「逆パワハラ」という言葉があること自体が、パワハラに対する無理解を示しています

2024/10/17|1,602文字

 

<逆パワハラとは>

部下の上司に対するパワハラや、パート社員の正社員に対するパワハラなど、形式的に見て立場が下の者から、立場が上の者に対して行われるパワハラを、「逆パワハラ」と呼ぶことがあります。

形式的に見て、部長は課長よりも立場が上なのですが、現実には課長から部長へのパワハラが発生しています。

また、契約形態の違いではあるものの、正社員はパート社員よりも職務権限の範囲が広く責任が重いことから、立場が上だとされているのですが、現実にはパート社員から正社員へのパワハラも発生しています。

 

<逆パワハラという言葉が誕生した背景>

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる

1.優越的な関係を背景とした言動であって、

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

3.労働者の就業環境が害されるもの

であり、1.から3.までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

上記1.の、「優越的な関係」というのは、必ずしも役職が上であるとか、パート社員に対して正社員であることなどに限られてはいません。

ところが、形式的に見て立場が下の者から、立場が上の者に対しては、パワハラが行われることがないという勘違いが、まだまだ残っています。

これは、パワハラ教育が進んでいないことを示しています。

 

<逆パワハラの実例>

ある企業で、新卒採用の男性社員がコツコツと実績を重ね、やっと課長になりました。数年後には、部長が役職定年を迎えることから、次は自分が部長に昇格するだろうと期待していました。

ところが、大手企業で働いていた若い女性が、縁故採用で入社してきて、その部署の部長として働き出しました。元の部長は、自己都合で退職してしまったのです。

こうなると、課長である男性社員は面白くありません。新しい年下の部長から、何か業務指示を出されても、素直に従わず、自分の考えで仕事を進めてしまいます。部長から何か聞かれても、「そんなことも分からないんじゃ部長失格だ!」と言って答えません。それどころか、部長から挨拶しても、課長はこれを無視します。

周囲の社員たちは、関わり合いになりたくないので、見て見ぬふりをしています。

 

<逆パワハラへの誤った対応>

この部長は、眠れないし、胃の調子が悪いし、大きなストレスを感じています。

幸いにして、その会社にはパワハラ相談窓口が設置されています。そこで、部長はこの窓口に相談しました。

ところが、相談窓口担当者から「課長は、あなたの部下なんだから、あなたが指導して改善させる立場ですよ」と言われてしまいました。

相談窓口の担当者は、ハラスメントについて、一段高い知識と相談スキルを備えていなければならないのですが、形式的に特定の役職に就いている人を、就業規則でパワハラ相談窓口としているに過ぎないことがあります。

すると、このように誤った対応が頻発することになります。

こうした対応をとられると、相談者は絶望します。訴訟に発展する可能性が極めて高くなるパターンです。

 

<逆パワハラへの現実的対応>

新たに管理職になった人、昇進した管理職に対しては、そのまた上司が就業環境への気遣いをする必要があります。

新たに部長となった人については、上司となると取締役ということもあるでしょう。そうであれば取締役が、定期的に部長に声をかけ、業務をこなしていくうえでの不安や、就業環境の問題点について聞き取りを行い、会社の問題点であるととらえて、改善に向かわなければなりません。

場合によっては、取締役から課長に対して、警告を発することも必要でしょうし、人事考課についても説明しておくのが効果的です。

パワハラ相談窓口は、逆パワハラに対しては無力なことも多いので、こうした現実的な対応が求められます。

会社はどこまで労働法を遵守しているでしょう?お金のない会社ほどブラックになりやすいという現実があります。

2024/10/16|2,632文字

 

<労働法の遵守レベル>

労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法、パート有期労働法、育児介護休業法など、企業が遵守すべき労働法の範囲は、驚くほど広くなっています。

労働法の遵守を監視するのは、主に労働基準監督署の役割です。

だからといって、すべての企業に対し、直ちに完璧に遵守するよう求めてはいません。

労働基準監督署の労働基準監督官は、労働基準監督官行動規範に則り行動することになっています。

この行動規範の中の「中小企業等の事情に配慮した対応」という項目では、次のように述べられています。

 

監督官は、中小企業等の事業主の方に対しては、その法令に関する知識や労務管理体制の状況を十分に把握、理解しつつ、きめ細やかな相談・支援を通じた法令の趣旨・内容の理解の促進等に努めます。また、中小企業等に法令違反があった場合には、その労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態その他の事情を踏まえて、事業主の方による自主的な改善を促します。

