会社が労働者に無断で年次有給休暇を使ってしまうケース

2025/05/22|1,174文字

 

<年次有給休暇は事前の請求が原則>

労働者が年次有給休暇を取得するときには、休む日を指定します。

これが、労働者の時季指定権の行使です。〔労働基準法第39条第5項本文〕

休む日を指定して取得するということは、事前に届け出るということになります。

そして、事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は労働者に対して、休む日を変更するように請求できます。

つまり、会社は時季変更権を行使することができます。〔労働基準法第39条第5項但書〕

労働者が会社の時季変更権を侵害しないようにするためにも、年次有給休暇の取得は事前請求が原則です。

しかし、会社側は時季指定権を持っていませんから、休む日を勝手に決めることはできません。

ただし労使の合意によって、次の「計画的付与制度」を使うことはできます。

 

<計画的付与制度>

年次有給休暇の付与日数のうち、5日分を除いた残りの日数については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。

この制度を導入している企業は、導入していない企業よりも年次有給休暇の平均取得率が 高くなっているという統計もありますから、年次有給休暇が取りやすくなると考えられます。

 

<実際の対応>

給与明細書を見てみたら、勝手に年次有給休暇を取得した扱いになっていたという場合、労働者が異議を申し出なければ、事後的な合意で年次有給休暇が取得されたものと考えて良いでしょう。

しかし、年次有給休暇は別の機会に取得する予定であったとか、何か必要が発生したときのために残しておきたかったとか、労働者の意思に反する場合には、労働者から会社に対して「間違い」の是正を求めることができます。実際に、給与処理上のミスだったということもありえます。

この場合には、年次有給休暇の残日数が減らなかったことになり、年次有給休暇を取得した扱いによって過剰に計算された賃金は、労働者から会社に返金することになります。

 

<働き方改革との関係で>

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)のためには、労働時間の削減や休日数の増加、年次有給休暇の取得など、従業員の健康と生活に配慮し、多様な働き方に対応したものへ改善することが重要です。

会社が労働者に対して一方的に年次有給休暇を取得させるというのは、年次有給休暇の取得促進にはなるものの、法的に認められることではありません。

また、何の予告も無く行われれば、労働者の会社に対する不信感も強まります。

なお、会社が年5日の年次有給休暇を取得させる義務を負う場合であっても、会社が時季を定めるに当たっては、労働者の意見を聴取することが必要であり、対象となる労働者の意見を尊重するよう努めなければなりません。

 

内容は同じであっても、労使で話し合って決めていけば、従業員満足度が高まり、定着率は上がるし、会社の評判も向上するでしょう。

懲戒の目的は就業規則に明示しましょう

2025/05/21|1,060文字

 

<懲戒の目的1>

社員を懲戒する目的の第一は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。

懲戒処分を受けた社員に対しては、深く反省し二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。

これは、不都合な結果の発生を予見して回避する能力はあるのに、故意あるいは明らかな不注意によって、不都合な結果を発生させたことが前提となっています。

しかし、能力不足で不都合な結果が発生した場合には、反省しても結果を防止できません。

会社は、能力不足に対しては、懲戒処分ではなく教育研修で対応する必要があるのです。

 

<懲戒の目的2>

社員を懲戒する目的の第二は、会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすることにあります。

たとえば、明らかなパワハラやセクハラがあって、会社がその事実を知りながら放置しているようでは、社員が落ち着いて安心して働くことができません。

一般の道義感や正義感に反しますし、自分も被害者となる恐怖を感じるからです。

これでは、会社に対する不信感で一杯になってしまいます。

 

<懲戒の目的3>

具体的でわかりやすい懲戒規定を設けることは、社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することを目的としています。

