出勤時に遅滞なく「有給休暇取得届」を提出することにより、欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。

 

<指定権と変更権との調整>

この規定の中の「取得する日の◯日前までに」というのは、労働者の時季指定権を制限しています。年次有給休暇の取得日の指定が遅れると、労働者は自由な指定ができなくなります。

一方で、「取得する日の◯日前までに」時季指定があれば、特別な事情がない限り、使用者はこれを拒否できません。つまり、期限を守った時季指定に対しては、使用者が時季変更権を放棄していることになります。

これは、労働者の時季指定権と使用者の時季変更権との明確な基準による調整と見ることができます。ただし、「◯日前」というのが「30日前」など長期にわたる場合には、不当な時季指定権の制限であり、時季変更権の濫用となって無効と解されます。

こうした規定が就業規則になく、その時々の事情に応じて、労使が話し合いながら調整することも可能です。しかし、これでは基準が不明確で不満が出やすいでしょう。

 

<条件付き時季変更権の放棄>

当日に年次有給休暇の取得を申し出た場合、使用者は時季変更をする余地がありませんから、明らかに時季変更権の侵害であり、時季指定権の濫用となります。ですから、こうした年次有給休暇の取得は認める必要がないとされています。

しかし、厳格な条件をクリアした場合には、使用者が時季変更権を放棄し、労働者に事後の時季指定を認めるというルールも、労働基準法その他の法令に違反せず有効となります。

先ほどの就業規則では、次の3つの条件をクリアすれば、事後の時季指定が認められることになります。

 

・私傷病その他やむを得ない理由がある場合であること

・上長に電話もしくはメールで速やかに連絡したこと

・後日出勤時に遅滞なく「有給休暇取得届」を提出したこと

 

「その他やむを得ない理由」というのは、やや曖昧ですから、トラブルとなる可能性がなくはないですが、「私傷病」については明確ですから、ここの部分は運用しやすいでしょう。

そもそも、年次有給休暇は理由を問わず使える権利であることを考えれば、「私傷病」の内容を限定する必要もありません。

いずれにせよ、こうした規定のある会社では、労働基準法を超える恩恵的な制度であることの説明は必要でしょう。また反対に、こうした規定のない会社では、決して法令違反ではないことの説明が必要だといえます。

 

【労働基準法第39条第5項:時季指定権と時季変更権】

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

労働条件通知書と雇用契約書とでは役割が異なります。両方を兼ねるというのは矛盾しています。

2025/03/03|1,581文字

 

<労働条件通知書>

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。〔労働基準法第15条第1項〕

そして、厚生労働省令で定める事項について、使用者が漏れなく明示できるよう、厚生労働省は労働条件通知書の様式をWordとPDFで公表しています。

常に最新の様式をダウンロードして利用していれば、法令の改正にも対応できます。

「労働条件通知書」という文書名からも、「明示」が目的であることからも、使用者から労働者への一方的な通知であることは明らかです。

労働者の氏名は、宛名として表示されていますが、署名欄はありません。

使用者は、これを1部だけ作成して労働者に交付すれば、労働条件を明示したことになります。ただし、これだけでは使用者の手元に控えが残りません。

この通知書に記載された内容について、労働者が疑問を抱けば、使用者に説明を求めることになります。

 

<雇用契約書>

労働契約(雇用契約)は口頭でも成立しますから、契約書の作成は義務ではありません。

ただ、使用者が労働者に労働条件通知書を交付しても、紛失されたり、知らないと言われたりしたら困るので、契約書を作成したほうが安心とも言われます。

契約書は2部作成し、労使双方が署名(記名)・捺印して、1部ずつ保管するのが通常です。

雇用契約書には、労使双方の意思表示が合致した内容が記載されています。

ですから、意思表示が合致して契約書が交わされた後、記載内容について疑問が生じるのは困るのですが、この場合には、労使双方が誠意をもって協議し内容を確定することになります。

 

<労働条件通知書兼雇用契約書>

労働条件通知書と雇用契約書の両方を作成するのは面倒ですから、法令によって明示が義務付けられている項目をすべて含む形で雇用契約書を作成し、労働条件通知書を兼ねるということも行われます。

しかし、一方的な通知と合意の内容を1つにまとめるというのは、論理的な矛盾をはらみます。

書類の内容について疑問が発生した場合には、使用者側が説明すれば足りるのか、労使で協議が必要なのかは不明確です。

ここに紛争の火種を抱えることになりそうです。こうした危険な書類のひな形は、社会保険労務士ではないしろうとが使います。

 

<労働条件通知書を用いる場合の不都合解消>

労働条件通知書には、労働者の署名欄は無いのですが、これを設けたら無効になるというわけではありません。

末尾に「上記について理解しました。疑義があれば本日より2週間以内に申し出ます」という欄を設け、日付、住所、氏名を自署してもらうこともできます。

そしてコピーを会社の控えとする旨を説明し、原本をご本人に渡せば、後から「知らない。忘れた」という話も出てこなくなるでしょう。

この書類には、就業規則のある場所も明示しておくことをお勧めします。就業規則を周知していることの証拠となります。

 

<雇用契約書を用いる場合の不都合解消>

この場合の不都合としては、契約書内の記載について疑問が発生した場合には、労使が相談して内容を確定することになるという煩わしさです。

このことが紛争の火種ともなってしまいます。

ですから、判断が必要な項目については、「会社の判断により」という言葉を加えておく必要があるでしょう。

たとえば、試用期間中に「しばしば遅刻・欠勤があった場合には本採用しない」という内容があれば、「しばしば」に判断の幅が発生してしまいます。

ここは「しばしば遅刻・欠勤があったと会社が判断した場合には本採用しない」といった文言にしておき、不合理な解釈でない限りは、本採用の基準を会社のイニシアティブで決定できるようにしておくのです。

 

労働条件通知書を使用するにせよ、雇用契約書を使用するにせよ、紛争の火種を抱えないよう、ひな形に一手間加えることをお勧めします。

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