 

裏を返せば、大企業では、その社会的責任から法令遵守が徹底されていなければならないということになるでしょう。

以下、私の関わってきた企業の実態を参考に、労働法の遵守レベルを示してみたいと思います。

下に行くほど、高い遵守レベルであるとは言えるのですが…

 

<ブラックレベル>

罰則が適用されることを覚悟しています。

経営者が「労働法を遵守していては、会社の経営が成り立たない」と公言しています。

従業員の賃金は、最低賃金を下回っていることもあります。

従業員の中には、会社に対し「こんな自分を雇ってくれた」という恩義を感じている人もいます。

また、「この会社を辞めたら他に雇ってくれる所は無い」と思い込んでいます。

だから、辞めてしまっては、当面の生活に困ってしまうと考えています。

従業員は視野が狭くなり、自分の会社のことしか見えなくなっています。

「みんな頑張っているんだから、自分も頑張らなきゃ」と感じます。

こうした従業員の搾取の上に、会社の経営が成り立っています。

経営者は、もし会社や使用者に罰則が適用され会社の存続が危うくなったら、一度会社を清算して新会社を設立すれば良いと考えています。

しかし、たとえば雇用関係助成金について「平成31(2019)年4月1日以降に申請した雇用関係助成金について、申請事業主の役員等に他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等がいる場合は申請することができない」ということになっています。

この場合、雇用調整助成金などの申請ができないことになります。

税務署、労働基準監督署、会計検査院、年金事務所などの調査が入って、多額の支払を求められたとき、我慢して働いてきた従業員の恩を仇で返すように、会社のお金を持ち逃げする経営者もいます。

このような会社で我慢して働くのは損ですから、すぐに転職するほうが現実的でしょう。

 

<グレーレベル>

罰則の適用を避けたいと考えています。

法令のある条文に罰則が規定されていても、実際に適用された実績が殆どなければ、適用される可能性は低いと考え、対応を後回しにします。

その反面、適用実績が多い罰則には触れないよう対応しています。

ですから、同業他社への罰則適用の現状について、いつも気にかけています。

しかし、「罰則」というのは刑事面の話で、民事面には直結していません。

そのため、退職者から未払残業代の請求やパワハラ・セクハラを理由とする慰謝料の請求など、民事裁判を提起されると大きなダメージを受けます。

多額の支払を求められたとき、我慢して働いてきた従業員の恩を仇で返すように、会社のお金を持ち逃げする経営者もいます。

このような会社で我慢して働くのは損ですから、すぐに転職するほうが現実的でしょう。

 

<他社並みレベル>

同規模の同業他社と同レベルであれば安心だと考えます。

法改正や労働訴訟の動向などには関心を寄せず、他社事例の収集に熱心です。

社員教育にはお金をかけませんから、成長が期待できません。

いかにも日本企業らしい対応レベルです。

しかし、その会社に特有の問題が発生した場合には、他社事例が見当たらず、対応方針が立たないなどの弱点があります。

また、過重労働やサービス残業の一斉摘発のような動きがあると、他社と共に一網打尽にされることになります。

 

<ホワイトレベル>

罰則に触れないようにしています。

いわゆるホワイト企業の水準です。

同業他社がどうであれ、自社は法令違反や訴訟を避けたいと考えています。

そのための社員教育が充実しています。

労働時間の管理が適正に行われ、時間外割増賃金が1分単位で支給されます。

従業員の会社に対する信頼、社員間の信頼、お客様、お取引先、金融機関からの信頼もあり、従業員の定着率が高く、人材の採用が容易です。

こういう状態を保つには、それなりの経費がかかることも事実です。経営が上手くいっていて、お金があるから維持できるのです。

ブラックレベル、グレーレベルの会社で働いている皆さんは、なるべく早くホワイトレベルの会社に転職していただきたいです。

 

<パールレベル>

努力義務を果たすようにしています。

罰則が無くても、法令に「◯◯するよう努めなければならない」と書いてあれば、これに対応します。

知名度が高く一般消費者が顧客である大企業には、このレベルに達している企業があります。

他社の模範となるような企業ですが、高い収益力が背景となっています。

 

