人事異動があった場合の適正な人事考課

2024/12/05|782文字

 

<就業規則に規定があれば>

就業規則や人事考課規程の中に、考課期間の途中で人事異動があった場合の規定があれば、それに従い人事考課を行うことになります。

しかし、厚生労働省のモデル就業規則にも、そのような細かい規定はありません。

実際にも、人事異動を想定した規定を持たない会社は多いようです。

 

<考課期間による按分方式>

たとえば、冬の賞与支給額を決定するための考課期間が4月から9月までだったとします。

ある社員が、課長Aの部署から課長Bの部署に6月1日付で異動したならば、課長Aと課長Bの両方が人事考課をして、課長Aの評価の3分の1と課長Bの評価の3分の2を合計するという方法がとれます。

このやり方のメリットは、それぞれの課長が自由に評価できるという点にあります。

ただし、評価が数値化されていないと単純に計算できないので、この方法を使うのは困難です。

 

<協議による評価方式>

上の例で、課長Aと課長Bとで協議しながら評価を決めるという方式も考えられます。

このやり方のメリットは、評価が数値化されない場合や、少しずつ業務を移管していって実質的な異動日を特定できない場合でも問題ないという点にあります。

しかし、課長Aと課長Bとの人間関係や力関係から、どちらか一方だけの意見が強く反映される危険もありますし、そもそも仲が悪くて協議しないという場合も考えられます。

 

<実務の視点から>

やはり、あらゆることについて、人事異動を想定した明確な規定を備えておくべきです。

また、少子高齢化対策によって、労働関連法令全体に急速な法改正が広がっていますから、会社がこれに応じて就業規則を改定していくのが大変になっています。

この機会に、必要な就業規則の補充と変更をまとめて行ってはいかがでしょうか。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士(社会保険労務士)にご用命ください。

労災保険でよくある勘違い

2024/12/04|1,065文字

 

<事業主編>

 

Q:従業員の少ない小さな会社では、労災保険に入らない方が得?

A:原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに労災保険が適用されます。

労働者を1人でも雇用した場合、事業主は労働保険(労災保険と雇用保険の総称)の加入に必要な手続を行うことが法律で義務づけられています。

法律上は、条件を満たせば労災保険が適用されていて、事業主が入っていないつもりになっているのは手続を怠っているだけです。

 

Q:労災保険に入る手続をしなくても簡単にはバレない?

A:厚生労働省が「労働保険適用事業場検索」というサービスを提供しています。

これによって、誰でもネットで確認できますので、その会社の求人広告に応募しようとする人やお客様、お取引先、金融機関なども知ることとなります。

労働保険適用事業場検索|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

 

Q:労災保険に入る手続をしないうちに労災事故が発生したら?

A:労災事故の発生などをきっかけとして、成立手続を行うよう指導を受けたにもかかわらず、自主的に成立手続を行わない事業主に対しては、行政庁の職権による成立手続と労働保険料の認定決定を行うこととなります。

その際は、遡って労働保険料を徴収するほか、併せて追徴金を徴収することとなります。

また、事業主が故意または重大な過失により労災保険の保険関係成立届を提出していない期間中に労災事故が生じ、労災保険給付を行った場合は、事業主から遡って労働保険料を徴収(併せて追徴金を徴収)するほかに、労災保険給付に要した費用の全部又は一部を徴収することになります。

  

<労働者編>

 

Q:家に帰る途中でケガをしても、労災保険で治療を受けられない?

A:労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。

通勤途中のケガにも適用されます。

 

Q:給料から労災保険料が天引きされていないなら、労災保険に入っていない?

A:労災保険の費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。

事業主だけが保険料を負担し、労働者の負担はありませんから、給与からの控除もありません。

 

Q:学生のアルバイトなら労災保険は関係ない?

