退職の記事

<就業規則の規定>

モデル就業規則の最新版(平成31(2019)年3月版)は、従業員の退職について、次のように規定しています。

 

【退職】

第50条  前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。 ①退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して  日を経過したとき

 

従業員が「退職を願い出て会社が承認したとき」は、退職することについて労使が合意したわけですから、労働契約の合意解除がなされたことになります。

これに対して、従業員が「退職願を提出して  日を経過したとき」は、会社側が退職の申し出を拒んだとしても、一定の日数の経過により労働契約が解除されるわけですから、従業員から会社に対する一方的な契約解除ということになります。ここでは、「退職願」と言っていますが、「退職届」「辞職届」と呼んだ方がふさわしいでしょう。

結局、会社に退職願が提出されて会社が承認すればその時点で、承認しなくても  日経過すれば退職の効果が生じることになります。

 

<退職承認後の退職日変更>

従業員が「退職を願い出て会社が承認したとき」は、退職することについて労使が合意したわけですから、この時点で労働契約の合意解除が成立しています。

ところが、早く転職先に入社したい、早く失業手当(雇用保険の基本手当)をもらいたいなどの理由から、従業員が退職願に記した退職日よりも早く退職したくなることもあります。

また、転職先から内定の取消を受けたり、思うように転職先が見つからなかったりすれば、退職願の退職日よりも遅く退職したくなることも、退職を撤回したくなることもあります。

こうして、従業員側から「退職日を早めたい」「退職日を遅らせたい」「退職を撤回したい」という要求が出たとしても、会社はこれに応じる義務がありません。労働契約の合意解除は既に成立しているからです。

しかし、会社がこれに応じることは自由ですし、退職願の退職日とも従業員の退職希望日とも異なる新たな退職日を合意して決定することもできます。

こうしたことは、一般には就業規則に規定されていないのですが、労働契約の合意解除も、合意による変更も、労働基準法などに規制する規定が無いので、契約自由の原則から当然に認められることなのです。

 

<民法と就業規則>

正社員など期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができます。また、会社の承認がなくても、民法の規定により退職の申出をした日から起算して原則として14日を経過したときは、退職となります。〔民法第627条第1項〕

なお、月給者の場合、月末に退職を希望するときは当月の前半に、また、賃金締切日がたとえば20日でその日に退職したいときは20日以前1か月間の前半に退職の申出をする必要があります。〔民法第627条第2項〕

実際の就業規則には「退職願を提出して30日を経過したとき」あるいは「退職予定日の30日以上前に退職願を提出」などと規定されていることもありますが、退職希望者から民法の規定を持ち出されると反論できません。

「遅くとも退職予定日の14日前までに退職願を提出」という規定にしておいて、退職希望者の会社に対する配慮に期待するしかないのです。

 

2019.10.12. 解決社労士 柳田 恵一

<不当解雇>

解雇権の濫用となる場合には、会社側から労働者に解雇を通告しても、解雇が無効となり、その結果、労働契約は解消されず、賃金や賞与の支払い義務は継続しますし、労働者に精神的な損害を与えていれば、慰謝料請求の問題ともなります。

労働契約法には、次のような規定があります。

 

【解雇】

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

<不当辞職>

労働者から会社に辞職(退職)を申し出たとしても、すぐに退職の効果が発生するとは限りません。

すぐに退職の効果が発生する場合として、労働基準法には、明示された労働条件が事実と相違する場合の規定があります。〔第15条第2項〕

 

【労働条件の明示】

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

○2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

 

しかし、これは例外的な場合であって、一般には、労働者から辞職の意思を表明しても、すぐには退職の効果が発生せず、実際に退職の効果が発生するまでは、労働者は働く義務を免れません。

それにもかかわらず、職場を放棄してしまっては、債務不履行となりますし、場合によっては不法行為となることもありえます。

こうした状態を、ここでは「不当辞職」と呼びたいと思います。

 

<急な退職でも通常は損害賠償の対象ではない>

労働者が急に退職したからといって、これを理由に、会社から労働者に対して損害賠償を請求できるわけではありません。

退職そのものは、違法でも不法でもないからです。

一般に、退職者が発生した場合でも、会社が代替要員を手配して支障が出ないようにします。損害が発生することは稀なのです。

また、採用後すぐに退職した場合であっても、採用にかかった費用を、会社の損害と見ることはできません。採用後すぐの退職でも、勤続20年の社員が退職する場合でも、その人を採用するのにかかる費用に大きな違いはありません。そして、どれだけの費用をかけるかは会社の判断に任されていますから、労働者の意思が反映されてはいません。

勤続20年の社員が退職するにあたって、会社から採用時の費用を請求することが無いのと同様に、採用後すぐ退職した社員に対しても費用を請求することはできません。

法的には、退職と採用の費用との間に、相当な因果関係が無いと表現されます。

これらの事情は、退職者の後任を採用する場合の費用についても同じです。

 

<不当辞職となりうるケース>

不当辞職が発生しうるのは、労働者が辞めたつもりで、労働契約が解消していない場合です。

まず、無期雇用の労働者が会社に辞職を申し出た場合、その後、2週間は労働契約が継続します。〔民法第627条第1項〕

また、月給制の場合には、賃金の締日の2週間以上前に辞職を申し出て、賃金の締日まで労働契約が継続することになります。もし、賃金の締日まで2週間を切っているときに辞職を申し出たなら、さらに次の賃金の締日まで労働契約が継続します。〔民法第627条第1項〕

 

【期間の定めのない雇用の解約の申入れ】

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

 

さらに、有期労働契約の場合には、やむを得ない事由が無いのに辞職を申し出ても、本来の契約期間の間は労働契約が継続します。〔民法第628条〕

 

【やむを得ない事由による雇用の解除】

第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

こうして、労働者が会社に対して辞職の意思を表明した後、労働契約が継続している間に出勤しなければ、労働者の債務不履行が発生しますから、「不当辞職」となるわけです。

 

