休職期間前後の年次有給休暇

2025/04/06|1,354文字

 

<就業規則の定め>

休職は、労働基準法などに規定がなく、各企業の定める就業規則に従って運用されます。

モデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)は、休職について次のように規定しています。

 

【休職】

第9条  労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

① 業務外の傷病による欠勤が  か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき                    年以内

② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき

                           必要な期間

2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

 

<休職前の年次有給休暇取得>

就業規則には、一定の期間欠勤が続くと休職となり、あるいは休職を命じられるという規定が多いでしょう。

この場合、年次有給休暇を取得すれば欠勤にはなりませんから、休職となることを嫌って、ある程度の日数の年次有給休暇を取得してから、欠勤が発生するようになるのが通常です。

また、社会保険料や住民税の控除ができる程度の給与を確保するためにも、年次有給休暇の取得が有効です。

本人の考え方次第ですが、欠勤や休職をなるべく避けたいということで、年次有給休暇をすべて使い果たしてから欠勤が発生することもあります。

 

<休職中の年次有給休暇取得>

休職中は労働義務がありません。

労働義務が無い日について、年次有給休暇を取得する余地はありませんから、休職期間に年次有給休暇を取得することはできません。

法令には規定がありませんが、同趣旨の通達があります(昭和31.2.13基収489号)。

これは、就業規則で毎年三が日が休日の企業で、三が日に年次有給休暇を取得できないのと同じです。

したがって、休職期間を年次有給休暇の残日数分だけ延長ということもありません。

 

<復帰後の年次有給休暇取得>

休職期間の満了とともに、あるいは期間満了前に休職事由が消滅して職務に復帰した場合には、年次有給休暇の残日数を限度に取得することができます。

特に私傷病を理由に休職となった場合には、治療の必要から通院のために年次有給休暇を取得する必要性は高いのですが、休職前にすべての年次有給休暇を取得し尽くしていると、この必要に応じることができません。

休職するにあたって、復帰の可能性が高いのであれば、通院のための年次有給休暇を残しておく必要性も高いといえます。

 

<実務の視点から>

休職者が、復帰できるかできないかは結果論です。

企業の方から「年次有給休暇を◯日残しておいたほうが良い」といったアドバイスをするのは適切ではありません。

あくまでも、本人の意思で年次有給休暇の取得を申し出るようにしてもらうべきです。

また、病気休暇の制度があれば、業務外の傷病による休職の場合には、病気休暇の取得も併せて考えます。

年次有給休暇も病気休暇も本人の権利ですから、企業側から不確実な見込みでアドバイスすることは避けましょう。

遺族基礎年金の受給権

2025/04/05|1,002文字

 

<遺族年金>

遺族年金は、一家の働き手や年金受給者などが亡くなったときに、残された家族に給付される年金です。

遺族年金を受け取るには、亡くなった人の年金保険料の納付状況に条件があります。また、亡くなった人の年金の加入状況などによって、受け取れる年金の種類が異なってきます。

これは、年金をもらう人ではなく、亡くなった人についての条件です。

一方で、年金をもらう人にも、年齢などの条件が設けられています。

ここでは、遺族基礎年金について説明します。

 

<亡くなった人の条件>

被保険者(年金加入者)または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある人が死亡したことが条件となります。

そして、その死亡した人について、保険料納付済期間と保険料免除期間を合計して加入期間の3分の2以上あることが必要です。

ただし、令和8(2026)41日前の場合は死亡日に65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに、保険料の滞納がなければ受けられます。

これらの条件を満たしているかどうかは、年金事務所などで確認できます。

ご自分で確認できない場合には、社会保険労務士に委託することもできます。

 

<年金をもらう人の条件>

亡くなった人によって生計を維持されていた (1)子のある配偶者 (2)子 が年金をもらえます。

ただし、「子」が次のどちらかの条件を満たす場合に限ります。

・18歳到達年度の末日(331)を経過していない子

・20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子

例外的に、「子」に配偶者がいると対象外になります。

 

<生計を維持されていたとは>

原則として次の要件を満たす場合をいいます。

1.同居していたこと(別居していても、仕送りしていた、健康保険の扶養親族であった等の事情があれば認められます。)。

2.加給年金額等対象者について、前年の収入が850万円未満であること。または所得が6555千円未満であること。

 

