労働条件通知書と雇用契約書とでは役割が異なります。両方を兼ねるというのは矛盾しています。

2025/03/03|1,581文字

 

<労働条件通知書>

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。〔労働基準法第15条第1項〕

そして、厚生労働省令で定める事項について、使用者が漏れなく明示できるよう、厚生労働省は労働条件通知書の様式をWordとPDFで公表しています。

常に最新の様式をダウンロードして利用していれば、法令の改正にも対応できます。

「労働条件通知書」という文書名からも、「明示」が目的であることからも、使用者から労働者への一方的な通知であることは明らかです。

労働者の氏名は、宛名として表示されていますが、署名欄はありません。

使用者は、これを1部だけ作成して労働者に交付すれば、労働条件を明示したことになります。ただし、これだけでは使用者の手元に控えが残りません。

この通知書に記載された内容について、労働者が疑問を抱けば、使用者に説明を求めることになります。

 

<雇用契約書>

労働契約(雇用契約)は口頭でも成立しますから、契約書の作成は義務ではありません。

ただ、使用者が労働者に労働条件通知書を交付しても、紛失されたり、知らないと言われたりしたら困るので、契約書を作成したほうが安心とも言われます。

契約書は2部作成し、労使双方が署名(記名)・捺印して、1部ずつ保管するのが通常です。

雇用契約書には、労使双方の意思表示が合致した内容が記載されています。

ですから、意思表示が合致して契約書が交わされた後、記載内容について疑問が生じるのは困るのですが、この場合には、労使双方が誠意をもって協議し内容を確定することになります。

 

<労働条件通知書兼雇用契約書>

労働条件通知書と雇用契約書の両方を作成するのは面倒ですから、法令によって明示が義務付けられている項目をすべて含む形で雇用契約書を作成し、労働条件通知書を兼ねるということも行われます。

しかし、一方的な通知と合意の内容を1つにまとめるというのは、論理的な矛盾をはらみます。

書類の内容について疑問が発生した場合には、使用者側が説明すれば足りるのか、労使で協議が必要なのかは不明確です。

ここに紛争の火種を抱えることになりそうです。こうした危険な書類のひな形は、社会保険労務士ではないしろうとが使います。

 

<労働条件通知書を用いる場合の不都合解消>

労働条件通知書には、労働者の署名欄は無いのですが、これを設けたら無効になるというわけではありません。

末尾に「上記について理解しました。疑義があれば本日より2週間以内に申し出ます」という欄を設け、日付、住所、氏名を自署してもらうこともできます。

そしてコピーを会社の控えとする旨を説明し、原本をご本人に渡せば、後から「知らない。忘れた」という話も出てこなくなるでしょう。

この書類には、就業規則のある場所も明示しておくことをお勧めします。就業規則を周知していることの証拠となります。

 

<雇用契約書を用いる場合の不都合解消>

この場合の不都合としては、契約書内の記載について疑問が発生した場合には、労使が相談して内容を確定することになるという煩わしさです。

このことが紛争の火種ともなってしまいます。

ですから、判断が必要な項目については、「会社の判断により」という言葉を加えておく必要があるでしょう。

たとえば、試用期間中に「しばしば遅刻・欠勤があった場合には本採用しない」という内容があれば、「しばしば」に判断の幅が発生してしまいます。

ここは「しばしば遅刻・欠勤があったと会社が判断した場合には本採用しない」といった文言にしておき、不合理な解釈でない限りは、本採用の基準を会社のイニシアティブで決定できるようにしておくのです。

 

労働条件通知書を使用するにせよ、雇用契約書を使用するにせよ、紛争の火種を抱えないよう、ひな形に一手間加えることをお勧めします。

適正な成果給の導入と運用のために

2025/03/02|2,103文字

 

<就業規則による労働条件の変更>

年功序列を疑われるような給与制度を改め、成果主義の給与とすることは、有能な若者を採用し定着させるのに必要なことでしょう。

しかし、給与が減ることになる人もいるでしょうし、給与が大きく変動すれば年収が不安定になります。

こうした不都合があっても、成果主義給与制度を導入できる基準とはどんなものでしょうか。

 