<債務不履行による損害の発生>

特殊技能をもった労働者を採用し、手作り商品の注文を受けていたのに、不当辞職により必要な数量の商品が製造できなくなった場合には、少なくとも欠勤した間に製造出来たはずの商品が製造できなかったことによる損害は、明らかに発生しています。

この場合に、同様の特殊技能をもった労働者を容易に補充することは困難でしょうから、簡単に会社が代替要員を手配することはできないのです。

 

<不法行為による損害の発生>

結婚式場にウエディングケーキを運搬中の労働者が、突然行方をくらまし、会社に辞職の意思を伝えたような場合には、単なる債務不履行を超えて、不法行為が発生しています。

労働者の故意または過失によって、結婚式の新郎新婦他、多くの人々に損害を与えていますし、会社の信用を喪失させています。

こうした場合には、懲戒解雇の対象ともなりうるわけですが、不法行為を理由として会社から労働者に損害賠償を求めることになるでしょう。

 

<損害額が算定しがたい場合>

不当辞職によって損害が発生した場合に、不当辞職と損害発生との因果関係が明らかであっても、会社が損害額を立証することが困難なケースは多いものです。

しかし民事訴訟法には、損害額の認定について次の規定がありますので、訴訟という手段を利用してでも賠償請求を行うべきだと考えます。

 

【損害額の認定】

第二百四十八条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

 

2019.08.29. 解決社労士 柳田 恵一

<よくある計算方法>

就業規則のひな形によくあるパターンですが、中小企業では、退職時の基本給に勤続年数に応じた係数をかけて、退職金の金額を算出することが多いようです。

これだと若いころ、あるいは働き盛りのころの基本給は関係なく、退職間際になってから頭角をあらわし大きく昇給した人が有利です。

反対に、若いころに大変な努力をして出世し、基本給も役員並みになったあと、働きすぎて体を壊し基本給が大幅にダウンして退職していった社員は、報われないということになってしまいます。

 

<退職功労金>

退職金については、基本給 × 係数 で一律に支給し、これとは別に、個人の会社に対する功績の度合いに応じた退職功労金を支給するというのが、もっとも単純なやり方でしょう。

ただし、これだと金額を客観的に決めるのは難しいでしょうし、その時々の会社のふところ具合に大きく左右されそうです。

 

<ポイント制>

たとえば、毎年4月に支給する基本給1か月分の累計を、退職金の金額にすることも考えられます。しかし、物価の変動が大きいと不公平になる可能性もあります。

そこで、担当者は1ポイント、係長は2ポイント、課長は3ポイント、部長は5ポイントなどと、1か月間在籍すると累計されるポイントを決めておき、物価の変動を踏まえて、1ポイントいくらにするという方式もあります。

 

<退職金の性格>

退職金の性格として、退職後の生活保障的性格、賃金後払い的性格、功労報償的性格があげられます。

このうち、退職後の生活保障は在籍中に給与・賞与に応じた厚生年金保険料を支払っていて、老後の年金額に反映されると考えれば、重視しなくてもよいでしょう。

また、賃金後払い的性格については、終身雇用制の崩れた現在では、退職までプールしておかないでタイムリーに給与・賞与に反映してほしいという社員の本音があります。

こう考えると、退職金のメインの性格は、功労報償的性格でしょうから、退職金を会社に対する功績の度合いで決めるというのは、合理的であると考えられます。

 

2019.07.31. 解決社労士 柳田 恵一

<遺族からの退職金請求>

あと2年で定年退職という社員が、急病で亡くなりました。会社から多くの社員が葬式に参列しました。ただ泣くばかりの奥様が気の毒でした。

後日、就業規則の規定に従い、奥様名義の銀行口座に退職金が振り込まれました。

それから半年後、亡くなった社員の息子さん2人が会社にやってきて、退職金を請求します。会社としては、もう退職金は支払い済みと思っていたところ、奥様とは別の相続人2人があらわれたのです。確かに、法定相続分は、奥様が半分、息子さんは4分の1ずつです。彼らは、母親とは仲が悪く10年以上会っていないのだそうです。それで、自分たちの取り分である退職金の4分の1ずつは、直接自分たちに支払えということなのです。

 

<ひな形の規定>

これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。

あるひな形には、次のように書いてあります。

 

(退職金の支払方法及び支払時期)

第54条 退職金は、支給事由の生じた日から  か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。

〔厚生労働省のモデル就業規則平成31年3月版〕

 

<注意書きを見ると>

厚生労働省のモデル就業規則には、次のような注意書きがあります。

退職金の支払方法、支払時期については、各企業が実情に応じて定めることになります。

労働者が死亡した場合の退職金の支払については、別段の定めがない場合には遺産相続人に支払うものと解されます。

 

もっともよく使われているひな形なのですが、どうやら今回のようなケースには対応できていないようです。

ですから、専門家ではない人が、就業規則のひな形だけを頼りに自分の会社の就業規則を作ると、思わぬ事態を招いてしまうのです。

 

<こうしてカスタマイズ>

こうした困ったことにならないようにするには、次のような規定にしておけば良いのです。

 

(退職金の支払方法及び支払時期)

第54条

2 死亡による退職のときの退職金を受ける遺族の範囲および順位は、次のとおりとします。

    ・配偶者(内縁関係にある者を含みます)

    ・子

    ・父母

    ・孫

    ・祖父母

    ・兄弟姉妹

3 同順位の者が2人以上ある場合には、その人数によって等分するものとします。

 

「就業規則の適用対象は社員だけだから、何かあったら、そこは話し合いで」という考え方は危険です。特に、社員が退職した後のことや、ご家族にも影響のあることについては、慎重に規定の内容を吟味する必要があるのです。

 

2019.05.30. 解決社労士 柳田 恵一

<パート・有期法への改正>

パート法は、パート・有期法に改正されました。

施行日は、令和2(2020)年4月1日ですが、今から対応が必要です。

なお、中小企業では令和3(2021)年4月1日施行です。

 

【正式名称】

パート法 = 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

パート・有期法 = 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

 

旧法では、フルタイム以外の労働者だけが対象です。

新法では、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者が対象となります。

 

