かつての「限定正社員」は今の「多様な正社員」です。労働契約にも柔軟性が求められる時代です

2024/11/15|1,758文字

 

<正社員の定義>

法令には「正社員」という言葉の定義がありません。

「正社員」は法律用語ではないのです。

ですから、正社員の定義は会社ごとに独自に定められています。

正社員の明確な定義の無い職場も多数存在します。

 

一般的な正社員のイメージは次のとおりです。

・定年を除き労働契約の期間が定まっていない無期労働契約である。

・時間外労働(早出、残業)に応じる義務がある。

・深夜労働に応じる義務がある。

・勤務地が限定されず転勤に応じる義務がある。

・業務内容が限定されず異動に応じる義務がある。

 

<多様な正社員の定義>

正社員の労働条件のうち、一つか複数を欠いている場合を、「多様な正社員」と呼んでいます。

・早出や残業を免除されている。

・深夜労働を免除されている。

・転勤が全くない。または、一部の地域内に限定されている。

・異動が無い。

・1日の所定労働時間が正社員よりも短い。

・週の所定労働日数が正社員よりも少ない。

「その会社の正社員と比較して」という話ですから、正社員の定義が会社ごとに決められている以上、多様な正社員の定義も会社ごとに様々です。

 

正社員の所定労働時間が1日8時間で、1週間の所定労働日数が5日という会社が多数派です。

しかし、正社員の所定労働時間が1日6時間半で、1週間の所定労働日数が6日という少数派の会社もあります。

この少数派の会社で、1週間の所定労働日数が5日の正社員は、多様な正社員であると認識されます。

出勤日数が一般の正社員よりも限定されているからです。

また、多数派の会社では、1日の所定労働時間が6時間半の正社員は、多様な正社員であると認識されます。

勤務時間が一般の正社員に比べて限定されているからです。

 

労働時間と出勤日数の両方が限定されている正社員も、労働時間と出勤日数が限定されているうえさらに、勤務地が関東地方に限定されている正社員もいます。

こうなると、一口に多様な正社員と言っても、数多くのパターンがあるわけですから、多様な正社員のイメージは統一しにくいといえます。

そのためか、かつて「限定正社員」と呼ばれていましたが、「多様な正社員」と呼ぶようになっています。

 

<パート社員などとの比較>

労働時間や出勤日数が限定された正社員がいる一方で、同じ職場にパート社員や契約社員と呼ばれる人たちも働いていたりします。

パート社員の中にも、正社員並みの労働時間と出勤日数の人がいる一方で、週1日だけの勤務や、1日3時間の勤務という人もいます。

こうしてパート社員、契約社員の境界線が不明確になっています。

就業規則などで、正社員、パート社員、契約社員などの定義が明確になっていないと、「私にこの規定が適用されないのはおかしい」という主張がされて、トラブルとなることがあります。

就業規則に具体的な定義の無い会社は、速やかに社会保険労務士などに相談して、就業規則を改定しておくよう強くお勧めします。

 

就業規則が無い会社はもっと危険です。

個人ごとに労働条件通知書や雇用契約書などで、労働条件をきちんと定めておかないことが、思わぬトラブルを招いてしまいます。

「何かあったら話し合って決める」と思っていても、トラブルが発生したら話し合いが難しくなりますから、あらかじめ決めておく必要があるのです。

 

<個別契約の時代>

もともと就業規則には、労働条件のうち共通の部分が定められています。

「正社員就業規則」「パート社員就業規則」「アルバイト社員就業規則」という形で、ある程度の区分ができていた昭和時代ならともかく、今は「多様な正社員」がいて、同じ会社の中に労働条件が全く異なるパート社員がいます。

そして、正社員とパート社員、アルバイト社員の区分も不明確になってきています。

 

ここまで来たら、就業規則は正社員、パート社員、アルバイト社員、契約社員などに共通する項目だけを定めて、共通しない項目は、個別の労働契約で確認するというのが現実的です。

 

労働条件の一部を決めず曖昧にしておいたり、口約束だけで文書化せずにいたりしたところ、退職者からとんでもない要求をされたという経験をお持ちの経営者の方は少なくないでしょう。

これからは、個別契約の時代です。

人を雇うにあたって、専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

最低賃金の目的と機能がいつの間にかすり替えられている?そうでなければこの急上昇はありえない!