A:労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。

短期アルバイトにも労災保険が適用されます。

フリーランスに業務を発注する事業者の義務(2024年11月フリーランス新法施行)

2024/10/03|2,017文字

 

<フリーランス新法の施行>

フリーランスの方が安心して働ける環境の整備を図ることを目的として、令和6(2024)年11月1日、フリーランス新法が施行されました。

この法律によって、フリーランスの方と発注事業者の間の取引の適正化と、フリーランスの方の就業環境の整備が図られます。

 

<フリーランスとは>

フリーランス新法でのフリーランスは、「業務委託の相手方である事業者で従業員を使用しない者」と定義されます。

日常用語で、一般的にフリーランスと呼ばれる方には、「従業員を使用している」「消費者を相手に取引をしている」といった方が含まれる場合もありますが、この法律における「フリーランス」には該当しません。

また、業務委託ではなく、制作したものを販売するような場合には、相手が企業でも消費者でも、「フリーランス」には該当しません。

 

<発注事業者の義務>

この法律で、発注事業者に課される義務は、最大で次の7項目があります。

 

1.書面などによる取引条件の明示

2.報酬支払期日の設定・期日内の支払い

3.7つの禁止行為

4.募集情報の的確表示

5.育児介護等と業務の両立に対する配慮

6.ハラスメント対策に関する体制整備

7.中途解除等の事前予告・理由開示

 

具体的に、この7つのうちのどの義務が課されるかは、発注事業者や業務委託期間で異なります。

 

<発注事業者が従業員を使用していない場合>

発注事業者が従業員を使用していなければ、上記のうちの1.書面などによる取引条件の明示のみが義務づけられます。

フリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示する義務があります。

明示方法は、口頭では足りませんが、書面または電磁的方法かを発注事業者が選ぶことができます。

取引条件として明示する事項は次の9つです。

 

・給付の内容

・報酬の額

・支払期日

・業務委託事業者・フリーランスの名称

・業務委託をした日

・給付を受領する日/役務の提供を受ける日

・給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所

・(検査をする場合)検査完了日

・(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項

 

<発注事業者が従業員を使用していて業務委託期間が1か月未満>

発注事業者が従業員を使用していて、業務委託期間が1か月未満の場合には、1.2.4.6.が義務づけられます。

2.報酬支払期日の設定・期日内の支払いですが、報酬の支払期日は発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で定め、一度決めたら、その期日までに支払う必要があります。

ただし、元委託者から受けた業務を発注事業者がフリーランスに再委託をした場合、条件を満たせば、元委託業務の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることができるという、「再委託の例外」もあります。

4.募集情報の的確表示というのは、広告などによりフリーランスの募集情報を提供する際には、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、また、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければならないということです。

6.ハラスメント対策に関する体制整備は、ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じることを指しています。

 

<発注事業者が従業員を使用していて業務委託期間が1か月以上6か月未満>

発注事業者が従業員を使用していて、業務委託期間が1か月以上6か月未満の場合には、1.2.3.4.6.が義務づけられます。

3.の「7つの禁止行為」とは次のものです。

 

・受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)

・報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)

・返品(受け取った物品を返品すること)

・買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)

・購入・利用強制(指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)

・不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)

・不当な給付内容の変更・やり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)

 

<発注事業者が従業員を使用していて業務委託期間が6か月以上>

発注事業者が従業員を使用していて、業務委託期間が6か月以上の場合には、1.~7.のすべてが義務づけられます。

5.育児介護等と業務の両立に対する配慮というのは、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をする義務を負うということです。

 

<実務の視点から>

以上のように、フリーランス新法が適用されるフリーランスの範囲は限られている一方で、業務委託期間によって義務の内容が異なってくることから、取引にあたっては十分に注意し、義務を怠る結果とならないように注意する必要があります。

派遣社員には派遣先でも労働法が適用になりますから自社の社員同様に対応が義務づけられます

2024/12/02|2,142文字

 

<派遣社員への労働法適用>

派遣会社に労働者の派遣をお願いしていると、なんとなく「すべて派遣会社にお任せ」という感覚に陥りやすいものです。

しかし、派遣労働者を利用している派遣先にも、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法の中の、次のような規定が適用され、自ら雇用する労働者と同様、派遣労働者に対しても、事業主としての責任を負うことになっています〔労働者派遣法第47条の2、第47条の3、第47条の4等〕

 

◯ 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

◯ 育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止

◯ 職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等

◯ 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置

 

また、国内労働関係法令は外国人労働者についても適用されますので、事業主は外国人の派遣労働者についても責任を負うことになっています。

さらに、労働者派遣法や「派遣先が講ずべき措置に関する指針」により、派遣先が労働者派遣契約の締結に際し、派遣労働者の性別を特定する行為は禁止されています。これとは別に、職業安定法や均等法の趣旨からも、派遣労働者に対し性別を理由とする差別的取扱いを行ってはならないことになっています。

