基礎年金の底上げ案—制度の背景と今後の課題

2025/06/01|1,241文字

 

<なぜ「底上げ」が必要なのか>

日本の年金制度は、少子高齢化と経済成長の鈍化により、将来的な給付水準の低下が懸念されています。

特に「基礎年金(国民年金)」は、厚生年金に加入していない自営業者や非正規労働者にとって老後の生活を支える重要な柱ですが、2024年の財政検証では、2057年には現在の約7割まで給付水準が下がる可能性が示されました。

このような状況を受け、2025年5月、自民・公明・立憲民主の3党は、基礎年金の給付水準を将来的に底上げするための法案修正に合意しました。

 

<改革案の概要>

今回の合意では、以下のような内容が盛り込まれています。

・財源として厚生年金の積立金を活用

・厚生年金の給付が一時的に減少することへの緩和策も併記

・2029年の財政検証の結果に基づき、基礎年金の給付水準が一定以下に低下すると判断された場合に、底上げ措置を実施

この仕組みは「トリガー方式」と呼ばれ、実際に給付水準が下がった場合にのみ発動される仕組みです。

 

<期待される効果とメリット>

非正規雇用が多く、厚生年金の加入期間が短い「就職氷河期世代」にとって、基礎年金の底上げは老後の生活保障を強化する重要な施策です。

将来の年金水準がある程度保証されることで、若年層の老後不安を和らげ、制度への信頼回復にもつながります。

基礎年金の底上げは、制度全体の持続可能性を高め、世代間の格差是正にも寄与します。

 

<課題と懸念点>

底上げには年間1〜2兆円規模の国費が必要とされており、財源確保が大きな課題です。厚生年金の積立金を活用する案には、会社員や高所得層から「流用だ」との批判もあります。

厚生年金の積立金を基礎年金に回すことで、現役世代の給付が一時的に減少する可能性があり、世代間の不公平感が生じる懸念があります。

実際の底上げは2029年の財政検証の結果次第であり、現時点では具体的な給付増額の規模や時期は未定です。

 

<今後の展望>

今回の法案は、年金制度改革における大きな一歩と評価されていますが、制度の持続性と公平性を両立させるためには、以下のような取り組みが求められます。

・追加財源の検討:増税、保険料引き上げ、歳出削減などの選択肢を含めた議論が必要。

・制度の透明性向上:国民への丁寧な説明と情報公開が不可欠。

・超党派での継続的な協議:政治的な対立を超えた合意形成が求められます。

 

<解決社労士の視点からは>

基礎年金の底上げ案は、将来の年金給付水準の低下を防ぎ、特に就職氷河期世代や若年層の老後不安を軽減するための重要な政策です。

一方で、財源確保や世代間の公平性といった課題も多く、今後の国会審議や2029年の財政検証を通じて、より具体的な制度設計が求められます。

この改革が、すべての世代にとって安心できる年金制度の実現につながるかどうか、引き続き注視が必要です。

就職氷河期世代の皆さんからすれば、いつ、いくら貰えるか、確実性のない老齢年金の法改正よりは、今の生活を支えてくれる政策や法改正を期待したいところです。

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