2024/11/14|1,740文字

 

<最低賃金の本来の目的>

最低賃金の目的については、最低賃金法第1条に次のように規定されています。

 

この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 

対象者は、賃金の安い労働者です。

賃金の最低額を保障し、労働条件を改善して、次のことを可能にしようとしています。

 

・賃金の安い労働者の生活が経済的に安定する。

経済的な困窮から犯罪に走ること、自分や家族の命を絶つようなことを予防するという目的も含まれているでしょう。

 

・賃金の安い労働者が、質の高い労働力を提供できるようにする。

ある程度環境の整った住宅に住み、体力を維持するのに必要な食事をとることができて、体調が悪ければ医師の診察を受けて治療でき、能力向上のための自発的な学習ができるなどによって、労働力の質を高めることができるようにするわけです。

 

・一部の企業だけが不当に安い賃金で労働者を雇えないようにする。

本来、賃金は企業と労働者との話し合いで自由に決められるはずです。

しかし、一部のブラックな企業がとても安い賃金で雇って荒稼ぎしていたら、まともな賃金で雇っている企業は競争に負けてしまうかもしれません。

そこで、賃金の最低額を法律で定めて企業に強制し、企業間の競争を公正にしようというのです。

 

・日本経済の健全な発展にプラスに作用する。

賃金の安い労働者の収入を増やすことによって、物を買ったりサービスを利用したりが盛んになります。

賃金の高い労働者は、収入が増えても貯蓄に回す比率が高いのですが、賃金の安い労働者ほど増えた収入を消費に回しやすいのです。

こうして、日本経済の発展を下支えすることが期待されるのです。

 

<最低賃金の現在の機能>

東京都の最低賃金は令和6年10月1日から時間単価が1,163円となっています。

改定された最低賃金は、発効した日の勤務分から適用されることになります。

これはもう最低賃金法の目的からすると、十分高い水準なのかもしれません。

それでも、まだまだ最低賃金が上昇する見込みです。

 

これは政府の少子高齢化対策の継続的な推進と関係があると思われます。

今、政府は少子高齢化対策を強力に推し進めていて、関連する法改正も盛んです。

特に育児・介護休業法などは、頻繁に改正されています。

企業の就業規則も、法改正に対応した変更からたった1年放置しただけで、違法になってしまうのが現状です。

所轄の労働基準監督署からすれば、就業規則変更届が2年以上提出されない企業は、立入調査(臨検監督)を実施する理由があることになります。

 

最低賃金が問題となる賃金の安い労働者というのは、基本的には若い労働者です。

これから結婚して子供を設け育てていく労働者です。

若い労働者が安心して結婚し子供を育てられる賃金水準というと、今の最低賃金ではまだ不十分でしょう。

たとえば東京都の最低賃金の時間単価1,163円で、1日8時間、週5日働くと、年間で242万円程です。

( 1,013円 × 8時間 × 5日 × 52週 = 2,419,040円 )

ここから社会保険料や税金が差し引かれますから、結婚に踏み切れないでしょう。

 

このように少子高齢化対策の側面から見ると、最低賃金は更に上がって当然と言えそうです。

 

