法令や裁判で「客観的」だと判断される条件

2024/12/15|954文字

 

<法令に出てくる「客観的」という言葉>

労働契約法には、「客観的に」という言葉が3回出てきます(第15条、第16条、第19条本文)。

いずれも懲戒、解雇、雇い止めという重要な条文です。

しかし、ここでいう「客観的に」という言葉がどういう意味なのかは、労働契約法の中に説明がありません。

法令や裁判に出てくる基本的な用語の意味が確定していないと、私たちが具体的な事実に当てはめて考えることがむずかしくなってしまいます。

 

<辞書の説明>

「客観的」という言葉を辞書で調べると、次のように書かれています。

 

大辞林 第三版

個々の主観の恣意を離れて、普遍妥当性をもっているさま。

 

デジタル大辞泉

主観または主体を離れて独立に存在するさま。

特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。

 

辞書ですから、様々な場所で使われている「客観的」に共通する意味を表示しているのでしょう。

法令や裁判を解釈するときには、どうしても自分の立場で解釈してしまいます。

特に労働関係法令であれば、使用者の立場と労働者の立場が対立します。

「客観的に」と言われても困ってしまいます。

 

<たとえば解雇について>

労働契約法は、解雇について次のように定めています。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

とても抽象的な表現です。

ですから、具体的に使用者が労働者を解雇しようとしたときに、それがこの規定に触れて無効になってしまうのか、それとも有効になるのかを判断するのは困難です。

使用者自身の判断で解雇に踏み切るのはリスクが大きすぎますから、専門家である社会保険労務士などに具体的な事情を話して判断を求めるのが安全です。

 

そして、この労働契約法第16条の「客観的に」というのは、会社側の主観でもなく、従業員の主観でもなく、「裁判所の判断に従って」ということになります。

裁判所の判断が基準ということであれば、法令の条文を読んで辞書を引いても、ほとんどの場合には分からないことになります。

結局、具体的な事例に照らして関連する裁判例を確認して、その意味するところを確定しなければなりません。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士にご相談ください。

すべての会社に介護と両立しやすい雇用環境整備義務(令和7年4月改正)

2024/12/14|1,346文字

 

<育児・介護休業法の改正>

男女とも仕事と育児・介護を両立できるように、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や、介護離職防止のための雇用環境整備、個別周知・意向確認の義務化などについて、育児・介護休業法の改正が行われました。

この中の、介護離職防止のための雇用環境整備義務については、令和7(2025)年4月1日に施行されます。

 

<介護離職防止のための雇用環境整備義務>

介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下の1.~4.のうち、少なくとも1つの措置を講じなければなりません。

もちろん、すべての措置を講ずることが望ましいのですが、令和7(2025)年4月1日からは、いずれか1つを実施すれば良いこととされます。

 

1. 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施

2. 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)

3. 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供

4. 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

 

このうち「介護両立支援制度等」とは、介護休暇に関する制度、所定外労働の制限に関する制度、時間外労働の制限に関する制度、深夜業の制限に関する制度、介護のための所定労働時間の短縮等の措置を指しています。

 

<介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施>

いつ誰が家族の介護を必要とするかは分かりませんので、基本的に全従業員が対象となります。

特に部下を持つ管理職については、部下から介護のための休業や制度利用の話があった場合に、内容を知らずに否定的な話をしてしまうのも、個人的な拡大解釈を示してしまうのも、トラブルの元になりますから、十分な研修が必要となります。

また、政府の少子高齢化対策は、今後も強力に継続されることが見込まれます。法改正も頻繁に行われることが予想されます。このことから、毎年1回は研修の実施が必要となります。

 

<相談体制の整備(相談窓口の設置)>

すでにハラスメントの相談窓口が社内に設置されているでしょう。元々セクハラ相談窓口であったところ、マタハラ相談、パワハラ相談の機能が追加されてきている企業も多いと思われます。

