2021/09/06|1,302文字
<ノーワーク・ノーペイの原則>
「ノーワーク・ノーペイ」とは、「労働者の労務提供がなければ会社は賃金を支払わなくてよい」という原則のことです。
これを直接規定した法令はありませんが、労働契約法には次の規定があります。
(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
つまり、労働者の労働に対して使用者が賃金を支払う約束だということです。
裏を返せば、労働者が労働しなければ使用者に賃金支払い義務は無いのです。
もちろん、使用者側に何か落ち度があれば、賃金の全額または一部の支払義務が生ずることはあります。
それでも、電車の遅れに対して、一般には使用者側に落ち度が無いので、やはり賃金の支払い義務は無いのです。
つまり、電車が遅れて勤務できなかった時間の賃金について、会社が欠勤控除をせず全額支払うというのは、法令によるものではなく会社の恩恵的な取扱いだということになります。
ただ、電車の遅れによる遅刻について欠勤控除をしない会社の比率は高いですから、欠勤控除をするルールの会社では社員の不満が生じやすいでしょう。
<証明を求める会社>
遅刻の報告書に遅延証明書を添えれば、証明された遅延時間の範囲内で、欠勤控除をしないというルールの会社が多数派でしょう。
遅延証明書は、多くの鉄道会社でネット交付のサービスがありますから、ずいぶんお手軽になってきました。
<証明を求めない会社>
遅延証明書が無くても、本人が申し出れば欠勤控除をしないというルールの会社もあります。
改札口で遅延証明書をもらうための列に並ぶよりは、1分でも早く業務を開始してもらった方が、会社にとって得かもしれません。
また電車遅延の情報は、ネットで容易に得られるようになりましたから、社員のひとり一人から遅延証明書をもらうよりも、人事部門で一括して情報を把握し処理した方が、人件費の節減になります。
<問題社員のケース>
欠勤控除をしない会社の場合、次のような不正行為がありえます。
本当は寝坊してタクシーで駆けつけたのに、ネットで検索して、たまたま電車の遅延情報を見つけたから、遅延証明書をダウンロードして使用するということはありえます。
大雪などで、早朝から電車の大幅遅延が見込まれているのに、いつも通りの時刻に自宅を出発し、遅延証明書の範囲で賃金が得られるなら良しとする社員もいます。
このあたりは、教育研修や人事考課の適正な運用で対応すべきことでしょう。
<鉄道会社の賠償義務>
さて、電車の遅れによって賃金が減ったら、社員は減った分の賃金を損害として鉄道会社に請求できるのでしょうか。
直感的に無理だというのはわかります。
鉄道会社と乗客との間には旅客運送契約があります。読んだことがなくても有効なのは、電気会社やガス会社などとの契約と同様です。
この旅客運送契約に関して、各鉄道会社は営業規則を定めていて、鉄道会社は運行不能や2時間以上の遅延の場合などに料金の払い戻しはするものの、それ以上の損害等について責任を負わないことになっています。