<実務の視点から>

同一労働同一賃金もありますから、非正規職員の人件費を抑えるのも困難です。

人件費その他の経費を考えると、従業員の数は最少限に抑えたいところです。

機械化する、外注に出す、正社員からパート社員に業務を移管するなどの他に、もう一度、教育訓練の強化を考える時期に来ていると思います。

いつの間にか、社員の教育研修を簡素化するようになった企業が多いのではないでしょうか。

生産性を上げるのに人件費を切り詰めてブラックになるよりは、社員の少数精鋭化と多機能化を目指して優良企業となった方が、お客様もお取引先も喜ぶのは目に見えています。

もし自社にぴったりの教育研修について迷うところがあれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

トラブル解決のための和解契約書はひな形をカスタマイズして使いましょう。

2024/11/13|2,066文字

 

<和解契約の性質>

和解とは、法律関係の争いについて、当事者が互いに譲歩し争いを止める合意をすることをいいます。

退職者から会社に対し、代理人弁護士を通じて、法的な権利を主張し何らかの請求をしてくることがあります。

在職者からは、弁護士を介さず直接請求してくることが多いでしょう。

会社が何らかの回答をし、これに退職者・在職者が納得しなければ、あっせんや労働審判を申し立てられることがあります。

これを超えて訴訟にまで発展すると、当事者には時間、費用、労力、精神力などの負担が大きくのしかかります。

和解というのは、会社と退職者・在職者のどちらが正しいか白黒を付けるのではなく、お互いに歩み寄って解決することにより、時間、費用、労力、精神力などの負担を軽減しようという、合理的な解決方法であるといえます。

 

<和解契約書のひな形>

和解契約書のひな形は、ネットで検索すると、金銭消費貸借契約に関するものも多いですが、「和解 ひな形 労働者」で検索すれば、会社と従業員や退職者との和解契約書のひな形が見つかります。

しかし、その一般的なものには、そのまま利用すると、紛争の解決どころか新たな紛争の火種となる要素が含まれています。

以下、そうした例について説明を加えてみましょう。

なお、例文中の甲は会社、乙は退職者・従業員を示しています。

 

<離職理由>

第○条 甲乙は、本件に関し、雇用保険の離職証明書の離職事由は、○○○○であることを確認した。

雇用保険の離職理由は、会社(事業主)と退職者(離職者)のそれぞれが、離職票・離職証明書に具体的事情を記入し、所轄のハローワーク(公共職業安定所)が判断します。

会社と退職者とで離職理由の申し合せをしても、ハローワークがこれに拘束されるわけではありません。

あくまでも具体的事情に基づいて判断されます。

したがって、事実と異なる申し合せは無効となります。

たとえ話ですが、自己都合の退職者が、雇用保険の手続担当者に「5万円あげるから会社都合にして」と依頼し、手続担当者がこれを承諾して会社都合の離職票を作成したら、失業手当(求職者給付の基本手当)を不正受給することになりかねません。

こうしたことが許されないのは明らかです。

 

<守秘義務1>

第○条 乙は、在籍中に従事した業務において知り得た技術上・営業上の情報について、退職後においても、これを他に開示・漏洩し、自ら使用しないことを誓約する。

退職者に「他に開示・漏洩しない義務」を負わせることは可能ですが、退職者の頭の中に残っている情報を使用しないというのは不可能なことです。

無意識のうちに使用することは避けられません。

不可能なことを和解の内容に加えてしまうと、全体の信憑性が損なわれてしまいます。

 

<守秘義務2>

第○条 乙は、本合意書の存在及びその内容の一切を厳格に秘密として保持し、その理由の如何を問わず、一切開示又は漏洩しない。

守秘義務に共通のことですが、守秘義務に反して秘密を開示・漏洩してしまった場合のペナルティーが無ければ、実効性を保てないのではないでしょうか。

秘密の開示・漏洩によって会社に実害が発生した場合には、和解契約書の有無とは関係なく、不法行為または債務不履行による損害賠償責任が発生しますので、あえて和解契約書を交わすメリットは見当たりません。

会社側が実害の立証をしなくても、秘密の開示・漏洩があれば、従業員や退職者に一定の違約金を請求できる内容を加えておく必要があるでしょう。

 

