女性取締役の産休育休

2024/01/15|2,037文字

 

<取締役と労働法>

取締役は、一般的には労働者ではないとされています。労働者は、会社との間で労働契約が成立していますが、取締役は委任契約です。このため、労働基準法や労働契約法などの労働法は、取締役には適用されません。

ただし取締役であっても、一部について労働者と同様の業務を行っている兼務役員の場合には、その部分について労働者とみなされ、労働法や労働保険の適用があるとされています。

ここでは単純化のため、労働者性をもたない純然たる取締役について、説明させていただきます。

 

<産前産後休業>

産前産後休業は、労働者を対象とする労働基準法に規定されています。したがって、取締役は対象外です。

ただし、会社の取締役規程などに、関連規定が置かれていることもあり、こうした規定がない場合でも、会社が一定の配慮をすることがあります。

 

<出産育児一時金>

出産育児一時金とは、出産の経済的な負担を軽減するために、健康保険や国民健康保険などの公的医療保険から支給される一時金です。出産育児一時金の支給額は、令和5年4月以降の出産では、子ども1人あたり50万円です。健康保険の適用については、取締役か労働者かということは問題とされません。取締役であっても、健康保険加入者(被保険者)として、問題なく給付を受けることができます。

男性役員の場合にも、扶養家族(被扶養者)が出産した場合には、家族出産育児一時金を受けることができます。

 

<出産手当金>

出産手当金は、健康保険に加入している女性が、出産のために仕事を休んだときに支給されます。出産手当金の支給額は、労務に従事しなかった1日につき、「支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額」を30日で割った額の3分の2にあたる金額です。ただし報酬が出ている場合、報酬が出産手当金より多いときは支給されず、報酬が出産手当金より少ないときは差額が支給されます。

労働基準法に定められた産前産後休業期間、つまり出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、仕事を休んだ期間に対して支給されます。

出産手当金の給付についても、取締役か労働者かということは問題とされません。取締役であっても、健康保険加入者(被保険者)として、問題なく給付を受けることができます。しかし取締役の場合には、会社との間で、休業中も報酬が支給される契約となっていることもあり、この報酬が出産手当金より多いために、支給されないことがあります。

 

<産休中の社会保険料免除>

産休中の社会保険料免除とは、出産のために仕事を休んだ女性が、健康保険や厚生年金保険の保険料を、労働基準法に定められた産前産後休業の間、免除される制度です。事業主と社会保険加入者(被保険者)両方の負担分が免除されます。

これは、働く女性の母性健康管理、母性保護の観点から設けられていますので、取締役であっても対象となります。また、労務に従事しないことが要件とされており、報酬の有無は問われません。

 

<育休中の社会保険料免除>

育児休業中の社会保険料免除とは、3歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、健康保険や厚生年金保険の保険料が、事業主と社会保険加入者(被保険者)両方の負担分について免除される制度です。保険料免除の期間は、育児休業を開始した月から終了した月の前月までです。

この前提となる育児休業は、育児介護休業法に規定されています。育児介護休業法は、労働者が育児や家族の介護のために、休業や時間短縮などの制度を利用できるようにする法律です。この法律は労働者にのみ適用されるため、取締役は対象外となります。つまり、取締役は育児介護休業法に基づく育児休業や介護休業を取得することができません。

こうしたことから、取締役は、育児休業中の社会保険料免除制度が、利用できないことになります。

 

<育児休業給付金>

育児休業給付金とは、雇用保険の加入者(被保険者)が、原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、一定の要件を満たすと支給される給付金です。

取締役には育児介護休業法が適用されず、雇用保険の加入者(被保険者)でもないため、取締役は育児休業給付金の対象とはなりません。

 

<女性取締役への配慮>

女性の活躍というと、女性活躍推進法が思い浮かびます。女性活躍推進法の目的は、就労し、活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することです。この目的に沿って、国、地方公共団体、企業のそれぞれに責務の実行を求めています。

この法律の正式名称は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」となっており、その基本原則などから、労働者を対象としていることが明らかです。つまり、女性取締役は対象外となります。

今後は、女性取締役への配慮についても、法的な整備が期待されるところですが、現状では、各企業の対応に任されているといえるでしょう。

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