何をしたらどの程度の処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。

これは、罪刑法定主義の考え方です。

ある行為を処罰するためには、禁止される行為の内容と処罰の内容を具体的かつ明確に規定しておかなければならないとする原則です。

これは、日本国憲法第31条と第39条にもその趣旨が示されています。

対置される概念は罪刑専断主義です。

たとえば「社長を怒らせたら懲戒処分」という考え方です。

こんなことでは、社員はいつも不安です。

懲戒規定に定めの無い行為について、懲戒処分をすることはそれ自体違法です。

しかし、それ以上に他の社員に対する悪影響が大きくて、会社全体の生産性が低下します。

たとえば、ある社員が作業の問題点を指摘し、改善提案をしたとします。

これを不快に思った会社側が、不当に懲戒処分を行ったならば、その職場での改善は進まなくなってしまいます。

やはり、懲戒規定に具体的な定めのない行為を行っても、懲戒処分の対象とされることはないのだという安心感に基づいて、伸び伸びと勤務できる環境が会社の成長を促すのです。

電車の遅れによる遅刻と遅延証明書の効力

2025/05/20|1,304文字

 

<ノーワーク・ノーペイの原則>

「ノーワーク・ノーペイ」とは、「労働者の労務提供がなければ会社は賃金を支払わなくてよい」という原則のことです。

これを直接規定した法令はありませんが、労働契約法には次の規定があります。

 

(労働契約の成立)

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

 

つまり、労働者の労働に対して使用者が賃金を支払う約束だということです。

裏を返せば、労働者が労働しなければ使用者に賃金支払い義務は無いのです。

もちろん、使用者側に何か落ち度があれば、賃金の全額または一部の支払義務が生ずることはあります。

 

それでも、電車の遅れに対して、一般には使用者側に落ち度が無いので、やはり賃金の支払い義務は無いのです。

つまり、電車が遅れて勤務できなかった時間の賃金について、会社が欠勤控除をせず全額支払うというのは、法令によるものではなく会社の恩恵的な取扱いだということになります。

ただ、電車の遅れによる遅刻について欠勤控除をしない会社の比率は高いですから、欠勤控除をするルールの会社では社員の不満が生じやすいかもしれません。

 

<証明を求める会社>

遅刻の報告書に遅延証明書を添えれば、証明された遅延時間の範囲内で、欠勤控除をしないというルールの会社が多数派でしょう。

遅延証明書は、多くの鉄道会社でネット交付のサービスがありますから、ずいぶんお手軽になってきました。

 

<証明を求めない会社>

遅延証明書が無くても、本人が申し出れば欠勤控除をしないというルールの会社もあります。

改札口で遅延証明書をもらうための列に並ぶよりは、1分でも早く業務を開始してもらった方が、会社にとって得かもしれません。

また電車遅延の情報は、ネットで容易に得られるようになりましたから、社員のひとり一人から遅延証明書をもらうよりも、人事部門で一括して情報を把握し処理した方が、人件費の節減になります。

 

<問題社員のケース>

欠勤控除をしない会社の場合、次のような不正行為がありえます。

本当は寝坊してタクシーで駆けつけたのに、ネットで検索して、たまたま電車の遅延情報を見つけたから、遅延証明書をダウンロードして使用するということはありえます。

大雪などで、早朝から電車の大幅遅延が見込まれているのに、いつも通りの時刻に自宅を出発し、遅延証明書の範囲で賃金が得られるなら良しとする社員もいます。

このあたりは、教育研修や人事考課の適正な運用で対応すべきことでしょう。

 

<鉄道会社の賠償義務>

さて、電車の遅れによって賃金が減ったら、社員は減った分の賃金を損害として鉄道会社に請求できるのでしょうか。

直感的に無理だというのはわかります。

鉄道会社と乗客との間には旅客運送契約があります。読んだことがなくても有効なのは、電気会社やガス会社などとの契約と同様です。

この旅客運送契約に関して、各鉄道会社は営業規則を定めていて、鉄道会社は運行不能や2時間以上の遅延の場合などに料金の払い戻しはするものの、それ以上の損害等について責任を負わないことになっています。

今の仕事が向いていないと感じている新人

2025/05/19|1,598文字

 