<年金事務所で確認を>

年金の仕組みは複雑ですから、これらの事項には、細かな例外があります。

また、年金受給者が亡くなった場合には、年金が後払いの形で支給されることから、亡くなった人が受け取り切れなかった年金(未支給年金)を遺族が受け取ることになります。

年金受給者が亡くなったことそのものを届け出る必要がありますから、あわせて年金事務所で確認することをお勧めします。

休職制度は制度の設計次第で運用が大きく変わります

2025/04/04|1,680文字

 

<休職の性質>

休職とは、業務外での病気やケガなど主に労働者側の個人的事情により、長期間にわたり働けない見込みとなった場合に解雇せず、労働者としての身分を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な扱いをいいます。

しかし、これは一般的な説明であって、休職の定義、休職期間の制限、復職等については、労働基準法などに規定がありません。

つまり、法令に違反しない限り、会社は休職制度を自由に定めることができますし、休職制度を設けないこともできます。

 

<モデル就業規則の規定>

令和5(2023)年7月に厚生労働省から公表された最新のモデル就業規則には、休職について次のように規定されています。

 

(休職)

第9条  労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

①業務外の傷病による欠勤が  か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき  年以内

②前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき 必要な期間

 

第1号が「業務外の傷病による欠勤」に限定しているのは、業務による傷病、つまり労災のうちの業務災害については、解雇制限があるからです。〔労働基準法第19条第1項本文〕

休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とするのですが、業務災害については療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇が禁止されているので、これに配慮した規定となっています。

 

モデル就業規則では、「業務外の傷病による欠勤が  か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」は、「所定の期間休職とする」という規定になっています。

休日にスポーツをして大ケガをした場合であっても、酒に酔って階段で転んで大ケガをした場合であっても、年次有給休暇を使い果たし、一定の期間欠勤が続けば自動的に休職となります。

また、会社としては何年でも復帰を待ちたい人材というわけではなく、長く職場を離れるのなら代わりの人を採用したいという本音があったとしても、やはり自動的に休職となります。

「あなたは勤務態度が今一つなので、この規定を適用しません」ということはできないのです。

 

<会社に主導権のある規定>

「労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職を命ずる場合がある

このような規定にしておけば、会社は具体的な事情に応じて休職を命ずるか、休職を命じないで長期欠勤を理由とする解雇をするかの選択が可能となります。

ただ、不公平な運用をすれば、その合理性を問われて解雇が無効となる場合もあります。

さらに、復帰して欲しい人材に休職を命じたところ、本人から退職の申し出があった場合には、引きとめることができません。

この場合、有能な人材が復帰を拒否したということで、他の社員に与える悪影響もあるでしょう。

 

<合意を前提とする規定>

「労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職を申し出ることができる。この場合、会社が承認したときは、会社の認めた期間休職を命ずる

つまり、労働者がそのまま退職するのではなく復帰を希望する場合に、会社が認めた範囲内で休職を命ずることができます。

休職について、会社に主導権がある一方で、労使の合意の元に休職制度を利用することになり、円満な運用を可能とします。

 

<規定を置かないという選択>

就業規則に休職の規定が無い場合、あるいは、そもそも就業規則が無い場合であっても、労働者に休職を命ずることができます。

休職を命じなければ、長期欠勤で退職となるところ、休職を命じて救済するわけですから、法令以上に有利な扱いをすることになるからです。

つまり、ある程度、休職の実績が積み重ねられてから、就業規則に休職についての規定を置くという選択も可能です。

ただ、行き当たりばったりの不公平で不合理な運用をすれば、休職扱いとならず解雇された労働者から、解雇の無効を主張される可能性はあります。

 

休職制度ひとつを取っても、就業規則というのは、会社の個性に応じたものでなければならないことが痛感されます。

職場でのアウティング

2025/04/03|1,135文字

 

<アウティング>

本人の了解を得ずに、性的マイノリティ(少数者)であることを暴露することをアウティングと呼んでいます。

性的指向(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)や性自認(トランスジェンダー)をカミングアウトして、自分を偽らずに生きたいと思っている人もいます。

しかし、他人から否定的な態度をとられ、人間関係が崩れてしまう恐れも大きく、なかなかカミングアウトしやすい環境は整っていません。

こうした中で、本人の意思によらず秘密を暴露されてしまうのは、大きな精神的ダメージとなり、精神疾患を発症する原因ともなります。

 

