2023/04/24|1,552文字
<退職予定者の希望>
退職予定者は、なるべく多くの年次有給休暇を取得して退職したい、できれば年次有給休暇を使い切って退職したいと考えるものです。
会社としては、長年会社に貢献してくれた従業員の円満退社であれば、なるべく多くの年次有給休暇を取得させてあげたいと考えるでしょう。
その一方で、会社に迷惑をかけてばかりの従業員が、喧嘩別れのような形で退職していく場合、本音では年次有給休暇など取得させたくないと考えることもあるでしょう。
こうした退職予定者の気持ちや会社側の思いを前面に出すことは、トラブルの元になりかねません。
ですから、退職にあたって退職予定者と会社側とで、年次有給休暇の残日数を確認し、退職日までの取得について、冷静に話し合っておくことが望ましいのは言うまでもありません。
<時季指定権と時季変更権>
話し合いは、労働者の時季指定権と使用者の時季変更権との調整が中心となります。〔労働基準法第39条第5項本文と但書〕
「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」ですし、「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」とされています。〔労働契約法第3条第4項、第5項〕
労働者が時季指定権を行使するにあたって、使用者の時季変更権を侵害すれば、権利の濫用になりえます。
また、使用者が時季変更権を行使するにあたって、労働者の時季指定権を侵害すれば、権利の濫用になりえます。
そして、権利の濫用となるかならないかは、具体的な状況を踏まえて判断されることになります。
<会社側に不都合がある場合・ない場合>
たとえば、就業規則に「退職希望者は、退職予定日の30日前までに直属上司に退職願を提出する」旨の規定がある会社で、退職予定日の1か月半前に直属上司に退職願を提出し、「明日以降、退職予定日までの出勤予定日すべてで年次有給休暇を取得するので、今日が最終出勤日となります」と申し出たらどうでしょう。
一般には、やりかけの業務を放置し、引き継ぎも行わないことになりますし、使用者が時季変更をしようにも、退職後の日に変更することはできません。
ですから、時季変更権の侵害となる時期指定をしたことになり、権利の濫用となってしまいます。
しかし、退職の申し出までに、すべての業務を結了し、引き継ぎも済ませてあるような場合や、引き継ぎの必要がない業務を担当していた場合には、使用者側に不都合がない限り、こうした年次有給休暇の取得を拒むのは難しいことになります。
<就業規則に規定がある場合・ない場合>
上記のような事態に備え、就業規則には、退職日までに引き継ぎを完了させることを義務付ける規定を置いておくことも考えられます。
この義務に違反した場合のペナルティーとして、退職金の減額がありうる旨の規定を置いて、実効性を保つことも検討に価します。
<取得しやすい・しにくい職場>
その職場が年次有給休暇を取得しやすい環境にあり、取得率も高く、積極的な取得が推奨されていたにもかかわらず、あえて取得しないようにしていたため残日数が多い状態で、退職を申し出た場合には、退職予定者の時季指定権の濫用が疑われます。
反対に、人手不足や業務の繁忙などを理由に、年次有給休暇の取得が抑制されている職場では、残日数の蓄積が本人の責任によらないので、結果として、退職にあたってまとめて取得することとなったという場合には、退職予定者の時季指定権の濫用を主張することが困難となります。
結局、退職にあたって、年次有給休暇をまとめて取得する申し出をされないためには、普段からある程度、取得させておくようにするのが、最も効果的な対策であるといえるでしょう。