労災保険でダブルワークの休業(補償)給付は基準が少し複雑です

2024/11/25|1,348文字

 

<労災保険の休業(補償)給付支給事由>

複数事業労働者の休業(補償)給付も、一般の場合と同様に、1「療養のため」、2「労働することができない」ために、3「賃金を受けない日」の第4日目から支給されます。〔労災保険法第14条第1項本文〕

 

<労働することができない>

上記2「労働することができない」とは、必ずしも負傷直前と同一の労働ができないという意味ではなく、一般的に働けないことをいいます。

軽作業に就くことによって症状の悪化が認められない場合や、その作業に実際に就労した場合には、給付の対象となりません。

健康保険の傷病手当金では、加入者(被保険者)が今まで従事していた業務ができない状態のことを「労務不能」と言っていますから、基準が少々異なっています。

ただ、労災保険でも、医師の意見、被保険者の業務内容、その他の諸条件を考慮して判断されます。

 

<複数事業労働者の場合>

複数事業労働者については、複数就業先のすべての事業場での就労状況等を踏まえて、休業(補償)給付の要否が判断されます。

たとえば、複数事業労働者が1つの事業場で労働者として現に就労した場合には、原則として、2「労働することができない」とは認められません。

この場合には、他の要件を満たしていても給付は行われません。

例外的に、複数事業労働者が1つの事業場で労働者として現に就労しているものの、他の事業場では通院等のため所定労働時間のすべては労働できない場合には、2「労働することができない」に該当すると認められることがあります。

 

<賃金を受けない日>

3「賃金を受けない日」には、賃金の全部を受けない日と一部を受けない日を含みます。

ただし、賃金の一部を受けない日については、次のような日であるとされています。

1)所定労働時間の全部について「労働することができない」場合であって、平均賃金(労働基準法第12条)の60%未満の金額しか受けない日

2)通院等のため所定労働時間の一部について「労働することができない」場合であって、一部休業した時間について全く賃金を受けないか、「平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金との差額の 60%未満の金額」しか受けない日

これは、昭和40年7月31日付基発第901号「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律の施行について」及び昭和40年9月15日付け基災発第14号「労災保険法第12条第1項第2号の規定による休業補償費の支給について」に基づくものです。

 

<複数事業労働者の場合>

複数事業労働者については、複数の就業先のうち一部の事業場で年次有給休暇を取得し、平均賃金の60%以上の賃金を受けることにより、3「賃金を受けない日」に該当しない状態でありながら、他の事業場では、傷病等により無給での休業をしているため、3「賃金を受けない日」に該当する場合がありえます。

このことから、3「賃金を受けない日」の判断については、まず複数就業先での事業場ごとに行います。

その結果、「どの事業場でも賃金を受けない日」に該当する場合には、3「賃金を受けない日」に該当するものとして取り扱い、「どの事業場でも賃金を受けない日」に該当しない場合には、その日は、3「賃金を受けない日」に該当しないものとして取り扱うことになります。

フレックスタイム制:会社のマイルールで違法な運用をしていることってありませんか?

2024/11/24|1,714文字

 

<スタートは法定手続から>

フレックスタイム制は、労働基準法の次の規定によって認められています。

この規定に定められた手続を省略して、形ばかりフレックスタイム制を導入しても、すべては違法であり無効となります。

 

第三十二条の三 使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

一 この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲

二 清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月以内の期間に限るものとする。次号において同じ。)

三 清算期間における総労働時間

四 その他厚生労働省令で定める事項

 

長い条文ですが、ポイントは次のとおりです。

・業務開始時刻と業務終了時刻は労働者が決めることにして、これを就業規則などに定めます。

・一定の事項について、会社側と労働者側とで労使協定を交わし、協定書を保管します。これを労働基準監督署長に提出する必要はありません。

 

<違法な名ばかりフレックス>

上記の法定手続きをせずに、残業時間を8時間分貯めると1日休むことができるというインチキな運用も聞かれます。

この残業時間は、割増賃金の対象となる法定時間外労働でしょうから、25%以上の割増が必要です。

つまり、8時間の残業に対しては、10時間分の賃金支払いが必要です。

( 8時間 × 1.25 10時間 )

だからと言って、残業時間を6時間24分貯めると1日休めるという運用も違法です。

( 6時間24分 × 1.25 8時間 )

