労働者が会社に対して解雇理由証明書の交付を請求すると、会社が挟み撃ちにあってしまうことがあります。不当解雇はできないですね

2024/08/22|1,311文字

 

<解雇の有効要件>

解雇の中には、労働基準法で禁止されているものがあります。

業務災害からの復帰後30日間や、産休中とその後30日間の解雇禁止は、良く知られています(労働基準法第19条)。

これに反する解雇をすれば、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」(労働基準法第119条)とされる犯罪ですから、あえてこれを行う経営者や管理職は極めて稀でしょう。

しかし、刑事事件とはならない不当解雇は、跡を絶ちません。

つまり、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とされているのですが、感情的になった経営者や管理職は、この規定を無視して解雇を通告してしまうこともあるのです。

 

<不当解雇をされた従業員の反撃>

解雇を通知されれば、ショックを受けますし、反省もすることでしょう。

しかし、精神的に落ち着いてくると、労働基準監督署、市町村の法律相談や労働相談、弁護士や社会保険労務士の初回無料相談を利用するようになってきます。

ここでお勧めされるのは、会社に対する解雇理由証明書の交付請求です。

なにしろ、本人にしてみれば解雇に納得がいかない、解雇の理由がおかしいのではないかと疑念を抱いているからです。

 

<解雇理由証明書の交付義務>

労働基準法には、退職時等の証明として、「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」という規定があります(労働基準法第22条第1項)。

解雇を通知された従業員が、請求しなければそれまでなのですが、請求すれば会社は交付せざるを得ません。

交付しないと、「三十万円以下の罰金に処する」(労働基準法第120条)という規定がある以上、犯罪が成立してしまい送検される可能性があります。

会社が解雇の理由を文書にして交付すれば、ネットを通じて公開される可能性もあります。

これを恐れて交付しなければ、労働基準法違反ですから、労働基準監督署から催促されてしまいます。

 

<解雇理由証明書の交付リスク>

解雇理由証明書を交付すれば、それは正式な証拠書類となります。

訴訟になれば、それが客観的に合理的な理由であり、社会通念上相当であるといえるのかが、吟味されることになります。

会社側がここまでの事態を想定して解雇を通知した場合はともかく、そうでなければ、自ら不当解雇を自白するような事態となってしまいます。

つまり、解雇理由証明書を交付してもしなくても、会社は大きなリスクを負うことになり、挟み撃ちに遭うことになるのです。

 

<実務の視点から>

解雇を通告された従業員から、解雇理由証明書の交付を求められた場合、交付をしないわけにはいかず、嘘の理由や不当な理由は書けないということです。

つまり解雇は、それ相当の理由がなければできないのです。

解雇を検討する場合には、解雇理由証明書の交付を想定したうえで、解雇に踏み切ることが求められているといえるでしょう。

解雇通知を口頭で行うなんてとんでもない!そんなことが起こらないように予防しましょう

2024/08/21|1,143文字

 

<日常用語としての「解雇」>

会社が従業員を解雇した、あるいは、従業員が会社から解雇されたという場合、法的には従業員の意思によらず、会社が一方的に労働契約を解除したことを意味します。

労働契約について、解除の効力が生じていれば、これはまさに「解雇した」「解雇された」ということになります。

しかし、日常用語で解雇したというのは、解雇の予告を意味することが多いでしょう。

「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない(労働基準法第20条第1項本文)」という規定がありますから、30日以上前に予告することが多いのです。

「但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない(労働基準法第20条第1項但書)」などの例外はあります。

どちらの場合でも、会社が従業員に解雇通知書を交付すれば、その時点で「解雇した」という言い方をしますし、解雇通知書を交付された従業員は「解雇された」と言います。

ここでの「解雇」は、まさに日常用語としての「解雇」です。

 

<解雇通知書の内容>

解雇通知書の中心となる内容は次の3つです。

・解雇を予告した日付

・解雇の理由(通常は「就業規則第◯条、第◯条による」という記載)

・労働契約の最終日(「◯年◯月◯日をもって解雇する」という記載)

