飲酒が原因で体調を崩している従業員への会社の対応

2025/09/16|1,428文字

 

職場において、従業員が飲酒によって体調を崩し、業務に支障をきたすケースは少なくありません。飲酒そのものは私的な行為ですが、業務への影響が生じた場合、企業としては適切な対応が求められます。対応のポイントは、「健康配慮」と「業務管理」の両立です。

 

法的・制度的な背景>

法的な背景としては、次のようなことがあります。

 

  1. 安全配慮義務(労働契約法第5条)

企業は、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する義務を負っています。飲酒による体調不良も、健康管理の一環として対応が必要です。

 

  1. 就業規則による秩序維持

多くの企業では、就業規則に「勤務時間中の飲酒禁止」「業務に支障をきたす行為の禁止」などが定められており、違反があれば指導や懲戒の対象となる場合があります。

 

  1. 労災との関係

飲酒が原因で業務中に事故を起こした場合、労災保険の適用が制限される可能性があります。企業としても、予防的な対応が重要です。

 

実務上の対応ステップ>

飲酒による体調不良が疑われる従業員に対しては、以下のような段階的な対応が有効です。

 

  1. 状況の把握と初期対応

体調不良の申告を受けた場合、まずは本人の体調を優先し、休養や医療機関の受診を促します。勤務継続が困難な場合は早退や休暇取得を検討します。

体調不良の原因が飲酒であるかどうかは、本人の申告や周囲の状況から慎重に確認します。憶測で判断せず、事実に基づく対応が重要です。

 

  1. 面談・ヒアリングの実施

プライバシーに配慮しつつ、体調不良の背景や飲酒習慣について丁寧にヒアリングします。責めるのではなく、支援の姿勢を示すことが信頼関係につながります。

遅刻・欠勤・業務ミスなど、飲酒による影響が業務に及んでいる場合は、具体的な事実を整理し、改善の必要性を伝えます。

 

  1. 指導と支援のバランス

業務に支障がある場合は、就業規則に基づき注意・指導を行います。再発防止のため、具体的な改善策(飲酒量の調整、休肝日の設定など)を提案することもあります。

産業医との面談、健康相談窓口の案内、メンタルヘルス支援などを通じて、本人の生活習慣改善を支援します。

飲酒が習慣化し、業務に繰り返し影響を及ぼす場合は、依存症の可能性も視野に入れ、専門機関との連携を検討します。

 

  1. 再発防止と職場環境の整備

飲酒と健康に関する社内研修やポスター掲示などを通じて、従業員全体の意識向上を図ります。

飲酒を強要しない、ノンアルコールの選択肢を用意するなど、職場文化の改善も重要です。

明文化されたルールを周知し、違反時の対応方針を明確にしておくことで、予防につながります。

 

注意すべきポイント>

・プライバシーへの配慮:飲酒に関する情報は個人の私生活に関わるため、取扱いには慎重を期す必要があります。

・偏見や差別の防止:飲酒による体調不良を理由に、人格否定や差別的な扱いをすることは、職場の信頼を損ないます。

懲戒処分の判断:業務命令違反や重大な支障がある場合でも、懲戒処分は事実確認と手続の厳格な運用が求められます。

 

<実務の視点から>

飲酒が原因で体調を崩している従業員への対応は、「健康支援」と「業務管理」の両面から、冷静かつ丁寧に進めることが重要です。企業が一方的に責めるのではなく、本人の改善意欲を引き出し、職場全体の健全な環境づくりにつなげることが、持続可能な組織運営の鍵となります。

「飲酒は私的な行為でも、職場に影響が出れば会社の責任領域になる」——この視点を持ち、制度・意識・環境の三位一体で対応していきましょう。

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