計算上はこのとおり正しいのですが、労働基準法が認めていないことを勝手にやってもダメなのです。

 

<フレックスタイム制導入後の違法な運用>

せっかく正しい手続でフレックスタイム制を導入しても、次のような違法な運用が見られます。

・残業手当を支払わない。

・残業時間が発生する月は年次有給休暇を取得させない。

・残業時間を翌月の労働時間に繰り越す。

・業務開始時刻や業務終了時刻を上司など使用者が指定してしまう。

・コアタイムではない時間帯に会議を設定し参加を義務づける。

・18歳未満のアルバイトにフレックスタイム制を適用してしまう。

 

<メリットはあるのか>

導入手続と正しい運用が面倒に感じられるフレックスタイム制ですが、導入手続は最初に1回だけですし、運用は慣れてしまえば問題ありません。

私生活と仕事との調整がしやすくなりますから、生産性の向上が見込めます。

これを誤解して、人件費を削減する仕組だと捉えると上手く機能しません。

 

<活用のポイント>

勤務時間の情報を上手く社内外と共有することが大事です。

また、業務開始時刻と業務終了時刻を自由に決められるとはいえ、労働者個人の好みで決めて良いわけではありません。

仕事のスケジュールや、他部署や取引先などとの連動を考えながら、同僚、関連部署の社員、取引先などと相談しながら決めることになります。

しかし、これをすることによって、他部署や社外とのコミュニケーションも良くなりますし、業務の連動も取りやすくなります。

つまり、生産性の向上につながるわけです。

 

<実務の視点から>

社員数の少ない会社ほど、フレックスタイム制活用のメリットは大きいでしょう。

フレックスタイム制の導入をキッカケに、社員の多機能化を図ることも可能です。

具体的にどうしたら良いのかという専門的なことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

今、雇用保険に入っている人が、ダブルワークを始めたら、そちらでも雇用保険に入るとは限らない

2024/11/23|1,476文字

 

<雇用保険の加入者(被保険者)>

適用事業主に雇用されている労働者は、本人の意思にかかわらず、原則として雇用保険に加入します(被保険者となります)。

被保険者は、一般被保険者、高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者および日雇労働被保険者の4つに区分されます。

季節的に雇用される者のうち一定の要件を満たす者は短期雇用特例被保険者、日々雇用される者または30日以内の期間を定めて雇用される者は日雇労働被保険者に区分されます。

これ以外の圧倒的多数の被保険者は、65歳以上であれば高年齢被保険者、65歳未満であれば一般被保険者となります。

ただし、1週間の所定労働時間が20時間未満である者は除外され、被保険者とはなりません。

「1週間の所定労働時間」とは、就業規則、雇用契約書等により、その者が通常の週に勤務すべきこととされている時間のことをいいます。この場合の通常の週とは、祝祭日及びその振替休日、年末年始の休日、夏季休暇などの特別休日を含まない週をいいます。

また、同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者も除外されますし、昼間学校に通う学生も除外されます。

 

<ダブルワークの場合の原則>

同時に複数の会社で雇用関係にある労働者が、それぞれの会社で雇用保険の加入要件を満たす場合については、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ加入するというルールになっています。

A社で1週間の所定労働時間が25時間、B社で1週間の所定労働時間が20時間でダブルワークだとします。

この場合、所定労働時間はA社の方が長いのですが、B社の方が月額の賃金が高いのであれば、B社の方で雇用保険に入ることになります。

また、A社で雇用保険に加入していたところ、途中からB社でも働くようになったという場合、この例では、A社で雇用保険から脱退(資格喪失)し、B社で加入(資格取得)することになります。

なお、雇用保険の加入要件はそれぞれの会社で満たす必要があり、いずれの会社も加入要件を満たさない場合には雇用保険に加入できません。

 

<マルチジョブホルダー制度>

雇用保険マルチジョブホルダー制度は、令和4(2022)年1月1日に開始された制度です。

複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して適用対象者の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度です。

マルチ高年齢被保険者となるには、労働者が以下の要件をすべて満たすことが必要です。加入後の取扱は通常の雇用保険の被保険者と同様で、任意脱退はできません。

雇用保険に加入後、別の事業所で雇用された場合も、以下の要件を満たさなくなった場合を除き、加入する事業所を任意に切り替えることはできません。

 

【雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用対象者】

1.複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること

2.2つの事業所の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間

未満)

3.2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

 

<令和10年10月の法改正>

令和10(2028)年10月1日より、雇用保険の被保険者の要件のうち、1週間の所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更され、適用対象が拡大されます。

これに伴い、マルチジョブホルダー制度の見直しも想定されます。

会社に解雇されたので解雇理由証明書の交付を求めたら即時解雇だから交付しないと言われてしまった件

2024/11/22|1,385文字

 

<解雇理由証明書の交付義務>

労働基準法第22条第2項は、解雇理由証明書の交付義務について、次のように規定しています。

 

(退職時等の証明)

第二十二条

②労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

 

使用者(企業)が、労働者(従業員)に解雇の通告(予告)をした場合、労働者は解雇の理由が記載された書面を使用者に請求できます。

この請求を受けた使用者は、労働者に対して解雇理由証明書を交付する義務を負います。

この解雇理由証明書を請求できる期間は限定されていて、「解雇の予告がされた日から退職の日までの間」となっています。

ところが、即時解雇の場合には、解雇の「予告」ということがないので、解雇理由証明書の交付を受けることはできないと解されます。

 

<退職証明書の交付義務>

一方で、労働基準法第22条第1項は、解雇の場合に限らず、退職者から使用者に対して退職証明書の交付を求めることができる旨を定めています。

この請求を受けた使用者は、労働者に対して退職証明書を交付する義務を負います。

 

(退職時等の証明)

第二十二条

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

 

この条文のカッコ書きの中には、「退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む」と明示されています。

結局、退職日を過ぎたら、解雇された労働者は、解雇理由証明書の交付を求めることはできないものの、解雇理由を明示した退職証明書の交付を求めることができます。

この退職証明書を請求できる期間は限定されていませんので、退職後2年間の消滅時効期間を経過しない限り、労働者から会社に対して交付を求めることができるといえます。〔労働基準法第115条〕

 

<平成15年10月22日基発第1022001号>

表題の通達は、非常に長いものですが、この中の「第2 2(2)イ」という所に、次の記載があります。

 

法第22条第2項の規定は、解雇予告の期間中に解雇を予告された労働者から請求があった場合に、使用者は遅滞なく、当該解雇の理由を記載した証明書を交付しなければならないものであるから、解雇予告の義務がない即時解雇の場合には、適用されないものであること。

この場合、即時解雇の通知後に労働者が解雇の理由についての証明書を請求した場合には、使用者は、法第22条第1項に基づいて解雇の理由についての証明書の交付義務を負うものと解すべきものであること。

 

<実務の視点から>

いずれにせよ、労働者から請求されれば、使用者は解雇の理由を証明する書類の交付を義務づけられます。

これは労働基準法上の義務ですから、交付しなければ、労働者は労働基準監督署に相談しますし、そうすれば労基署は企業に指導することになります。

くれぐれも理由の明示を求められると困るような解雇は、しないように心がける必要があるということです。

労働法が適用される労働者を、いつも使っているフリーランスと認識してしまう危険があります

2024/11/21|1,431文字

 

<フリーランス新法の施行>

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が令和6(2024)年11月1日に施行されました。

個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対し、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられました。

法の取引の適正化に係る規定については主に公正取引委員会及び中小企業庁が、就業環境の整備に係る規定については主に厚生労働省がそれぞれ執行を担います。

 

<名ばかりフリーランス>

フリーランスは個人事業主であり、労働法の保護を受けない弱い立場なので、フリーランス新法によって保護が図られるようになりました。

しかし、そもそも労働法の保護を受けるはずの労働者が、個人事業主扱いされて労働法による保護を否定されているケースがあります。

実態は労働者であるにもかかわらず、業務委託契約(請負契約、委任契約、準委任契約、フリーランス契約)を交わして、労働者性を否定することが行われています。

 

<労働者との区別基準>

労働基準法第9条は、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しています。

また実務上、「労働者」に当たるかどうかは、以下の2つの基準(使用従属性)で判断されます。

具体的には、「労働者性の判断基準」に基づき、実態をもとに総合的に判断されます。

 

1. 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか

2. 報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか

 

<チェックリスト>

上の区別基準でもなお抽象的で、具体的な事実に当てはめるのは無理があります。

厚生労働省が公表しているフリーランス向けチェックリストによると、次の8項目に当てはまる事実が多いほど、労働者性が強く肯定されることになります。

 