 

<妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(均等法第9条第3項)>

派遣先が、派遣労働者の妊娠・出産・産休取得等、厚生労働省令(昭和61年労働省令第2号)で定められている事由を理由として、不利益な取扱いをすることは禁止されています。

厚生労働省令で定められている主な事由として、次のようなものがあります。

 

◯ 妊娠・出産したこと

◯ 母性健康管理措置を求め、または受けたこと

◯ 産前産後休業を請求し、または取得したこと

◯ 産後の就業制限の規定により就業できなかったこと

◯ 軽易な業務への転換を請求し、または転換したこと

◯ 育児時間の請求をし、または取得したこと

 

この他、妊娠または出産に起因する症状により、労務の提供ができないことや、労働能率が低下したことも含まれていますので、かなり注意しなければなりません。

また、不利益な取扱いの内容についても、指針(平成18年厚生労働省告示第614号)で、次のようなものが定められています。

 

◯ 派遣先が派遣労働者の役務の提供を拒むこと、専ら雑務に従事させること

◯ 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めたり、派遣労働者の派遣を拒むこと

◯ 不利益な自宅待機を命ずること

 

<育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止(育介法第10 条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第21条第2項、第23条の2)>

派遣先にも、派遣労働者への育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いが禁止されています。

不利益取扱い禁止の対象となる制度・事由としては、次のようなものがあります。

 

◯ 育児休業、出生時育児休業

◯ 子の看護休暇

◯ 所定外労働、時間外労働、深夜業の制限

◯ 育児のための所定労働時間の短縮措置

 

この他、出生時育児休業中の就業について、就業可能日等の申出や事業主から提示された日時について、同意をしなかったこと等も含まれます。

また、不利益な取扱いの内容については、指針(平成18年厚生労働省告示第614号)に定められていますが、先述の妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いとほぼ同様の項目が掲げられています。

ただし、「労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること」といった固有の項目も含まれます。

 

<職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等>

派遣先は、派遣労働者についても、職場におけるセクシュアルハラスメント対策、

妊娠・出産等に関するハラスメント対策、育児休業等に関するハラスメント対策及びパワーハラスメント対策として、雇用管理上及び指揮命令上必要な措置等を講じなければなりません。

しかし派遣先の責務は、特別なものではなく、職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等、労働者の派遣を受けていなかったとしても、当然に講ずべき措置を行い、派遣労働者に対しても適用するということになります。

 

<妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(均等法第12条、第13条第1項)>

派遣先は、自ら雇用する労働者と同様に、派遣労働者についても、妊娠中および出産後の健康管理に関する必要な措置を講じなければなりません。

 

◯ 妊産婦が保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間の確保

◯ 妊産婦が保健指導又は健康診査に基づく主治医等の指導事項を守ることができるようにするために必要な措置

(例)時差通勤、休憩回数の増加、勤務時間の短縮、休業等

 

<実務の視点から>

以上のことから、派遣労働者を利用するにあたっては、自社の労働者に対する措置がきちんと行われていることが、前提となっているということが分かります。

このことを踏まえ、派遣労働者の利用について、改めて考えていただけたらと思います。

傷病手当金や失業手当に待期期間がある理由

2024/12/01|1,297文字

 

<待期期間の不思議>

健康保険の傷病手当金、労災保険の休業(補償)給付、雇用保険の基本手当(昔の失業手当)には、待期期間があります。

給付の理由があっても、最初の一定の日数は給付されません。

しかし、その理由は意外と知られていませんので、ここにご紹介させていただきます。

「待機期間」ではなくて「待期期間」です。

「待機」は、準備を整えていつか訪れるチャンスの到来を待つことです。

待機児童、自宅待機、待機電力の「待機」はこの意味で使われています。

「待期」は、必ず訪れる約束の時期を待つことです。

待期期間の「待期」はこの意味で使われています。

 