<配属部署が向いていない?>

入社にあたって、会社に伝えた希望の部署とは違う部署に配属されることの方が多いのではないでしょうか。

どの部署が向いているかは、自分自身の判断、会社の判断、真の適性の3つが食い違うこともあります。

自分や会社が向いていると判断した部署が、実は向いていない部署の場合もあります。

また、会社の判断では希望通りの部署について適性を認めたものの、その前に今の部署の仕事を経験させておこうというキャリア設計があるかもしれません。

もしそうであれば、今の部署である程度の実績を上げなければ、希望の部署への異動は遠のいてしまいます。

それに、いきなり希望の部署に配属されて、思ったほど仕事が進められなければ、自分に失望してしまいます。

これは大きな挫折となりますから、希望の部署に配属されないのは一種のリスク回避でもあるのです。

 

<会社が向いていない?>

もう少し視野を広げて考えてみれば、配属された部署の仕事が向いていないのではなくて、その会社が向いていないのかも知れません。

経営方針に共鳴していたとしても、企業風土や職場の雰囲気が自分に合っていない可能性もあります。

そうだとすれば、たとえ別の部署に異動になっても、それが希望の部署であったとしても、会社が向いていないのであれば、これから先、自分の思い描いていた仕事はできないのかもしれません。

 

<会社勤めが向いていない?>

さらに視野を広げて考えてみると、会社が向いていないのではなくて、会社という組織の中で、会社に雇われて働くことが向いていないのかも知れません。

決められた日の決められた時刻に出勤して、最低限、決められた時刻までは働かなければなりません。

自分のやりたいように仕事を進められるわけではありません。

上司もいれば先輩もいますから、その指導やアドバイスも受け入れなければなりません。

理不尽と思える話でも、拒否するわけにはいきません。

新人のうちは、注意を受け、叱られることも多いでしょう。

それで、仕事のやり直しによる残業も発生します。

予定通りの時刻に帰宅できないことも当たり前になります。

こうした生活が向いていない、つまり、そもそも会社勤めが向いていないという可能性は、決して低くはないのです。

 

<働くことが向いていない?>

では、会社勤めが向いていないとして、どうやって生計を立てれば良いのでしょうか。

あるいは、再び親の扶養に入るのでしょうか。

自分で何とかしようと思うのであれば、個人で事業を立ち上げるとか、会社を設立するとか、特定の会社に頼らない形で働くことを考えることになります。

企業風土とか職場の雰囲気は、自分自身で作れば良いのですし、誰かの指示に従う必要もありません。

始めたいときに仕事を始め、終わりたいときに仕事を終了することも自由です。

こうしたことが「大変だなぁ」と感じるのであれば、そもそも働くことが向いていないのかも知れません。

 

<実務の視点から>

働くことが向いていない、会社勤めが向いていないということであれば、転職しても上手くいくはずがありません。

大人として、社会人として、まともな生活をしようと思うのであれば、まずは自分に与えられた仕事を誠実にこなしていくことをお勧めします。

自分に合っていない仕事をこなしているうちに、自分自身が変わっていきます。

また、自分がきちんと仕事をこなすことで、その部署の雰囲気もルールも変わってきます。

こうして、最初は「自分に合っていない」と思っていても、やがて自分がその部署に近付き、その部署が自分に近付いてくるのです。

たとえ不本意な仕事であっても、誠意をもってこなすことは、これから先、今の会社で働くにせよ、転職するにせよ、独立するにせよ、決して無駄にはなりません。

今の環境から安易に飛び出すよりは、まず熱心に取り組んでみて、自分自身を成長させ変革させていくことを強くお勧めします。

働き方改革を進めるために必要な3つの情報発信

2025/05/18|874文字

 

<トップからの情報発信>

トップから、長時間労働の削減や休暇の取得促進など働き方改革の推進について、明確な情報発信を定期的に行う必要があります。

働き方改革は、管理職が中心となって推進しなければ進みません。

ところが、管理職の中に「労働時間の削減や休暇の増加で業務が滞るのではないか。その場合には、自分が責任を問われたり、負担が増えたりするのではないか」という疑念があったのでは、消極的にならざるを得ません。