<個人の法的責任>

性的指向や性自認の個人情報は、病歴や健康状態と同じく非常にセンシティブな個人情報です。

アウティングを行った人は、アウティングされた人からプライバシー侵害等を理由として、不法行為による損害賠償を求められる可能性があります。

損害賠償の中身は、基本的には慰謝料です。

しかし、精神疾患を発症した場合には治療費も含まれますし、勤務できなくなれば失われた収入も含まれます。

万一自殺すれば、遺族から多額の賠償金を請求されることにもなります。

 

<企業の法的責任>

企業は、従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。

この義務の中には、アウティングが行われないようにする義務が含まれます。

つまり、個人情報をその内容に応じて必要な範囲内の社員だけで共有する、性的マイノリティやプライバシーの保護について社員教育を定期的に行うなどの配慮が求められています。

また、アウティングが業務の中で行われたのであれば、企業が使用者責任を負うこともあります。

これらの場合にも、アウティングされた人や遺族からの損害賠償請求が行われうることになります。

 

<就業規則での対応>

モデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)は、次のように規定しています。

 

【その他あらゆるハラスメントの禁止】

第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

この中の「性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメント」には、アウティングが含まれると解釈すべきです。

より明確にするのであれば、次のように規定することも考えられます。

 

【その他あらゆるハラスメントの禁止】

第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認の暴露やこれらに関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

年金事務所の管轄が異なる地域への会社等の移動や名称変更

2025/04/02|885文字

 

<該当する場合と手続内容>

適用事業所が、次のいずれかに該当した場合には、事業主が「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を提出します。

・適用事業所が、これまでの年金事務所が管轄する地域外へ住所変更する場合

・上記に併せて名称を変更する場合

 

管轄年金事務所の変更

同一都道府県内の場合…届出日の翌月1日より変更されます。

都道府県外の場合………届出日の翌月1日または翌々月1日より変更されます。

(届書受付日によって異なる場合があります)

 

健康保険料率の変更(協会けんぽ管掌の健康保険の場合)

他の都道府県に事業所が移転する場合、健康保険料率が変更になる場合があります。

この場合、届書に記載された「事業開始年月日」から変更後の健康保険料率が適用されることになり、既に徴収済みの健康保険料に過不足があるときは、年金事務所の管轄変更後に初めて納付する保険料で精算されます。

 

提出時期 事実発生から5日以内

提 出 先 変更前の事業所の所在地を管轄する年金事務所

提出方法 電子申請、郵送、窓口持参

 

<添付書類>

次の1.~3.の場合に応じて、添付書類が必要となります。

 

1.法人事業所の場合(所在地変更・名称変更共通)

法人(商業)登記簿謄本のコピー

 

2.個人事業所の場合(所在地変更)

事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)

 

3.個人事業所の場合(名称変更)

公共料金の領収書のコピー等

 

法人(商業)登記簿謄本のコピー、事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)は、発行から90日以内のものが必要です。

電子申請により提出する場合、添付書類は画像ファイル(JPEG形式またはPDF形式)による添付データとして提出することができます。

事業所の所在地が登記上の所在地等と異なる場合は「賃貸借契約書」のコピーなど事業所所在地の確認できるものを添付します。

 

<その他の留意事項>

この届出は、変更前の事業所の所在地を管轄する年金事務所へ行いますが、変更後の事業所の所在地を管轄する年金事務所へ引き継がれます。

改めて変更後の事業所の所在地を管轄する年金事務所へ届出する必要はありません。

同じ年金事務所の管轄内で会社等の所在地や名称を変更する場合

2025/04/01|547文字

 

<該当する場合と手続内容>

同一の年金事務所管内で、次のいずれかに該当した場合には、事業主が「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を提出します。

・同一の年金事務所の管轄地域内で所在地を変更する場合

・会社など適用事業所の名称を変更する場合

・同一の年金事務所の管轄地域内で所在地及び名称を変更する場合

 

提出時期 事実発生から5日以内

提 出 先 郵送で事務センター(事業所の所在地を管轄する年金事務所)

提出方法 電子申請、郵送、窓口持参

 

<添付書類>

次の1.~3.の場合に応じて、添付書類が必要となります。

 