基本的には、対象者に直接交付します。

あらかじめコピーをとっておき、コピーの方に本人の署名と受領日を記載してもらって会社で保管します。

 

<口頭による解雇通知のリスク>

口頭で解雇を通知した場合には、いつ予告したのか、解雇の理由をどのように説明したのか、いつをもって労働契約が終了することになっているのかについて、証拠が残っていません。

対象者から次のような主張をされた場合には、否定する根拠に乏しいことになります。

・退職を申し出ていない

・解雇された覚えはない

・解雇される理由はなく明らかに不当解雇である

・解雇予告手当の支払を求める

・慰謝料を請求する

会社としては、本人が了解しているつもりで、離職票などを郵送したり、健康保険証などの返却を求めたりしたところ、このような対応をとられたのでは、大いに困惑します。

 

<実務の視点から>

本部や親会社では、口頭での解雇通知など想定できないでしょう。

しかし、現場や子会社では、感情的になった責任者が口頭で解雇を言い渡してしまうことがあるかもしれません。

管理職に対しては、口頭での解雇通知を禁止し、研修などで重ねて確認しておくことも必要です。

また、就業規則や労働条件通知書などには、解雇通知は必ず書面で行う旨を明示し、従業員には採用の時点で説明しておくことをお勧めします。

5年に1回の公的年金の財政検証とともに示された制度改正を仮定したオプション試算

2024/08/20|1,533文字

 

<公的年金の財政検証>

公的年金制度については、国民年金法と厚生年金保険法の規定によって、少なくとも5年ごとに、年金財政の現況と見通しが作成されています。これが「財政検証」と呼ばれるものです。

国民年金、厚生年金といった公的年金制度は長期的な制度であるため、社会・経済の変化を踏まえ、適切な年金数理に基づいて、長期的な年金財政の健全性を定期的に検証することが、公的年金の財政運営にとって不可欠とされています。

令和6(2024)年も財政検証の年にあたり、7月3日に開催された第16回社会保障審議会年金部会で、「令和6(2024)年財政検証結果」、「オプション試算結果」、「財政検証関連資料」が公表されています。

このうち「オプション試算結果」というのは、仮に一定の制度改正を行ったならば、将来的に年金財政はこのようになるだろうというシミュレーション結果を示したものです。

あくまでもシミュレーションではありますが、現実的な制度改正案についてのものですから、早ければ令和7(2025)年中に、法改正案が国会に提出されるかもしれません。

 

<社会保険(被用者保険)の更なる適用拡大>

公的年金制度の維持のため、また将来の年金受給額を増やすため、被用者保険の更なる適用拡大がシミュレーションされています。

これらは、試算の便宜上としつつも、令和9(2027)年10月に更なる適用拡大を実施した場合を想定しています。

 

①:被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所の非適用業種の解消を行う場合→約90万人拡大

②:①に加え、短時間労働者の賃金要件の撤廃または最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合→約200万人拡大

③:②に加え、5人未満の個人事業所も適用事業所とする場合→約270万人拡大

④:所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用対象とする場合→約860万人拡大

 

<基礎年金の拠出期間延長・給付増額>

公的年金制度の維持のため、また将来の老齢基礎年金受給額を増やすため、財政検証の中のオプション試算として、基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長し、拠出期間が伸びた分に合わせて基礎年金が増額する仕組みとした場合のシミュレーションも行われています。

これは、試算の便宜上、2031年度に60歳に達する人から、生年度が2年次上がるごとに1年ずつ拠出期間を延長した場合として試算されています。

これによって、全被保険者共通の給付である基礎年金が充実すると試算されています。

勤め人として厚生年金に加入している人にとっては、将来受け取る老齢年金が増額されることになり、嬉しい制度改正です。

しかし、自営業者など国民年金加入者にとっては、月額17,000円の保険料を、現在よりも5年長く、合計100万円余りを追加で納付することになりますから、簡単には受け入れられない改正となります。

 