労働契約法に、次の規定があります。

 

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

 

つまり、就業規則の変更によって、給与などの労働条件を変えた場合には、それが合理的であればその通りの効力が認められるということです。

反対に、合理的でなければ、たとえ就業規則を変えても、それによって一人ひとりの労働条件は変わらないということです。

この中の「合理的」というのは、「労働契約法の趣旨や目的に適合する」という意味だと考えられます。

それでも、この条文を読んだだけでは良く分かりません。

 

<最高裁判所の判例>

労働契約法という法律は、17年余り前に判例法理がまとめられて作られました。

判例法理というのは、それぞれの判決を下すのに必要な理論で、判決理由中の判断に含まれているものです。

そして、最高裁は次のように述べています。

 

合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである」(最高裁判所昭和43年12月25日大法廷判決)

 

<変更を有効だとした裁判例1>

会社が赤字のときには、賃金の増額を期待できないし、8割程度の従業員は賃金が増額しているので、不利益の程度はさほど大きくない。

収益改善のための措置を必要としていたこと、労働組合と合意には至らなかったものの、実施までに制度の説明も含めて8回、その後の交渉を含めれば十数回に及ぶ団体交渉を行っており、労働組合に属しない従業員はいずれも新賃金規程を受け入れていることから、新給与規定への変更は合理性がある。

(ハクスイテック事件 大阪高裁平成13年8月30日判決)

 

<変更を有効だとした裁判例2>

主力商品の競争が激化した経営状況の中で、従業員の労働生産性を高めて競争力を強化する高度の必要性があった。

新賃金制度は、従業員に対して支給する賃金原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものであって、どの従業員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格し、昇給することができるという平等な機会を保障している。

人事評価制度についても、最低限度必要とされる程度の合理性を肯定し得るものであることからすれば、上記の必要性に見合ったものとして相当である。

会社があらかじめ従業員に変更内容の概要を通知して周知に努め、一部の従業員の所属する労働組合との団体交渉を通じて、労使間の合意により円滑に賃金制度の変更を行おうと努めていたという労使の交渉の経緯や、それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られたことなど諸事情を総合考慮するならば、上記のとおり不利益性があり、現実に採られた経過措置が2年間に限って賃金減額分の一部を補てんするにとどまるものであっていささか性急で柔軟性に欠ける嫌いがないとはいえない点を考慮しても、なお、上記の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるといわざるを得ない。

(ノイズ研究所事件 東京高裁平成18年6月22日判決)

 

<実務の視点から>

ここには裁判所が有効と判断したものだけを紹介していますが、具体的な事情によって、裁判所の判断は分かれます。

変更を有効だとしたノイズ研究所事件の判決も、具体的な事情を踏まえたギリギリの判断であったことが伺えます。

結論として、就業規則の変更により成果主義の給与とするには、新しい給与制度そのものの合理性も必要ですし、説明会などの段取りも大事です。

どこまでやれば良いかは、数多くの労働判例を見比べて考えなければなりません。

こうした専門性の高いことは、素人判断で進めてしまわず、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

 

以上は、就業規則がある会社についての話です。

就業規則が無い会社では、労働契約法の次の規定が適用され、一人ひとりの労働者の同意が必要になりますのでご注意ください。

 

第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

 

昭和時代の慣行が続いている年次有給休暇では従業員がかわいそう

2025/03/01|1,365文字

 

<年次有給休暇の実態>

年次有給休暇を取得するのは、病気やケガで受診したいとき、銀行や役所で本来の出勤日に休んで手続したいとき、お子さんの学校行事に参加したいときなどが、多いのではないでしょうか。

また、年次有給休暇を取得するのに、理由の申出は不要なのですが、「この日は〇〇があるので」など言い訳をしていることもあるでしょう。

 

