2025/05/03|1,916文字
<計算上の不利益>
ある日2時間残業して、翌日2時間早退して、これで相殺したことにすると賃金の面で問題があります。
労働基準法第37条第1項には次の規定があって、法定労働時間を超える労働には2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
ある日、法定労働時間を超えて2時間残業した場合、その2時間の賃金は、就業規則や労働条件通知書などに示された2割5分以上割増の賃金です。
2時間 × 1.25 = 2.5時間
ですから、2.5時間分以上の賃金支払が必要です。
これと、早退による2時間分の賃金のマイナス(欠勤控除)とで相殺すると、0.5時間分以上の賃金が消えてしまうのです。
これでは割増賃金を支払わないことになりますから、労働基準法第37条第1項に違反し、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」という罰則適用の対象になってしまいます。〔労働基準法第119条〕
<不利益が無い場合>
ある人の所定労働時間が毎日4時間であれば、2時間残業しても法定労働時間の範囲内ですから、割増賃金は発生しません。
翌日2時間早退して、これで相殺したことにしても、賃金計算上の不利益はありません。
また、割増賃金を就業規則や労働条件通知書などに2割5分と規定し、4時間の残業と5時間の早退とで相殺するという運用ならば、賃金計算上の不利益はありません。
4時間 × 1.25 = 5時間
こうした計算で、労働者に不利益が無いのなら違法ではないようにも思われます。
しかし、労働基準法により、残業代は残業代、早退による欠勤控除は欠勤控除として、それぞれ別項目で賃金台帳に示さなければなりません。
労働基準法第108条には次の規定があります。
(賃金台帳)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
そして、労働基準法施行規則第54条により、次の事項を記入することになります。
・氏名
・性別
・賃金計算期間
・労働日数
・労働時間数
・時間外労働、休日労働および深夜労働の時間数
・基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
・労使協定により賃金の一部を控除した場合はその金額
こうしたことから、たとえ賃金計算上の不利益が無い場合でも、残業時間と早退時間はそれぞれ集計して賃金台帳に記入しなければなりません。
<フレックスタイム制の運用>
きちんと手続をして、フレックスタイム制を正しく運用していれば、ある日2時間残業して、別の日に2時間早退すると、結果的に相殺されたのと同じ効果が発生します。〔労働基準法第32条の3〕
これは、1か月間など労使協定で定められた清算期間内の総労働時間と、実際の勤務時間の合計との比較で、時間外労働や欠勤の時間を集計する仕組みだからです。
労働者が仕事の都合と個人の都合をバランス良く考えて、自由に労働時間を設定できることによる例外です。
就業規則の規定や労使協定が無いのに、フレックスタイム制に似せた運用をしてしまわないように注意しましょう。
<月60時間を超える時間外労働>
月60時間を超える時間外労働の割増賃金(割増率5割以上)については、労働者の健康確保の観点から、割増賃金の支払に代えて有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。〔労働基準法第37条第3項〕
代替休暇制度の導入には、事業場の過半数組合、または労働者の過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。
この協定では、a.代替休暇を与えることができる時間外労働の時間数の算定方法、b.代替休暇の単位、c.代替休暇を与えることができる期間、d.代替休暇の取得日の決定方法および割増賃金の支払日を定めるべきとされています。
これは、残業時間と早退時間との相殺ではなくて、残業時間と休暇との相殺になります。
労使協定の締結など、法定の手続を経ないまま、「8時間残業したら1日休んでよし」といった乱暴な運用は違法ですから注意しましょう。