2025/09/20|1,616文字
労働条件通知書は、労働契約の内容を明示するために使用される重要な書類です。労働基準法第15条により、使用者は労働契約の締結時に、賃金・労働時間・休日などの主要な労働条件を「書面等」で明示する義務があります。これがなされていない場合、企業と労働者の間でさまざまなトラブルが発生する可能性があります。
<賃金・労働時間に関するトラブル>
代表的な事例として、「残業代が正しく支払われない」「所定労働時間が何時から何時までか分からない」「休憩時間が取れない」などのトラブルがあります。
労働条件通知書がないと、賃金体系や労働時間の定義が曖昧になり、労働者は自分が何に対して報酬を受けているのかを把握できません。結果として、不払賃金の請求や、労働基準監督署への申告につながることがあります。
<休日・休暇に関する誤解と不満>
代表的な事例として、「週休2日だと思っていたのに、実際は月6日しか休めない」「年次有給休暇がいつから取得できるのか分からない」などがあります。
休日や休暇の制度が明示されていないと、労働者は自分の権利を正しく理解できず、企業との認識のズレが生じます。これが職場への不信感や離職につながることもあります。
<契約期間・更新条件の不明確さ>
代表的な事例として、「契約社員だが、更新されるかどうかが毎回不安」「突然契約終了を告げられた」などがあります。
有期契約の場合、契約期間や更新の有無・基準を明示しないと、雇用の安定性に対する不安が生じます。トラブルに発展すると、不当解雇や雇止めとして法的に争われる可能性があります。
<試用期間の扱いに関する混乱>
代表的な事例として、「試用期間中は社会保険に入れないと言われた」「本採用されると思っていたのに、突然解雇された」などがあります。
試用期間の有無・期間・待遇・本採用の判断基準などが明示されていないと、労働者は不安定な立場に置かれます。試用期間中の解雇が解雇権の濫用であり、不当解雇として無効と判断されるケースもあります。
<職務内容・勤務地の不一致>
代表的な事例として、「営業職として採用されたのに、実際は倉庫作業だった」「勤務地が東京と聞いていたのに、地方に転勤させられた」というのがあります。
職務内容や勤務地が明示されていないと、企業側の一方的な配置変更がトラブルの原因になります。労働者が「騙された」と感じることで、信頼関係が崩れ、訴訟に発展することもあります。
2024年4月の法改正によって、職務内容や勤務地の変更の範囲も明示義務の内容に加わりましたので、特に注意が必要です。
<社内制度・福利厚生の誤認>
代表的な事例として、「住宅手当があると思っていたのに、自分は対象外だった」「育児休業が取れると思っていたが、制度が整っていなかった」などがあります。
福利厚生や社内制度は、企業ごとに異なるため、明示がなければ誤解を招きます。制度の有無や適用条件を明確にしないと、従業員満足度の低下や離職につながります。
<労働基準監督署・裁判所とのトラブル>
代表的な事例として、労働者が「契約内容が不明確」として労基署に申告したり、証拠がないため企業側が不利な立場に立たされたりということがあります。
労働条件通知書がないと、企業側が契約内容を証明できず、トラブル時に不利になります。裁判や労働審判では、書面による証拠が重視されるため、通知書の不備は大きなリスクです。
<通知書は「トラブル予防の盾」>
労働条件通知書は、単なる形式的な書類ではなく、企業と労働者の信頼関係を築くための「契約の土台」です。これがないと、誤解・不満・不信・訴訟といったトラブルの火種が生まれやすくなります。
社会保険労務士としては、企業に対して以下のような支援が可能です。
・労働条件通知書の作成・見直し支援
・雇用契約書や労働実態との整合性確認
・就業規則との連動設計
・労働者への説明資料の作成
・トラブル事例を踏まえた啓発活動