2024/08/17|2,642文字
<監督指導結果のポイント>
令和6(2024)年7月25日、労働基準監督署が令和5年度に、長時間労働が疑われる事業場に対して実施した監督指導の結果を、厚生労働省が取りまとめ公表しました。
この監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等についての労災請求が行われた事業場等を対象としています。
そのポイントも、次のようにまとめられ公表されています。
【監督指導結果のポイント】(令和5年4月~令和6年3月)
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長時間労働等が行われていたとして、労働基準監督署が指導を行った具体的な事例も紹介されています。
<倉庫業の事例>
- 立入調査(臨検監督)で把握された事実
倉庫業の事業場(労働者約20人)で、倉庫内の作業管理を行う労働者6人について、取引先のセール等で取扱貨物量が増加したことによる業務繁忙と人手不足のため、36協定で定めた上限時間(特別条項:月80時間)を超え、かつ労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限(月100時間未満、複数月平均80時間以内)を超える、最長で1か月当たり127時間の違法な時間外・休日労働が認められた。
- 労働基準監督署の指導
長時間にわたる違法な時間外・休日労働を行わせたこと
・ 36協定で定めた上限時間を超えて時間外労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第32条違反)
・ 労働基準法に定められた上限時間を超えて時間外・休日労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第36条第6項違反)
・ 時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導
<製造業の事例>
- 立入調査(臨検監督)で把握された事実
① 機械器具製造を行う事業場(労働者約20人)において、営業職の労働者が精神障害を発症。長時間労働が原因であるとして労災請求がなされたため、立入調査を実施した。
② 精神障害を発症した労働者の勤務状況を確認したところ、繁忙期に上司の不在が重なり業務が集中したため、36協定で定めた上限時間(月42時間)を超える、最長で1か月当たり111時間の違法な時間外労働が認められた。
③ また、当該労働者には固定残業代(20時間分)が支給されていたものの、それを超過する時間外労働に対して、割増賃金が支払われていなかった。
④ そのほか、時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えていたにもかかわらず、当該労働者に対し、時間外・休日労働に関する情報を通知していなかった。
- 労働基準監督署の指導
◆ 長時間にわたる違法な時間外・休日労働を行わせたこと
・ 36協定で定めた上限時間を超えて時間外労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第32条違反)
・ 労働基準法に定められた上限時間を超えて時間外・休日労働を行わせたことについて是正勧告(労働基準法第36条第6項違反)
・ 時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導
◆ 時間外に対する割増賃金を支払っていないこと
・ 時間外労働について2割5分以上の割増賃金を支払っていないことついて是正勧告(労働基準法第37条違反)
◆ 労働者に対し、時間外・休日労働の情報を提供しなかったこと
・ 時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた労働者に対し、時間外・休日労働時間に関する情報を通知していなかったことについて是正勧告(労働安全衛生法第66条の8第1項違反)
<施工管理業の事例>
- 立入調査(臨検監督)で把握された事実
工事の施工管理等を行う事業場(労働者約250人)で、36協定で定めた上限時間や労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限時間(月100時間未満、複数月平均80時間以内)を超える時間外労働は認められなかったが(最長で1か月当たり74時間)、勤怠管理システムの労働時間の記録と、労働者のパソコンのログオン・オフ時間との間に、長い者で1日当たり2時間以上の乖離が発生している状況が確認された。
- 労働基準監督署の指導
・ 労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施することを指導
・ 過去に遡って労働者に事実関係の聞き取りなど時間外・休日労働の実態調査を行い、調査の結果、差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加でその差額を支払うことを指導
・ 時間外・休日労働時間を1か月当たり45時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導
<実務の視点から>
労働基準監督署は、36協定違反と労働基準法違反のそれぞれについて、指導を行っています。
これは36協定と労働基準法とで、違反の基準が異なり、どちらか片方の基準だけをクリアしていても適法にはならないため、それぞれの対策が必要だからです。
労働基準監督署は、企業に対して適法な状態にするよう指導します。
しかし、それぞれの企業の実態に即して、どうしたら是正できるかというところまでは指導しません。
これは、労働基準監督署の権限を超える内容だからです。
しかし、厚生労働省からは、適法な企業運営をするために必要な施策についてのパンフレット類など、各種資料が公開・配布されています。
こうしたものを参考に各企業で改善計画を立て、着実に実行していくことになります。