1.法人事業所の場合(所在地変更・名称変更共通)

法人(商業)登記簿謄本のコピー

 

2.個人事業所の場合(所在地変更)

事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)

 

3.個人事業所の場合(名称変更)

公共料金の領収書のコピー等

 

法人(商業)登記簿謄本のコピー、事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)は、発行から90日以内のものが必要です。

電子申請により提出する場合、添付書類は画像ファイル(JPEG形式またはPDF形式)による添付データとして提出することができます。

事業所の所在地が登記上の所在地等と異なる場合は「賃貸借契約書」のコピーなど事業所所在地の確認できるものを添付します。

諭旨解雇の意味

2025/03/31|738文字

 

<諭旨(ゆし)解雇の定義>

従業員が不祥事を起こし、諭旨解雇になったという報道に接することがあります。

しかし、その報道の中で、諭旨解雇の意味について説明されている例は、ほとんど見られません。

「諭旨解雇」というのは法律用語ではなく、公式な定義が無いことによるものと思われます。

諭旨解雇の取扱は各企業により異なるため、報道機関も安易に解説できないのです。

それでも、諭旨解雇の多くは、懲戒解雇の一種または退職勧奨による退職であると考えられます。

 

<懲戒解雇の一種>

就業規則や労働条件通知書などに定められた懲戒処分の一つで、解雇予告手当や退職金の全額または一部を支払ったうえで解雇するものです。

懲戒解雇も諭旨解雇も、就業規則などに具体的な定めが無ければできませんし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければ、解雇権の濫用となり無効です。

また、退職金の減額や不支給が就業規則に規定されている場合であっても、客観的に相当と認められる範囲に限り有効となります。

退職者が会社を訴え、退職金の不足分を請求すると、多くの場合に裁判所が会社に対して不足する退職金の支払を命ずる判決が下されています。

 

<退職勧奨による退職>

従業員の不祥事や非行があった時に、その行為を諭(さと)したうえで、従業員自身の意思により退職願を提出させるものです。

これは、退職を勧められたことにより、従業員自身の意思で退職を決めるので、解雇にはあたりません。

しかし、従業員の自由な意思による決定が前提となっていますので、精神的に追い込まれ、その真意に反して退職願を提出させられたような場合には、退職の申し出が無効となることもあります。

本人に十分反省させたうえで、自主的に退職させることが、その本質となります。

退職間際に付与された年次有給休暇の取得も制限はされません

2025/03/30|2,077文字

 

<退職間際の年次有給休暇取得>

社員から退職と合わせて、年次有給休暇の取得についての申出があると、多くの場合、上司は大いに困惑します。

まだ部下には伝えていないものの、これから着手しよう、進行しようと思っていた業務が、滞ってしまうかもしれません。

ましてや、年次有給休暇が付与されたばかりの時期に、退職にあたってすべての年次有給休暇を消化したいという希望が出されると、感情的になってしまうこともあるでしょう。

しかし、年次有給休暇の権利は労働基準法によって、最低限の日数が定められています。就業規則によって、法定を上回る日数の休暇が定められていることもあります。退職日が近いことを理由に、上司のマイルールで年次有給休暇の日数を削ったり、取得を制限したりはできません。

 

<業務が停滞する恐れ>

突然の退職者が出たことによって、業務が停滞する可能性というのは、その職場での事前準備の状況によって大きく異なります。

交通事故に遭った社員が長期欠勤したり、不幸にして亡くなったりは、考えたくもないですが、ありうることです。

また、感染力の強いウイルスによって、同時に多数の社員が欠勤する可能性もあります。

 

<引き継ぎが終わらない恐れ>

退職者が出れば、その社員が抱えていた業務は、別の誰かが引き継がなければなりません。「別の誰か」がいなければ、必要な人材を採用しなければなりません。

こうした事態は業務の属人化が進み、「この人がいないと分からない」仕事が多いほど、不都合が大きくなってしまいます。それだけではなく、業務の属人化は不正の温床ともなります。

 

<感情的な問題>

部下が退職にあたって「多くの年次有給休暇を取得したい」と言ったとき、上司が不愉快に思うのは、上司自身が思うように年次有給休暇を取得できていないということがあるでしょう。あるいは、他の部下もほとんど取得していないということがあるかもしれません。