トップが、会社の経営課題の一つとして働き方改革を掲げ、朝礼、社内報、電子掲示板など、あらゆるチャネルを活用して発信する必要があります。

また1回だけ発信しても、時間が経てば、社員の中に「まだトップはその気になっているのだろうか。気が変わっていないだろうか」と不安になります。

このことから、情報発信は繰り返し定期的に行わなければなりません。

 

<経営幹部からの情報発信>

トップが働き方改革の推進に向けたメッセージを繰り返し発信していても、役員など経営幹部の意識が変わらなければ社内に浸透しません。

経営幹部が、中期経営計画など全社の経営計画を策定する時に、トップからの情報発信を受けての内容を盛り込み、目標を数値化したうえで全社員に発信する必要があります。

トップの立場からすると、経営幹部にこうした情報発信をさせることで、自ら推進することに対する責任を負わせるということになります。

 

<社外に向けた情報発信>

所定外労働の削減や年次有給休暇の取得増加によって、お取引先やお客様など社外にも影響が出てきます。

こうした影響の原因が働き方改革の推進にあること、働き方改革にどのようなメリットを期待して推進するのかを社外にも示す必要があります。

お取引先に対しては、有能な人材の確保ということが最も説得力を帯びてくるでしょう。

また、お客様に対しては、社員の生活を大切にしたいという思いをアピールすることができます。

働き方改革は、多くの企業が同時に推進し、社会全体で盛り上げなければなりません。

社外に向けた情報発信は、企業の社会的責任を果たすうえでも必要なものです。

テレワークが減ったのはなぜでしょうか?

2025/05/17|1,910文字

 

<テレワークを導入しなかった理由>

新型コロナウイルス感染症の拡大前には、テレワークの実施に消極的な企業も多く、政府が働き方改革の一環で推奨していたにも関わらず、特に中小企業では導入が広がりませんでした。

これについては、次のようなことが理由として掲げられています。

 

・業種や職種がテレワークに不向き

・コミュニケーションをとることが難しい

・人材教育やマネジメントが難しい

・情報セキュリティの不安がある

・各従業員の出退勤や休憩時間の把握が困難

・出社しなければできない業務がある

・社内規定が整備されていない

・環境整備のための予算が無い

・正社員以外の従業員が多い

・従業員に持ち運びできるPCが与えられていない

・同居家族の協力が得られない

・仕事とプライベートの区別がつきにくい

・労災への対応がよく分からない

・経営層の理解が無い

・管理職にIT苦手意識が強い

 

こうしてみると、テレワークの実施を諦める決定的な理由があるわけではなく、心理的なハードルが高いように思えます。

 

<テレワークを導入した理由>

従来から、テレワークが推奨される理由としては、主に生産性の向上が挙げられています。

この他にも、次のようなことが理由として掲げられています。

 

・従業員の移動時間の短縮

・従業員の通勤による疲労の軽減

・非常時の事業継続を可能にする

・上司などの目を気にせず業務に集中できる

・育児や介護との両立を可能にする

・遠方に転居しても勤務を続けられる

 

こうした理由に加えて、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、次のような理由も加わって、一気にテレワークの導入が進みました。

 

・社内でのクラスター発生の防止

・通勤による従業員の感染の防止

・勤務中の長距離移動による感染拡大の防止

・密な状態で食事をとることによる感染拡大の防止

・新型コロナウイルスの感染が拡大しても事業継続を可能にする

 

今まで、できない理由を並べてテレワークに消極的であった企業の多くが、一度はテレワークに取り組んでみるという動きが盛んになりました。

中には、オフィスの縮小や移転を行った企業も見られました。

これによって、大幅な経費の削減も可能となりました。

 

<テレワークをやめた理由>

積極的にテレワークに取組んでみた結果、当初認識していた「テレワークを導入しなかった理由」を改めて痛感することとなった企業が多かったようです。

また、ペーパーレス化の進んでいない企業では、書類を会社にしか保存していないから、稟議書に捺印が必要だから、といった紙の書類への対応で出勤せざるを得ない状況は、マスコミにも大きく取り上げられました。