こうしたハラスメント相談窓口に、介護関係の相談機能を追加するというのは考えものです。負担が大きいということもありますし、介護関係の相談はハラスメントとは内容が大きく異なるということもあります。ハラスメントの相談では、事実関係の確認に大きな時間を割くことになりますが、介護の相談では、ほとんど必要ありません。効率よく、定型的なご案内ができる窓口とすることをお勧めします。

 

<自社の休業取得・制度等利用の事例の収集・提供>

すでに介護休業取得等の事例がある企業ならば、この措置を選択することもできますが、そうでなければ形式的に選択しただけになってしまいます。

 

<自社の方針の周知>

介護休業や制度の利用が、現実的には見込まれない企業であれば、経費もかけずに選択できる措置です。

しかし、内容によっては、計画化や準備が必要となります。

多くの企業では、総務・人事部門が案を作成し、経営者の決裁を受ける形で決定されたものを、社内に周知する形となるでしょう。

三六協定届を提出しただけで安心せずに、その後の管理を確実に行いましょう

2024/12/13|1,844文字

 

<様式の変更>

令和2(2020)年4月、働き方改革関連法の影響で三六協定届の様式が変更になり、令和3(2021)年4月にも、今度は政府の押印省略の方針を受けて様式が変更となりました。

これ以降に届出する場合には、ネットで最新版の様式をダウンロードして使用しなければなりません。

 

<労働者の過半数を代表する者>

三六協定を締結する際に、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合が無い場合は、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出し、労働者側の締結当事者とする必要があります。

管理監督者(労働基準法第41条第2号)は過半数代表者になれません。

また、三六協定を締結するための過半数代表者であることを明らかにしたうえで、投票、挙手などにより民主的に選出する必要があります。

こうした要件を満たさず、過半数代表者の選出が適正に行われていない場合には、三六協定を締結し労働基準監督署長に届け出ても無効となります。

このことを担保するため、三六協定届の最新様式には、届出日記入欄の上に次の文言が追加されています。

 

上記協定の当事者である労働組合が事業場の全ての労働者の過半数で組織する労働組合である又は上記協定の当事者である労働者の過半数を代表する者が事業場の全ての労働者の過半数を代表する者であること。□(チェックボックスに要チェック)

上記労働者の過半数を代表する者が、労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者ではなく、かつ、同法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。□(チェックボックスに要チェック)

 

使用者が過半数代表者の選任に干渉してはいけないのですが、会社は過半数代表者本人に三六協定の内容を熟知させ、また、労働者の意見や希望を使用者に伝える役割を自覚させなければなりません。

これを行わなければ、過半数代表者の役割が果たされません。

 

<健康・福祉確保措置>

三六協定に特別条項を置けば、一定の範囲内で限度時間を超えて労働させることが可能です。しかしこの場合、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」の欄には、以下の措置の中から選択し「(該当する番号)」にその番号を記入したうえで、その具体的内容を「(具体的内容)」に記入することになります。

 

1 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること

2 労働基準法第37条第4項に既定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること

3 就業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること

4 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること

5 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること

6 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること

7 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること

8 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

9 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保険指導を受けさせること

10 その他

 

どれか1つでも選択すれば、三六協定届は受け付けてもらえます。

しかし、実際に限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康・福祉確保措置を実施しなければ、その時間外労働は違法になってしまいます。ここの部分を労働基準監督署にチェックされ、指導を受けるケースも多いのです。

ですから、会社にとって無理のない措置を選択し、確実に実行するのが得策です。

 