しかし上司も部下も、普段から年次有給休暇の取得率が高ければ、このような感情を抱くことはありません。そもそも、退職にあたって、まとめて取得する年次有給休暇の日数も多くはならないはずです。

上司が感情的になるのは、その職場での年次有給休暇の取得状況に問題がありそうです。

 

<業務マニュアルの常備>

一人ひとりの社員が、自分の業務について具体的なマニュアルを作成しておきます。業務の改善をする場合には、改善前・改善後のマニュアルを示して、上司の了解を得ます。これは、人事評価に必要な情報を上司に与えることにもなります。

新人に対しては、このマニュアルを示して、実際に業務を行ってみてもらいます。迷う箇所があれば、そこを明らかにして、マニュアルをより分かりやすく具体的にします。

こうしたマニュアルがあれば、急な欠勤や退職が出ても、かなりの不都合が緩和されます。

 

<就業規則への規定>

退職するにあたっては、担当業務のすべてのマニュアルと引継書について、上司の確認を受けることを義務付け、就業規則に規定してはいかがでしょうか。この義務を怠って退職する場合には、退職金の減額などペナルティを科すことも可能です。

 

<年次有給休暇の計画的付与制度>

年次有給休暇の計画的付与制度とは、就業規則に定め労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度のことをいいます。

しかし、年次有給休暇の計画的付与は、年次有給休暇の付与日数すべてについて認められているわけではありません。従業員が病気その他の個人的事由による取得ができるよう、指定した時季に与えられる日数を留保しておく必要があるためです。

年次有給休暇の日数のうち5日は個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければなりません。このため、労使協定による計画的付与の対象となるのは年次有給休暇の日数のうち、5日を超えた部分となります。たとえば、年次有給休暇の付与日数が10日の労働者に対しては5日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができます。

また、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。ただし、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。

この制度を利用することで、年次有給休暇の取得を促進し、退職時の残日数を減らすことができます。

 

<年次有給休暇の分割付与>

年次有給休暇の一部を、入社時に前倒しで付与している企業もあります。たとえば、入社時に5日を付与して、半年経過後に残りの5日を付与するという形です。

こうした場合、翌年以降も、半年前倒しで付与した日数以上の年次有給休暇を付与する必要があります。たとえば、半分は前倒しで付与し、残りは法定の時期に付与する制度を就業規則に定めて運用すれば、退職にあたってまとめて取得することをある程度は防ぐことができます。

もっとも毎年、取得させる義務のある5日しか取得させていない企業では、結局、年次有給休暇が溜まってしまいますから、効果は期待できません。

解雇理由は事実の収集と保管が必要です

2025/3/29|1,158文字

 

<解雇の理由>

労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。

解雇を通告された従業員から、「解雇権の濫用であり解雇は無効である」と主張されないためには、使用者側が「客観的に合理的な理由」を示す必要があります。

使用者側が主観的に合理的だと思っても、事実の裏付けがなければ、「客観的に合理的」ではないかもしれません。

結局、使用者側は、解雇対象者に対して、解雇の「客観的に合理的な理由」となる事実を示さなければなりません。

 

<普通解雇の理由>

懲戒解雇であれば、就業規則に具体的な規定があって、明らかに規定が適用されるケースだとして、適正な手続を踏んだうえで行われます。

一方で普通解雇は、労働者の債務不履行による労働契約の解除ですから、雇用契約書や労働条件通知書の規定が根拠となります。

普通解雇の理由としては、能力不足・協調性欠如・職務専念義務違反などがあります。これらは余りにも「あたり前のこと」とされやすく、使用者は「常識的に見て」債務不履行があると安易に考え、また証拠の確保を怠りやすいという危険があります。

 

<証拠の確保>

能力不足であれば、使用者から見て「どう考えても能力不足だから」ということだけでは、労働審判や訴訟で「客観的に合理的な理由」を示すことができません。

 

たとえば、次のような事実の記録を残しておく必要があります。

・◯年◯月◯日◯時頃に、指示通りの入力作業ができなかった。

・その場で上司の◯◯が丁寧に指導したが、メモを取らずに「うん、うん」と返事をしながら聞いていた。質問があるか確認したところ、「分かったから大丈夫」と答えた。

・ところが、翌日の◯日の◯時頃に、やはりその入力作業ができていなかった。

・上司が外出中であったため、先輩社員の◯◯が丁寧に指導したが、メモを取らないので「メモを取りながら聞いてください」と言ったところ、「大丈夫です」と答えてメモは取らなかった。