<傷病手当金の待期期間>

健康保険の傷病手当金は、ケガや病気で働けなくなっても最初の継続した3日間は待期期間とされ支給の対象とされません。

これは、仮病による支給申請を防止するためだそうです。

3日間の無給を犠牲にしてまで、嘘のケガや病気で傷病手当金の申請をしないだろうという考えによります。

ただ、年次有給休暇の取得も考えられますから、効果は疑わしいと思います。

 

<休業(補償)給付の待期期間>

労災保険の休業(補償)給付は、ケガや病気で働けなくなっても、最初の継続または断続した3日間は待期期間とされ支給の対象とされません。

仮病による支給申請の防止というのは、傷病手当金と同じです。

しかし、年次有給休暇のこともありますし、通勤災害による休業補償給付ではなくて、業務災害による休業給付ならば、最初の3日間は事業主が労働基準法の規定により休業補償を行うことになりますから、ますます効果は疑わしいものです。

 

<雇用保険の基本手当の待期期間>

ハローワークに離職票を提出し求職の申し込みをした日から7日間は、待期期間とされ基本手当の支給対象期間とされません。

本当に失業状態にあるといえるのかを確認するために設けられているとされます。

しかし、失業状態にあることの確認は、わずか7日間の待期期間を設けるだけでは不十分でしょう。

なお自己都合退職者には、7日間の待期期間の後、さらに最大3か月の給付制限期間が設けられています。

これは、自分の都合で退職しているので、経済的な備えなどができるはずだということで設けられています。

不思議なことに、この給付制限期間のことを待機期間・待期期間と呼んでいる人もいます。

 

<実務の視点から>

火災保険や自動車保険その他の損害保険では、免責金額が設定されているのが一般的です。

免責金額以下の損害に対しては保険金が支払われないのです。

保険会社から見ると、少額の損害で保険金を支払ったり、そのための手続や処理をしたりで経費を使わなくてもよいので助かります。

また、保険加入者にとっても、その分だけ保険料が安くなるわけです。

健康保険、労災保険、雇用保険で、1日限りの休業や失業に対してまで給付をするというのでは、手続にかかわる人々の人件費が大変です。

また、ある程度以下の給付は切り捨てて、その分だけ保険料を安くするという要請は公的保険という性質上、大きいものと考えられます。

以上のことから待期期間は、損害保険の免責金額のような役目を果たしているものと思われます。

退職金を支払わなくても大丈夫?

2024/11/30|1,074文字

 

<支払約束や慣行が無い場合>

退職金の支給について、就業規則や労働条件通知書などに規定が無く、支給する慣行も無いのであれば、雇い主側に支払の義務はありません。

しかし規定が無くても、退職金を支給する慣行があれば、その慣行を就業規則や労働条件通知書などに規定することを怠っているだけですから、規定がある場合と同様に支払い義務が発生します。

 

<対象者が限定されている場合>

就業規則などに、「勤続3年を超える正社員に支給する」という規定があれば、勤続3年以下の正社員に支給する必要はありません。

しかし、パート社員など非正規社員に支給する必要性には注意が必要です。

まず、正社員用の就業規則しか無い、就業規則に正社員の明確な定義が無いなどの不備があれば、本人からの請求によって支払わざるを得ないこともあります。

また、令和3(2021)年4月から同一労働同一賃金が全面施行されていますので、賞与支給の趣旨・目的が明確で、正社員以外に支給しない客観的に合理的な理由があるというのでなければ、会社が非正規社員から、特に退職後に訴えられるリスクがあります。

この場合には、不払残業代、パワハラに対する慰謝料、年次有給休暇を取得させなかったことに対する損害賠償など、すべて合わせて請求されるでしょう。

少なくとも、就業規則や労働条件通知書は、法改正を踏まえ社会保険労務士(社労士)のチェックを受けておくことをお勧めします。

 

<不支給の例外規定がある場合>

退職金の不支給について、就業規則や労働条件通知書などに規定があって、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当な場合には、例外的に不支給とすることが許される場合もあります。

「規定さえあれば不支給で構わない」ということではありません。

 「会社の承諾なく退職した者には退職金を支給しない」という規定は、その承諾が会社の主観的な判断ですから、客観的に合理的とはいえないでしょう。

 「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という規定があっても、必ずしも不支給が許されるわけではありません。