<在職老齢年金の仕組みの廃止>

在職老齢年金の制度は、就労し一定以上の賃金を得ている65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組みです。

これについても、シミュレーションが行われているのですが、働く年金受給者の給付が増加する一方で、将来の受給世代の給付水準が低下すると結論付けられています。

他のシミュレーションが、年金財政の健全化を目指したものであるのに対し、在職老齢年金制度の廃止は、労働力不足を意識し、高齢者が積極的に労働に参加するように促す点で、他の施策とは異なる特徴を備えています。

しかし、将来の受給世代の給付水準が低下するという大きな欠点を抱えている以上、簡単には実現できない施策といえるでしょう。

個人事業者等の健康管理に関するガイドラインが公表され注文者である企業側にも一定の配慮が求められています

2024/08/19|1,320文字

 

<個人事業者等の健康管理に関するガイドライン>

令和6(2024)年5月28日、厚生労働省労働基準局から「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」が公表されました。

旧来の考え方からすれば、個人事業者の健康は自己管理ということになります。

しかし現在では、労働者と個人事業者との中間的な形態で働いている人々も増え、個人事業者等は労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであるという考え方が取られるようになってきました。

こうした考え方のもとで、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」が策定され、個人事業者等が健康に就業するために、個人事業者等が自分自身で行うべき事項、注文者等が行うべき事項や配慮すべき事項等を明らかにし、それぞれの立場での自主的な取り組みを促すこととされたのです。

 

<労働者性の判断>

雇用契約(労働契約)を締結せず、形式的には個人事業者等として請負契約や準委任契約などの契約で仕事をする場合であっても、具体的な働き方の実態に基づいて、労働基準法上の「労働者」であるかどうかが判断されます。

実質的に見て、「労働者」に該当すると判断される場合には、このガイドラインによるのではなく、「労働者」として、労働基準法や労働安全衛生法などの労働法令が適用されることに注意する必要があります。

 

<個人事業者等が自分自身で行うべき事項>

個人事業者等は、事業を行う上で、自らの心身の健康に配慮することが重要です。

ガイドラインでは、個人事業主等が各種支援を活⽤しつつ、次の各項目を含め、自ら健康管理を行うこととされています。

□ 健康管理に関する意識の向上

□ 危険有害業務による健康障害リスクの理解

□ 定期的な健康診断の受診による健康管理

□ 長時間の就業による健康障害の防止

□ メンタルヘルス不調の予防

□ 腰痛の防止

□ 情報機器作業における労働衛生管理

□ 適切な作業環境の確保

□ 注⽂者等が実施する健康障害防⽌措置への協⼒

 

<注文者等が行うべき事項や配慮すべき事項>

注文を受けて仕事を行う場合、注文者等による注文条件等が個人事業者等の心身の健康に影響を及ぼす可能性があります。

個人事業者等が健康を適切に管理するためには、注文者等が必要な措置を講じることも重要です。

また、個人事業者等が健康に就業することは、その個人事業者等と継続的に業務を行う注文者等にとっては、事業継続の観点からも望ましいことです。

ガイドラインは、注文者等に対して、以下の事項を実施するよう求めています。

また、個人事業者等が以下の事項の実施を要請したことを理由として、個⼈事業者に対する不利益な取り扱いをしてはならないとされています。

□ 長時間の就業による健康障害の防⽌

□ メンタルヘルス不調の予防

□ 安全衛生教育や健康診断に関する情報の提供、受講・受診機会の提供等

□ 健康診断の受診に要する費用の配慮

□ 作業場所を特定する場合における適切な作業環境の確保

 

<ガイドライン利用にあたっての注意>

ガイドラインには、それぞれの業種・職種に特有の実情や商慣習を踏まえた具体的な取組内容までは記載されていません。

個人事業者等・注文者等双方の意見を十分に踏まえて利用することが求められています。

労災を起こしてケガをした人の減給を考える前に労災の原因の原因や会社側の義務や責任を考えなければなりません

2024/08/18|1,207

 

