2023/05/18|1,545文字
<パワハラ加害者の責任>
たとえば、パワハラによって相手にケガをさせれば傷害罪〔刑法第204条〕が成立します。
これは、最高刑が懲役15年という重い犯罪です。
また、これとは別に、被害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されるでしょう。〔民法第709条、第710条〕
刑事責任と民事責任は別問題ですから、たとえ国家から罰金刑を科されたとしても、これとは無関係に損害賠償責任を負うわけです。
<懲戒処分の位置付け>
刑罰は国家との関係、損害賠償は被害者との関係で問題となります。
そして、懲戒処分は会社との労働契約にかかわる問題です。
ですから、有罪とされ損害賠償をすることとなっても、必ずしも懲戒処分が有効になるわけではありません。
あくまでも別問題として考える必要があります。
<懲戒処分の正当性>
パワハラで懲戒処分を受けたなら、パワハラについてきちんとした知識を身に着けつつ、気を取り直して業務に打ち込み、社内の信頼を回復するのが筋です。
しかし、どうにも納得がいかないという場合には、次の懲戒処分の有効要件を確認してみましょう。
・パワハラに対する懲戒が就業規則などに規定され周知されていること。
→パワハラの定義と懲戒の規定があって社内に周知されていることです。
・今回の行為が具体的に懲戒規定にあてはまるといえること。
→10人の社員に聞いてみて、意見が分かれるようではダメです。
・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。
→ちょっと厳しく叱ったら相手が泣いたので懲戒解雇ではやり過ぎです。
・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。
→問題視されたので会社があわてて規定を変えたというのはダメです。
・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。
→何度も始末書を書かせたけれど、効果がないので今回は過去の分も全部合わせて減給処分というやり方はできません。
・その労働者に説明するチャンスを与えていること。
→ここは大きなポイントです。本人の言い分を聞かずに懲戒処分はできません。
・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。
→元々手を焼いていたので、チャンスとばかりに懲戒処分はできません。
・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。
→誰がやったかによって、処分が違うのは不当です。
これらの条件のほとんどは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論の具体的な内容を示したものです。
条件を満たしていなければ、懲戒処分は無効となります。〔労働契約法第15条〕
それどころか、会社は労働者から損害賠償の請求を受けることにもなります。
ただ、懲戒処分を受けた本人は感情的になっていますから、会社が懲戒権を濫用したのかどうか、弁護士や特定社労士に客観的な判断を求めることが必要でしょう。
<人事権との関係>
刑罰を科せられたとか、損害賠償を請求されたからといって、それを理由に降格処分というのは不合理です。
しかし、ひどいパワハラを行った人は、人の上に立つ資格がないと判断されても仕方ありません。
懲戒処分を受けるにあたって、本人には事情を説明するチャンスが与えられますから、このときに懲戒処分の有効性について、淡々と主張することはできます。
しかし、自分の行為に対する反省を示さず、正当性ばかりを主張すると、資質を疑われるのではないでしょうか。
刑事事件として不起訴とされ、民事事件で勝訴し損害賠償を免れ、会社側の手続きの落ち度で懲戒処分が無効になったとしても、これらを通じて人物を疑われれば、会社の中での将来は暗いものとなってしまいます。
是非とも、十分な反省を示したうえで、主張すべきは主張していただきたいものです。