<年次有給休暇の本来の趣旨>

労働基準法には、なぜ年次有給休暇の付与が法定されているのか、なぜ年次有給休暇の最低日数が法定されているのか、その趣旨とするところは何なのかなどについて説明がありません。

しかし厚生労働省は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度だと説明しています。

また、年次有給休暇の法的性格について、最高裁判所は「年次有給休暇の権利は、労働者が客観的要件を充足することによって、法律上当然に発生する権利であり、労働者が年次有給休暇の請求をしてはじめて生ずるものではない」としています(昭和48年3月2日白石営林署最高裁判決)。

 

<労働基準法の規定>

労働基準法第39条は、労働者の勤続期間、所定労働日数・時間に応じて、年次有給休暇の最低付与日数を定めています。また、時間単位の年次有給休暇、時季指定権・時季変更権、計画的付与制度、使用者の付与義務、取得した時の賃金などについても規定しています。

しかし、これらの規定を見る限り、年次有給休暇を付与する趣旨を汲み取ることはできません。

 

<海外での休暇の使われ方>

有給休暇の制度がある国では、長期の連休が年度単位で計画化され取得されていることが多いようです。

一人ひとりの労働者が、「来年度は6月1日から6月20日までを連休にする」といった指定をします。これは「取得日」の指定というよりも、「取得時季」の指定です。日本でも本来は、こうした形での指定が想定されたため、労働基準法も「時季」という用語を使っています。

こうして、その職場のすべての労働者から、次年度の休暇時季についての指定が集まったところで、特定の時季に休暇が集中してしまって、事業の正常な運営を妨げることとなる場合には、調整のため何人かの労働者に休暇時季の変更を指示します。労働基準法に規定された使用者の時季変更権は、この趣旨で設けられたものと考えられます。

この時季変更を、いつも同じ労働者にしてもらっていたのでは不公平が生じます。そこで、部署単位で優先順位を決めておき、この優先順位を毎年交代していくということが行われます。

 

<本来の趣旨に沿った年次有給休暇の運用>

年度単位で、あるいは半年単位で、各個人の年次有給休暇取得日を計画してしまいます。何事もなければ、この計画に従って、取得することになります。すでに調整済みですから、基本的には、事業の正常な運営を妨げることがありません。

もし、病気や用事などで、急に年次有給休暇を取得したくなったときには、計画した日を取り消して、時季指定をやり直すことができる仕組みを就業規則に規定し、運用することも考えられます。

古い習慣にとらわれることなく、業務に支障が出ないようにして、うまく年次有給休暇の制度を運用してはいかがでしょうか。

孤独な考課者による評価

2025/02/28|651文字

 

<寛大化傾向>

寛大化傾向というのは、評価への批判や反発を恐れ、あるいは評価対象者への気遣いから、評価がついつい甘くなる傾向です。

部下に「嫌われたくない」「よく思われたい」という感情に支配されてしまうとこうした傾向が見られます。

評価に差が出ないため人事考課の目的を果たせないこと、評価対象者が甘えてしまい成長しなくなることが問題となります。

 

<役職者としての能力不足>

役職者には、コミュニケーション能力が必要です。

人脈を広げる努力も求められます。

また、部下を客観的に評価するためには、世間一般の同業で働く人たちや同一職種の人たちの働きぶりを把握していることが必要です。

「井の中の蛙 大海を知らず」というのでは、部下を広い目で客観的に評価できません。

そもそも、部下をどう育てるかの指針や目標を立てることも困難です。

 

<寛大化傾向を示す役職者への対応>

人事考課制度を適正に運用するためには、考課者に対する定期的な教育研修の実施が大事です。

そして、寛大化傾向を示す役職者には、人事考課の目的の再確認、コミュニケーション能力の強化について、重点的な教育研修が必要でしょう。

一方で会社から、人脈を広げやすくするためのサポートもしてあげたいところです。

それでもなお、きちんとした人事評価ができないのであれば、適性を欠くものとして考課者から外すことも考えなければなりません。

そもそも、こうした人物が役職者になってしまうこと自体、適正な人事考課制度の運用ができていなかったり、人事政策が失敗していたりの可能性があります。

地域限定社員の整理解雇であっても安易にはできません

2025/02/27|1,007文字

 