<労災の原因>

労災のほとんどは過失により発生し、労災を起こした本人がケガをしても、周囲の人たちからは「本人の不注意だから」と言われることが多いものです。

しかし、ここで話を終わらせず、さらに原因を追及する必要があります。

これは本人の責任を明確にし、再発を防止するために不可欠なので手を抜けません。

まずは、会社の安全教育です。

業務を行うにあたって予めわかっている危険ポイントごとに、事故を避けるための正しい動作や手順などについて、繰り返し定期的に教育が行われていたでしょうか。

事故が発生したということは、教育不足が疑われます。

つぎに、事故防止のための表示です。

「手袋着用」「高温注意」など、必要な表示が漏れなく整っていたでしょうか。

さらに、仕事による疲労の蓄積です。

個人的な悩みや、プライベートでの疲労で注意力が低下していたのなら、本人の責任が重いといえます。

しかし、残業続きの状態で労災が発生した場合には、不注意の責任を本人だけに押しつけるわけにはいきません。

そうした勤務を許した会社の責任が問われます。

そして、本人の資質の問題があります。

本人の不得意なこと、あるいは、そこまでの注意を期待できない業務を担当させていなかったでしょうか。

適材適所ができていなければ、会社の責任も重くなります。

 

<懲戒処分による減給>

安全教育、表示、適材適所ができていて、過重労働が無かったのに事故が発生したのなら、懲戒処分を検討するのにも十分な理由があります。

しかし、この場合でも、懲戒処分により再発防止が期待できない場合には、懲戒処分の目的が果たされず、悪影響だけが残ってしまいます。

結局、上司や会社に対する恨みなどが原因で、故意に労災を発生させたような場合に限定されるのではないでしょうか。

故意に事故を発生させたのであれは、減給処分では懲戒処分としては軽すぎるかもしれません。

 

<降格・降職に伴う給与の減額>

労災事故の発生をきっかけに、現在置かれている立場の業務を行うには能力が不足していると判明する場合があります。

この場合には、適正な人事考課により職位や役職を下げて、それに応じた給与にするということもあります。

これは、本人の身の安全を守るという観点からも、正当性の認められる場合が多いでしょう。

 

<職務の転換>

自動車事故を起こした従業員の職務から自動車の運転を外し別の業務を担当させることは、本人の身の安全を守る点では有効な手段です。

この場合には、職務の転換によって給与が下がると、非公式な制裁と見られてしまいます。

あくまでも、本人の本心からの同意に基づき行う場合に限定し、トラブルにならないよう心がけましょう。

 

<実務の視点から>

労災事故を発生させたから給与を下げるというのでは、社長の気が済むだけで会社としては何も解決しません。

こんなとき、労災をきっかけに会社の成長を考えるのであれば、ぜひ、信頼できる社労士にご相談ください。

長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の労働基準監督署による監督指導結果が公表されています

2024/08/17|2,642文字

 

<監督指導結果のポイント>

令和6(2024)年7月25日、労働基準監督署が令和5年度に、長時間労働が疑われる事業場に対して実施した監督指導の結果を、厚生労働省が取りまとめ公表しました。

この監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等についての労災請求が行われた事業場等を対象としています。

そのポイントも、次のようにまとめられ公表されています。

 

【監督指導結果のポイント】(令和5年4月~令和6年3月)

  1. (1)監督指導の実施事業場:26,117事業場
  2. (2)主な違反内容[(1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場]
    1. 1違法な時間外労働があったもの:11,610事業場(44.5%)
      うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が
      月80時間を超えるもの:     5,675事業場(48.9%)
      うち、月100時間を超えるもの:3,417事業場(29.4%)
      うち、月150時間を超えるもの:   737事業場(  6.3%)
      うち、月200時間を超えるもの:     35事業場(  0.3%)
    2. 2賃金不払残業があったもの:1,821事業場(7.0%)
    3. 3過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:5,848事業場(22.4%)
  3. (3)主な健康障害防止に関する指導の状況[(1)のうち、健康障害防止のため指導票を交付した事業場]
    1. 1過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:12,944事業場(49.6%)
    2. 2労働時間の把握が不適正なため指導したもの:4,461事業場(17.1%)