□  委託事業者から仕事を頼まれても、これを断る自由がある

□  毎日の仕事量や配分、進め方は、基本的に自分の裁量で決定する

□  委託事業者から仕事の就業場所や就業時間(始業・終業)を決められていない

□  自分の都合が悪くなった場合、頼まれた仕事を代わりの人に行わせることができる

□  報酬は仕事の出来高に見合ったものであり日給や時間給ではない

□  仕事で使う材料・機械・器具等は自分で用意している

□  同種の仕事に従事する正規従業員と比較した場合、報酬の額は正規従業員よりも高額である

□  自由に他の委託事業者の仕事に従事できる

 

<実務の視点から>

フリーランスに業務を委託していて、そのフリーランスについてチェックリストの各項目を点検してみたところ、いくつか当てはまるものがあって中途半端な場合には、労働者かフリーランスかを明確化するため、事実関係を修正することをお勧めします。

つまり、当てはまるものを解消して、雇用関係を認め、労働条件通知書の交付や就業規則の説明をします。

反対に、当てはまらないものを解消して、業務委託契約書(請負契約書、委任契約書、準委任契約書)を交わします。そして、フリーランス新法に定められた配慮をすることになります。

いつまでも中途半端な状態を続けていると、業務中の事故で長期間働けなくなった場合に、対応に苦慮するなど、大きなトラブルとなることがありますので、この機会を逃さず早めに対応しましょう。

不妊治療を受ける社員への配慮が求められています。少子化対策への協力の一環です

2024/11/20|1,487文字

 

<少子化対策の推進>

少子高齢化が進む現在の日本で、政府は政策として、少子化対策と高齢化対策を強化していますから、育児・介護休業法も、度重なる改正によりその内容が充実してきています。

さらに、労働者が妊娠したことを理由に不利益な扱いを受けるなど、事業主が育児・介護休業法に規定する義務に違反したことが原因で退職した場合には、雇用保険法により特定受給資格者とされ、会社都合で退職させられた人と同じように、失業手当(求職者給付の基本手当)の給付日数が多めに付与されるようになっています。

これは、育児・介護休業法の枠を越えて、政策が推進されている実例の一つです。

 

<厚生労働省からの呼びかけ>

近年の晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦が増加しており、働きながら不妊治療を受ける人は増加傾向にあると考えられます。

また、仕事と不妊治療との両立に悩み、やむを得ず退職する場合も多いと言われています。

不妊治療を受ける人は、一定の職務経験を積んだ年齢層の従業員であることも多く、企業の貴重な戦力であると考えられます。

こうした人材を失うことは、企業にとって大きな損失です。

仕事と不妊治療の両立について職場での理解を深め、従業員が働きやすい環境を整えることは、有能な人材の確保という点で企業にもメリットがあるはずです。

 

<不妊治療について>

不妊の原因はさまざまです。

不妊の原因は、女性だけにあるわけではありません。

男性に原因があることもありますし、検査をしても原因がわからないこともあります。

女性に原因がなくても、女性の体には、治療に伴う検査や投薬などにより大きな負担がかかります。

 

検査によって、不妊の原因となる疾患があるとわかった場合は、原因に応じて薬による治療や手術を行い、医師の指導のもとで妊娠を目指します。

これらの治療を行っても妊娠しない場合は、卵子と精子を取り出して体の外で受精させてから子宮内に戻す「体外受精」や「顕微授精」へと進みます。

不妊治療は、妊娠・出産まで、あるいは、治療をやめる決断をするまで続きます。

年齢が若いうちに治療を開始したほうが、妊娠に至るまでの治療期間が短くなる傾向がありますが、「いつ終わるのか」を明らかにすることは困難です。

治療を始めてすぐに妊娠する人もいれば、何年も治療を続けている人もいます。

 

体外受精、顕微授精には頻繁な通院が必要となりますが、1回の治療にかかる時間はわずかです。

ですから、職場としては積極的な支援が可能です。

 

<職場の取り組み>

不妊や不妊治療に関することは、その従業員のプライバシーに属することです。

職場ではプライバシーの保護に配慮する必要があります。

また、セクハラ、マタハラのようなハラスメントの防止も強化しなければなりません。

 

