2025/01/24|1,248文字
<身元保証>
身元保証というのは、労働者が企業に損害を与えた場合に、企業が確実に損害の賠償を得られるよう、労働者本人以外の第三者にも責任を負わせる契約です。
企業に大きな損害を与えやすい労働者といえば、正社員が思い浮かびますから、正社員限定で身元保証を求める企業が一般です。
しかし、契約社員、パート、アルバイトなどにも身元保証を求める企業もあります。
これは企業の方針によって決めても良いことであって、不当なことではありません。
身元保証は、企業が確実に損害の賠償を得られるようにするための契約ですから、責任を負わされる身元保証人が、本人と全く同じ責任を負う連帯保証契約とするのが一般的です。
企業としては、安易に同居の親族を身元保証人にするのではなく、賠償責任を果たせるだけの資力・財産を備えた人物を選ばなければなりません。
一方で、身元保証人になることを依頼された場合には、親類だから、知り合いだからと安易に引き受けるのではなく、慎重に判断する必要があります。
<身元保証書の提出義務>
入社にあたって身元保証書の提出を求めることは、長年にわたって広く行われてきた企業一般の習慣です。
就業規則や労働条件通知書などに規定を置いて、身元保証書の提出を採用条件としたり、採用後に身元保証書を提出しないことを理由に採用取消としたりすることは、採用の時点でそのルールが知らされていれば違法ではありません。
ただし、採用の時点で説明が無かったにもかかわらず、採用後に身元保証書の提出を求められた場合であれば、提出しないことを理由に解雇を通告するのは不当解雇になると解されます。
<身元保証の法規制>
身元保証契約は連帯保証となっていることが多いため、身元保証人が多額の賠償金支払い義務を負ってしまうことがあります。
そこで、これを法的に規制するため「身元保証ニ関スル法律」によって、身元保証人の責任が軽減されています。
まず、身元保証契約は、期間を定めなければ3年間、期間を定めても最長5年間で終了します。
また、労働者に不審な行動や仕事内容の変化があったときは、企業から身元保証人に対して直ちにその事実を通知しなければなりません。
これを受けて、身元保証人は契約を解除できます。
身元保証をしたからといって、実際に身元保証人が企業の全損害を負担することにはなりません。
企業は、損害の内容と損害額が明らかな限度でしか、身元保証人に責任を負わせることができません。
そして裁判になれば、企業側にも過失が無かったか、身元保証人が保証を引き受けた理由、労働者の仕事の変化など一切の事情を踏まえて、賠償額が決定されることになります。
<実務の視点から>
さらに、令和2(2020)年4月1日の民法改正により、保証契約には責任の限度額(極度額)を設定しなければ無効とされることになりました。
身元保証契約にもこの規定が適用されるのか判然としませんが、身元保証人が安心して引き受けられるようにするためにも、極度額を定めておくことが無難でしょう。