<制限の遵守>

本来であれば労働基準法により罰せられる法定時間外労働や法定休日労働が、三六協定の範囲内で罰せられないことになります。

当然ですが、三六協定の範囲を超える法定時間外労働や法定休日労働を労働者に行わせることは、労働基準法違反の犯罪となります。

各事業場は本部に任せきりではなく、自分たちが遵守すべき基準について主体的に確認する必要があります。

また、本部は各事業場に任せきりではなく、各事業場で基準を理解し遵守しているか確認する必要があります。

これらを怠ることは、三六協定届を提出せずに残業させているに等しい状況を生むことになります。

三六協定届を提出した後の対応もしっかり行いましょう。

労災対策を徹底するだけでなく、労災対策をしていることの証拠を残しておくことも大事です

2024/12/12|1,536文字

 

<企業の労災防止>

各企業は、労災事故の発生を防ぐため、安全教育、設備・機械・器具の点検、安全のためのルールの設定と遵守指導に取り組んでいます。

業務災害は、新人とベテランに多いものです。

新人はまだ良くわかっていないからですし、ベテランは昔教育されただけで、その後教育されていないこともありますし、本人が油断していることもあります。

また通勤災害は、交通機関や道路の改善などは無理ですが、交通安全教育、通勤経路の危険個所についての情報提供などによって、間接的に防止するよう努めています。

 

<労災防止の効果>

労災防止の効果としては、労災事故の減少・軽減による会社資産の保護、労働力の確保、従業員の安心などがあります。

そして労働者の安心は、定着率の向上、応募者の増加、会社の評判の向上をもたらしますから、企業は本気で労災防止に取り組むべきなのです。

 

<忘れがちな形式面の対策>

たとえば、所轄の労働基準監督署が企業に調査(臨検監督)に入ったとします。

そして、その企業では労災防止策が徹底されていて、数年にわたって労災事故が無かったとします。

対応に当たった社員が、月1回労働安全研修会を行っていることを説明しても、労働基準監督官は証拠が無ければ説明内容を安易に信じるわけにはいきません。

監督官が報告書に「毎月研修会を実施していると聞きました」と書くわけにはいかないのです。

同様に、毎日朝礼で安全対策の確認をしていて、従業員は設備・機械・器具の使い方や注意点をしっかり頭に入れていたとしても、証拠が無ければそうした対策が徹底されているとは認定されません。

むしろ、労災保険の給付請求書が提出されないのは、違法な労災隠しが行われているのではないかと疑われかねないのです。

またたとえば、不幸にして死亡事故が発生し、遺族から損害賠償を求められたらどうでしょう。

企業としてできる対策をきちんと行い、死亡した被災者にも定期的に十分な教育をしていたにもかかわらず、たまたま本人が想定外の不注意で事故を起こしてしまったような場合でも、証拠が無ければ裁判では企業の労災事故防止に向けた努力を主張できないのです。

こうなると、企業の負う賠償額はかなり高額になってしまいます。

企業の存続すら脅かすかもしれません。

 

<証拠を残すとは>

企業が労災事故の発生防止に努めているという証拠を残しておくには、それを意図して行わなければできるものではありません。

 

社内研修を行うのであれば、社内研修の案内・資料・参加者名簿を残す準備が必要です。

参加者名簿は、研修の現場で、参加者のひとり一人から署名を得ておくのが良いでしょう。

また、マニュアルなど参照しなくても問題なく作業できる従業員ばかりの職場であったとしても、すぐ参照できる所にマニュアルを保管しておくべきです。

「危険!」「熱い!」などの表示は、それ自体が本当に労災防止に役立つものではなくても、労災防止に努めている証拠として積極的に施しておくべきです。

 

また、交通ルール・自転車マナー・危険個所情報の掲示も有効です。

通勤災害の防止にも取り組んでいる資料を示しておくことになります。

実際には、通勤災害についてまで企業が責任を負うことは稀です。

しかし、勤務中の自動車・自転車の使用や移動中の歩行でケガをした場合には業務災害になりますから、こうした対策も必要でしょう。

 

<実務の視点から>

労働基準法や労働安全衛生法などにより、作成・保管を義務付けられている書類は多いものですし、上記のように法的義務の無いものであっても、作成・保管が企業防衛に必要なものもあります。

