退職日までの年次有給休暇取得期間中にダブルワーク(副業)で働くことの問題点

2025/08/02|1,142文字

 

退職前に年次有給休暇を消化する社員は少なくありませんが、この期間中に「別の仕事を始めたい」「副業をしたい」と考えるケースもあります。

一見すると「退職が決まっているし自由では?」と思われがちですが、有給休暇期間中も法的には「在籍中」であるため、企業との関係性や契約義務が続いている点に注意が必要です。

 

法的な位置づけ>

有給休暇とは「労働義務を免除されながら賃金が支払われる期間」であり、雇用契約は退職日まで有効です。就業規則や雇用契約の定めにより、副業禁止などの行為規制が適用されるのもこの間を含みます。

このことから、就業規則で副業を禁止している企業の場合、有給休暇中の副業も規定違反とみなされる可能性があります。法的には「会社の正当な業務命令」や「利益相反防止」の観点から、副業制限は一定の合理性を持ちます。

 

主な問題点とリスク>

具体的な問題点としては、次のようなものが考えられます。

 

問題点1 就業規則違反による懲戒の可能性

副業が就業規則違反に該当する場合、退職前であっても「注意」「けん責」などの懲戒対象になる可能性があります。特に、転職先が同業他社の場合や、企業の機密情報の持ち出しが疑われる場合は、法的トラブルに発展するリスクもあります。

 

問題点2 社会保険・雇用保険の取り扱い

有給休暇期間中は、元の会社の被保険者資格が継続しているため、同時に別企業で雇用保険に加入できないなど、保険手続きに齟齬が起きた場合、後々の給付トラブルや行政調査に発展することもあるため注意が必要です。

 

問題点3 社内外の信頼・退職時のトラブル

本人が副業の事実を隠していた場合、発覚時に「不誠実な対応」と捉えられることがあります。退職時の円満さが損なわれるだけでなく、場合によっては退職金の支払い条件に影響することもあります(例:懲戒処分による退職金不支給規定)。

 

会社としての対応ポイント>

退職予定者が、年次有給休暇を消化して退職する場合を想定し、会社も適切な対応が求められます。

まず、有給消化に入る前に、転職先の勤務開始予定や副業予定を確認しておくことで、規定違反の予防につながります。

また、「有給休暇期間中の副業の可否」「秘密保持義務の継続」「社会保険に関する注意点」などを就業規則・退職ガイドラインに明記しておくと実務上有効です。

さらに、副業が明らかになった場合も、契約違反かつ損害があるか否かを冷静に判断し、感情論に流されず法的根拠に基づいて対応します。

 

<実務の視点から>

年次有給休暇取得中の副業は、「会社との契約が続いている在籍期間」であることを踏まえ、慎重に検討すべき行為です。企業としては、就業規則の整備と社員への周知、退職面談での確認を通じて、トラブルの未然防止を図ることが求められます。

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