<整理解雇>

整理解雇とは、会社の事業継続が困難な場合に、人員整理のため会社側の都合により労働契約を解除することです。

法律上は普通解雇の一種ですが、労働慣例により他の普通解雇と区別するため整理解雇という用語が使われています。

 

<法令の規定>

解雇については、労働契約法に次の規定があります。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

この規定は抽象的ですから、素人判断で解雇の有効・無効を決めつけるのは危険です。

 

<整理解雇の有効要件>

実務的には、判例で示された次の4つの要素から、解雇の有効性を判断することになります。

4つのうち1つでも要件を欠いていたら、解雇が無効になるということではなく、総合的な判断となります。

まず、経営上の人員削減の必要性です。会社の財政状況に問題を抱えていて、新規採用などできない状態であることです。

次に、解雇回避努力の履行です。配置転換や希望退職者の募集などの実施です。

さらに、解雇対象者の人選の合理性です。差別的な人選は許されません。

最後に、手続の相当性です。事前の説明や労働者側との協議など、誠実に行うことが求められます。

 

<地域限定社員の場合>

「そもそも勤務地を限定されていたのだから」という理由だけで、閉店や事業所の閉鎖によって、そこで勤務する地域限定社員を解雇することはできません。

これは、整理解雇の4つの要素のうち、解雇回避努力の履行にかかわることです。

採用の時点で勤務地限定を望んでいた社員であっても、その後事情が変わっている場合もありますし、解雇されるよりは転勤に応じた方が有利ということもあります。

解雇回避努力が求められるということは「なるべく解雇しないように努力したけれども、どうしてもダメでした」という事情がなければ、簡単に解雇はできないということです。

結局、地域限定社員と話し合って、本人がどうしても別の店舗や営業所などでは勤務できないというのであれば、他の社員に優先して解雇を考えざるを得ないということになります。

 

 <実務の視点から>

整理解雇を含め、解雇の多くは不当解雇となり無効となる危険をはらんでいます。

そして不当解雇は企業に思わぬ損失をもたらします。

「解雇」ということを思いついてしまったなら、迷わず信頼できる国家資格者の社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

「正社員」の定義を見直しましょう。「正社員」の定義がない就業規則は危険です。

2025/02/26|1,035文字

 

<無期転換の影響>

平成30(2018)4月から、有期労働契約で働いている人が無期転換の申込権を使うと、会社側の意思とは無関係に無期労働契約に変更されます。〔労働契約法第18条〕

無期労働契約になってからの労働条件は、就業規則や労使の話し合いで決まることになりますから、必ずしも正社員になるわけではありません。

しかし、就業規則の正社員の定義が「期間の定めなく雇用されている従業員」などとなっていれば、無期転換の申し込みをした有期契約労働者は、自動的に正社員になってしまいます。

 

<定義の重要性>

「正社員」というのは、法律用語ではありませんから法令には定義がありません。

各企業が独自の定義を定めていたり、あいまいにされていたり、定義が無かったりというのが実態です。

もし、正社員だけに賞与や退職金を支給している会社で、退職予定のパートさんから「退職金はいくらですか?今までもらえなかった賞与は、まとめてもらえますか?」という質問が出ても、「就業規則の定義により正社員とされていないあなたには支給されません」と説明できます。

しかし、「正社員」の定義がしっかりしていないため、会社が訴えられて、裁判所から過去の賞与や退職金の支給を命じられることもあります。

誰か1人がこれに成功すれば、他の退職者からも請求されることになるでしょう。

退職金請求権の消滅時効期間は5年間ですから、5年近く前の退職者からも訴えられる可能性があります。〔労働基準法第115条〕

 