こうしたことを一括してチェックするには、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)に調査をご用命ください。

家族の介護が必要となった従業員に対して介護休業制度の個別周知義務が企業に課されます(令和7年4月改正)

2024/12/11|1,269文字

 

<介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認義務>

育児・介護休業法の改正により、令和7年4月1日以降、介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。取得や利用を控えさせるような個別周知や意向確認は認められません。

 

【周知事項】

・介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)

・介護休業・介護両立支援制度等の申出先(人事担当者など)

・介護休業給付に関すること(雇用保険加入者)

 

個別周知・意向確認の方法としては、面談または書面交付が原則となります。面談は設備が整っていれば、オンライン面談でも構いません。また労働者が希望すれば、FAXや電子メール等の送信によることもできます。

 

<介護休業>

介護休業とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するための休業です。

基本的には、労働者が自ら対象家族を介護するための休業ではありません。次のような介護の体制を整えるための休業です。

 

【介護休業の活用法】

・市区町村、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへの相談。

・介護サービスの手配。

・親族間で介護や費用の分担を決定。

・民間事業者やボランティア、地域サービスなど、利用できるサービスを探す。

 

<介護両立支援制度>

介護が必要な家族を抱える労働者が、介護サービス等を十分に活用できるようにするため、介護休業や柔軟な働き方の制度を様々に組み合わせて対応できるような制度の構築が必要です。

 

【介護両立支援制度】

・介護休暇

・介護のための所定労働時間の短縮措置等

・介護のための所定外労働の免除

・有期契約労働者の介護休業の取得要件の緩和

 

<介護休業給付>

介護休業給付は、雇用保険の雇用継続給付の一つですから、雇用保険加入者(一般被保険者・高年齢被保険者)のみが受けられます。

家族を介護するための休業をした被保険者で、介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月、または介護休業開始日が令和2年8月1日以降であって、介護休業開始日以前の2年間に賃金支払基礎日数の11日以上の完全月が12か月に満たない場合は、賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上である完全月が12か月以上ある方が支給の対象となります。

ただし、過去に基本手当の受給資格の決定を受けたことがある方については、基本手当の受給資格や高年齢受給資格の決定を受けた後の期間で条件を満たした場合に限られます。

そのうえで、次の2つの要件を満たす場合に支給されます。

・介護休業期間中の各1か月毎に休業開始前の1か月当たりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと。

・就業している日数が各支給単位期間(1か月ごとの期間)ごとに10日以下であること。(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日以下であるとともに、休業日が1日以上あること。)

育児のための所定外労働の制限が拡大されます(令和7年4月改正)。この意味を誤解しないように適切な対応が必要です

2024/12/10|875文字

 

<所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大>

令和7(2025)年4月から、育児・介護休業法の改正により、育児のための所定外労働の制限が拡大されます。

現在、3歳に満たない子を養育する労働者は、会社に請求すれば所定外労働の制限(残業免除)を受けることが可能です。

これが法改正後は、小学校就学前の子を養育する労働者が請求可能となります。

 

<会社の対応>

就業規則の中に、あるいは育児介護規程などの中に、詳細な規定が置かれている会社では、規定の改定と所轄労働基準監督署長への届出が必要となります。

この場合でも、また就業規則に「育児・介護休業等については、育児・介護休業法の定めに従う」のような簡易な規定が置かれている場合でも、法改正の内容を社内に周知する必要があります。

特に部下の中に育児中の従業員がいる管理職、これから出産・育児を控えている部下のいる管理職に対しては、十分な理解をしてもらわなければなりません。

 