<競業避止義務>

第○条 乙は、退職後○年間は、甲と競業する企業に就職したり、役員に就任するなど直接・間接を問わず関与したり、又は競業する企業を自ら開業したり等、一切しないことを誓約する。

退職者にも、憲法で保障された職業選択の自由がありますから、競業避止義務を負わせる場合には、期間だけでなく、地域的な範囲を限定しなければ一般には無効となります。

地域を限定しないで、つまり全世界で禁止ということが合理性を持つのは、ほんの一つまみのグローバル企業の場合だけです。

また、給与への上乗せ、退職金への上乗せなどで、競業避止に対する対価の支払が行われている場合を除き、和解に当たって、競業避止の対価を支払うことが必要です。

退職者には、和解に応じる/応じないの選択権がありますから、会社に都合の良い内容を押し付けることはできないのです。

 

<債権債務の不存在>

第○条 甲乙は、本件に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務が無いことを相互に確認し、今後一切の異議申し立てを行わない。

和解にこの条項が無いと、紛争のぶり返しがありうるので、最終決着であることを担保するために設けられます。

しかし、従業員と会社との間には労働契約上の債権債務があります。

これが消滅してしまう和解というのは、ありえないでしょう。

また、退職者であっても、退職直後であれば、退職金の支払、健康保険や雇用保険の手続が残っていることがあります。

こうしたものが残っている場合には、例外として盛り込んでおく必要があります。

採用面接前の応募者チェックポイントは企業にとっても求職者にとっても役に立ちます

2024/11/12|521文字

 

採用面接の直前でも、次のことはチェックしておきたいものです。

 

<採用したくなる応募者>

・清潔感のある服装、髪型、身だしなみ。

・筆記用具とメモを持参している。

・面接開始の510分前に到着している。

・きびきびと歩くのが速い。

 

<採用したくない応募者>

・遅刻する。しかも、事前の連絡が無い。さらに、言い訳までする。

・不潔な印象を受ける。

・個性的なファッション。

・履歴書を忘れてくる。

・「まだ履歴書に写真を貼ってないです」と言う。

・待っている間に長電話している。

・友達や家族の付き添いがいる。

・声を出さずに挨拶する。

・猫背でゆっくりと歩く。

・おとなしく待てずに歩き回っている。

・面接の日とは違う日に来る。

 

思わず笑ってしまいたくなる応募者もいるわけです。

いくら人手不足で困っていても、採用したくない応募者はいるものです。

採用したい応募者と同じ時間をかけて面接するのはいけません。

なるべく短時間で切り上げましょう。

 

どうしても人情で採用してあげたくなってしまうという場合には、採用面接を社会保険労務士(社労士)に任せるという手もあります。

面接だけでなく、その前の求人、採用後の手続や教育を含めて、社労士はプロフェッショナルです。

ぜひ、ご相談ください。

管理監督者には年次有給休暇がないという勘違いがあります。管理監督者も年次有給休暇も誤解が多い法律用語です。

2024/11/11|1,007文字

 

<管理監督者の特例>

労働基準法第41条第2号に、管理監督者には休日に関する規定が適用されない旨の規定があります。

 

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

 

<休日に関する規定>

労働基準法には、休日に関する規定として次のようなものがあります。

 

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 

この規定は、管理監督者には適用されません。

つまり、管理監督者には週1回の休日を与えなくても良いのです。

ただ、会社は過重労働にならないよう配慮する義務は負っています。

 

<年次有給休暇の規定>

一方で、労働基準法には年次有給休暇の規定があります。

 

第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。(以下省略)

 

この規定は、休日に関する規定ではなくて休暇に関する規定ですから、管理監督者にも適用があります。

 

<休日と休暇>

同じではありません。

 