 

長時間労働等が行われていたとして、労働基準監督署が指導を行った具体的な事例も紹介されています。

 

<倉庫業の事例>

  • 立入調査(臨検監督)で把握された事実

倉庫業の事業場(労働者約20人)で、倉庫内の作業管理を行う労働者6人について、取引先のセール等で取扱貨物量が増加したことによる業務繁忙と人手不足のため、36協定で定めた上限時間(特別条項:月80時間)を超え、かつ労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限(月100時間未満、複数月平均80時間以内)を超える、最長で1か月当たり127時間の違法な時間外・休日労働が認められた。

 

  • 労働基準監督署の指導

長時間にわたる違法な時間外・休日労働を行わせたこと

・ 36協定で定めた上限時間を超えて時間外労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第32条違反)

・ 労働基準法に定められた上限時間を超えて時間外・休日労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第36条第6項違反)

・ 時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導

 

<製造業の事例>

  • 立入調査(臨検監督)で把握された事実

① 機械器具製造を行う事業場(労働者約20人)において、営業職の労働者が精神障害を発症。長時間労働が原因であるとして労災請求がなされたため、立入調査を実施した。

② 精神障害を発症した労働者の勤務状況を確認したところ、繁忙期に上司の不在が重なり業務が集中したため、36協定で定めた上限時間(月42時間)を超える、最長で1か月当たり111時間の違法な時間外労働が認められた。

③ また、当該労働者には固定残業代(20時間分)が支給されていたものの、それを超過する時間外労働に対して、割増賃金が支払われていなかった。

④ そのほか、時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えていたにもかかわらず、当該労働者に対し、時間外・休日労働に関する情報を通知していなかった。

 

  • 労働基準監督署の指導

◆ 長時間にわたる違法な時間外・休日労働を行わせたこと

・ 36協定で定めた上限時間を超えて時間外労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第32条違反)

・ 労働基準法に定められた上限時間を超えて時間外・休日労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第36条第6項違反)

・ 時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導

◆ 時間外に対する割増賃金を支払っていないこと

・ 時間外労働について2割5分以上の割増賃金を支払っていないことついて是正勧告(労働基準法第37条違反)

◆ 労働者に対し、時間外・休日労働の情報を提供しなかったこと

・ 時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた労働者に対し、時間外・休日労働時間に関する情報を通知していなかったことについて是正勧告(労働安全衛生法第66条の8第1項違反)

 

<施工管理業の事例>

  • 立入調査(臨検監督)で把握された事実

工事の施工管理等を行う事業場(労働者約250人)で、36協定で定めた上限時間や労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限時間(月100時間未満、複数月平均80時間以内)を超える時間外労働は認められなかったが(最長で1か月当たり74時間)、勤怠管理システムの労働時間の記録と、労働者のパソコンのログオン・オフ時間との間に、長い者で1日当たり2時間以上の乖離が発生している状況が確認された。

 

  • 労働基準監督署の指導

・ 労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施することを指導

・ 過去に遡って労働者に事実関係の聞き取りなど時間外・休日労働の実態調査を行い、調査の結果、差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加でその差額を支払うことを指導

・ 時間外・休日労働時間を1か月当たり45時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導

 

<実務の視点から>

労働基準監督署は、36協定違反と労働基準法違反のそれぞれについて、指導を行っています。

これは36協定と労働基準法とで、違反の基準が異なり、どちらか片方の基準だけをクリアしていても適法にはならないため、それぞれの対策が必要だからです。

労働基準監督署は、企業に対して適法な状態にするよう指導します。

しかし、それぞれの企業の実態に即して、どうしたら是正できるかというところまでは指導しません。

これは、労働基準監督署の権限を超える内容だからです。

しかし、厚生労働省からは、適法な企業運営をするために必要な施策についてのパンフレット類など、各種資料が公開・配布されています。

こうしたものを参考に各企業で改善計画を立て、着実に実行していくことになります。

違法な規定を含む就業規則が存在します。なぜそうなるのでしょうか?その効力はどうなのでしょうか?

