2025/09/17|1,378文字
<なぜ「100%経営者の味方」が問題なのか?>
「100%経営者の味方」「いつでも労働者の味方」といった広告表現は、一見すると依頼者に寄り添う姿勢を示しているように見えます。しかし、社会保険労務士(以下、社労士)は国家資格者として、法令に基づき「公正な立場」で業務を行うことが義務付けられています。
そのため、こうした一方的な立場を強調する表現は、社労士法や職業倫理に反する「不適切な広告」とされ、社労士会でも問題視されています。
<社労士法における職責>
(社会保険労務士の使命)
第一条 社会保険労務士は、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与することにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上並びに社会保障の向上及び増進に資し、もつて豊かな国民生活及び活力ある経済社会の実現に資することを使命とする。
(社会保険労務士の職責) 第一条の二 社会保険労務士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。 |
このように、社労士は「事業の健全な発達」と「労働者の福祉向上」の両方に資することが求められており、労使いずれかに偏った姿勢は制度の趣旨に反します。
<なぜ「中立性」が重要なのか?>
社労士は、企業の人事・労務管理を支援する立場でありながら、労働法令の専門家として、労働者の権利保護にも責任を負っています。
企業が法令違反をしている場合には、社労士は是正を促す義務がありますし、 従業員に問題行動がある場合には、企業側に適切な対応を助言します。
つまり、状況に応じて「企業側」「労働者側」の立場に立つことはありますが、それはあくまで「法令に基づく中立的な判断」によるものであり、「全面的に味方する」という姿勢とは異なります。
<広告・情報発信における注意点>
社労士が広告やWebサイトを通じて情報発信を行う際には、以下の点に留意する必要があります。
○ 適切な表現の例
「労使双方の立場に配慮し、法令に基づいた支援を行います」
「企業の健全な発展と従業員の福祉向上を支援します」
「労働法令に精通した専門家として、誠実に対応します」
✕ 避けるべき表現の例
「経営者の味方として従業員と戦います」
「助成金の成功率100%」「絶対に受給できます」
「社会保険料を劇的に削減します」
これらは、誇大広告・誤解を招く表現・公正性を欠く表現として、社労士会の倫理規定に抵触する可能性があります。
<実務上のバランス感覚>
現実の業務では、社労士が企業から顧問料を受け取っているため、企業寄りの立場になることは自然です。しかし、それでも「労働者を敵視する」「権利を軽視する」ような姿勢は許されません。
むしろ、労働者の権利を尊重し、企業が法令を遵守することで、結果的にトラブルを未然に防ぎ、企業の持続可能性を高めることが社労士の本来の役割です。
<まとめ>
「100%経営者の味方」といった広告表現は、社労士制度の目的や職業倫理に反する不適切な表現です。社労士は、労使双方の立場に配慮し、公正かつ誠実に業務を行うことが求められています。
広告や情報発信においては、依頼者への訴求力と職業倫理のバランスをとりながら、信頼される専門家としての姿勢を示すことが重要です。