<誤解されやすい「残業」の意味>

「残業」というのは、法律用語ではなく日常用語であるために、今回の法改正にある「残業免除」という言葉の意味が誤解される危険をはらんでいます。

まず、終業時刻を超えて働き続ける残業も、始業時刻の前に働き始める早出も、時間外労働であり「残業」扱いとなります。

また、三六協定の対象となる時間外労働は、「法定時間外労働」のことを指していますから、1日8時間、1週原則40時間を超える労働のことをいいます。

しかし、この法改正で対象とされる残業免除の「残業」は、「所定時間外労働」のことを指しています。

つまり、就業規則や個別の労働契約によって、会社と従業員との間で取り決めた労働時間(所定労働時間)よりも長時間働くことが、制限の対象となります。

 

<残業免除の意味>

所定外労働が制限されるのは、育児中の労働者が所定外労働の免除を希望した場合に限られます。

本人が希望していないにもかかわらず、会社の方から所定時間を超える勤務を禁止するようなことはできません。

あくまでも本人からの請求を受けて、会社が対応するものであることを忘れてはなりません。

整理解雇には適正な人選が求められますから客観的で合理的な基準と人事考課が必要です

2024/12/09|1,121文字

 

<整理解雇の有効要件>

整理解雇は、会社の経営上の理由により行う解雇です。

これには、最高裁判所が「整理解雇の4要素」を示していて、これらの要素が総合的に強く認められないと解雇権の濫用となり無効となる可能性があります。

その4要素とは次の4つです。

1.人員削減の必要性が高いこと

2.解雇回避の努力が尽くされていること

3.解雇対象者の人選に合理性が認められること

4.労働者への説明など適正な手続きが行われていること

これらはそれぞれに厳格な基準があるわけではなく、また、すべての基準を満たしていなければ解雇が無効になるということではありません。

裁判では、4要件を総合的に見て、一定の水準を上回っていれば整理解雇が有効とされています。

 

<人選の合理性について>

整理解雇対象者の選定については、客観的で合理的な基準を設定し公正に適用して行う必要があります。

年齢や勤続年数のように簡単に数値化できるものは、客観的な基準として挙げられやすいものです。

しかし、たとえば比較的転職しやすいだろうという理由で、30歳未満の社員を整理解雇の対象とした場合でも、社内での経歴から転職しやすさに差が出るのは明らかです。

会社の判断で配属し異動させているわけですから、転職しやすさに差が出るのは会社側にも責任があります。

また反対に、会社に対する貢献度の割に給与が高いという理由で、50歳以上の社員を整理解雇の対象とした場合でも、年齢とともに昇給する給与体系となっているのは会社がそのようにしているわけですから、これも会社側に責任があります。

 

<人事考課が適正に行われている場合>

協調性が無い、素行不良である、上司の指示に従わない、報連相ができない、身体が虚弱で業務に支障が出ているなど、総合的に評価された結果が、「直近3年間ですべてC評価以下であった」などの基準は、客観的で合理的な基準として使うことができます。

人事考課は、止むを得ず整理解雇を行う場合に備えてのものではありませんが、適正な人事考課の運用は、こうした場合にも役立つということです。

 

<懲戒処分が適正に行われている場合>

過去5年間に、減給処分または1週間以上の出勤停止処分を受けた者という基準も、客観的で合理的な基準として使うことができます。

ただし、解雇権の濫用と同様に、懲戒権の濫用も問題になりますから、あくまでも懲戒処分が適正に行われてきたことが前提となります。

 

<実務の視点から>

今は、物価高や外国為替市場の影響で、整理解雇が必要になる企業も増加しています。

しかし、このような状況下でこそ、新たな人事考課制度や給与体系を構築しやすいものです。

このチャンスに、人事考課制度の課題に取り組むことをお勧めします。

定年後の再雇用と賃金減額

2024/12/08|1,483文字

 

<再雇用時の賃金>

正社員が定年に達すると同時に再雇用された場合、年収は何割までダウンしても違法にならないか、世間相場や業界での一般的な水準はどの程度かといった、それ自体あまり意味を持たない質問を受けることがあります。