区分

無期

有期

派遣

フルタイム

通常の労働者

新法対象者

新法対象者

フルタイム以外

新法対象者

新法対象者

新法対象者

 

ここで通常の労働者とは、定年以外に雇用期間が限定されない無期雇用で、フルタイム勤務の労働者ですから、「正社員」と呼ばれるのが一般です。

 

<事業主の説明義務>

新法には、事業主の説明義務が規定されています。

 

【パート・有期法第14条第2項】

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

 

説明は、事業主が新法対象者を雇い入れた後、本人から求められたときに行うことになります。

説明内容は、主に待遇の相違の内容とその理由です。

事実に反する嘘の説明はできませんし、不合理な説明もダメです。

理解しうる説明であることが必要ですが、必ずしも納得してもらうことまでは必要ありません。

 

<退職金支払の理由>

もし、正社員など一般の労働者のみに退職金を支給しているのであれば、退職金支払の有無と理由について説明が必要になります。

説明を求めたことに対して、不利益な取扱いをすることは禁止されています。〔パート・有期法第14条第3項〕

ですから、不快な思いをさせないように配慮する必要があります。

さて、退職金支払の一般的な理由としては、次のようなものが挙げられます。

 

【退職金支払の一般的な理由】

長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、人材の確保・定着を図るため。

 

正社員など通常の労働者以外は、すべて2~3年で退職しているという実態があれば、こうした理由で退職金を支給するのは合理性があります。

しかし、多くの企業では、有期雇用労働者が契約の更新を繰り返して、相当長期にわたり働いているのではないでしょうか。

 

<正社員だけに退職金が支給される合理的な理由>

次のような制度であれば、正社員など通常の労働者だけに退職金が支給されるのは、合理的な理由があるということになります。

 

正社員など無期・フルタイムの労働者には、賃金の後払い、長年の功労に対する報償として退職金を支給する。

一方、新法対象者であるパート・有期労働者に対しては、退職金が無いことを前提として、退職金引当金に相当する額を賃金に上乗せして支給している。

そのため、職務の内容、職務の内容や配置の変更の範囲、その他の事情が同等であれば、無期・フルタイムの労働者よりも、新法対象者の方が賃金の時間単価が高い。

 

<企業の取るべき対応>

現在のところは裁判でも、「一般論として、長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって無期契約労働者に対しては退職金制度を設ける一方、本来的に短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすること自体が、人事政策上一概に不合理であるということはできない」とされています。

また、同一労働同一賃金ガイドラインには、退職金についての具体的な記述がありません。

ですから、賃金の時間単価の違いや、勤続年数の実態を踏まえ、正社員など無期・フルタイムの労働者のみに退職金制度を設けることの合理性を検討し、不合理な部分があれば修正する、そして、裁判例の動向を踏まえつつ定期的な修正を行っていくことになります。

しかし、退職金の原資には限りがありますから、一部の従業員の退職金が減るのであれば不利益変更となります。この場合には、個別の同意を得るなどの対応が必要となります。

長期的な展望に立ち、顧問の社会保険労務士などと相談しながらうまく対応しましょう。

 

2019.05.25. 解決社労士 柳田 恵一

<退職金倒産>

少し昔のことですが、企業が定年退職者の退職金を支払うことによって、倒産するという現象が生じました。

これは、第二次世界大戦直後の1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)に生まれた団塊の世代と呼ばれる人たちが、一斉に定年を迎えて退職することになり、企業が一度に多額の退職金を支払うことになったため、資金繰りができなくなって倒産したのでした。

 

<ひな形の規定>

これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。

あるひな形には、次のように書いてあります。

 

(退職金の額)

第53条 退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下表の支給率を乗じた金額とする。

 

勤続年数

支給率

5年未満

1.0

5年~10年

3.0

10年~15年

5.0

15年~20年

7.0

20年~25年

10.0

25年~30年

15.0

35年~40年

20.0

40年~

25.0

〔厚生労働省のモデル就業規則平成31年3月版〕

 

もっともよく使われているひな形だけあって、さすがに良く出来ています。

この条文によれば、たとえば勤続23年で退職する人の退職時の基本給の額が40万円であれば、40万円×支給率10.0=400万円というように、簡単に計算することができます。

しかし、同い年の人がたくさんいて、同時に定年退職すれば、同時に退職金の支払いが生じます。企業によっては、これに耐えられない場合もあるでしょう。

また、基本給30万円、役職手当8万円、資格手当2万円という給与であれば、総支給額は40万円でも、退職金を計算するときに、基本給30万円×支給率となります。

ところが、同じ総支給額40万円でも、40万円すべてが基本給なら、退職金を計算するときは、基本給40万円×支給率となります。

結局、その会社の社員の年齢分布や、給与体系などによって、会社の負担は大きく異なってくるわけです。

 

<注意書きに注意>

厚生労働省のモデル就業規則には、次のような注意書きがあります。

 

本規程例では、退職金の額の算定は、退職又は解雇の時の基本給と勤続年数に応じて算出する例を示していますが、会社に対する功績の度合い等も考慮して決定する方法も考えられることから、各企業の実情に応じて決めてください。

 

もっともよく使われているひな形だけあって、さすがに手抜かりは無いのです。

ところが、専門家ではない人が、この大事な注意書きを読み飛ばしてしまいます。その結果、思わぬ事態を招いてしまうのです。

 

<こうして活用>

注意書きにあるように、「各企業の実情に応じて決めて」いれば安心です。

そのためには、規定を考えるときに、充分なシミュレーションをすることです。

現在の社員のうち、1年後に定年を迎える人たちの退職金合計額、2年後に定年を迎える人たちの退職金合計額、3年後に定年を迎える人たちの退職金合計額…を計算します。また、新人の入社を想定して、その分も加えます。

こうして、毎年必要な退職金の額を計算してみて、自分の会社に無理の無い金額であればOKです。

退職金の方式は、基本給×支給率というものだけではありません。最近では、ポイントの積み上げ制を導入する会社も増えていますし、全く違うやり方もあります。是非「各企業の実情に応じて決めて」ください。