休日(holiday)は、もともと労働義務のない日です。休むのに、会社に申告したり手続をしたりは不要です。

休日の前日に会社を出るとき、「すみません。明日は休ませていただきます」などと挨拶するのは、少々行き過ぎでしょう。

 

休暇(vacation)は、もともと労働義務のある日について、届出などの手続を行うことによって、労働が免除される日です。

休暇の前日に「明日から休暇をいただきます。よろしくお願いいたします」と上司や同僚に挨拶するのは、良識ある社会人のマナーです。

 

<実務の視点から>

休日と休暇の違いなど、社会保険労務士にとっては基本中の基本なのですが、世間一般では休日と休暇が混同されがちです。

労務管理は専門性の高いことですから、少しでも引っかかるところがあれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

会社が知らず識らずのうちに加担する保険金詐欺があります。故意に行えば詐欺罪が成立します。

2024/11/10|945文字

 

<保険金詐欺>

保険金詐欺は、刑法第246条に規定されている詐欺罪に該当します。

保険金詐欺として逮捕される可能性がある行為としては、自動車保険で、偽装の自損事故や盗難を偽装して車両保険を請求する、偽装の自損事故で人身傷害保険や搭乗者傷害保険を請求する、本当はケガをしていないのにケガをしているふりをして対人や人身傷害保険を請求するなどが見られます。

しかし、会社が加担する保険金詐欺もあるのです。

 

<雇用保険の詐欺>

採用が内定すれば「失業」の状態は解消されます。

それにもかかわらす、内定が無いものとして、基本手当(昔の失業手当)や再就職手当などの就業促進手当について受給があれば保険金詐欺になります。

基本手当については、請求手続に会社が関与しませんので、責任を問われることはありませんが、調査が入れば対応する義務を負います。

再就職手当などの就業促進手当については、会社が主体的に手続に関与しますから、ここで不正を働けば保険金詐欺への加担について責任を負わされます。

 

<労災保険の詐欺>

業務災害や通勤災害を隠すために、被災者に対して、健康保険を使って治療を受けるよう会社が指示を出すことがあります。

労災保険のメリット制が適用される企業では、保険料率の上昇を防ぐための工作となります。

建設業では、被災者が仕事に就くことができないにも拘らず、建設現場に出頭させて業務に就いていたことにするなどの偽装工作まで行われています。

健康保険の側からすれば、健康保険で負担しなくて良い治療費の7割を負担することになります。

病院としては、労災の方が診療報酬が高いことが多いのですから、不審に思えば、労働基準監督署に問い合わせるなどの行動に出るのが自然です。

こうして、労災保険の詐欺は発覚しやすいので、しばしばマスコミで報道されることとなります。

会社の信用を低下させる痛手は、労災を健康保険でまかなう不正な利益を遥かに上回ってしまいます。

 

<実務の視点から>

会社の経費を浮かすために、正しい手続から外れた行為をした場合、しっぺ返しがあると見て間違いありません。

過去に幾多の不正行為があり、これに対抗するための制度を国が構築したわけですから、姑息な手段で保険関係の不正を行うことは、ほとんど不可能であると心得ましょう。

求職者が求人広告を見て電話で応募してきた場合の企業側のチェックポイント

2024/11/09|580文字

 

<採用したい応募者のパターン>

・電話に出た採用担当者のことを気遣って話を良く聞く。

・静かな場所から電話をかけているので話し声が鮮明。

・午前9時から午後5時までに電話をかけてくる。店舗などの場合には、お客様の少ない時間帯を考えてかけてくる。

・いろいろ準備してから電話をかけてくるので、メモを取りながら要領よく受け答えする。

・「まだ募集していますか?」という嬉しい質問をする(良い条件なので応募者が殺到しているだろうという話をしてくれている)。

・面接に何を持参すべきか聞いてくる。

 