退職金を不支給としても良いのは「労働者のそれまでの勤続における功労を抹消するほどの信義に反する行為」があった場合に限られます。これが最高裁の判断です。

それほどの事情があったわけではないのなら、懲戒解雇そのものが不当解雇となり無効である可能性があります。

 

<実務の視点から>

同一労働同一賃金への対応は単純ではありません。

本当に退職金を支払わなくても大丈夫かといった専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

離職理由の変更は事実関係の変化があったとき、誤りを修正するときに可能です。労使の合意で事実に反する変更はできません

2024/11/29|1,380文字

 

<離職理由の重要性>

離職者が失業手当(雇用保険の基本手当)を受給するためには、事業主が雇用保険の脱退(資格喪失)手続をするとともに、離職証明書(離職票)の作成手続をする必要があります。

基本手当の受給開始日や受給期間は、離職理由によって異なりますから、この離職理由が重要な意味を持ちます。

 

<離職理由の判断手続>

手続の流れとしては、まず事業主が会社所轄のハローワークに離職証明書を提出します。

事業主は、離職証明書に離職理由を記載しますが、離職理由を裏付ける客観的資料により、所轄のハローワークが確認することになっています。

そして離職票は、離職証明書と3枚綴りのセットになっていて、一部が複写式になっています。

離職者は、会社を経由して離職票を受領することになります。

さらに離職者は、この離職票に離職理由を記載して、離職者の居住地を基準とした管轄のハローワークに提出します。

ここでも、事業主の記載している離職理由が、客観的資料により確認されます。

このとき、離職者が異議を唱えなければ、事業主の記載した離職理由が正しい離職理由であると判断されます。

しかし、離職者が異議を唱えていれば、離職者の離職理由を裏付ける客観的資料により、管轄のハローワークが離職理由を確認します。

管轄のハローワークは必要に応じ、事業主と離職者から聴取し、最終的にはハローワークの所長が離職理由を判断します。

長くなりましたが、これが離職理由の原則的な判断手続です。

 

<事実の変化による離職理由の変更>

ここでは、単純化のために、離職理由を会社都合・自己都合に集約して考えます。

ある従業員が、会社都合により3月末で普通解雇される予定だったところ、その従業員の家族の都合で急遽2月下旬に転居することになったため、自己都合により2月末で退職することになったとします。

この場合には、事実の変化により、退職日が1か月繰り上がるとともに、離職理由も変更されたことになります。

 

<判断の変化による離職理由の変更>

従業員から事業主に対して、長時間労働による健康不安を理由に退職の申し出をしたとします。

そして、事業主も従業員も自己都合であるとして離職証明書(離職票)の作成手続に入ったとします。

しかし、3か月以上にわたって月の法定時間外労働が45時間を超えていた場合などは、会社都合と判断されることになっていますので、事業主か従業員が途中で気づき、あるいはハローワーク主導で会社都合に変更されることがあります。

 

<合意による離職理由の変更>

長年会社に尽くした従業員から退職の申し出があり、事業主が「本当は自己都合だが感謝の印として会社都合にしてあげよう」と考えて手続すると、不正受給に加担することになりますから違法です。

たとえ当事者が合意しても、事実と異なる離職理由での手続は許されないのです。

しかし、労働局でのあっせんなど、個別労働紛争解決制度を利用した結果作成される「和解書」などの中で行われる離職理由の合意は、あっせん委員が具体的な事実関係を確認し、事実に基づいて「和解書」が作成されるため違法ではありません。

この場合には、申立人と被申立人とで離職理由についての意見が分かれていたところ、誤った判断をしていた側の勘違いが是正されて、正しい離職理由での合意が形成されているので、不正が回避されたことになるのです。

即時解雇が許される条件は、実体面と手続面の両方を満たしていないと、不当解雇として無効となり、多額の賠償金請求の理由となります

2024/11/28|1,491文字

 

<解雇一般の有効要件>(実体面)

解雇権の濫用であれば不当解雇となります。

不当解雇なら、使用者が解雇を宣告し、解雇したつもりになっていても、その解雇は無効です。

一方、従業員は解雇を通告されて、解雇されたつもりになっていますから出勤しません。

しかし従業員が働かないのは、解雇権を濫用した使用者側に原因があるので、従業員は働かなくても賃金の請求権を失いません。

何か月か経ってから、従業員が解雇の無効に気付けば、法的手段に訴えて会社に賃金や賞与を請求することもあります。

これを使用者側から見れば、知らないうちに従業員に対する借金が増えていくことになります。

解雇権の濫用による解雇の無効は労働契約法に、次のように規定されています。

 