 

2019.05.21. 解決社労士 柳田 恵一

<突然の退職申し出>

入社2年目のエース社員から、社長に退職願が提出されました。

「今日は16日ですから、月末退職でOKですよね。」と何だかうれしそうです。聞けば大学の先輩を通じて、大手企業にスカウトされたとか。先月結婚したのも転職が決まったからだそうです。

社長としては、辞めてほしくないですし、せめてきちんと引き継ぎを終わらせてほしいです。

 

<ひな形の規定>

これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。

あるひな形には、次のように書いてあります。

 

(退職)

第50条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。 

①  退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して14日を経過したとき

〔厚生労働省のモデル就業規則平成31年3月版〕

 

もっともよく使われているひな形だけあって、さすがに良く出来ています。

よく見ると、退職を願い出て「会社が承認したとき」と書いてあります。では、会社が承認しなければ良いのでしょうか。

また、「14」には下線が引かれていますから、これを「100」に修正しても良いのでしょうか。

 

<注意書きに注意>

厚生労働省のモデル就業規則には、次のような注意書きがあります。

 

期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができます。また、会社の承認がなくても、民法(明治29年法律第89号)の規定により退職の申出をした日から起算して原則として14日を経過したときは、退職となります(民法第627条第1項及び第2項)。

なお、月給者の場合、月末に退職を希望するときは当月の前半に、また、賃金締切日が20日でその日に退職したいときは20日以前1か月間の前半に退職の申出をする必要があります(民法第627条第2項)。

 

もっともよく使われているひな形だけあって、さすがに手抜かりは無いのです。

ところが、専門家ではない人が、この大事な注意書きを読み飛ばしてしまいます。その結果、思わぬ事態を招いてしまうのです。

特にここでは、労働基準法などではなく、民法の規定がポイントとなります。

 

<引き継ぎのポイント>

きちんと引き継ぎを完了させるには、次のようなことがポイントとなります。

・普段から退職や異動を想定して、短期間で引き継ぎを完了できるようにしておくこと

・退職にあたっては、引き継ぎを完了することが重要な業務であることを、就業規則にも明示しておくこと

・引き継ぎの拒否は、懲戒処分の対象となることを就業規則に規定すること

そして、年次有給休暇の取得を申し出たとしても、会社が時季変更権を行使できないような場合には、権利の濫用としてこれを拒否することが考えられます。ただ、円満に解決するには、年次有給休暇の買い取りも検討したいところです。

 

<突然辞められないためには>

これには地道な努力が求められます。つぎのようなことがポイントとなります。

・社員が自分の将来を思い描ける人事制度の構築(想定キャリアの明確化)

・経営理念の明確化と理解のための教育研修

・会社の魅力の抽出と社員へのアピール

・社員同士のコミュニケーションを密にし維持する仕組みづくり

 

2019.05.17. 解決社労士 柳田 恵一

<会社の損害>

何度も求人広告を出して何十万円もの経費をかけ、採用面接でもそれ相当の人件費がかかり、やっと採用し大事に育ててきた新人から、あっさり「辞める」と言われたら、経営者や採用担当者は「金返せ!」という気持ちになります。

 

さて、この場合の「会社の損害」とは何でしょうか。

 

まず、求人広告にどれだけの経費をかけるかは、会社の判断によるのであって、応募者と相談して決めるわけではありません。

これは、採用面接などについても同じことがいえます。

応募があった時に、「採用します!」と即決ならば、ほとんど経費がかかりません。もっとも、こんないい加減な採用はしないでしょう。

しかし、どれだけ手間暇をかけるかは、会社が判断します。

 

新人を育てるための経費も馬鹿になりません。場合によっては、会社の費用負担で研修に参加させたり、免許を取らせたりと、至れり尽くせりのこともあるでしょう。そうでなくても、上司や先輩が指導するのに人件費がかかったはずだと考えられます。

そうだとしても、これらは会社側の判断で行ったのであって、本人からたっての希望があって行ったというわけではないでしょう。

となれば、応募し採用された本人が認識できない損失についてまで、本人に費用を負担させることはできません。

 

制服も、会社のルールで使うことにしているわけですから、その経費を本人の負担にはできません。

 

こうしてみると、会社に何か特別な損害があったような場合でなければ、損害賠償の請求はできないだろうということは、しろうとにも判断のつくことです。

 

しかし、急に辞めたことにより、予定していた工事の人手が足りなくなり、工事ができなくなったとします。この場合には、発注者の信用を失うだけでなく、業界全体に悪評が流れてしまうかもしれません。こうなると、会社の損害は甚大です。

 

<労働基準法の規定>

損害賠償については、労働基準法に次の規定があります。

 

【賠償予定の禁止】

第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 

予定した仕事をしないというのは「労働契約の不履行」の一つですから、「入社から3年以内に退職すると300万円の罰金」などのルールは、労働基準法の禁止する賠償予定にあたるため違法となります。

しかし、「予定」するのではなく実際に損害が発生して、会社が損害額を証明できるのであれば、退職した社員に損害賠償を請求することができます。

 

<損害賠償請求の裁判>

裁判で損害賠償を請求する場合には、訴えを起こした原告側が証明責任を負います。

当たり前です。

損害賠償を請求された被告が、損害を与えていない、あるいは、〇円以上の損害は与えていないという証明に成功しないと裁判で負けてしまうというのは常識外れです。

言いがかり的に訴訟を提起して、相手が証明できなければ勝てるというのでは、そうした行為が横行してしまいます。

 

新人が辞めたことによって、会社に甚大な被害が及ぶということは稀でしょう。

しかし、ある程度の経済的な損失は発生します。

その損害額がいくらなのか、あるいは少なくともいくら以上なのか、計算できない場合には損害賠償の請求訴訟を提起しても敗訴してしまいます。

 

確信をもって客観的な損害額を算定できるような例外を除き、退職していく社員に損害賠償の話を持ち出すのは、単なる言いがかりになってしまう可能性が高いと考えられます。

 