<定義規定の例>

就業規則には、「正社員として採用された従業員、および、正社員以外から正社員に登用された従業員」のような表現で定めておくのが楽だと思います。

こうしておけば、今後、何らかの法改正があったとしても、それによる影響は受けないでしょう。

ただし、就業規則の規定だけだと、「正社員として採用された」かどうかの証拠が残りません。

労働条件通知書の「雇用形態」「社員区分」などの欄に「正社員」「正社員以外」「パート社員」「嘱託社員」のように明示しておくことが必要になります。

労働条件通知書は、入社時と賃金など労働条件の変更時に、従業員に交付される書類ですから、ここで「正社員であること」あるいは「正社員ではないこと」を正式に確認できます。

なお、厚生労働省のホームページでダウンロードできる労働条件通知書には、「雇用形態」「社員区分」などの欄がありませんから、Word形式でダウンロードしたものに手を加えて使用することをお勧めします。

雇用契約を更新せずに打ち切ることを検討する前に確認しなければならないことがあります

2025/02/25|1,347文字

 

<雇い止めとは>

会社がパートやアルバイトなど有期労働契約で雇っている労働者を、期間満了時に契約の更新を行わずに終了させることを「雇い止め」といいます。

一定の場合に「使用者が(労働者からの契約延長の)申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」という抽象的な規定があります。〔労働契約法第19条〕

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「雇い止めに関する法理」という理論を条文にしたものです。ですから、雇い止めがこの理論による有効要件を満たしていなければ、裁判では無効とされ、有期労働契約が自動的に更新されることになります。

 

<雇い止めの有効性の判断要素>

雇い止めは、次のような事情が多く認められるほど、有効と判断されやすくなります。

1.業務内容や労働契約上の地位が臨時的なものであること。

2.契約更新を期待させる制度や上司などの言動が無かったこと。

3.契約更新回数が少ないこと、また、通算勤続期間が短いこと。

4.他の労働者も契約更新されていないこと。

5.雇い止めに合理的な理由が認められること。

 

<契約更新の期待>

上記2.については、「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」場合には、「使用者が(労働者からの契約延長の)申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」という規定があります。〔労働契約法第19条第2号〕

そして、上記2.のうち、契約更新を期待させる制度の有無は、かなり客観的に判断することが可能です。

しかし、契約更新を期待させる上司などの言動の有無については、必ずしも把握が容易であるとはいえません。

たとえば、店舗で勤務しているアルバイトに対して、店長が「来期もこのまま働いていただきたい」と言ったのであれば、このような言葉をかけた事実は容易に把握できるでしょう。

ところが、社長や取締役などが店舗を訪れた際に、アルバイトに「頑張ってるね。長く働いてくださいね」などと言った事実は、把握するのがむずかしいかもしれません。

 

<雇い止めを検討するにあたっての確認事項>

上記で述べた雇い止めの有効性の判断要素は、ほとんどすべてが会社側で客観的に把握できる事実です。

しかし、契約更新を期待させる上司などの言動の有無だけは、有期契約労働者本人に聞いてみないと分かりません。

雇い止めを検討するのであれば、本人に契約更新に対する期待の有無を確認し、期待しているのであれば、なにか期待させるような事実があったのかを確認して、あるというのであれば、そうした事実の有無を確認したうえで対応しなければなりません。

そして、こうした手間のかかることや、不都合が発生しないようにするため、社長以下影響力の大きな皆さんには、契約更新について期待を抱かせるような発言をしないよう徹底することをお勧めします。

交代制の昼休みを適法に行うためには

2025/02/24|1,195文字

 

<政府の感染症対策方針にも>

令和3(2021)年5月28日、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策本部は「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の一部を変更し、職場における感染防止のための取組として、事業者に対して昼休みの交代制などを促すこととしていました。

感染防止のこととは別に、快適な利用を考えて、休憩室や食堂などでの混雑を避けるため、交代制の昼休みは手軽で有効な手段ではありますが、一定の配慮と手続が必要となります。

 