このこともあって、政府は捺印省略を一気に進めたのですが、民間企業での対応は思うように進んでいません。

さらに、当初は新型コロナウイルスに対する恐怖から、テレワークを強く希望していた従業員も、いざ導入してみると、通信費、光熱費、消耗品費だけでなく、新しい机、椅子、パソコンなどの負担についてのルールが不明確で、経済的な負担が大きくなったり、残業代が減少したり、通勤手当が支給されなくなったりと、収入も減るなど不利益を痛感するようになりました。

すべての従業員がテレワークの対象となるわけではなく、一部の従業員に限られるため、不公平感を払拭できない、特に派遣社員についてはテレワークの実施が困難であるという問題も指摘されました。

 

<隠された理由>

テレワークをやめた理由として、企業に対するアンケートでクローズアップされないものとして、リモートワークハラスメント(リモハラ)があります。

これは、テレワークあるいはリモートワークでは、距離感を錯覚したりコミュニケーションの取り方が従来と異なったりすることにより、新たなハラスメントの発生や増強が起こるものです。

特に、1対1でのリモート対応では密室化するわけですから、ハラスメント発生の危険が高まります。

ハラスメントで怖いのは「慣れ」です。

マスコミで取り上げられるハラスメントは、かなり深刻な人権侵害であることが多いのですが、発生した組織内では、徐々にエスカレートし「慣れ」によって、何とも思わなくなっているという恐ろしさがあります。

テレワークで発生した「慣れ」は、出勤しても残りますので、従業員の感覚の変化には注意する必要があるでしょう。

 

<実務の視点から>

新型コロナウイルス感染症拡大への対応で、企業がテレワークを拡大したのに対応して、政府は前倒しでオンライン化を進めました。

一度は諦めたテレワークであっても、態勢を整えて再チャレンジする価値があります。

また、テレワークだけでなく、業務のオンライン化を進めるチャンスでもあります。

転倒災害を防止しましょう

2025/05/16|1,185文字

 

<転倒災害の現状>

労働災害のうち、休業4日以上の死傷災害の中で、最も件数が多いのは転倒災害です。

実に全体の4分の1を占めています。

 

<滑って転ぶ危険の解消>

床にこぼれた液体で滑って転倒する場合があります。

床に水や油などがこぼれていたらすぐに拭き取れる道具を常備しておき、実際にすぐに拭き取るルールにしておく必要があります。

また、どうしても水や油などのたまりやすい場所には、マットを敷くなどして危険の発生を未然に防ぎましょう。

もちろん、自分でこぼした水は自分で拭くなどは常識として徹底しましょう。

どうせ後で清掃業者が来るからと放置しておくと、危険が増してしまいます。

 

<つまずいて転ぶ危険の解消>

床の上に置いたものやコード類につまずく危険も大きいものです。

「仮に」「ちょっと」ということで、一時的に床の上に物品を置くことは危険です。

人事異動に伴う席替えの際は、ほんの短時間という気の緩みから、書籍やファイルを床の上に置いてしまうことがあります。

普段は無い物が床の上にあると、これにつまずいて転倒する危険は想定外に大きいものです。

また、コード類は通路を横断しないように配線するのが基本です。

レイアウトの変更に伴い配線を変えられるよう、コード類を床の下に置くフリーアクセスにしておけば安全です。

これができない場合には、モールというカバーをコードの上に設置するのがお勧めです。

ただ、このモールは蹴飛ばされているうちに外れたり破損したりしますから、予備の部材を置いておき、適宜補修することをお勧めします。

 

<階段で転ぶ危険の解消>

階段で足を踏み外して転ぶことがあります。

この場合、打撲や骨折、場合によっては死亡事故になることもあります。

予防には、物理的な対策と安全のためのルール順守が有効です。

・急勾配の階段は設置を避ける

・滑り止めを設ける

・手すりを設ける

・十分な照明を設置する

・昇降する際は手すりを使用する

・必ず片手は空けておく

・ポケットに手を入れない

 