2024/08/16|1,182文字

 

<違法な就業規則は存在する>

就業規則を作成した時には適法だったものの、法改正が繰り返されて違法だらけの就業規則になってしまうということはあります。

国際情勢、国内情勢、市場動向は変化していますし、政府が継続的に強化している少子高齢化対策や働き方改革に沿った法改正は、驚くほど頻繁に、そして大幅に進んでいますから、1年間放置した就業規則が適法性を保っていたら、運が良いと感じてしまいます。

 

<違法な就業規則の届出>

うっかり法令違反の就業規則を労働基準監督署長に届け出たとします。

何も指摘されないこともありますし、たまたま法令違反が見つかって指摘を受けることもあります。

違法な規定を含む就業規則であって、それが発見されたとしても「次回は直しておいてくださいね」ということで、そのまま受け付けてもらえるのが通常です。

このとき、きちんと控えを持って行けば、就業規則を届け出たことの証として、「受付」の印を押してもらえます。

あくまでも「受付」であって、「受理」や「承認」ではないのです。

提出したので受け付けましたというだけのことです。

 

<違法な規定の効力>

労働契約も契約の一種です。

契約は、当事者が話し合って自由に内容を決めることができるという原則があります。

契約自由の原則と言います。

ところが、労働契約の場合には、使用者の立場が強く労働者は弱者であるというふうに考えられています。

実のところはケースバイケースですが、それでも労働関係法令は労働者が弱いという前提に立って法体系ができています。

このことから、本来は自由であるはずの労働契約に法律が介入し、労働者を保護するという役割を担っています。

就業規則は、その会社の労働者に共通な労働条件を定めています。

就業規則には、いろいろ定められているのですが、労働者に共通な労働条件の規定は、必ず含まれているといえます。

そして、就業規則と個別の労働契約とを比べた場合に、違う部分があれば、労働者に有利な方が有効とされます。

さらに、その部分が法律より不利ならば、法律の規定が優先されます。

結局、就業規則と個別の労働契約と法令とを比べて、労働者に一番有利なものが有効になるのです。

 

<違法な規定は効力がない>

このように、就業規則が法律に違反していたり、個別の労働契約よりも労働者に不利であったりすれば、その規定は無視されるわけです。

このことが判っているので、労働基準監督署では就業規則の届出を受け付ける時に、法律違反が無いかじっくりとチェックしなくても問題ないことになります。

 

<実務の視点から>

このような事情から、「労働基準監督署に受け付けてもらったから安心」とはいえません。

知らないうちに、違法な就業規則を運用し適用しているというリスクがあるのです。

このようなリスクを回避するには、信頼できる社労士にご相談ください。

口頭による退職申出に対してわざわざ会社から改めて退職願の提出を求める意味

2024/08/15|1,352文字

 

<就業規則の規定>

就業規則の退職に関する規定は、多くの会社で似たりよったりです。

おそらく、厚生労働省のモデル就業規則にならったものが多いのでしょう。

 

【モデル就業規則】

(退職)

第52条  前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して  日を経過したとき

 

これには、労働者が会社に退職願を提出して、一定の期間が経過すると、退職となることが規定されています。

また、労働者から「退職を願い出て会社が承認したとき」にも、退職となることが規定されています。

しかし、退職を願い出る具体的な方法も、会社が承認する具体的な方法も規定されていません。

これは、退職願の提出によらず、口頭による退職の申し出に対して、会社が口頭で承認するケースも想定されていると考えられます。

 

<会社側の不都合>

労働者から会社に対し、口頭で退職の申出があったとします。

会社としては、本人から退職の申し出があったのですから、これに応えて離職票を交付するでしょうし、保険証や貸与物の返却などの依頼をすることになります。

ところが退職について翻意した本人から、「退職する気はありません」という申出が行われることがあるのです。

上司のことがどうしても嫌いで、耐えきれずに退職することを考え、衝動的に退職の申出をしたところ、その上司が異動することになったなどというのが典型的なパターンです。

退職を申し出た本人から、「体調を崩ししばらく休んでいたら、会社から一方的に離職票が送られてきた。これは、不当解雇ではないのか。」などという主張が出てくるかもしれません。