2019.03.17.解決社労士

<民法改正>

平成29(2017)526日に民法改正案が参議院を通過し、成立した改正民法は、62日に公布されました。これによって改正民法は、2020年41日に施行されることになります。

民法の改正は、労働関係には影響が無いように見えます。しかし、労働契約も契約の一種ですから、民法は労働契約に適用されます。

 

<無期契約労働者からの退職申し出>

民法627条の改正により、正社員など無期契約労働者からの退職申し出の効果に、次の変更が発生します。

期間により報酬を定めている場合、たとえば完全月給制で欠勤控除が無い場合などは、退職日についての規定があります。たとえば、完全月給制で末日締切り、翌月15日支払いの場合、月給の計算期間は1日から末日です。30日ある月に、1日から15日までの間に退職を申し出れば当月の月末で退職、16日から月末までの間であれば翌月末日で退職となります。これが法改正により、退職の申し出がいつであっても、その申し出から2週間で退職ということになります。

また、6か月以上の期間により報酬が定められた労働者については、3か月前までに退職の申し出が必要でした。ところが法改正により、2週間前でよいことになります。

 

<具体的な影響>

完全月給制の場合、退職申し出のタイミングにかかわらず、給与の締日に退職ということでした。

法改正により、退職日がバラバラになり、就業規則(給与規程)に欠勤控除について、明確な計算方法が無いと困ることになります。

業務の引継ぎについても、引継ぎ期間は最低でも2週間だったのが、原則として2週間になってしまいます。

 

<合意退職なら>

ここまで述べたことは、従業員が会社に対して一方的に退職の申出を押し通すような場面を想定しています。

 

現実には、お互いトラブルを避けるため、従業員から退職の申出があった場合には、会社側が従業員と話し合って退職の段取りを決めるのが一般的です。

 

これは、合意退職という形になりますから、民法の規定にこだわらず柔軟な対応を取ることが可能です。

 

しかし、会社では突然の退職にも対応できるよう、普段からマニュアルを利用した業務遂行と業務改善を当たり前にしておきたいところです。

また、退職時のルールや異動の場合を含めた引継ぎのルールも、具体的に定めて正しく運用することで、生産性の低下を防止したいところです。

具体的に何をすべきか迷ったら、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2018.12.14.解決社労士

<モデル就業規則では>

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)は、次のように規定しています。

 

【退職金の支給】

第52条 勤続  年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続  年未満の者には退職金を支給しない。また、第63条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。

2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

 

退職金制度は必ず設けなければならないものではありませんが、設けたときは、適用される労働者の範囲、退職金の支給要件、額の計算及び支払の方法、支払の時期などを就業規則に記載しなければなりません。

これを怠ると、労働基準法違反になります。

 

<慣行がある場合>

会社に就業規則が無い場合や、就業規則はあっても退職金についての規定が無い場合でも、一定の基準で計算された退職金が現に支給されているのであれば、退職者には退職金を受給する権利があるものと考えられます。

ただし、基準が不明確で、経営者に支給の有無や金額の判断が一任されているような場合には、退職者の方から会社に退職金の支払いを求めるのは困難です。あくまでも恩恵的なものであって、退職金の制度があるわけではないという説明ができるからです。

 

<会社の意向で特別に支給する場合>

もっとも、就業規則の規定や過去の例が無ければ退職金を支払えないわけではありません。

長年にわたり会社に多大な貢献をした人に特別に退職金を支給したり、事業縮小に伴い希望退職者を募る時に退職金の支給を条件としたりということがあります。

また、就業規則が規定する金額を上回る退職金が支給される場合もあります。

これらの特別扱いをする場合には、なぜ特別扱いをするのか、その具体的な理由を社内に明示するとともに、これらが前例となるわけではないことを、明確に説明しておく必要があります。これを怠ると、慣例があるものと勘違いしたその後の退職者から、退職金の支払いを求められてトラブルとなる可能性があるからです。

 

2018.11.06.解決社労士

<依然高い離職率>

平成30(2018)年10月23日、厚生労働省が平成27(2015)年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況について取りまとめ公表しました。

今回の取りまとめにより、新規高卒就職者の約4割、新規大卒就職者の約3割が、就職後3年以内に離職していることが分かりました。

厚生労働省では、新卒応援ハローワークなどでの相談・支援の他、こうした人々を含めた求職者に対応するため、平日の夜間と土日に電話とメールで利用できる無料相談窓口「おしごとアドバイザー」を通じて、引き続き支援を行っていくそうです。

新卒応援ハローワークというのは、全都道府県にあるワンストップで新卒者を支援する施設です。大学院・大学・短大・高専・専修学校などの学生や、これらの学校を卒業した人を対象に、学校との連携の下、ジョブサポーターによるきめ細かな支援など、様々なサービスを無料で行っています。

 

■ 新規学卒就職者の就職後3年以内離職率 ( )内は前年比増減
 【 大学 】 31.8% (▲0.4P)       【 短大など 】 41.5% (+0.2P)
 【 高校 】 39.3% (▲1.5P)       【 中学 】 64.1% (▲3.6P)

■ 新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率  ( )内は前年比増減

[ 事業所規模 ]

【大学】

【高校】

1,000 人以上

24.2% (▲0.1P)

25.3% (±0.0P)

500 ~999人

29.6% (▲0.2P)

32.9% (±0.0P)

100 ~499人

31.9% (±0.0P)

36.5% (▲1.4P)

30 ~99人

39.0% (+0.2P)

46.3% (▲0.8P)

5~29人

49.3% (▲0.9P)

55.9% (▲0.5P)

5人未満

57.0% (▲2.1P)

64.3% (+0.3P)

 

■ 新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率のうち離職率の高い上位5産業
              ( )内は前年比増減     ※「その他」を除く

■ 大学

 

宿泊業・飲食サービス業

49.7% (▲0.5P)

教育・学習支援業

46.2% (+0.8P)

生活関連サービス業・娯楽業 

45.0% (▲1.3P)