そのうえで、次のような仕事と両立しやすくする制度の導入をお勧めします。

・年次有給休暇を時間単位で取得できるようにする

・不妊治療目的で利用できるフレックスタイム制を導入する

・失効した年次有給休暇を積み立てて使用できる「積立(保存)休暇」の使用理由に不妊治療を追加する

・不妊治療を目的とした休暇制度を導入する

 

上記のうち、時間単位年休、フレックスタイム制、積立休暇は、不妊治療を対象としなくても、社員にとっては魅力的な制度です。

 

<実務の視点から>

これらの取り組みは、人材不足への対処手段として有効なものとなるでしょう。

何もしない企業とは差がつくはずです。

ただ、会社の現状と体力に見合った制度の導入となると、頭が痛いかもしれません。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

海外に転出する社員については年金の手続も必要です

2024/11/19|1,187文字

 

<国民年金の手続>

海外に居住することになれば、国民年金の加入義務が無くなります。

つまり、国民年金の強制加入被保険者ではなくなります。

しかし、日本国籍の人であれば、国民年金に任意加入することができます。

これから海外に転居する人は、国内居住地の市区町村役場で手続します。

保険料を納める方法は、国内にいる親族等の協力者が、本人に代わって納める方法と、日本国内に開設している預貯金口座から引落とす方法があります。

なお、海外の大学等に留学した場合には、学生納付特例制度(保険料納付を猶予する制度)は利用できません。

任意加入し保険料を納めることで、海外在住期間に死亡した場合、病気やけがで障害が残った場合に、遺族基礎年金や障害基礎年金が支給されます。

 

<厚生年金保険の手続>

厚生年金保険は、海外に住所がある人に対しても引き続き適用されます。

そのため、加入者(被保険者)が会社から外国勤務を命じられた場合は、外国の年金制度と二重に加入しなければならないという問題が生じていました。

こうした問題の解消を進めるため、国は、外国と順次社会保障協定を締結し、二重加入等の防止を図っています。

事業主により協定相手国へ5年を超えない見込みで派遣される場合には、協定の例外規定が適用されます。

この場合には、引き続き日本の厚生年金保険のみに加入し、協定相手国での加入が免除されます。

ただし協定によっては、派遣期間が5年を超える見込みであっても、派遣開始日から5年間は日本の厚生年金保険のみに加入し、協定相手国での加入が免除されます。

 

<協定による例外規定適用手続>

一時的に日本から協定相手国に派遣され就労する人について、協定相手国の年金制度への加入が免除されるためには、日本の厚生年金保険に加入していることを証明する「適用証明書」の交付を受ける必要があります。

事業主が所轄の年金事務所(郵送の場合には事務センター)に申請手続を行います。

 

【具体的な手続】

1.事業主が年金事務所に「適用証明書交付申請書」を提出します。

2.審査の結果、申請が認められた場合には、「適用証明書」が交付されます。

3.派遣された社員(被保険者)は、協定相手国内の事業所に「適用証明書」を提出します。

4.協定相手国の当局により相手国実施機関に提示または提出を求められた時、また協定相手国の年金制度に加入していない理由を尋ねられた時には、「適用証明書」を提示または提出します。

 

当初の一時派遣期間の予定を延長して、協定相手国で就労する必要が生じた場合は、事業主から年金事務所に「適用証明書期間継続・延長申請書」を提出します。

両国関係機関間での協議の結果、延長申請が認められた場合には、新しい「適用証明書」が交付されます。

「適用証明書」を紛失・棄損した場合、記載内容に変更があった場合には、「適用証明書再交付申請書」を提出してください。

昇進もまたストレスです。昇進を上手に伝えるには、事前の準備が必要です。中心となるのは就業規則です。

2024/11/18|905文字

 

<昇進を告げられた時の反応>

会社員が昇進を内示され、あるいは異動の発令があった場合に、頭の中は「年収が増えそうだ」「仕事が大変になりそうだ」ということで一杯になります。

人間は、試験の合格、結婚、我が子の誕生など喜ぶべきことからもストレスを感じる生き物です。

ましてや、昇進のように負担の増加を伴うことからは、より多くのストレスを受けてしまいます。

また、よくわからない物、よくわからない事に対しては恐怖を感じます。

お化け、宇宙人、新型ウイルス、死後の世界などがその例です。

昇進と言われても、どのような立場に立たされるのか、仕事の中身はどう変わるのか、給与や賞与はどれだけ増えるのか、これらがわからなければストレスと恐怖で一杯になります。