<採用したくない応募者のパターン>

・求人広告をきちんと読んでいないので、そもそも条件が合っていない。

・面接の日時を知らされる前に電話を切ろうとする。

・「メモを取るのでちょっと待ってください」と言い電話が中断する。

・周囲の騒音が大きくて聞き取りにくい。

・電波が途切れる。

・自分の言いたいことを勝手にしゃべっている。

・早朝や深夜、忙しい時間帯に電話をかけてくる。

・応募者本人からの電話ではない。

 

このように、応募者からの電話ひとつをとっても、採用選考の手掛かりは多いものです。

仕事探しをしている人は、失敗しないようにしましょう。

求人側は、採用を急いでいるからといって、妥協してはいけません。

採用も社会保険労務士(社労士)の専門分野です。

困ったら社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

タイムカードと実際の労働時間が違うという主張は従業員や労働基準監督署に通用するのでしょうか?

2024/11/08|1,785文字

 

<就業規則にタイムカードで管理するという規定だけがある場合>

厚生労働省のモデル就業規則には、労働時間の管理について次の規定があります。

 

(始業及び終業時刻の記録)

第15条 労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。

 

こうした規定が就業規則にある場合には、原則としてタイムカード通りに勤務したものと見られます。

もし労働時間の実際の管理がタイムカードによらないのであれば、就業規則違反とも言えますが、就業規則の変更手続を怠っているとも考えられます。

いずれにせよ、適法な状態ではないので速やかに是正すべきでしょう。

 

何か特別な事情があって、一部の労働者についてだけ就業規則とは異なる方法で労働時間の管理を行っている場合には、どのような範囲の人について、どのような場合に、タイムカードによらない管理をするのかについて、就業規則に定めておく必要があります。

 

就業規則がある場合に、就業規則の規定による労働時間の管理方法によらず、別の根拠で始業時刻や終業時刻を認定しようとしても、とても難しいのです。

 

始業時刻や終業時刻、休憩時間などの認定について、使用者側が労働者側の主張と違う考え方をとり、争いになることがあります。

労働者や退職者が未払賃金の支払を求めて労働審判や訴訟となった場合が典型です。

また、労働基準監督署の監督や会計検査院の調査などがあった場合には、就業規則通りに認定します。

使用者側が、これを否定して別の方法で認定してもらうのは至難の業です。

 

<タイムカードとは違う認定が可能な場合>

タイムカード通りに労働時間を認定したのでは、実際よりも長く計算されてしまうということがあります。

こうしたことを防ぎたいのであれば、就業規則に特別な規定を置き、それに沿った運用をすることで、本当の労働時間と計算上の労働時間との誤差を少なくすることができます

しかし、このためには就業規則と運用の整備や社員教育が必要です。

これは、高度に専門的な知識と技術が必要ですから、導入に当たっては、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

 

<タイムカードとは違う認定を可能にする就業規則>

就業規則に、タイムカードは職場への入場時刻と職場からの退出時刻を示しているということ、これは勤務時間の参考記録にはなるが、ここから直接労働時間を計算できるわけではないということを明示すべきです。

 

<たとえば残業時間の認定についての運用>

運用を整備しなければ、就業規則上の所定の終業時刻から退出時刻までが残業時間となってしまいます。

多くの会社では、このような状態になっています。

残業は、本来使用者から命じられて行うものですが、自己判断での残業が許されていたり、残業時間の管理がルーズだったりすれば、タイムカード通りに認定するしかなくなってしまいます。

 

まず、会社の上司など使用者から早出や残業を命じる場合には「残業指示書」により時間外勤務を命令します。

反対に、労働者が早出や残業の必要を感じて使用者に命令を求める場合には、あらかじめ「残業申請書」により申請し、使用者の命令があった場合には許されるという運用を徹底しなければなりません。

 

ただし、指示書や申請書が無いまま勝手に残業してしまった場合でも、働いたからには賃金を支払わざるを得ないというケースが多くあります。

しかし、これはルール違反ですから、きちんとした教育指導を前提として、懲戒処分の対象とすることもできます。

 