医療、福祉 

37.8% (+0.2P)

小売業 

37.7% (▲0.9P)

 

■  高校      

 

宿泊業・飲食サービス業

63.2% (▲1.2P)

生活関連サービス業・娯楽業

59.2% (▲0.2P)

教育・学習支援業

56.5% (+0.5P)

小売業

48.8% (▲1.6P)

医療、福祉 

47.0% (+0.1P)

 

2018.10.24.解決社労士

<禁止する必要性>

幹部社員や高度に専門性の高い社員が退職すると、会社に大きなダメージが生じます。

ましてや、その社員がライバル企業に転職したのでは、ダブルパンチを食らうことになります。

会社としては、こうした事態を阻止したいところです。

 

<職業選択の自由>

一方で、退職していく社員には職業選択の自由があります。〔憲法22条1項〕

どのような職業を選択するかの自由は、ライバル企業に転職する自由を含みます。

もっとも、この職業選択の自由に会社と社員との合意で制限を設けたなら、原則として合意による制約は有効です。

ただし、その合意の内容が合理性を欠き公序良俗に反するのであれば無効になります。〔民法90条〕

 

<競業避止義務を有効にするために必要なこと>

ライバル会社への転職を禁止した場合、その禁止が無制約に許されるわけではありません。

次のようなことを考慮要素として、公序良俗違反とならないことが必要です。

・就業規則や誓約書に内容が明示されていること

・その社員が営業秘密に関わっていたこと

・正当な目的によること

・「同業他社」の範囲など制限の対象が妥当であること

・地域・期間が妥当に限定されていること

・特別な手当の支給など、相当の代償が与えられること

 これらの考慮要素のうち、範囲の限定と相当の代償は大きなウエイトを占めるでしょう。

代償措置としては、給与の上乗せや退職金の上乗せが考えられます。

社員のメリットが無いのに、会社側から一方的にライバル企業への転職を制限したのでは、合理性を欠き公序良俗に反するものと認定されてしまいます。

 

<違反された企業の対応>

社員が退職して競業避止義務に違反した場合、競業行為の差止めが考えられます。

しかし、会社在籍中に十分な代償措置が取られていなければ、これを主張するのは困難です。

また、損害賠償を請求するには損害額の証明が必要となるのですが、これもかなり困難です。

こうしたことから、退職金の減額が現実的な措置となるのですが、退職し退職金を受け取ってからライバル会社に転職するケースには対応できません。

就業規則に規定する場合には、「退職後1年以内に別表のライバル会社に就職した場合には、退職金の半額を会社に返還するものとする」のような規定が必要でしょう。

 もっとも、会社が社員を大切にし、社員が会社に恩を感じるようになっていれば、社員は安易に会社を辞めないでしょうし、ライバル企業に転職することもありません。

これを目指すのが会社としてベストな対応でしょう。

 

2018.07.02.解決社労士

<就業規則の規定>

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)では、定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例として、次のような規定が示されています。

 

(定年等) 

第49条  労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。

 

定年後の再雇用については、多くの企業で似たような規定を置いていると思われます。

 

<本人の希望>

「定年後も引き続き雇用されることを希望」の部分にトラブルの原因が隠れています。

定年退職後に、退職者から「再雇用を希望していたのに退職させられた。これは不当解雇である」と主張されることがあります。

具体的には、再雇用されていれば得られたはずの賃金と慰謝料の支払いを、会社に対して求めてくるわけです。

このとき、会社が「離職票に署名してある」と主張しても、退職者は「ハローワークで手続きできなくなると脅されて不本意ながら署名したに過ぎない」と反論するでしょう。

また、健康保険証の返却についても、退職者が「返却しなくても紛失扱いで手続きすると言われたので不本意ながら返却した」と主張するかもしれません。

 

このような言った/言わないのトラブルを防ぐために、再雇用の希望を書面で提出するルールにしている会社もあります。

しかし、退職者が提出したと言い、会社側が提出を受けていないと言うのでは、結局トラブルになってしまいます。

 

こうしたトラブルを防ぐためには、「再雇用確認書」のような書式を準備しておき、定年の2か月前までに希望の有無を記入して提出してもらうなどの運用にする必要があります。つまり、希望しても希望しなくても、定年を迎える社員から所定の書面を提出してもらい、再雇用の希望の有無がわかるようにしておくわけです。

 

<再雇用できない理由>

たとえ本人が希望しても、「解雇事由又は退職事由に該当」する労働者であれば、会社は再雇用を拒めるという部分にも、トラブルの火種が隠れています。

そもそも、定年を迎える直前になって解雇事由が発生することは稀ですし、このタイミングで退職事由が発生するというのは、本人が再雇用されずに退職したいという希望を表明している場合ではないでしょうか。

 

実際には、定年の数年前から解雇事由があって、会社側がこれを放置しているというケースがあります。「あと少しで定年を迎えるから」ということで我慢しているわけです。

たとえば、健康状態が不良でたびたび欠勤しているが治療を受けていない、ルール違反が多くて同じ部署のメンバーに迷惑をかけ続けている、新しい仕事を覚えられず会社が必要としている業務をこなせないといった事情を、会社側が我慢してしまうのです。

こうした場合に、定年と共に普通解雇や懲戒解雇を言い渡すというのは不合理です。本人にしてみれば、今まで不問に付されていたのに、定年のタイミングで解雇されるというのは納得できません。

 

「あと少しで定年を迎える」社員も、若い社員と同じように、問題点があれば注意・指導し改善が見られなければ、普通解雇や懲戒解雇を検討すべきです。

少し厳しいようにも思われますが、再雇用トラブルを防ぐには必要なことなのです。

 

2018.06.04.解決社労士

<本来は自由な退職勧奨>

「勧奨」は、勧めて励ますことです。「勧告」は、ある事をするように説いて勧めることです。

「退職勧奨」の例としては、「あなたには、もっと能力があると思います。たまたま、この会社は向いていないようです。転職したら実力を発揮できるでしょう。退職について真剣に考えてみてください」といった内容になります。