 

<せっかく昇進しても>

過剰なストレスと恐怖は、次のような弊害をもたらします。

・困っても上司に相談できない

・周囲から孤立する

・業務の進捗管理ができない

・コミュニケーションがとれない

・トラブルを解決できない

こうなると、もう冗談は通じなくなりますし、せっかく昇進しても他の社員に悪意を感じるばかりで、本来の能力を発揮できません。

最悪の場合には、出勤すら難しくなってしまいます。

 

<ストレスを減らし恐怖を無くすには>

昇進した時のストレスの原因は「からないこと」にあります。

年収、仕事、立場が具体的にどう変わるのか、上司や部下とのかかわりはどのようになるのか、仕事の進め方や人事考課についてはどうしたら良いのか、これらについて予め知っていたら、ストレスや恐怖は大幅に軽減されます。

これを実現するには、給与規程、職務分掌規程、社内決裁規程、人事考課規程などを定めておき、社員研修で内容を具体的に説明しておけば良いのです。

小さな会社であれば、一つひとつの規程を持たなくても、就業規則に関連規定を備えておけば十分です。

 

<実務の視点から>

昇進ひとつを例にとっても、社員が10人未満の会社にも就業規則が必要です。

ただ、所轄の労働基準監督署長への届出が要らないというだけです。

会社の実情に合わせて就業規則をどうするかという専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

採用面接で病気や健康状態を聞けるか?どうやって確認するのか?確認漏れがあるとどうなるのか?

2024/11/17|2,182文字

 

<雇入れ時の健康診断>

雇入れ時の健康診断は、1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上で、1年以上勤続する予定の従業員について実施義務があります。〔労働安全衛生法第66条第1項、労働安全衛生規則第45条〕

また、1週間の所定労働時間が正社員の半分以上であれば、受診させることが望ましいとされています。

いずれにせよ雇入れ時の健康診断実施義務は、採用側の義務ですから、基本的には採用側が実施し、その時間の賃金も費用も負担するのが法の趣旨に適合します。

とはいえ、費用負担について法令に明確な規定が無いので、応募者側が費用を負担するルールにしても違法ではありません。

また、応募者が自主的に健康診断の結果を提出することも問題ありません。

 

<採用面接時の対応>

かつては採用面接を行うにあたって、健康診断結果の提出を求め、雇入れ時の健康診断を兼ねていた会社が多かったのです。

ところが、平成5(1993)年労働省通知と平成13(2001)年厚生労働省通知によれば、「雇い入れ時健康診断は、雇い入れた際における適正配置と入職後の健康管理のためのものであって、採用選考時に採用の可否の決定のための健診を行うことは適切を欠く」とされています。

この背景には、採用側がHIV検査を義務付けるなど、人権侵害の問題がありました。

やはり、法定の項目以外の検査を義務付けるのは避けるべきでしょう。

そもそも、法令の文言を素直に読めば、「雇い入れ時」というのは採用前ではなく採用後のことを言っています。

ですから基本的には、採用決定後に雇入れ時の健康診断を実施することになります。

 

<健康状態の確認漏れによるトラブル>

健康状態に問題のある応募者を採用してしまっても、採用取消や解雇は簡単にはできません。

ほとんどの場合は、採用取消や解雇が無効とされ、損害賠償請求の対象となってしまいます。

トラブルになるのは、入社後に健康不良が発覚したものの、「その点については質問されませんでした」と言ってかわされていまい、採用側は有効な手を打てなくなるというケースです。

ですから、採用面接の段階で応募者の健康状態について、人権侵害にならない範囲で、詳細な情報を申告してもらうのが得策です。

これと併せて、就業規則には、採用時の虚偽申告は採用取消や解雇の理由となりうることを規定しておくべきです。

もちろん、応募者本人も把握していなかった病気については、虚偽申告とはいえません。

この場合には、その病気が業務の遂行を不可能とするものであるかどうかの問題になります。

 

