2025/01/26|1,260文字
<業務委託契約の特殊性>
契約について基本的なことを定めている法律は民法です。
ところが民法はおろか、その他の法律にも業務委託契約についての規定はありません。
何か契約を交わす場合には、法律に具体的な規定があった方が、トラブルを避けることができて便利なはずです。
それなのに、あえて法律に規定の無い契約を交わそうとするのは、法律の適用を避け、自分に一方的に有利な取り決めをしようという意図があるのでしょうか。
契約相手から、業務委託契約書の案を示されたら、内容をよく吟味しなければなりません。
不安があれば、専門家の確認を受けることをお勧めします。
<業務委託契約の内容>
業務委託契約という言葉からは、「業務を他人に委託する契約」ということしか分かりません。
学者たちは業務委託契約を、請負契約〔民法第632条〕、委任契約〔民法第643条〕、準委任契約〔民法第656条〕などの性質をもつ契約だと考えています。
そして、実際の業務委託契約には様々なものがあって、「これは請負契約」「これは委任契約」というように明確に分類することが困難だとしています。
結局、業務委託契約書の条文ひとつ一つを具体的に解き明かさなければ、その内容を把握できないということになります。
わざわざこのような契約を交わそうとするからには、やはり何らかの意図があるものと思われます。
<一方の当事者に有利な契約書>
請負では欠陥の無い完全な成果物を提供しなければならないのに対して、委任ではベストを尽くした結果なら不完全でも責任を問われません。
また、請負では材料や費用を負担するのは業務を引き受けた側ですが、委任なら業務を委託する側の負担となります。
さらに、請負なら簡単には契約の解除ができません。
しかし、委任ならいつでも契約を解除できます。
これらを踏まえて業務を委託する側が、「業務の結果は完全でなければならない。費用はあなたが負担しなさい。私はいつでも契約を解除できるが、あなたから解除を申し出ることはできない」という内容の業務委託契約書を作ることもできてしまいます。
<実務の視点から>
業務を委託する企業と、業務を行う人との契約関係が、実質的には雇用契約〔民法第623条〕なのに、契約書のタイトルが業務委託契約書となっていることもあります。
雇用契約(労働契約)であれば、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働法による労働者の保護があります。
これを企業側から見れば、労働者の保護に対応した負担が発生することになります。
ブラックな企業がこの負担を避けるため、実質は雇用契約なのに「業務委託契約書」を交わして「あなたは労働者ではないので、社会保険や雇用保険には入りません。労災保険も対象外です。年次有給休暇も残業手当もありません」と説明することもできてしまいます。
それでも、雇われている人はクビになることを恐れて「おかしい」とは言えないものです。
このような場合には、あきらめずに行政の相談窓口や契約に詳しい社会保険労務士に相談していただけたらと思います。