第16条【解雇】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

<解雇の予告>(手続面)

解雇権の濫用とはならず、解雇が有効になる場合であっても、その予告が必要です。

つまり、解雇しようとする従業員に対し、30日前までに解雇の予告をする必要があります。

解雇予告は口頭でも有効ですが、トラブル防止のためには、解雇する日と具体的理由を明記した「解雇通知書」を作成し交付することが必要です。

また、従業員から求められた場合には、解雇理由を記載した書面を作成して本人に渡さなければなりません。

これは法的義務です。

一方、予告を行わずに解雇する場合は、最低30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。

 

<即時解雇が許される場合>(実体面・手続面)

「従業員の責に帰すべき理由による解雇の場合」や「天災地変等により事業の継続が不可能となった場合」には、解雇予告も解雇予告手当の支払もせずに即時に解雇することができます。

ただし、解雇を行う前に労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けなければなりません。

また、次のような場合は解雇予告そのものが適用されません。

ただし、所定の日数を超えて引き続き働くことになった場合には解雇予告制度の対象となります。

試用期間中の者 14 日間
4 か月以内の季節労働者 その契約期間
契約期間が2 か月以内の者 その契約期間
日雇労働者 1 か月

 

<労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)>(手続面)

労働基準監督署では「従業員の責に帰すべき事由」として除外認定申請があったときは、従業員の勤務年数、勤務状況、従業員の地位や職責を考慮し、次のような基準に照らし使用者、従業員の双方から直接事情等を聞いて認定するかどうかを判断します。

1)会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合

2)賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の従業員に悪影響を及ぼす場合

3)採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合

4)他の事業へ転職した場合

5)2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合

6)遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合

 

上記の認定は客観的な基準により行われますので、社内で懲戒解雇とされても、解雇予告除外認定が受けられない場合があります。

また、懲戒解雇が有効か否かは、最終的には裁判所での判断によることになります。

 

さらに、次の期間は解雇を行うことができません(解雇制限期間)。

1)労災休業期間とその後30日間

2)産前産後休業期間とその後30日間

 

解雇してもトラブルにならないケースといえるのか、即時解雇は許されるのかといった専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

ブラック求人

2024/11/27|1,560文字

 

<ブラック企業の特徴>

ブラック企業は、一部の社員を最低の賃金で過重労働させたうえ使い捨てにします。

この特徴が求人広告に反映されています。

優良企業が求人広告を出す場合でも、同じ特徴を備えていると、ブラック企業ではないかと疑われるので注意が必要です。

 

<低賃金で長時間労働だから>

ブラック企業の社員は極端な長時間労働ですから、結果的に一部の社員に最低賃金法違反が発生します。

ところが、ブラック企業も優良企業も、求人広告をザッと見ると給与が高いと感じられます。

ブラック企業は、「この仕事でこの給与ならお得だ」と思わせる工夫をしているからです。

区別のポイントは、労働時間、休日出勤、休暇、基本給、手当、残業など労働条件の分かりやすさです。

ブラック企業は、実際の労働時間が判断できないような不明確な表現をしています。

休日出勤や休暇についてもあやふやです。

優良企業ならば、明確な実績を表示できるはずです。

ブラック企業の求人広告には、聞き慣れない名称の手当があったり、残業代が別計算なのか手当に含まれるのか分からなかったりと怪しいのです。

優良企業ならば、一般的な用語を使っていますから明確です。

 

<社員の使い捨て>

ブラック企業は、疲れた社員を意図的に退職に追い込むので、いつも大量の退職者が出ています。

その一方で、大量の新規採用を行います。

「事業拡大につき大量採用!」という表現が求人広告に入っていたら、優良企業が本当に事業を拡大する予定なのか、それともブラック企業がウソをついているのか、少し調べて判断する必要があります。

ネットで検索してみて、新店舗を出店するとか、新規事業を展開するといった具体的な情報がないのであれば、怪しまなければなりません。

 