これに対して、この事実を否定する証拠を会社が持ち合わせていなければ、対応に苦慮してしまうことになります。

 

<本人側の不都合>

一方で、労働者から会社に対し、退職の申出をする場合に、口頭でのやり取りで済ませてしまうと、労働者も不利益を被ることがあります。

労働者が、直属の上司に対して事情を話し、退職を申し出たとします。これに対して上司が了解すれば、この労働者は退職することが了承されたものと考えます。

ところが、上司からそのまた上司、社長へと報告が進んだところで、社長から「この人手の足りない時に、個人的な都合で退職するなどけしからん。今すぐの退職は認められない。」などという話があったらどうでしょう。

直属上司から、本人に対して「社長の了解が得られなかったから、退職はできないよ。」と連絡するのでしょうか。

こうした連絡を受けて、しばらく出勤しなかったならば、その労働者は、無断欠勤が続いたことを理由に懲戒解雇されることもあるのでしょうか。

これでは、口頭で退職を申し出た労働者が、大きなリスクを負ってしまいます。

 

<実務の視点から>

このように、口頭での退職申出を、会社側がそのまま受けてしまうのは、労使双方にリスクを抱えることになります。

労働者から上司に口頭での退職申出があった場合には、口頭で済ませることのリスクを説明し、退職願(退職届)の提出を促しましょう。

退職の決裁権者から、退職についての了解が得られたなら、その旨、会社から労働者に文書で通知することとし、退職手続などの説明文とともに、本人に交付する慎重さが求められます。

喫煙や雑談の時間など明らかに業務に集中していない時間は労働時間から除外できるか

2024/08/14|1,014文字

 

<労働時間の定義>

労働時間とは、「労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間」と定義されます。

これは、会社ごとに就業規則で決まったり、個人ごとに労働契約で決まったりするのではなく、客観的に決められている定義です。

労働時間に対しては賃金を支払わなければなりません。

 

<喫煙やおしゃべりの時間は労働時間なのか>

それでは、上の労働時間の定義からすると、喫煙やおしゃべりの時間は労働時間になるのでしょうか。

使用者の指揮命令から離れ、自由に喫煙やおしゃべりを許されている時間は、労働時間にはあたりません。

しかし、本当に使用者の指揮命令から離れていれば、労働者が喫煙のために離席してもおしゃべりしても、使用者側である管理職の皆さんは気付かないはずなのです。

管理職の皆さんが「なんだ、またタバコか」「いつまで、おしゃべりしているんだ」と不快に感じるのは、そうした労働者を指揮命令下に置いているからなのです。

ということは、使用者の指揮命令下にあって、労働時間であるにもかかわらず、使用者が喫煙やおしゃべりを黙認している時間ということになります。

したがって、喫煙やおしゃべりの時間を、労働時間から差し引くこと、給与計算のうえで欠勤控除することには無理があるといえるのです。

 

<管理職失格の証し>

「うちの部下は、何度もタバコを吸いに行ったり、おしゃべりしたりする。ああいう時間は、給料を払わなくてもいいのでは?」と言う管理職がいたら、その人は管理職として不適格です。

なぜなら、部下を指揮命令下に置く能力が不足しているからです。

現在は、テレワークが盛んです。

「部下を直接見ていないから指導できない」「その仕事を評価できない」という管理職は、その職責を果たせていないのです。

そういう人は、担当者として実績を上げたとしても、管理能力は無いのですから、専門職やプロフェッショナルとしての処遇をしてあげるべきなのです。

 