<凍結した水たまりや雪で転ぶ危険の解消>

冬になると、凍結した路面での転倒が多発します。

時間帯は朝に集中します。

凍結する場所や雪が積もる通路は特定できますので、その部分に重点的に対策を施すのが効果的です。

・凍結しやすい路面に凍結防止用の砂を撒く

・凍結しやすい出入口には凍結防止のマット類を敷く

・滑りやすい靴の使用を避ける

・必ず片手は空けておく

・ポケットに手を入れない

・危険な場所を歩行する際は、小さな歩幅で、靴の裏全体を着け、急がずにゆっくりと歩行する

・万一に備えて手袋を着用する

 

<実務の視点から>

手ぶらで転倒しても、大怪我をすることがあります。

ましてや、荷物や高温の料理を運んでいるときに転倒すると、障害が残るような大怪我となることもあります。

ちょっとした経費と手間で、戦力ダウンを防ぎ、安心して働ける職場環境にしましょう。

めったに発生しませんが念の為に犯罪被害者休暇を設けましょう

2025/05/15|1,087文字

 

<犯罪による被害>

犯罪には侵害される「利益」があり、刑法などはその「利益」を守るために刑罰を規定しています。

この「利益」は、保護法益などと呼ばれています。

しかし、犯罪によって侵害される利益は、法令によって保護が予定されている利益にとどまりません。

たとえば、窃盗罪の被害者は財産上の利益を奪われるだけでなく、盗まれたものに対する愛着心や、被害に遭ったショックなどにより、精神的な被害も受けています。

 

<二次被害>

このように犯罪の被害者は、二次被害を受けています。

犯罪の被害者となったことによる精神的ショックや身体の不調、医療費の負担や失業による経済的損失、捜査協力や裁判に関わることによる精神面や時間の負担、うわさ話などによる精神的な被害など、その範囲は広範に及びます。

こうしたことにより、欠勤が発生したり、仕事の能率が低下することは、容易に想定されるのですが、こうした不利益から社員を守れるのは会社しかありません。

 

<犯罪被害者休暇の必要性>

犯罪被害者の方々が仕事を続けられるようにするため、被害回復のための休暇制度の導入が求められます。

年次有給休暇の取得だけでは日数が足りないかもしれませんし、入社後半年未満などで年次有給休暇が無い社員は欠勤になってしまいます。

実際に出勤できなくなる事情としては、警察への届出、事情聴取、証拠提出、病院での受診、弁護士との相談・打合せ、裁判への出廷・傍聴などがあります。

特に裁判となると、年に10回以上法廷が開かれるなど、被害者の負担は大きいものです。

なにより、本人に責任の無いことで、たまたま犯罪の被害者となり、勤務が困難となったことにより、会社が貴重な人材を失うというのは避けなければなりません。

会社に犯罪被害者休暇の制度を設けて、こうした事態を防ぎましょう。

 

<就業規則の規定例>

(犯罪被害者休暇)

第●条 会社は、犯罪の被害を受けた従業員の心身の回復を図り、早期に通常の業務に専念できるようにすることを目的として、  日を限度に有給の休暇を与える。

2 前項の休暇は、従業員が次の理由により止むを得ず勤務できない場合に、これを与えるものとする。

・犯罪の被害を受けたことによる心身の治療のための通院

・犯罪被害者としての警察からの事情聴取、裁判への出廷・傍聴

 

上記の例では「有給の休暇」としていますが、無給とする場合であっても、年次有給休暇を付与する場合の出勤率の計算にあたって出勤扱いにするとか、人事考課にあたって欠勤扱いにしないとか、退職金の計算にあたって勤続期間から控除されないなどの利益がありますから、決して無意味ではありません。

制服代や備品を労働者の負担にしても良いとされる場合

2025/05/14|1,085文字

 

<労働条件の決定>

労働条件の決定は、労働者と使用者が対等の立場で決めるべきものだとされています。

このことは、労働基準法第2条第1項に次のように定められています。

 