そして、早出や残業については、実際の勤務開始と勤務終了、そして行った業務を使用者に具体的に報告させる必要があります。喫煙や私用などで休憩した時間も申告させます。

使用者は、残業命令を出す場合や残業申請を許可する場合には、この報告内容を参考に判断することができますし、ダラダラ残業を阻止することもできます。

 

こうした運用についても、就業規則に規定しておくことが好ましいですし、ルール違反や虚偽の報告に対する懲戒処分を可能にするには、就業規則に具体的な懲戒規定が必要となります。

 

「残業代が一向に減らない」と悩んでいる経営者の方には、ぜひ取り組んでいただきたい課題です。

そして、こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談いただくことをお勧めします。

所轄の労働基準監督署から送られてくる労働条件自主点検表への対応は正直に真面目に行いましょう

2024/11/07|1,578文字

 

<自主点検表>

自主ですから「自社はどうなのか」ということで、自己点検に用いるのが本来の趣旨です。

しかし現実には、所轄の労働基準監督署から送られてきて、自己点検を迫られるのです。

「この点検表は、御社の労務管理が労働基準法等に照らして問題ないかを自ら点検し、問題があれば自主的に改善するきっかけとしていただくためのものです。それぞれの設問の回答のうち、御社に当てはまるものを選んでください」という、やんわりとした説明が加えられています。

しかし、「自主点検した結果は、別紙「労働条件に関する自主点検結果報告書」に転記の上、同封の返信用封筒を用いて◯月◯日までに、御返送いただきますようお願いします」ということになっていますから、決して自主的なものではありません。

 

<労働基準監督署の監督>

自主点検結果に違法な項目があれば、所轄の労働基準監督署から立入調査(臨検監督)が入ります。

「問題があれば自主的に改善するきっかけとしていただく」ということですから、自主点検結果報告書を提出してから一定の期間を経過していれば、改善済みになっている筈という建前です。

改善が滞っていれば、当然に行政指導が入ります。

指導が入れば、これに対して改善内容の報告をする義務があります。

かといって、自主点検結果報告書の提出を怠っても立入調査の対象となりますし、虚偽の報告に対しては罰則の適用もありえます。

 

<所定労働時間>

一般の事業では週40時間、労働者数10人未満の商業・接客娯楽業等の事業場では週44時間が所定労働時間の上限ですから、これを上回れば違法ということになります。

実態としては、所定労働時間を決めていないので答えようがないという中小企業もあります。

労働者の都合を踏まえ、話し合いで出勤日や労働時間を決定しているので、むしろ望ましい状況なのですが、法律の規定に照らすといけないことになってしまいます。

変形労働時間制など、労働基準法が準備している制度の利用が求められます。

 

<休日>

労働基準法では、週1日または4週4日が法定休日となっています。

このうち、4週4日には運用のルールがあるのですが、これを遵守していないこともあります。

また、飲食店などでは、月8日という休日の定め方をしている場合もあります。

これらは労働基準法違反なのですが、当事者にはピンと来ない部分です。

労働基準監督署の指導が入っても、対応に苦慮することになります。

しかし、労働基準監督署からは適法になるまで是正を求められます。

 

<三六協定>

三六協定を所轄の労働基準監督署長に届出していない企業、協定が期限切れのまま放置している企業も多数あります。

この場合、1分の残業が違法であり犯罪ということになります。

残業した労働者ではなく、残業させた使用者に罰則が適用されます。

これもついうっかりの手続ミスですが、「忘れていました」は言い訳になりません。

自主点検表でチェックした結果、忘れていることが判明したので、あわてて三六協定の届出をしましたということであれば、ギリギリセーフといったところです。

 

<最低賃金>

試用期間、固定残業代などで、うっかり最低賃金を下回ってしまうことがあります。

たとえ短期間でも、最低賃金を下回ることは、最低賃金法違反の犯罪ですから注意が必要です。

 

