定年後再雇用での雇止め

2025/09/22|1,471文字

 

定年再雇用後の有期労働契約が満了した際に契約を更新しない、いわゆる「雇止め」には、法的・社会的に多くの問題点が存在します。以下では、制度の背景、法的枠組み、裁判例、そして企業・労働者双方にとっての課題を整理しながら、分かりやすく解説します。

 

定年再雇用制度の背景>

日本では高年齢者雇用安定法(高年法)により、企業は原則として希望者全員に対し、65歳までの雇用確保措置を講じる義務があります。多くの企業は「継続雇用制度」を採用し、定年退職後に有期契約(嘱託など)で再雇用する形を取っています。

 

有期契約と雇止めの法的枠組み>

再雇用契約が有期である場合でも、契約満了による不更新(雇止め)は自由ではありません。労働契約法第19条が適用され、以下の2つの条件のいずれかに該当する場合には、契約更新拒否には「客観的合理的理由」と「社会的相当性」が必要です。

・実質的に無期契約と同視できる場合(1号)

・労働者が契約更新を期待する合理的理由がある場合(2号)

この法理は「雇止め法理」と呼ばれ、定年後再雇用者にも適用されます。

 

裁判所による判断>

裁判所によって、雇止めが無効とされた例、有効とされた例には、次のようなものがあります。

 

✕雇止めが無効とされた例

・テヅカ事件(福岡地裁令和2年)

定年後に2回更新された後、業績不振を理由に雇止めされた事案。裁判所は、65歳までの継続雇用を期待する合理的理由があると認定し、雇止めを無効としました。

・エボニック・ジャパン事件(東京地裁平成30年)

人事考課基準を満たしていたにもかかわらず雇止めされた事案。裁判所は、更新拒否に合理性がないとして無効と判断。

 

○雇止めが有効とされた例

・損害保険料率算出機構事件(東京地裁平成30年)

65歳以降の契約更新に関して、企業が選抜制度を導入していたため、更新期待に合理性がないと判断され、雇止めは有効とされた。

 

<雇止めの問題点>

雇止め法理や裁判例を参考にするうえで、次のような問題点があります。

 

  1. 更新期待の有無が曖昧

再雇用契約が形式上は有期でも、実態として継続雇用が慣例化している場合、労働者は更新を期待しやすく、企業側の一方的な雇止めはトラブルの火種になります。

 

  1. 企業側の説明責任

契約更新拒否には合理的理由が必要ですが、企業がその理由を明確に説明しない場合、労働者の納得を得られず、訴訟リスクが高まります。

 

  1. 高年法との整合性

65歳までの雇用確保義務との関係で、企業は原則として希望者を雇用し続ける必要があります。これに反する雇止めは違法とされる可能性があります。

 

  1. 職場の士気や公平性

不透明な雇止めは、他の従業員の不安や不信感を招き、職場の士気や組織文化に悪影響を及ぼします。

 

<企業が取るべき対応>

トラブルが発生しないようにするには、事前の準備が必要です。

まず、契約書や就業規則を整え、再雇用契約の更新条件や終了事由を明確に記載し、労使間の認識を一致させます。

また、評価制度を透明化し、更新判断に用いる人事考課などの基準を明示し、納得性を高めます。この点で、定年後に評価制度を置かないことは、危険でありお勧めできません。

さらに、雇止めを検討する場合は、事前に本人と面談し、理由や今後の見通しを丁寧に説明します。

 

<実務の視点から>

定年再雇用後の有期契約満了による不更新は、単なる契約終了ではなく、労働者の生活や尊厳に直結する重大な問題です。

企業は法的義務だけでなく、社会的責任を果たす姿勢が求められます。労働契約法第19条や高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえ、慎重かつ誠実な対応が不可欠です。

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