<プラチナレベル>

努力義務を超える水準を保とうとします。

すべての従業員について年次有給休暇の取得率を70%以上にする、昇給率が高い上に所定労働日数や所定労働時間を減らすなど、ハイレベルな施策を推進しています。

プライベートの時間が増加した従業員に「居場所を与える」配慮もされます。

ここまで来ると、労働法の遵守レベルという話ではなくなっています。

ともすると、従業員に対して、70%を超える年次有給休暇取得率を義務付けたり、年次有給休暇の取得率が低い従業員の評価を下げたり、始末書を書かせたりという、労働者の権利を侵害するような暴挙に出る危険をはらんでいます。

有期契約労働者が、契約の更新によって勤続5年に達すると、自動的に正社員に登用される制度が運用されることもあります。

これは、本人の意向を無視しているわけですから、必ずしも望ましい制度とはいえません。

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という孔子の言葉を思い出していただきたいです。

新人を迎え入れるにあたって健康状態が気になる。しかし、個人情報の保護もある。どうしたらいいのでしょうか?

2024/10/15|1,126文字

 

<雇い入れ時の健康診断>

雇い入れ時の健康診断は、1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上で、1年以上勤続する予定の従業員について法的義務があります。〔労働安全衛生法66条1項、労働安全衛生規則45条〕

また、採用側の義務ですから、基本的には採用側が実施し費用も負担するのが法の趣旨に適合します。

しかし、応募者が自主的に健康診断の結果を提出することも許されます。LGBTQ+への配慮も必要ですから、これを拒む理由はないでしょう。

問題は、法令の条文を素直に読むと、雇い入れ時の健康診断は採用決定後に行うべきものであることと、法定の健診項目だけでは、入社後の業務に耐えうるか確信が持てない点です。

 

<健康状態の確認方法>

健康状態に問題のある応募者を採用してしまっても、採用取消や解雇は簡単にはできません。ほとんどの場合、採用取消や解雇は無効とされ、損害賠償請求の対象とされてしまいます。

トラブルになるのは、入社後に健康不良が発覚したものの、「その点については質問されませんでした」と言ってかわされていまい、採用側は有効な手を打てなくなるというケースです。就業規則に、採用時の虚偽申告は採用取消や解雇の理由となりうることが規定されていても、聞かれていないことには答える義務がないからです。

かといって、採用面接の段階で、既往症、服薬中の薬やサプリメントなどをすべて申告してもらうというのは、明らかにプライバシーの侵害です。

それでも採用側としては、勤務するにあたって特別に配慮すべきことはないか、通院や定期検査のために休暇を取る必要はないかなど、欲しい情報は多岐にわたります。

 

<健康状態確認シート>

採用面接の中で、業務内容を詳細に説明し、残業や休日出勤の実態を含め、労働時間や出勤日数を説明します。

そのうえで、「現在の健康状態で説明を受けた業務を問題なくこなせますか。健康面で特に配慮が必要なことはありませんか」という問いに対して、応募者の回答を得ます。

これは口頭ではなく、「健康状態確認シート」のような文書で行い、説明者欄と応募者欄を設けておいて、それぞれが署名することになります。

この時点で判明していない疾病は確認の対象外となります。自覚症状がなく、医師の診察も受けていないような疾病については、特に応募者からの申し出がなくても、入社後に発症したことについて本人を責めることはできません。

ましてや、入社後のパワハラによって発症した精神疾患などは、本人には責任のないことです。

 

<実務の視点から>

入社前に業務内容を詳細に説明しておくということは、新卒採用など配置転換が想定されるような場合には、大変面倒なことではあります。

しかし、入社後にミスマッチが発覚して、退職されるよりは良いのではないでしょうか。

年次有給休暇の取得義務を超えての「使い過ぎ」は問題とされるのか?

2024/10/14|2,269文字

 

<年次有給休暇を使わせる義務>

年5日以上の年次有給休暇を取得させる義務が規定される前から、労働基準法には次の規定があります。

 

(年次有給休暇)

第三十九条 5 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない

 

この規定の中の与えなければならないというのは、文脈からすると、権利を与えるということではなく、使わせるという意味であることが明らかです。

そして、この義務に違反した場合の罰則としては、次の規定があります。

 

第百十九条 次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

たとえば、「再来週の水曜日に年休を使いたいのですが」と申し出た従業員に対して、使用者が「有給休暇を使うなんてダメだ」と答えれば、法律上は懲役刑もありうるということになります。