これは、働き方改革以前から問題とされてきましたが、同一労働同一賃金との関連でクローズアップされました。

 

<長澤運輸事件最高裁判決>

平成30(2018)年6月1日の長澤運輸事件最高裁判決は、まさに定年後再雇用時の賃金引下げが争われた事件に対する司法判断です。

運輸業の会社でトラックの運転手として定年を迎えた労働者が、定年退職とともに有期労働契約の嘱託社員として再雇用されました。

このとき、仕事内容に変更が無いのに、賃金が約2割引き下げられたことによって、正社員との間に不合理な待遇差が発生し、旧労働契約法第20条に違反するとして会社を訴えたのです。

この判決で、最高裁は次のような判断を示しました。

賃金項目が複数ある場合には、項目ごとに支給の趣旨・目的が異なるので、賃金の差異が不合理か否かについては、賃金の総額を比較するだけでなく、その賃金項目の趣旨・目的を個別に考慮すべきである。

精勤手当は欠かさぬ出勤を奨励する趣旨を持つものであり、嘱託社員は正社員と職務内容が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に相違はなく、定年の前後で差異を設けることは不合理である。

精勤手当が計算の基礎に含まれる超過手当(時間外労働手当)についても同様である。

これ以外の賃金項目については、それぞれの趣旨・目的から、差異を設けることが不合理ではない。

 

<最高裁判決の趣旨>

令和2(2020)年は、同一労働同一賃金の最高裁判決が5つ出ました。

大阪医科大学事件、メトロコマース事件、それと日本郵便事件が3つです。

これらの裁判でも、改正前の労働契約法20条を巡って争われました。

退職金、賞与、手当、休暇などについて、それぞれの裁判で差異が不合理か否か争われました。

そして、どの判決でも、各項目の支給の趣旨・目的から、その差異が不合理か否か検討され判決が下されたのです。

賞与一つをとっても、企業によって支給の趣旨・目的が異なります。

その趣旨・目的によって、正社員と非正規社員とで支給の差異について、次のように判断が分かれうることになります。

1.非正規社員にも正社員と同額が支給されるべきである。

2.非正規社員にも正社員と同じ基準で支給されるべきである。

3.非正規社員には正社員の支給額の一定割合を支給すべきである。

4.非正規社員には支給しなくても不合理ではない。

大阪医科薬科大学で、非正規社員に賞与を支給しないのは不合理ではないからといって、別の企業でも同じことがいえるとは限らないのです。

 

<実務の視点から>

定年後再雇用時の年収水準そのものについては、最高裁判所が明確な基準を示していません。

各業界で平均的な下げ幅であれば容認されるのだとすると、平均を下回る約半数の企業は不合理だとされかねません。

むしろ、個別の手当等について、定年の前後でその支給に差を設ける場合に、それぞれの趣旨・目的から、不合理ではないかが厳しく審査されることになりました。

ですから、個別の手当等について、不合理といえない範囲で差異を設けた結果、年収が3割減少した、4割減少したというのは容認されることになります。

肝心の基本給についても、下級審では多くの裁判例が出ていますが、同一労働同一賃金の趣旨を踏まえたものとなっています。さらに今後の司法判断の積み重ねによって、基準が明らかになっていくものと思われます。

99で始まる基礎年金番号は仮のものですから年金事務所にご相談ください

2024/12/07|842文字

 

<基礎年金番号>

各個人の年金加入記録は「基礎年金番号」によって管理されています。

これは、〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇(4ケタ-6ケタ)の形の10ケタの数字です。

この基礎年金番号は、正しく記録管理を行うためにも、1人に1つの番号であることが前提となっています。

 

<仮基礎年金番号>

99で始まる基礎年金番号は、仮基礎年金番号と呼ばれています。

この仮基礎年金番号を持っている人は、基礎年金番号を複数持っている可能性があります。

仮基礎年金番号が付けられたのは、年金への加入時に年金手帳が事業主へ提示されず、そのために加入届の基礎年金番号が未記入だったなど、正しく基礎年金番号が確認できなかったため、確認が取れるまでの間、仮基礎年金番号で記録の管理を行うことになっているからです。