<就業規則>

働き方改革や少子高齢化対策で、法改正があまりにも頻繁です。

就業規則の内容を適法に維持するのは、困難を極めている状態です。

しかし、内容が適法で、しかも実態が就業規則通りであることが求められます。

 

<実務の視点から>

自主点検表の最後には、「セミナー及び個別訪問の参加希望」の欄が設けられています。

労働法への完璧な対応に自信が無ければ、これに申し込むことによって、改善の猶予が与えられます。

可能な限り、これを希望するのが得策だと考えられます。

労働基準法が残業手当を割増賃金としている理由

2024/11/06|1,401文字

 

<割増になる理由>

労働基準法は、18時間、週40時間を法定労働時間として定め、この基準を超える労働に対しては、割増賃金の支払を義務づけています(労働基準法第37条)。

本来であれば自由である使用者と労働者との間の労働契約に、労働基準法による国家の介入があって、割増賃金の支払が義務づけられています。

これは長時間労働を抑制して、労働者の命と健康を守り、家庭生活や社会生活の時間を確保するのが目的です。

 

<労働者の命と健康を守る>

1日8時間、週40時間を超えて、もっと長時間働きたい労働者もいます。

 

まず、今の仕事が気に入っていて、納得がいくまで働きたいという労働者がいます。

たとえば企画、制作、デザイン部門で働く若手は、納得のいく物ができるまで、じっくり時間をかけて取り組みたいと思います。

「残業代は要らないから、やりたいだけやらせて欲しい」という人もいます。

これは、一種の仕事中毒の状態でもあります。

ですから、会社が残業を抑制しなければ、命と健康がおびやかされます。

どんな仕事にも締切があり、個人的に納得がいくかどうかではなくて、会社として客観的に求める出来栄えのレベルがあるわけですから、このことをしっかりと教育して、一つひとつの仕事に厳格な制限時間を設け、生産性を高めるよう求めることが必要です。

 

また、出世のため一定の成果を上げたいので、十分な労働時間を確保したいという労働者がいます。

こういう労働者のいる会社は、人事考課の基準に問題があるかもしれません。

会社側から見れば、他の人よりも多くの人件費をかけて成果を出しても、生産性が上がるわけではなく会社の利益は増大しません。

残業手当が増えることは、会社にとって人件費の負担が増えることですから、人事考課にあたっては、残業時間が多いことをマイナス評価にするのが理にかなっています。

残業が多いと頑張っているように見えて評価が上がるという、昭和時代の人事考課は見直す必要があります。

 

<家庭生活や社会生活の時間を確保する>

たとえば、扶養家族が増え、家庭生活の維持のため収入を増やしたいという労働者がいます。

子供が生まれたとか、親を扶養に入れるようになったなどの事情があります。

本人としては、将来の昇給よりも、とりあえず残業代が欲しいと思っています。

この場合でも、本人の希望で残業することを理由に、残業代をカットしたり、割増しない賃金を支払ったりということはできません。

労働基準法の割増賃金は、本人の個人的な事情や希望とは関係なく義務付けられているものです。

むしろ、割増賃金とすることによって、少ない残業時間で多くの賃金を得られるようにして、家庭生活の時間を増やす狙いがあります。

 

さらに、学生は夏休みなどの長期休暇にたくさん働いておきたいと考えます。

しかし、長時間労働によって学業がおろそかになり、卒業できないという事態も現に発生しています。

やはり学生はしっかり勉学に励むための時間が必要です。

こうして、学生生活の時間を確保する必要があることは明らかです。

この趣旨から、アルバイトでも残業すれば割増賃金が発生するという労働基準法の規定には合理性があります。

 

労働基準法を順守しつつ、人件費を抑制し定着率を高めるには、採用の工夫と教育研修の強化が必須課題です。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

PAGE TOP