<一斉付与の原則>

【労働基準法第34条第2項本文:休憩の一斉付与】

前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。

この根拠としては、一斉でなければ心理的に休憩を取りづらいとか、会社が管理しにくいとか、労働基準法の前身である工場法の名残であるとか言われています。

しかし、一斉付与でなくてもよい業種が、労働基準法施行規則第31条に定められています。

運輸交通業、商業、金融保険業、興業の事業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署の事業がこれに該当し、一斉に休憩を取ったのでは、お客様にご迷惑をお掛けするということのようです。

ですから、これらの業種に該当する企業では、昼休みの時差取得をするのに特別な手続は不要です。

 

<労使協定の締結>

【労働基準法第34条第2項但書:一斉付与の免除】

ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。

このように、休憩の一斉付与を免除されていない業種であっても、労使協定の締結によって、一斉付与の義務を免れることができます。

この労使協定は、所轄の労働基準監督署長に届け出なくてもよいものです。

 

<同一労働同一賃金への配慮>

食堂や休憩室の利用について、正社員は午前11時から午後2時、非正規社員はこれ以外の時間帯などと定めるのは、こうすることに合理的な理由がなければ、同一労働同一賃金の観点から問題ありです。

「同一労働同一賃金」は、「賃金」という文字が入っているものの、休暇や福利厚生にも及ぶ原理ですから、昼休みの時差取得にあたっては、同一労働同一賃金の趣旨に反しないように配慮する必要があります。

 

<公平性の確保や業務への配慮>

結局、部署毎に交代で休憩を取得することになると思われますが、休憩時間が固定では部署間の不公平が発生してしまいます。

そこで、毎月のローテーションで休憩時間が変更になる仕組を考えることになります。

しかし、あまり早い時間帯、あるいは遅い時間帯に昼休みを取ったのでは、業務に支障が出る部署もあり、この辺の調整が難しいかもしれません。

昼休みの交代制について仕組を考える部署は、各部署からの聞き取りを行い、よく考えてローテーションを組む必要があるでしょう。

労働基準監督署から是正勧告を受けると報道されてしまうのは仕方のないことなのです

2025/02/23|1,369文字

 

<是正勧告書と指導票>

労働基準監督署が立入調査(臨検監督)に入り問題点が見つかると、その事業場に「是正勧告書」や「指導票」という書類を交付します。

「是正勧告書」は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの罰則に触れていると思われる事実が見つかったときに、その是正と報告を求める文書です。

「指導票」は、罰則には触れないと思われるものの、厚生労働省のガイドラインに沿っていないなど問題となる事実が見つかると、その改善と報告を求める文書です。

立入調査終了後に、その場で作成・交付されることが多いのですが、複雑な事案に関するものは、後日、交付されることもあります。

 

<是正勧告の事実が報道される不思議>

労働基準監督署は、是正勧告書をもって事業場に違法状態の是正と報告を求めます。

是正勧告書で指摘を受けた事実は、違法なものですから、基本的には直ちに是正しなければなりません。

是正勧告書を交付されたなら、違法な部分を是正し、是正の内容を端的にまとめた「是正報告書」を作成し、立入調査を担当した労働基準監督官に提出します。

是正勧告書に記載された提出期限までに、是正報告書を提出すれば、それで一件落着ということになるのですが、提出期限を迎える前に、是正勧告があったという事実が報道されてしまうことがあります。

 

<刑法犯と労働法違反との事情の違い>

たとえば、住居に侵入して金品を盗み、住居侵入罪と窃盗罪で逮捕されれば、この時点で容疑が固まり、報道されることがあります。

この場合には、逮捕によって新たな犯行を防ぐことができますし、被害者にとっても不利益なことはないでしょう。

しかし、労働法違反の場合には、使用者が逮捕され身柄を拘束されても、それ自体が労働者の救済に直接繋がりません。それどころか、事業場の活動が停滞したり、完全に止まってしまったりで、労働者の業務や生活に不利益が及ぶ可能性すらあるのです。