<実務の視点から>

ある管理職から部下のサボりを相談されたら、人事部門は部下の方に目を向けます。

しかし、顧問の社労士であれば、そうした話を持ちかけた管理職に目を向けます。

会社を正しい方向に導くには、第三者である専門家の目が必要であることの一例です。

会社を強くしたい成長させたいと本気で考えるのであれば、信頼できる社労士にご相談ください。

在宅勤務の経費負担について会社のルールの適正化を考えるのに国税庁の示す基準が参考になります

2024/08/13|1,891文字

 

<在宅勤務の経費負担>

在宅勤務の経費負担については、就業規則や個別の労働契約により定められます。

それが適正かどうかは、各企業の判断に任されていることになります。

令和3(2021)年1月15日、国税庁のホームページに、企業がテレワークを行う従業員に対して費用補助を行う場合の課税取扱いに関する「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係) 」が公表されました。

これは、在宅勤務の経費負担について、国の考えを示していることになりますから、自社の定めが適正であるかを確認する際の重要な資料になると考えられます。

以下項目ごとに、その内容をご紹介します。

 

<在宅勤務手当>

・実費相当額を精算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はない。

・毎月定額で支給するなど、返還する必要がない金銭を支給した場合は、給与として課税する必要がある。

 

在宅勤務手当として支給する場合には課税対象となりますが、通常必要な費用を実費精算するに過ぎない場合には、課税対象とはならないわけです。

 

<事務用品等>

・企業が所有する事務用品等を従業員に貸与する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はない。

・企業が従業員に事務用品等を支給した場合(事務用品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要がある。

 

会社の事務用品を従業員が使用している場合、その種類によっては、貸与か支給かが不明確な物もあります。

ここは、貸与であることを再確認しておけば良いでしょう。

また、従業員が立替払で事務用品を購入した後、その購入費用を精算する場合には、事務用品の所有権は会社に帰属しますから、課税対象とはなりません。

 

<電話料金>

・通話明細書等により確認した業務使用分に係る料金を企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はない。

・業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については通話明細書等に代えて、FAQで示す算式(基本使用料・通信料等の月額×その月の在宅勤務日数割合×1/2)により算出したものを、業務使用分として差し支えない。

・基本使用料は、上記算式により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、給与として課税しなくて差し支えない。

 

業務で利用した通話料金が、通話明細書等により確認できるのであれば、その料金の実費精算については課税対象とはなりません。

また、業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については、通話明細書等に代えて、基本使用料と通信料等の月額をベースに、その期間の在宅勤務日数割合を掛けたものの半額を、業務使用分として実費精算すれば課税対象とはなりません。

ここで、「業務のための通話を頻繁に行う業務」とは、営業担当や出張サポート担当など、顧客や取引先等と電話で連絡を取り合う機会が多い業務と認められるものをいいます。

 

<インターネットのデータ通信料等>

・基本使用料やデータ通信料などについては、FAQに示す算式(基本使用料・通信料等の月額×その月の在宅勤務日数割合×1/2)により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、給与として課税しなくて差し支えない。

 

上記に示す算式によって算出した金額を実費として精算する場合には、課税対象とはならないということです。

業務で利用した通信料等が、明細書等により確認できるのであれば、その料金の実費精算をする場合も課税対象とはなりません。

 

<電気料金>

・基本使用料や電気使用料などについては、FAQに示す算式(基本料金・電気使用料の月額×業務使用床面積割合×その月の在宅勤務日数割合×1/2)により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、給与として課税しなくて差し支えない。

 

ここで、「業務使用床面積割合」というのは、「業務のために使用した部屋の床面積」÷「自宅の床面積」をいいます。

電気料金については、実費精算をするのが困難ですが、上記の算式で算出したものを実費扱いできるわけです。

 

<レンタルオフィス代等>

・従業員がレンタルオフィス代等を立替払いし、かつ、領収書等を企業に提出して精算されているものについては、給与として課税する必要はない。

・従業員に金銭を仮払いし、レンタルオフィス代等に係る領収証等を企業に提出し精算した場合も同じ。

 

レンタルオフィスの利用料金については、実費精算を認めるに過ぎないと考えられます。

ただ、レンタルオフィスの利用については、会社の事前承認が原則となるでしょう。

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