<健康状態の確認が必要とされる範囲>

採用する側は、興味本位で応募者の病気を詮索するわけではなく、予定される業務を行うのに支障のない健康状態であることを確認したいわけです。

応募者も、具体的な業務内容を想定して応募してきているわけですから、自分の今の健康状態で、その業務を遂行できるかどうかを確認したいと考えます。

この利害の一致する範囲で、健康状態や病気、薬の服用や通院などの予定について確認することが許されると考えて良いでしょう。

 

採用側は、業務内容をなるべく具体的に説明します。

そして、応募者側はその業務を行える状態か、何か不安はあるか、雇い主に求めたい配慮はあるかといった情報を提供するということになります。

 

自動車の運転、機械類の操作、高温での調理、高所での作業など、意識が途切れたら危険な業務は、重度の高血圧症や貧血症なら避けるべきです。

これらは、通常の健康診断の項目に入っていますから、判断は比較的容易です。

しかし、一定の精神疾患でも同様の危険があり、健康診断では見つからないだけに、応募者の自己申告に頼るしかありません。

 

結局のところ、業務の環境や作業内容など、具体的な事情により確認が必要な範囲は異なります。

そして、その必要な範囲内で、健康状態の確認が許されるということになります。

 

<応募者確保のために>

業務内容を良く知っている会社の担当者が面接を行うと、その場の雰囲気や感情に流されて、聞いてはいけないことをストレートに聞いてしまうリスクがあります。

そのリスクというのは、応募者がどこかに申告して行政の介入を許すとか、損害賠償を求められるとかいうことではなく、採用面接を受けた応募者からの口コミ情報で、全体の応募者数が減少してしまうリスクです。

応募者には採用面接についての守秘義務がありませんから、ネットを介しての口コミ情報は、思わぬ威力を発揮してしまいます。

 

<実務の視点から>

こうしたトラブルを避けるためには、業務内容ごとの「採用面接シート」を利用するのが便利です。このシートに書かれている項目を漏れなく確認し、書かれていない項目については尋ねないようにするのです。

この作成と効率的な運用には、専門知識と技術が必要ですから、作成にあたっては、ぜひ信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

また、採用決定後は、必ず労働条件通知書を交付するわけですから、ここに業務の具体的な内容など労働条件を記載してあって、新人に「この内容で問題なく勤務を継続できるか?」と確認することができます。

労働条件通知書を交付しないのは、労働基準法違反の犯罪ですが、わざわざ罰則を設けて義務づけているのは、入社後のトラブルを防止するためでもあるのです。

懲戒規定に書いてある危険なことば「準ずる」が含まれる条文の安易な適用は懲戒を無効にします

2024/11/16|963文字

 

<規定例>

モデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)では、懲戒の事由について、次のように規定しています。

 

【第66条:懲戒の事由】

労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

( 中 略 )

⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

( 中 略 )

⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

 

就業規則のひな形にも様々なものがあります。

しかし、懲戒に関する規定を見ると、上記と同様に「準ずる」という文言が入っていることが共通しています。

これを受けて、多くの企業の就業規則で「準ずる」を見かけます。

 

<「準ずる」の性質>

「準ずる」という言葉は、「全く同じではないが同様に扱う」という意味です。

「準ずる」という規定を、懲戒対象となる行為の最後に列挙することによって、不都合な行為を漏れなく含めることができると考えてのことです。

ですから、「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」という包括規定は、便利な規定のようにも見えます。

 

<「準ずる」の効力>

しかし、懲戒規定は会社の刑法ですから、罪刑法定主義の考え方が及びます。

懲戒の有効性が問題となる局面では、懲戒規定の具体性が問われます。

ある従業員の言動が、懲戒規定のどれに該当するか明確でない限り、懲戒処分はできないということになります。

 

<「準ずる」の悪影響>

これとは別に、包括規定があることによって、従業員は自分のやろうとしていることが、あるいは懲戒の対象になるのではないかと恐れ、主体的に積極的な活動に出るのが怖くなります。

創意工夫が生まれにくくなりますし、生産性の低下も考えられます。

また、若い世代ほど、具体的な表現が無いと趣旨が伝わりにくい傾向にあります。

「準ずる」という規定に頼って、個別具体的な行為の規定が少ないと、抑止力が発揮できないことにもなります。

 

<実務の視点から>

モデル就業規則は、あくまでもひな形です。

各企業の実情に応じて、自社にとって不都合な具体的行為を、なるべく多く列挙しておくのが得策でしょう。

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