<本当は魅力が無いから>

優良企業なら、労働者が魅力を感じるポイントがたくさんありますから、具体的な魅力を求人広告にアピールできます。

一方ブラック企業は、アピールできる魅力が無いのでイメージでごまかそうとします。

そのため、次のような表現が多く見られます。

 

・一部の人の昇給例の表示

使い捨てにする側の社員は昇給や昇進があるので、これを例示します。

使い捨てにされる側の社員の「平均」は表示できません。

 

・年次有給休暇など休暇の「実績」の表示が無い

制度があるという表示はあるものの、本当に休暇を取れているという実績は無いので表示できないのです。

 

・「和気あいあい」「アットホーム」など人間関係が良いことをアピール

実際には小規模で、社員が親から叱られるように厳しく扱われているのが現実です。

それでいて、親とは違って愛情が感じられません。

 

・精神論的な表現が目立つ

「あなたの熱意を買います」「やる気だけ持ってきてください」「あなたの夢は何ですか」「お客様への感謝の気持が原動力です」など実体の無い表現が多く見られます。

 

<広告がデタラメなら>

求人広告に実際と違うことが書かれていたら、どうしてもダマされてしまいます。

 

求人広告がまともな場合でも、応募の電話を掛けてみたり採用面接に行ってみたりして、採用担当者がとても早口だったら警戒しましょう。

面接の時間が短くて、すぐに採用が決まったり、その場で書類の記入をさせられたりするのは怪しいのです。

ブラック企業は、大量退職・大量採用ですから、ひとり一人の応募者に対して丁寧に応対する時間が無いのです。

そのため、じっくり選考する態度は見られず、どうしても大急ぎの対応となります。

 

また、運良く面接会場が会社の中であれば、その会社の社員の姿を見ることができるかも知れません。

採用された場合の数年後の姿が、その社員と重なることでしょう。

無表情だったり、身だしなみが乱れていたりして、疲労感がにじみ出ているようなら、直感的に入社を見送ることになると思います。

子の看護等休暇になります(令和7年4月育児・介護休業法改正)

2024/11/26|1,002文字

 

<子の看護休暇>

法改正前の「子の看護休暇」は、ケガや病気にかかった子の世話、または病気の予防を図るために必要な世話を行う労働者に対し与えられる休暇であり、労働基準法に定められている年次有給休暇とは別に与える必要があります。

子どもが病気やケガの際に休暇を取得しやすくし、子育てをしながら働き続けることができるようにするための権利と位置づけられています。

「病気の予防を図るために必要な世話」とは、子に予防接種または健康診断を受けさせることをいい、予防接種には、予防接種法に定める定期の予防接種以外のインフルエンザ予防接種なども含まれます。

小学校就学前の子を養育する労働者は、事業主に申し出ることにより、1年度の間に(その養育する小学校就学の始期に達するまでの子が2人以上の場合は10日)を限度として、子の看護休暇を取得することができます。

「1年度において」の年度とは、事業主が特に定めをしない場合には、毎年4月1日から翌年3月31日となります。

 

<子の看護等休暇>

令和7(2025)年4月1日に、育児・介護休業法が改正され、男女とも仕事と育児を両立できるように、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充が行われます。

子の看護休暇については、内容が拡充されることから、名称が「子の看護等休暇」に変更されます。

まず、対象となる子の範囲が拡大されます。小学校入学前までから、小学校3年生修了までとなります。

また取得事由が、病気・けが、予防接種・健康診断に、感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式、卒園式が加わります。

さらに労使協定によって、継続雇用期間6か月未満の労働者は対象者から除外することができるのですが、法改正後はできなくなります。労使協定によって除外できるのは、週の所定労働日数が2日以下の労働者だけとなります。

したがって、労使協定の内容によっては、変更の手続が必要になります。

 

<就業規則の変更>

就業規則に育児休業の詳細を規定している企業では、子の看護休暇の他、育児・介護休業法の改正に合わせて、規定を修正する必要が出てきます。

また、「育児休業等については、育児・介護休業法の定めに従う」のような規定にしている企業の場合、育児・介護についての個別周知・意向確認を丁寧に行う必要があります。「知らなかったので利用できなかった」ということで、トラブルに発展することがないよう、十分な対応を心がけましょう。

 

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