2025/04/27|1,172文字
<嫌われる経歴詐称>
経歴詐称は増加傾向にあるとも言われます。
求人への応募者が採用されやすくしたい、あるいは採用後の待遇を良くしたいと考えて、虚偽の学歴・職歴を示したり、一部の職歴を省いて示したりということが行われます。
もちろん記入漏れのようなうっかりであれば、注意力や事務処理能力を疑われるだけですが、あえて虚偽の学歴・職歴を記載したのであれば、採用後にも嘘の報告・連絡・相談が生じるのではないかという不安がありますし、そもそも人格を疑われかねません。
<就業規則の規定>
企業によっては、経歴詐称を採用取消や解雇の理由とし、その旨の規定を就業規則に置いていることがあります。
就業規則に規定があるからといって、必ずしも解雇などが有効になるとは限りません。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という労働契約法第16条の規定により無効とされることがあるからです。
こうした抽象的な表現の規定を頼りに解雇に踏み切るのは、多くの場合に無謀な行為となってしまいます。
具体的な解釈は、裁判所の判断である判例・裁判例を確認しなければなりません。
<裁判所による判断基準>
解雇については、労働者が経歴について真実を告知していれば使用者は雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められる場合には、実害が発生していなくても経歴詐称自体が信頼関係を破壊するものとして懲戒解雇事由になるという裁判例があります(メッセ事件など)。
これでもなお、「客観的に認められる」の基準が、必ずしも明確ではありませんから、裁判例にあらわれた事実関係を確認したうえで判断しなければなりません。
この一方で、低学歴を高学歴に詐称したとしても、それによって事務遂行に重大な障害を与えたとは認められない場合には、懲戒解雇事由に該当するほど重大なものとはいえないという裁判例もあります(中部共石油送事件)。
また最終学歴は、労働力評価のみならず、企業秩序の維持にも関わる事項であり、高学歴(学生運動で大学中退)を低学歴(高卒)に詐称することは懲戒解雇事由となるという判例があります(炭研精工事件)。この職場では、高卒のみが採用されているという、特殊な事情がありました。
<実務の視点から>
企業が応募者から経歴に関する資料を収集する際、その内容が事実に反すると具体的な実害が発生しうるのであれば、その実害を具体的に示しておくことが望ましいといえます。
また、学歴・職歴について誤りがないように、細心の注意を払って資料を作成・提出すること、提出後に誤りに気づいたら直ちに訂正を申し出るべきことも、説明に加えておくべきです。
こうした対応の記録を残しておけば、経歴詐称を理由とする解雇も、客観的な合理性を認められやすくなります。