・さらに翌日以降も、正しく入力作業ができなかった。

 

こうした事実についての記録を少数残しておいても、「たまたま不向きだったのではないか。他の業務を担当させれば良かったのではないか。」という疑いが生じます。

結局、あれこれやらせてみたが、基本的な能力を欠いていて、どの業務もこなせなかったことを示す事実の記録を残さなければなりません。

 

<証拠が残らない理由>

退職してもらう人を観察し、指導し、記録を残すというのは、心理的な抵抗が大きいと思います。

しかし日本では、常識的に見て解雇は当然と思われるケースについて、不当解雇の司法判断が下されやすいという現実があります。

面倒に思わず、会社を守るためと思って、記録を残すようお勧めします。

障害者が気持ちよく働けていない能力が発揮できない場合の職場の対応

2025/03/28|1,441文字

 

<いじめが疑われる場合>

障害者に対する偏見などにより、同僚からいじめられていたり、上司からパワハラを受けていたりすることによって、本来の能力を発揮できないことがあります。

また、求められている能力を発揮して業務をこなしているにもかかわらず、周囲から仕事ぶりについて悪く言われていることもあります。

この場合には、会社のトップや人事担当者が障害者と面談して、いじめの事実が無いか確認する必要があります。

そして、本人がいじめの事実を認めた場合でも、他に被害者がいないか、目撃者はいないかなどの調査を会社が始めると、告げ口したとされて、かえっていじめがエスカレートしてしまう危険があります。

会社が、いじめ、パワハラ、障害者について、きちんとした社内教育をしないうちに、障害者を迎え入れてしまうのは危険だということです。

それでも、法定の障害者雇用率の段階的な上昇により、障害者の雇用が難しくなりつつありますから、急ぐあまり、態勢が整わないうちに採用してしまうこともあります。

こうした場合には、すぐに犯人探しに走るのではなく、研修などの社内教育をする旨の全社告知をしたうえで、計画的に進めるのが得策です。

 

<メンタルヘルス不調が疑われる場合>

身体障害やいじめなどが原因で、精神疾患にかかっている場合もあります。

また、元々あった精神疾患が悪化している場合もあります。

これらの場合には、上司や同僚から不自然な言動についての情報が入ることもあります。

会社のトップや人事担当者が障害者と面談して、受け答えや態度に疑問を抱くようであれば、専門医の受診を促すようにします。

程度によっては、ご家族、支援機関、主治医、産業医との連動も必要になります。

精神疾患により、正常に勤務できないのであれば、会社のルールに従い休職などの手続を取ることになります。

 

<障害者雇用促進法に基づく合理的配慮>

障害者を採用した場合や、健常者である社員が障害者となった場合には、会社が障害者雇用促進法に基づく合理的配慮を求められます。

こうした配慮が無いために、障害者が能力を発揮できないのであれば、会社側に問題があることを素直に認め、合理的な配慮を実施しなければなりません。

障害者の雇用の促進等に関する法律は、昭和35(1960)年に障害者の職業の安定を図ることを目的として制定されました。

そして、労働者の募集・採用、均等待遇、能力発揮、相談体制などについて定められ〔第36条の2~第36条の4〕、事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針が定められるとしています。〔第36条の5

また、平成28(2016)4月の改正障害者雇用促進法の施行に先がけて、合理的配慮指針が策定されています。(平成27(2015)325日)

この指針を参考にして、会社としての取り組みを進めましょう。

 

<解雇の検討>

以上の問題をクリアしたうえで、尚、障害者が思うように働いてくれない場合には、普通解雇を検討することになります。

しかし、障害者の場合には、会社側の努力が求められている分だけ、能力不足を理由とする解雇が困難です。

採用にあたっては、何をどこまで期待するのかについて、具体的な人材要件を文書化し、本人に説明して交付しておくことをお勧めします。

できれば3か月程度の試用期間を置き、定期的に必要な人材要件と本人の働きぶりとを対照しつつ面談を行って、本採用に至らない場合でも納得が得られるようにしておくと良いでしょう。

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