 

<起こりうる不都合>

基礎年金番号が複数あると、記録管理上はそれぞれ別人の記録として取り扱われることになり、その結果、本来支払う必要のない保険料の支払案内が届くなど、年金に関する案内が正しく行われない等の問題が発生します。

 

<不都合の解消>

99で始まる基礎年金番号を持っている人には、「基礎年金番号確認のお願い」が郵送されます。

郵送された人が「基礎年金番号確認のお願い」に記入した内容を基に、別の基礎年金番号をダブって持っていないかの確認が行われます。

もし、99で始まる基礎年金番号を持っているのに「基礎年金番号確認のお願い」が届かない場合や、記入して返送する前に紛失してしまった場合には、お近くの年金事務所にご相談ください。

 

<実務の視点から>

まれに基礎年金番号を複数持っている人がいます。

基礎年金番号制度ができる前に、入社手続で勤務先に年金手帳を提示せず、しかも誤った生年月日で手続が行われた場合などが考えられます。

この場合にも、基礎年金番号を1つにまとめる手続が必要です。

お近くの年金事務所にご相談ください。

入社にあたって社会保険に入る約束をすることには2通りの意味があります

2024/12/06|1,113文字

 

<社会保険の加入基準と適用拡大>

1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、正社員などフルタイムの労働者の4分の3以上であれば社会保険に加入します。実際の所定労働時間や所定労働日数が、この基準を超えるようになった場合にも加入します。強制加入です。

会社の意向や労働者の希望とは無関係で客観的な基準です。 

平成28(2016)年10月1日から、この基準が変更されてきています。社会保険の適用拡大です。

1週間の所定労働時間が、正社員などフルタイムの労働者4分の3未満であっても、平成28(2016)年10月1日からは、次の5つの条件を全て満たす場合には社会保険加入となりました。

・週の所定労働時間が20時間以上

・勤務期間が1年以上見込まれること

・月額賃金が8.8万円以上

・学生以外

・社会保険の加入者が501人以上の企業に勤務していること

 このように、社会保険に入る基準は客観的なものであり、事業主が加入手続をしていなくても、法律上は、基準を満たせば社会保険に加入していることになります。

上記の「1年以上見込まれる」という基準は、令和4(2022)年10月からは「2か月以上見込まれる」に変更となりましたし、「2か月以上」の勤務実態があれば加入者となりました。

さらに、上記の「501人以上」の基準は、令和4(2022)年10月からは「101人以上」、令和6(2024)年10月からは「51人以上」に引下げられています。

 

<労働者側が約束した場合>

労働者が社会保険に入る約束をした場合には「加入条件を満たしたならば加入手続に協力する」「加入条件を満たす労働条件で働く」のいずれかの約束だと解されます。

加入条件を満たしたのに「私は社会保険料を支払いたくない」と言う労働者がいます。

この場合には事業主が労働者に対して、所定労働時間を減らすか手続に応じるかの選択を迫ることになります。

 

<事業主側が約束した場合>

事業主が社会保険に入らせる約束をした場合で「加入条件を満たしたならば加入手続を行う」という約束ならば、適法に運営することの表明に過ぎません。

しかし、「加入条件を満たす労働条件で働かせる」という約束ならば、基準よりも少ない所定労働時間で労働契約をしようとすることは約束違反になります。

この場合には、両者で良く話し合う必要があります。

 

<実務の視点から>

労働契約は、契約書を交わさなくても口頭で成立します。

しかし、「社会保険に入る約束」というのは、労働契約の成立前でも後でもできることです。

こうしたことで無用な争いが発生することは避けたいところです。

迷った時には、信頼できる国家資格者の社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

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