「退職勧告」の例としては、「入社以来ミスが多いことは、あなた自身も残念に思っているでしょう。まわりの社員も、ずいぶん親切に丁寧な指導をしてきましたが、これ以上はむずかしいと思われます。退職を考えていただけますか」といった内容になります。

通常、「退職勧奨」と「退職勧告」は厳密に区別されず同視されています。

いずれにせよ退職勧奨は、会社側から社員に退職の申し出をするよう誘うことです。これに応じて、社員が退職願を提出するなど退職の意思表示をして、会社側が了承すれば、労働契約(雇用契約)の解除となります。

もちろん、退職勧奨を受けた社員が、実際に退職の申し出をするかしないかは完全に自由です。

このように、退職勧奨は社員の意思を拘束するものではないので、会社が自由に行えるはずのものです。しかし、社会的に相当な範囲を逸脱した場合には違法とされます。違法とされれば、退職が無効となりますし、会社に対して慰謝料の支払い請求が行われたりします。

会社から社員に退職勧奨を行い、これに快く応じてもらって円満退職になったと思っていたところ、代理人弁護士から内容証明郵便が会社に届き、不当解雇を主張され損害賠償請求が行われるということは少なくありません。

 

<安全な退職勧奨>

会社側としては退職勧奨のつもりであったところ、退職してもらうという目的意識が強いあまり、ついつい「勧奨」の範囲を超えてしまい、法的解釈としては「解雇の通告」と同視されてしまうことがあります。

こうしたリスクは、退職勧奨には付き物です。

退職が無効とされたり、慰謝料が発生したりのリスクが無い退職勧奨とは、次のようなものです。

・1人の社員に対して2名以内で行う。ただし、男性が女性に1人で退職勧奨を行うのは、セクハラなどを主張される恐れがあるので避ける。

・パワハラ、セクハラなど、人格を傷つける発言はしない。

・大声を出したり、机をたたいたりしない。脅さない。だまさない。

・長時間行わない。何度も繰り返さない。

・きっぱりと断られたら、それ以上の退職勧奨は行わない。

・他人に話を聞かれる場所で行わない。明るく窓のある個室が望ましい。

・家族など本人以外の人に働きかけない。

結局、本人の自由な本心による退職の申し出が必要なので、後になってから本心ではなかったとか、脅された、だまされたなどの主張がありえない退職勧奨であることが必要となります。

 

<会社側の好ましい対応>

退職勧奨の前であっても、ミスの連発を責めるのではなく、心配する態度を示しましょう。

「入社以来ミスが多いですね。採用面接でも履歴書の内容からしても、あなたがミスを繰り返すというのは想定外です。まわりの仲間たちも、あなたのことを心配しています。個人的な事情があるとか、働く上での不安があるとか、何なりと教えてください」という問いかけをしましょう。

この問いかけには、対象社員に対する思いやりも示されていますが、採用面接の対話でも履歴書の記述にも、注意力が乏しくミスを連発しやすい人物だと推定できるようなことは示されていなかったという主張が含まれています。

会社は採用にあたって、応募者から必要な情報を引き出しているわけですから、その時点で注意力散漫な人物であることを承知のうえで採用しておいて、採用後に「ミスが多いから解雇します」とは言い難いわけです。

多くの場合、セクハラ、パワハラ、プライベートを含めて環境に慣れていない、上司や同僚からの指導不足など、問題点が浮かびあがることでしょう。これらへの対応は頭の痛いことですが、むやみに退職勧奨を行うことを防げただけでも儲けものです。

このような面談を、当事者である会社側の人間が冷静に客観的に行うというのはむずかしいものです。顧問の社会保険労務士がいれば、任せてしまえば良いのです。

こうした面談を経て、会社側には問題が無いということを確信できたなら、自信をもって退職勧奨を行えますし、さらに普通解雇を検討することもできるわけです。

 

2018.05.15.解決社労士

<支払いの約束や慣行が無い場合>

退職金の支給について、就業規則や労働条件通知書などに規定が無く、支給する慣行も無いのであれば、雇い主側に支払いの義務はありません。

しかし規定が無くても、退職金を支給する慣行があれば、その慣行を就業規則や労働条件通知書などに規定することを怠っているだけですから、規定がある場合と同様に支払い義務が発生します。

 

<対象者が限定されている場合>

就業規則などに、「勤続3年を超える正社員に支給する」という規定があれば、パート社員など非正規社員に支給する必要はありません。勤続3年以下の正社員も同様です。

しかし、正社員用の就業規則しか無い、就業規則に正社員の明確な定義が無いなどの不備があれば、本人からの請求によって支払わざるを得ないこともあります。

こうした点を含め、就業規則や労働条件通知書は、社会保険労務士(社労士)のチェックを受けておくことをお勧めします。

 

<不支給の例外規定がある場合>

退職金の不支給について、就業規則や労働条件通知書などに規定があって、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当な場合には、例外的に不支給とすることが許される場合もあります。

「規定さえあれば不支給で構わない」ということではありません。

 

「会社の承諾なく退職した者には退職金を支給しない」という規定は、その承諾が会社の主観的な判断ですから、客観的に合理的とはいえないでしょう。

 

「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という規定があっても、必ずしも不支給が許されるわけではありません。

退職金を不支給としても良いのは「労働者のそれまでの勤続における功労を抹消するほどの信義に反する行為」があった場合に限られます。

それほどの事情があったわけではないのなら、懲戒解雇そのものが不当解雇となり無効である可能性があります。

 

本当に退職金を支払わなくても大丈夫かといった専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

2017.11.26.解決社労士

<退職勧奨の法的性質>

新人を採用する場合には、会社が求人広告を出し、求職者が応募します。そして、採用面接などを経て会社が採用を決めます。この流れの中では、求職者の応募が労働契約の申し込みであり、会社の採用決定が労働契約の申し込みに対する承諾です。こうして労働契約が成立します。求人広告は、労働契約の申し込みを誘っている広告で、法的には「申し込みの誘因」とされます。