それが悪質であって、労働基準監督官が使用者を逮捕し送検して有罪判決が下されれば、その使用者が前科者となるわけです。

 

しかし、刑罰の存在と、年次有給休暇請求の効力とは別問題です。

刑罰は国家権力と使用者との関係で規定されるもので、年休請求により年休が使えることになるかどうかという使用者と労働者との間の民事的な関係には、直接的には影響しないのです。

 

ということは、「再来週の水曜日に年休を使いたいのですが」と申し出た従業員に対して、使用者が「有給休暇を使うなんてダメだ」と答えた場合、その従業員が当日会社を休んだ場合にどうなるかは別に考える必要があります。

結論としては、年次有給休暇を使ったことにはなりません。

無断欠勤になってしまいます。

 

従業員としては、使用者に対して年次有給休暇を取得させるように説得を試み、それでもダメなら、所轄の労働基準監督署やその他の相談機関に相談するしかありません。

 

<年次有給休暇を使った人の解雇>

年次有給休暇を使ったことを理由に解雇するなど、不利益な取扱いをすることは、次の規定によりやんわりと禁止されています。

 

第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

 

この条文の解釈については、最高裁判所が次のような判断を示しています。

 

労基法第136条それ自体は会社側の努力義務を定めたものであって、労働者の年休取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を持つとは解釈されない。

また、先のような措置は、年休を保障した労基法第39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、労基法第136条の効力については、ある措置の趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度年休の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年休を取得する権利の行使を抑制し、労基法が労働者に年休権を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効(民法第90条)とはならない

沼津交通事件 最二小判平5.6.25

 

年次有給休暇を使ったことを理由に解雇するというのは、解雇により労働者が失う経済的利益の程度、年休の取得に対する事実上の抑止力は甚だしいですし、労基法が労働者に年休権を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものですから、公序に反して無効(民法第90条)になるでしょう。

 

それにしても、年次有給休暇を使わせておいて、後から解雇を言い出すのはおかしな話です。

おそらく、会社の経営状態が急速に悪くなり、難癖つけて解雇することによって、人件費を削減しようとするのでしょう。

こうした違法・不当な動きが会社に見られたら、従業員の皆さんは転職するのが安全です。

 

<年次有給休暇の使い過ぎを理由とする契約更新の拒否>

下の方に示すように、労働契約法に有期契約労働者の契約更新についての規定があります。

この規定では、何回か契約が更新されている人と、契約更新に対する期待が客観的に是認できる人に限定されていますが、前回と同じ条件での契約更新を権利として認めています。

 

この規定の解釈にも、先ほどの沼津交通事件判決の趣旨が及びます。

たとえば、契約更新にあたって「あなたは年次有給休暇の残日数が少ない。年休の使い過ぎなので、契約は更新できない」などという理由で、契約更新を拒否できないということになるでしょう。

 

(有期労働契約の更新等)

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

生理休暇を取るな!は労働基準法違反だけでなくパワハラにもセクハラにもなりえます

2024/10/13|1,440文字

 

<生理休暇取得の権利>

「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と規定され、これに違反すると30万円以下の罰金という罰則もあります。〔労働基準法第68条、第120条第1号〕

つまり、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を取るのは権利であり、使用者に当たる人がこれを妨げれば、それは労働基準法違反の犯罪ということになります。

ここで「使用者」には、個人事業なら事業主、会社なら会社そのもの、代表者、取締役、理事、人事部長、労務課長などが含まれます。〔労働基準法第10条〕

 

<パワハラとは>

パワハラは、職場での力関係に基づく嫌がらせです。

年齢、経験年数、能力、地位、権限、人気などのパワーを持った人が、自分から見てある側面で「劣る」と思える相手に対して、主に指導の名目で嫌がらせをします。

多少不快感や損害を与えたとしても、指導に伴うものはある程度仕方がないという勘違いが多発しています。

 

<パワハラになるかならないかの基準>

生理日の就業が著しく困難な女性が生理休暇を取得しようとした時に、「仕事を優先しろ」「使えない」などの発言をすることは、明らかにパワハラです。

また、無限定に漠然と「お前は生理休暇なんか取るな」と発言した場合には、生理日の就業が著しく困難な場合を含めて生理休暇の取得を妨げる発言ですから、権利の侵害でありパワハラになります。

 