こうした事情を考えると、労働基準監督官が労働法違反の事実を確認しても、すぐに逮捕・送検するのではなく、是正を求めることを優先するのにも合理性があります。

そうだとしても、労働法違反の容疑は是正勧告書交付の時点で固まっていますから、犯罪行為があったものとして、報道されることがあるのです。

住居に侵入して金品を盗んだ犯人が、被害者に盗んだ金品を返却し、お詫びして慰謝料などを支払ったとしても、犯罪事実は消えません。労働法違反を指摘された使用者が、期限内に是正報告書を提出したとしても、労働法違反の犯罪は消えないのです。

このような事情を考えれば、是正勧告を受けただけで報道されてしまうのは、自然なことであり仕方がないでしょう。

 

<罰則が適用される労働法違反>

労働法違反が重大・悪質であれば、是正勧告がないまま、労働基準監督官によって、いきなり逮捕・送検されることもあります。

法的な制限を大幅に超える長時間労働など、労働者の命に関わる違反の場合には、こうしたケースが見られます。

ここまで悪質ではなくても、是正勧告に対応しない場合、虚偽の是正報告書を提出した場合には、労働基準監督官による逮捕・送検が行われています。

是正勧告にとどまらず、送検されたとなれば、より一層強い理由でマスコミに報道されやすくなりますし、都道府県労働局のホームページに公表されることとなります。

年次有給休暇はシフト制でも付与され取得できます。年次有給休暇は労働基準法により国から与えられている権利です

2025/02/22|1,290文字

 

<店長のお話>

コンビニなどで、シフト制で週2~4日程度働いているアルバイトやパートについて、店長が次のような話をすることがあります。

・年次有給休暇の付与日数は、所定労働日数が基準となっているが、所定労働日数は決めていないので、付与日数も確定できない。

・本人の休みの希望を踏まえてシフトを組んでいるので、みんな休みたい日に休めている。シフトが確定してしまってから、休みの希望を出されるのは困る。だから、年次有給休暇を取得させられない。

 

<所定労働日数の考え方>

厚生労働省は、シフト制で契約する場合にも、1週間の標準所定労働日数や最低労働日数、最高労働日数を決めて、労働条件通知書に記載することが望ましいと言っています。これはワーク・ライフバランスを考えてのことですから、年次有給休暇の付与日数の手がかりにはなりません。

さて、労働条件通知書に所定労働日数を記載できないとしても、シフト制で働く皆さんは、確定したシフト表に従って勤務しています。このシフト表は、1週間単位、半月単位、1か月単位などで、その期間に入る前に確定しています。

この事前に確定したシフト上の労働日数が、所定労働日数ということになります。年次有給休暇付与日数表には、「週所定労働日数」の欄の他に、「1年間の所定労働日数」の欄があります。確定したシフト上の労働日数を1年分(最初の1回は6か月分)集計して、勤続期間に応じた付与日数が確定します。

ここでの注意は、事前に確定したシフト表を、確実に保管しておく必要があるということです。

 

【年次有給休暇付与日数表】※労働基準法による最低の日数

週所定

労働日数

1年間の

所定労働日数

勤    続    期    間
6か月 1年

6か月

2年

6か月

3年

6か月

4年

6か月

5年

6か月

6年

6か月

以上

4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 

<年次有給休暇取得日の決定方法>

シフトを組むにあたっては、各従業員の勤務希望日や休日の希望を出してもらうことになります。

この時点で、シフトに穴が空いてしまう時間帯については、何人かに出勤できないか打診して、シフトを埋めるようにしているはずです。

このとき反対に、勤務の希望が重なって、人手が余ってしまう時間帯も発生していることでしょう。

この部分について、店長などシフト調整を行っている責任者から、勤務の希望が重なっている従業員に、年次有給休暇の取得を打診してはいかがでしょうか。

シフトに入りたがっていた従業員にしてみれば、シフトから外されるのは収入減となることもあり、不満を抱くことになるでしょう。これを年次有給休暇の取得でカバーすれば、不満も生じないことになりますし、そもそも年次有給休暇を取得させてもらえないという不満、場合によっては、違法状態も解消されることになります。

これは、あくまでもシフトが確定する前の段階での調整ですから、年次有給休暇の取得によってシフトに穴が空くこともありません。

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