2025/06/08|1,529文字
<適用拡大前の社会保険加入基準>
臨時に使用される人や、季節的業務に使用される人を除いて、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、フルタイム労働者の4分の3以上というのが、原則的な社会保険加入基準の一つです。
万一、1週間の所定労働時間が定まっていない場合には、次の計算によって算定します。1年間の月数を「12か月」、週数を「52週」として週単位の労働時間に換算するものです。
・1か月単位で定められている場合は、1か月の所定労働時間×12か月÷52週
・1年単位で定められている場合は、1年間の所定労働時間÷52週
・1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合は、その平均値
<適用拡大後の社会保険加入基準>
社会保険の適用拡大の対象となった事業所では、上記の加入基準を満たす従業員に加え、次の4つの基準すべてを満たす短時間労働者が社会保険に加入します。
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上
・昼間学生でないこと(休学中は加入対象)
・雇用期間が2か月以内に限られていないこと
<社会保険への加入を避ける動き>
短時間労働者が社会保険に加入することを避ける方法として、転職と労働時間の短縮が行われました。
もともとの加入基準での社会保険加入者が、50人を大きく下回る企業に転職すれば、社会保険の適用拡大が今すぐには及ばないだろうから、自分も当面は社会保険に加入しなくて済むだろうと考えたのです。
もう一つの方法は、会社と相談して1週間の所定労働時間を20時間未満とすることです。労働時間を多く減らしてしまうと、収入も大きく減りますから、たとえば週18時間労働など、20時間を少しだけ下回る条件とします。
しかし、この場合には、雇用保険の対象外となります。つまり、雇用保険では離職扱いとなります。離職票が発行され、ハローワークで手続して基本手当(昔の失業手当)を受給できる建前ですが、収入との調整が行われます。労働時間を少しだけ減らした場合には、計算上、手当を受け取れないことが分かります。しかも、本当に退職した時には、雇用保険の手当を受け取ることができないのですから、今まで支払ってきた雇用保険料が無駄になったと感じるでしょう。
<社会保険加入基準の落とし穴>
厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトなどで、社会保険加入基準を再確認してみると、そこには「※フルタイムで働く従業員の週所定労働時間が40時間の企業等の場合」に、「※契約上20時間に満たない場合でも、実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、それ以降も続く見込みのときは、3ヶ月目から加入対象となります」という説明が見られます。
社会保険加入基準のうち、1週間の所定労働時間や1か月の所定労働日数については、就業規則、雇用契約書、労働条件通知書などが一応の基準となります。
しかし、これは実態と書面とで、内容が一致している前提での話です。書面上、社会保険加入基準を満たしていなければ、いくら長時間働いても社会保険に加入しないということではありません。契約についての法律関係は、書面よりも実態を優先して判断されます。
<実務の視点から>
社会保険への加入を避けるなどの意図で、一時的に労働時間や労働日数を減らしても、人手不足や採用難という実態もあり、いつの間にか元の労働条件に近づいていくということがあります。
こうした実態が、特殊な事情で、一時的・臨時的に発生し、すぐ解消するということでなければ、実態に合わせて雇用契約書などを改定し、条件を満たせば、社会保険加入手続を行うのが正しいことになります。
この場合には、雇用保険の加入手続も必要となりますので、忘れないようにしましょう。