これに対して、普通に勤務することが困難ではない程度の苦痛を伴う生理を理由に生理休暇を取得することや、生理中であることそのものを理由に生理休暇を取得することは、労働基準法も認めていません。

ですから、生理中の女性が朝から普通に勤務していて、お天気が良いので午後から遊びに行くため「生理休暇を取得したい」と言ったのなら、これに対して「今日は生理休暇を取るな」という指導は正当なものであり、パワハラにはならないのが普通です。

 

実際には、生理の苦痛は本人にしかわからないでしょう。

上司としては、女性から「生理休暇を取得したい」という申し出があれば、これを拒否できないことになります。

ただ、生理休暇を取得しておきながら、レジャー施設に出かけて絶叫マシンで楽しんでいる様子がSNSなどにアップされたら、不正に生理休暇を取得したものとして、懲戒処分の対象となりうるというのも事実です。

この辺りについては、女性社員に対する教育指導が必要でしょう。

 

<セクハラにもあたる場合>

セクハラは、性的なことについての嫌がらせです。

職場に限らず、性的なことに対する興味が特に強い人がいます。こうした人が、「いたずら」「からかい」のつもりで「嫌がらせ」をするとセクハラになるのですが、本人は道徳に反しないと思っているので、反省することなく繰り返します。

 

生理休暇について言えば、「生理の周期から考えて今日休暇を取るのはおかしい」「その歳で生理休暇を申し出るのは変だ」などという発言はセクハラになります。

これは、相手の人格の尊厳を無視して、踏み込みすぎた発言となるからです。

 

<実務の視点から>

生理休暇など労働者の権利についての知識習得は従業員任せにはできません。

会社が教育研修を実施する義務を負っています。

また、パワハラ、セクハラ、マタハラについては教育だけでなく、就業規則などにその定義を明らかにし、懲戒処分の対象とすることも必要です。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

会社のパワハラ相談窓口は社内での信用がなければ利用されず、パワハラ被害が拡大してしまう恐れがあります

2024/10/12|948文字

 

<パワハラ相談窓口の人数>

社内のパワハラ相談窓口が1人だけの場合、その人からパワハラを受けている従業員にとっては、実質的に相談窓口がないに等しい状態となってしまいます。

このことから、相談窓口は複数の社員とする必要があるといえます。

それでも相談者への対応は、一対一で行うのが一般的な形です。

相談者から特に指名がなければ、窓口の中の誰が対応しても構わないのですが、特定の人がいつも指名から外されるという現象が見られれば、人選の見直しを検討すべきでしょう。

 

<パワハラ相談窓口の不適格>

パワハラ相談窓口に相談したところ、その窓口の担当者からパワハラを受けたという申し出があった場合、慎重に調査して「パワハラに該当する行為はなかった」と公表できるのでなければ、その窓口担当者は、当面メンバーから外れるべきです。

また、窓口業務とは別の業務についてトラブルが発生し、窓口担当者がパワハラで訴えられている場合、裁判は公開が原則ですから、どこから情報が漏れるか分かりません。この状態で、相談窓口にその担当者がいるというのは、社内に不信感が広がる恐れがあります。

 

<就業規則の規定>

就業規則に、たとえば「総務部長をパワハラ相談窓口とする」のような規定があって、その総務部長が社内でパワハラ関係のトラブルの当事者となり、あるいはパワハラの加害者として訴えられたような場合でも、その人が総務部長である限り、パワハラ相談窓口を続けるというのは不都合です。

「総務部長に事故ある場合、人事部長が代行する」のような規定を置いて、万一に備えておくのが良いでしょう。

 

<一段上のパワハラ教育>

社内でパワハラについての教育・研修を実施しないまま、パワハラ相談窓口を設ければ、パワハラとはいえない行為について、「あれはパワハラではないか」という相談が相次ぐことも予想されます。ですから相談窓口を設ける前に、ある程度までは、パワハラについての社員教育を進めておかなければなりません。

一方で、総務部長だから、あるいは人事部長だから、パワハラ相談窓口に適任ということでもありません。相談窓口を担当する社員は、他の社員よりも一段上のパワハラ教育を受けている必要があります。外部のやや専門的な研修を受けるなどして、その能力を高めておくことも大切です。

退職勧奨(退職勧告)に応じた意思表示を取り消せる場合があります。会社は対象者の自由な意思を尊重しなければなりません

2024/10/11|1,621文字

 

