2025/09/18|1,307文字
会社経営者から「特定の社員の残業が多く、何とかしたい」という相談を受けた場合、社会保険労務士は単なる労働時間の削減だけでなく、法令遵守・業務改善・職場環境の向上を視野に入れた総合的なアプローチが求められます。
<現状把握と事実確認>
まずは、残業の実態を正確に把握することが重要です。
タイムカードや勤怠システムの記録をもとに、対象労働者の残業時間を月別・週別に確認します。三六協定の範囲内かどうかもチェックします。労働時間の把握が不正確である場合には、対象労働者への聞き取りなどによって確認します。
対象労働者に対して、業務の内容・量・進め方・困難な点などをヒアリングし、業務過多や属人化の有無を探ります。
同じ部署や同様の業務を担当する社員と比較し、業務配分やスキル差、役割の偏りがないかを確認します。
<法令遵守の観点からの助言>
残業が法定労働時間を超えている場合、労働基準法や三六協定の遵守状況を確認し、必要に応じて改善を促します。
特別条項付きかどうか、上限時間(月45時間、年360時間)を超えていないかなど三六協定を確認します。
月80時間以上の残業があると、労働基準法違反だけでなく、過労死ラインに達する可能性があるため、産業医面談や健康管理措置の必要性を説明します。
勤怠記録の不備やサービス残業がないかを確認し、労働時間の適正な把握と管理体制の構築を提案します。
<業務改善・組織改善の提案>
残業の根本原因が業務量や組織体制にある場合、以下のような改善策を提案します。
業務内容を洗い出し、他の社員への分担やチーム内の再配分を検討します。属人化している業務はマニュアル化や教育によって分散可能にします。
非効率な業務や手作業が多い場合は、ITツールの導入や業務フローの改善を提案します。
慢性的な人手不足が原因であれば、増員や外部委託の検討も必要です。
<労働者とのコミュニケーション支援>
対象労働者が自発的に残業している場合や、責任感から業務を抱え込んでいる場合もあります。
経営者と労働者の面談を設定し、業務負担や働き方について率直に話し合う場を設けるよう助言します。
「長時間働くことが評価される」という職場文化がある場合は、成果や効率を重視する評価制度への転換を提案します。
<就業規則・制度面の整備>
制度的な裏付けがないと、改善が一時的なものに終わる可能性があります。
事前申請制や上司の承認制を導入し、残業の必要性を精査する仕組みを整えます。ただし、事後的に不承認とすることにより、不払残業を発生させることがないようにします。
フレックスタイム制や時差出勤など、柔軟な働き方を可能にする制度を導入することで、業務の集中や偏りを緩和できます。
長時間労働ではなく、成果やプロセスを評価する制度に変更することで、働き方の改善を促します。
<社内への啓発・研修支援>
改善策を定着させるためには、職場全体の意識改革が必要です。
管理職向けに、業務配分や部下の労働時間管理に関する研修を実施し、マネジメント力の向上を図ります。
法令遵守や健康管理の重要性について、社内報やポスター、ミニセミナーなどで労働時間についての啓発活動を行います。