2025/05/10|1,445文字
<法令の規定>
有期労働契約の契約期間の途中で解雇することについて、民法第628条は「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」と規定しています。
また同様の趣旨で、労働契約法第17条第1項は「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と規定しています。
ここでのキーワード「やむを得ない」は、日常生活で用いているよりもハードルが高いとされています。また、使用者や労働者の主観によって判断されるものではないため、裁判所の司法判断が重要になります。
<裁判所の判断>
普通解雇については、やむを得ない事由があると判断し解雇を有効とした裁判例と、やむを得ない事由はないと判断し解雇を無効とした裁判例があります。
また、整理解雇の場合には、整理解雇の4要素を基準に判断し、解雇を無効とした裁判例があります。
<期間途中での普通解雇を無効とした裁判例>
4年間の有期労働契約で塾の塾長として採用された人が、卒業祝賀会や礼拝での配慮を欠いた発言等を理由として、期間途中の初年度終了直前に解雇されました。
裁判所は、乱暴な発言や思慮を欠く行動があり、塾長としての見識が十分でない面があると認めたものの、「極めて不適切とはいえない」「塾長として一定の成果を出していた」と評価し、結論として「やむを得ない事由があったとは認め難い」として、解雇を無効としました(学校法人東奥義塾事件 仙台高裁秋田支部 平成 24年1月25日)。
<期間途中での普通解雇を有効とした裁判例>
証券会社に雇用期間1年間の契約で雇用された人が、試用期間中の勤務状態等により、スピードが遅い、日本語のレベルが低い、分析力・専門知識が日本の証券会社に勤めるアナリストに比べると低いといった理由で、試用期間中の留保解約権の行使として解雇されました。
裁判所は、従業員として適格性に欠け、使用者の期待に応えることがおよそ不可能な従業員であることがうかがわれると認定しました。従業員としての適格性具備の前提となる使用者との間の信頼関係を根本から喪失させるものであると評価して、引き続き雇用しておくことが適当でないものと判断しました。
そして、雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由も存在していると判示し、解雇を有効と認めました(リーディング証券事件 東京地判平成25年1月31日)。
<期間途中での整理解雇を無効とした裁判例>
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、利用者が減少し経営状況が極めて悪化したとして、有期労働契約のタクシー運転手を解雇した事件について、裁判所は、期間満了前の解雇であるから「やむを得ない事由」が必要であり、その判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避措置の相当性、人員選択の合理性、手続の相当性の各要素を総合的に考慮して判断すべきであるという整理解雇の4要素によって判断するとしました。
そして、人員削減の必要性については、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったとはいえない、「雇用調整助成金や臨時休車措置等を利用した解雇回避措置を利用していない点で解雇回避措置の相当性は相当に低いとして、整理解雇を無効と判断しました(センバ流通事件 仙台地決令和2年8月21日)。