<本来は自由な退職勧奨>

「退職勧奨」と「退職勧告」は厳密に区別されず、ほとんど同視されています。

「勧奨」は、勧めて励ますことです。

「退職勧奨」の例としては、「あなたには、もっと能力があると思います。たまたま、この会社が向いていないだけです。他の会社では実力を発揮できるでしょう。退職について真剣に考えてみてください」といった内容になります。

「勧告」は、ある事をするように説いて勧めることです。

「退職勧告」の例としては、「入社以来ミスが多いことは、あなた自身も残念に思っているでしょう。まわりの社員も、ずいぶん親切に丁寧な指導をしてきましたが、これ以上はむずかしいと思われます。退職を考えていただけますか」といった内容になります。

このように、退職勧奨(勧告)は、会社側から社員に退職の申し出をするよう誘うことです。

これに応じて、社員が退職願を提出するなど退職の意思表示をして、会社側が了承すれば、労働契約(雇用契約)の解除となります。

退職勧奨(勧告)を受けた社員が、実際に退職の申し出をするかしないかは、本来は完全に自由なのですが、職場の慣習などにより、心理的に断り切れないこともあります。

 

<不当解雇となる場合>

このように退職勧奨(勧告)は、社員の意思を拘束するものではありません。

したがって、会社が自由に行えるはずのものです。

しかし、本人がキッパリと断った後も退職勧奨を続ける、長時間の退職勧奨を繰り返す、家族に働きかけるなど社会的に相当な範囲を逸脱した場合には違法とされます。

違法とされれば、退職が無効となりますし、会社に対して慰謝料の支払請求が行われることもあります。

会社から社員に退職勧奨を行い、これに快く応じてもらって円満退職になったと思っていたところ、代理人弁護士から内容証明郵便が会社に届き、不当解雇を主張され損害賠償請求が行われるということは少なくありません。

 

<詐欺を理由とする退職の意思表示の取消>

詐欺による意思表示は取り消すことができます。〔民法第96条第1項〕

詐欺を理由に退職の意思表示が取り消される場合としては、次のようなものが挙げられます。

・「会社の経営状況が思わしくなく、来月以降、給与の支払を約束できない」などの説明を受けたため、退職の意思表示をしたが、そこまで経営が悪化している事実は無かった場合。

・大規模なリストラを予定しているとの説明を信じ、退職の意思表示をしたが、リストラは行われず、むしろ新規採用が積極的に行われている場合。

・「自主的に退職願を提出しなければ懲戒解雇となる」という説明を信じ、退職願を提出したが、懲戒解雇に該当するような事実は無かった場合。

これらの場合に、詐欺罪〔刑法第246条〕が成立しなくても、民法上は詐欺を理由とする意思表示の取消によって、退職の申し出が無かったことになるのです。

 

<強迫を理由とする退職の意思表示の取消>

強迫による意思表示も取り消すことができます。〔民法第96条第1項〕

強迫を理由に退職の意思表示が取り消される場合としては、次のようなものが挙げられます。

・大声を出したり、机を叩いたりしながら、パワハラ発言を交えて退職を迫られた場合。

・狭い会議室で、多数の社員に取り囲まれて退職勧奨された場合。

・休日に突然、自宅に押しかけてきて、退職を勧める話をされた場合。

これらの場合に、脅迫罪〔刑法第222条第1項〕が成立しなくても、民法上は強迫を理由とする意思表示の取消によって、退職の申し出が無かったことになるのです。

ちなみに、刑法では「脅迫」、民法では「強迫」です。

 

<実務の視点から>

退職勧奨(勧告)は、会社が自由に行えるとは言うものの、客観的に合理的な具体的理由が説明できない場合には、トラブルに発展する可能性が高いですから、行うべきではないのです。

むしろ、普通解雇を通告できるケースで、やんわりと退職勧奨(勧告)を検討するくらいの慎重さがあっても良いでしょう。

ウソツキ社員を解雇するにも、きちんとした事前準備が必要です。安易に解雇すると、不当解雇だと争われあれこれウソをつかれます

2024/10/10|1,322文字

 

<悪性格を理由とする解雇>

単に嘘つき、意地悪、冗談がきついなど、性格が悪いので解雇するというのは、不当解雇になってしまう可能性が極めて高いのです。

会社からの指導によって、改善される余地があるのですから、解雇について、客観的に合理的な理由があるとはいえませんし、社会通念上相当ともいえません。

とはいえ、嘘つきの程度がひどく、仕事の報告、業務日報の内容がデタラメで、ありもしない噂を流すのが大好きで、無断欠勤をしたかと思うと、病院に行っていたという言い訳で、偽造したと思われる領収証を見せるというのでは、さすがに上司も同僚も参ってしまいますので考えものです。