同じように、希望退職者を募って社内に告知し、退職希望者が退職の申し出をして、会社が承諾すれば、労働契約の合意解除による退職が成立します。このとき、希望退職者募集の社内告知は、退職の申し出を誘っているので、法的には「申し込みの誘因」とされます。

この退職の申し出を誘う相手が多数の社員ではなく個人であれば、退職勧奨ということになります。退職勧奨は、求人広告と同じように、相手が申し込むかどうかは完全に自由です。

 

<退職勧奨が問題となるケース>

このように退職勧奨は、本来、会社が自由に行えるはずのものですが、社会的に相当な範囲を逸脱した場合には違法とされます。違法とされれば、退職が無効とされたり、会社から退職勧奨を受けた社員に対する慰謝料の支払い義務が発生したりします。

 

<安全な退職勧奨>

退職が無効とされたり、慰謝料が発生したりのリスクが無い退職勧奨とは、次のようなものです。

・1人の社員に対して2名以内で行う(男性が女性に1人で退職勧奨を行うのは、セクハラなどを主張される恐れがあるので避ける)。

・パワハラ、セクハラなど、人格を傷つける発言はしない。

・大声を出したり、机をたたいたりしない。脅さない。だまさない。

・長時間行わない。何度も繰り返さない。

・きっぱりと断られたら、それ以上の退職勧奨は行わない。

・他人に話を聞かれる場所で行わない。明るく窓のある個室が望ましい。

・家族など本人以外の人に働きかけない。

結局、本人の自由な本心による退職の申し出が必要なので、後になってから本心ではなかったとか、脅された、だまされたなどの主張がありえない退職勧奨であることが必要となります。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

会社としては何とかして辞めてもらう必要を感じていて、退職勧奨にあたる社員も熱くなりがちです。

冷静さを求められる局面でこそ、信頼できる社労士にご相談いただきたいものです。

 

2017.01.23.解決社労士

<賠償予定の禁止>

会社の就業規則で、研修の費用を労働者の負担とし、一定期間勤続せずに退職した場合には、返還するものと定めていることがあります。

しかし労働契約を結ぶ際に、契約違反があったときの賠償額を決めておくことは、人身拘束につながるとして禁止されています。〔労働基準法16条〕

通常の業務のために行われる教育訓練や、通常の新人研修や社内研修として実施される教育訓練について、退職時の費用返還を定めておくことは、この規定に違反する可能性があります。

 

<返還請求が認められる場合>

ところが裁判の中には、返還請求が認められた例もあります。

たとえば通常の業務と直接の関係がない研修であって、もともと本人が支出すべき内容の研修費用を、会社が一時的に立て替えたに過ぎない場合です。

希望者を募って海外の大学院へ留学させた例で、費用を会社が貸し付けた形をとり、一定の年数の勤続によって返済を免除するという事例で、退職者への返還請求を認めた裁判例があります。

実際に返還請求が認められるためには、返済金額や返済方法などから客観的に見て退職の自由を奪うものではないこと、返還について事前に十分な説明が尽くされていて合意があったことなど、厳格な条件を満たしていることが必要になります。

 

2016.12.16.

<最初の対応>

まず電話をかけます。1~2回電話をかけて出ないだけでは、「音信不通」扱いにはできません。家族と同居しているのなら、固定電話や家族の電話にもかけてみます。

何回も電話をかけて出ないようなら、職場の部門長などが自宅を訪問します。自宅の玄関先で、人の気配が無く電気のメーターがほとんど動いていないような状態であれば、中で社員が倒れている可能性もあります。賃貸物件であれば、大家さんや管理会社にも連絡して、中の様子を確認してもらいましょう。

こうして不在が確認された場合には、実家などの連絡先や、職場で仲良くしている社員に心当たりを聞いてみるなどが必要です。

 

<それでも所在不明の場合>

会社に落ち度は無く、本人が出勤して来ないのだから、自己都合退職で処理できないものかと思えてきます。

しかし、本人が何か事故や事件に巻き込まれていて、出勤できず連絡もとれなかったことについて責任が無い場合には、会社が十分な対応をしたかどうかの問題が発生します。ですから、後に紛争とならないよう十分な配慮が必要です。

そして、本当に紛争となった場合には、会社として十分な対応をしたことの証明が必要となります。こうした場合に備えて、電話連絡の日時の記録は重要です。時間帯を変えて、何回も電話することとその記録を残すことが必要です。自宅を訪問した際の記録も正確に残しておきましょう。

 

<退職扱いにはできないのか>

本人からの申し出が無く、会社から退職扱いにするのであれば、「解雇」にあたります。解雇の場合には、会社から社員に解雇を通告しなければなりません。音信不通であれば解雇の通告はできませんし、社員が未成年者でなければ、ご両親が代理人として解雇の通告を受けるわけにもいきません。

こんなときは、就業規則の中に自動退職(自然退職)の規定があれば、それに従って退職扱いとすることもできます。「15日間以上にわたって音信不通で欠勤が続いている場合には退職とする」という規定です。

 

<万一に備えて>

新人の採用にあたっては、本人の連絡先だけではなく、実家や家族など緊急時の連絡先を確認しておく必要があります。

就業規則に自動退職(自然退職)の規定を置き、社員に周知しなければなりません。

店長など部門長には、社員が出勤して来なくなった場合の対応マニュアルを渡して、教育しておくことも必要です。

 

<連絡がとれた場合>

単なる寝坊なら笑って許せます。

しかし、パワハラ、セクハラ、うつ病など、本人がすぐには言い出せない原因が潜んでいることもあります。

突然出勤しなかったという事実があれば、それを重く受け止め、人事担当者はその後の様子について、きちんとフォローしていく必要があります。

 

<ここも社労士(社会保険労務士)の出番>

新人採用前後の手続きも、就業規則の作成や改善も、例外的な退職手続きも、すべて社労士が専門家として対応する職務です。

万一に備えての準備も、トラブルに発展しうる事実が発生したときにも、信頼できる社労士にご相談ください。

 

2016.11.30.