(労働条件の決定)

第二条  労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

 

本来は対等なのでしょうけれども、労働者は生活がかかっているので、使用者に対する遠慮があります。

また、少子化によって労働者が不足している業種では、労働者側が優位に立つこともあるでしょう。

さらに、入社後は会社に対する貢献度に応じて、優位に立つ労働者と、弱い立場の労働者に分かれてくるでしょう。

 

いずれにせよ、労働者と使用者が対等の立場で話し合い、制服代やそのクリーニング代、筆記用具などについて労働者の負担とすることは、そのような内容の労働契約になるのであって、法令の規定に触れることはありません。

 

<労働条件の明示>

とはいえ、制服代や備品代の負担も労働条件の一つです。

労働条件を口頭で説明されただけでは不明確ですから、主なものは文書にして労働者に交付することが使用者に求められています。

そこで、労働基準法は労働条件の明示について、次のように規定しています。

 

(労働条件の明示)

第十五条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

明示すべき事項は労働基準法施行規則第5条第1項に規定されています。

制服代や備品の負担は、(8)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項 に含まれます。

労働者に対して制服代や備品の負担について明示しないまま雇い入れてしまったなら、これらを負担させることは労働条件の明示義務違反になります。

 

<就業規則の項目にも>

「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」が就業規則に規定する事項として法定されています。〔労働基準法第89条第5号〕

「負担をさせる定めをする場合」には、就業規則に規定を置かなければなりませんし、定めをしない場合には、就業規則に規定を置きようがありません。

就業規則に規定が無いにもかかわらず、うっかり労働者に負担させてしまうと、労働基準法違反になってしまいます。

 

労働者の負担になることは、法令で規制されている可能性を考えて、社会保険労務士などの専門家に確認してから行うようにすることをお勧めします。

社内で自分がいない時に悪口を言われるのはパワハラか

2025/05/13|1,499文字

 

<パワハラの定義からすると>

職場のパワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」ものをいいます。〔労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2第1項〕

この条文を見ると「就業環境が害される」、つまり労働者が安心して業務に取り組めなくなったり、出社したくなくなったりという実害の発生が、パワハラの成立条件のようにも見えます。

しかしパワハラは、企業の労働力を奪い、生産性を低下させるものですから未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)では、次のように規定されています。

 

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

これらのことからすると、直接被害者に向けられた行為でなくてもパワハラとなりうることが分かります。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

行為者は、パワハラをしてやろうと思って、パワハラを行っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

パワハラで問題となる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

これらの人権侵害行為は、業務と無関係に行われれば、パワハラの定義にはあてはまらなくても、国家により刑罰を科され、被害者から損害賠償を請求されることがあります。

 

<悪口を言うと成立しうる犯罪>

名誉毀損罪〔刑法第230条〕は、公然と事実を摘示(てきじ)して名誉を毀損することで成立します。

「摘示」というのは、あばくこと、示すことです。

示した事実は、原則として、真実であっても嘘であってもかまいません。

しかし、「公然と摘示」するのが条件ですから、他の人には知られないように、直接の相手だけに事実を摘示した場合には成立しません。

また、「事実を摘示」しないで名誉を棄損すると侮辱罪〔刑法第231条〕となります。

結局、本人がいない所で悪口を言うのは、パワハラにならなくても犯罪になりうるということです。

 

<パワハラとなる陰口>

以上のことから、本人のいない所で陰口を叩いたとしても、その内容が間接的に本人の耳に入ったり、陰口を聞いた人の本人に対する態度が変わったりで、本人の就業環境が害されうるのであれば、確実にパワハラとなります。

また、陰口を聞いた人も、直接自分のことが言われているのではなくても、「自分も陰でなんと言われているか分からない」と感じて就業環境が害されることもあります。

こうして見ると、ただ単に陰口を叩くような場合でも、業務上必要の無い雑談の中で悪口を言っているに過ぎない場合でも、パワハラに該当することがあると分かります。

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