 

<解雇を正当と考える基準>

解雇が正当か不当かというのは、最終的には司法判断となりますから、慎重に考えるのであれば、過去の判決などを参照することになります。

しかし、そこまでいかなくても、解雇を通告された人は、会社に対して解雇理由証明書の交付を求める権利があるということが、労働基準法に規定されていますから、会社がこれを求められても困らないのであれば、一応の正当性があると考えられるでしょう。

 

<解雇理由証明書を書けるようにする準備>

しかし、何も準備しないまま、解雇理由証明書を書けるものではありません。

解雇理由証明書には「就業規則第◯条第◯号による」などと記載することになりますから、就業規則の規定を整えておかなければなりません。

「報告・連絡は、事実に基づき正しく行うこと」などの義務規定を置き、「上長の許可なく、または正当な理由なく遅刻・早退・欠勤してはならない」などの禁止規定を置いて、これらに対応する懲戒規定を置くことになります。

もっとも、懲戒の対象となるのは、会社に損害をもたらした行為や、損害をもたらす危険が大きな行為に限られます。安易な懲戒もまた、懲戒権の濫用とされ、懲戒が無効とされてしまいます。

懲戒は、厳重注意のような軽いものからスタートし、改まらないのであれば一段高い懲戒へと進み、最終的には懲戒解雇ということになります。

どの段階でも、不都合な行為とその影響、本人への指導と改善状況についての記録は、残しておく必要があります。

 

<嘘をつく故意がない場合>

嘘つきとされる人の中には、嘘をつく故意がなく、能力不足で正しい行動がとれない人もいます。

メモを取る習慣がなく記憶に頼り、その記憶も不確かなために、報告・連絡が事実と違っていたり、業務日報の内容が誤っていたりということがあります。

この場合には、報告・連絡や業務日報の内容が正しくなるように、上司や先輩が指導すれば改善される余地があります。

このような悪意のない場合にまで、懲戒解雇というのでは不当解雇になってしまいます。

しかし、指導しても改善が見られない、あるいは改善する意欲・意思がないということであれば、懲戒解雇ではなく普通解雇とすることが考えられます。

就業規則に「求められている業務遂行能力に対して、はなはだしく劣り、向上の見込みがないとき」は、普通解雇とするというような規定が置かれているものです。

こういた規定がなくても、法的には労働契約の債務不履行ですから、民法の規定するところに従い、契約を解除できることになります。

能力を評価して昇給額を決めるのは正しいのですが、個人的な能力だけで昇給を決めるのは正しくないのです

2024/10/09|1,229文字

 

<人事考課と給与>

給与というのは、今後1年間にどれだけ活躍するかを予測して設定するものです。

そうでなければ、新卒や中途採用では初任給が決まりません。

ベテラン社員であっても、これまでの実績を参考にして、今後1年間にどれだけ活躍するかを予測して設定するものです。

 

イメージとしては、野球選手の年俸制を思い浮かべると理解しやすいでしょう。

ただ、一般の労働者に年俸制を使うのはメリットが少なく、運用が違法になりがちなのでお勧めできません。

その証拠に、厚生労働省のモデル就業規則にも年俸制の規定がありません。

 

活躍を予測する場合、個人的な能力だけを見るのではなく、社内での協調性や社外との連携具合も評価する必要があります。

会社に社員が集まっているのは、チームプレーによって苦難を乗り越え、大きな成果を出すためです。

目立った個人プレーばかりを高く評価していては、社内の協調性が失われてしまうことになります。

 

たとえ個人プレーの能力が高くても、チームプレーの能力が低かったり、社外との関係を良好に保つ能力が低かったりすれば、長期にわたって活躍できません。

会社は可能な限り長続きしたいわけですから、社員に対しても長続きできる能力を求めることになります。

 

社内での協調性や社外との連携具合を見るのに、会社で決められている正しい仕事の仕方や就業規則などの社内ルールを守れるかどうかが、重要な目安となります。

 

<人事考課の前提となる教育訓練>

どんなに優れた人材でも、会社に合った正しい仕事の仕方働く上での社内ルールを知らなければ、その能力を発揮することができません。

会社のルールと、各個人の常識とは異なるものですから、会社は会社のルールを社員に教育する必要があります。

これを怠っておいて、「常識だろ!」と叫んでも不合理なパワハラと評価されてしまいます。

 

コロナ終息後ということもあり人材難・採用難であり、物価高や業界格差など日本経済は大変な状態ですから、社員には1.5人分も2人分も活躍してもらわなければなりません。

長時間労働で倒れては本末転倒ですから、労働時間を増やさずに生産性を高めることを目指さなければなりません。

その手段としては、教育訓練をおいて他にはないでしょう。

しかも、会社にぴったり適合したカスタマイズされた教育訓練であることが必要です。

 

給与を決めるための人事考課は、この教育訓練が前提となります。

会社として、どのようにして欲しいのかを示さずに、評価だけをするのでは、社員は全く納得がいきません。

会社は学校ではありませんが、もし授業をせずに成績表だけを配布する学校があったなら、その存在価値は疑わしいものです。

 

<実務の視点から>

その会社に合った人事考課基準の作成、改定、教育、運用は、社労士ではなくてもコンサルタントにもできます。

しかし、就業規則とも連動させ、法令順守を前提とした健全な企業活動を目指すのであれば、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

賞与は実績に応じて支給するものではありますが実績だけで賞与を決めるのも考えものです

2024/10/08|1,288文字

 

<人事考課と賞与>

賞与というのは、どれだけ能力があるかとは関係なく、どれだけの実績を上げて会社に貢献したかという結果を評価して設定するものです。

 

たとえば、5月から10月までの実績を評価して12月に冬期賞与を支給し、11月から翌年4月までの実績を評価して7月に夏期賞与を支給するという形になります。

上の例では、新卒採用で4月入社であれば、夏期賞与を支給するための十分な考課期間がありませんから、支給しないか金一封などの名目で一律の支給額にするのが一般です。

中途採用でも、考課期間の途中で入社したのであれば、最初の賞与支給については同様な扱いになるでしょう。

 

ここで注意したいのは、「結果がすべて」の評価にしないことです。

どれだけ社内外と協力したのか、そのプロセスを含めて評価しなければ、目的のためには手段を選ばない社員ばかりになってしまいます。

このような社員は、働く仲間である上司、同僚、部下を自分の道具として利用することしか考えません。

まともな神経を持った人ならば、こんな社員ばかりの職場には耐えられないでしょう。

人格的に円満な社員は退職していきます。

 

また、実績の良し悪しは運に左右されるものです。

何をどのようにしたらその実績が生じたのかというプロセスを重視しなければ、ラッキーで実績が上がった人は多額の賞与をもらい、不運な人の賞与は減額されてしまいます。

これでは、くじ引きで賞与を決めるようなものですから、運の悪かった社員は納得がいきません。

 

賞与を決定するために個人の実績を評価する場合には、社内ルールに則って正しい手順で成果を上げたのか、個人では対処できない運の良し悪しが関与していなかったかということも、十分に加味する必要があるのです。

 

<人事考課のフィードバック>

賞与の支給額は、基本給を基準に会社の業績を反映した支給月数、個人の実績を反映した考課係数を設定して、次のように計算されていれば納得しやすいでしょう。

 

個人の賞与支給額 = その人の基本給 × 支給月数 × 考課係数

 

これを個人ごとに面談で伝えることをお勧めします。

支給月数が多ければ「会社は経営状況が良い」とわかりますし、考課係数が高ければ「私は高い評価を得ている」とわかります。

支給月数が少なかったり、考課係数が低かったりしても、「次こそは!」という気持ちになります。

このことが、社員ひとり一人のヤル気に結びつくでしょう。

また、連続して考課係数が低い社員は、大いに努力するか会社を去るかの決断を迫られます。

これはこれで、効果が期待できると思います。

 

<実務の視点から>

何となく決めた賞与額であっても、上の個人の賞与支給額の計算式で逆算すれば、支給月数と考課係数を求めることができます。

これを各社員に示すことで、大きな効果が期待できますからお勧めします。

 

ところで、その会社に合った人事考課基準の作成、改定、教育、運用は、社労士ではなくてもコンサルタントにもできます。

しかし、就業規則とも連動させ、法令順守を前提とした健全な企業活動を目指すのであれば、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

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